
「とにかく自分でもばんえい競馬を盛り上げたかった」写真家・山岸伸がみつめ続けた熱い瞬間とは
十勝エリアの観光スポットとして有名な、帯広市のばんえい競馬。明治時代から広大な北海道の原野を人と共に開拓した歴史をもち、北海道遺産に選定されている“ばん馬”たちが、その力強さを競う、世界で唯一、帯広市だけで行われているとても珍しいレースです。
今回お話を伺ったのは写真家の山岸伸さん。日本を代表するポートレート写真の第一人者として有名な山岸さんは、ばんえい競馬とも深い縁があり、これまでに3冊の写真集を発表されました。12月に待望の新作が刊行される山岸さんに、写真集に込められた思い、そして撮影のエピソードをお聞きしました。
山岸 伸(やまぎし しん)
1950年生まれ 千葉県出身。写真家。数々の時代を彩る有名な広告、ポスター、レコードジャケットなどを撮影し、手がけた写真集は400冊を超える。(公社)日本写真家協会会員。(公社)日本広告写真家協会会員。とかち観光大使。
町の中心にある「馬が主役の世界」の新鮮さ
ばんえい競馬との出会いをお聞かせください。

2006年5月、その時すでにばんえい競馬を多方面から応援していた、元イエローキャブの野田社長に「北海道に馬の格闘技みたいなすごい競馬があるから見に行こう」と誘われ、旭川競馬場に行ったのが初めての出会いでした。実は当時大病をし、退院できましたが、「これからどうしていこうか」と思い悩んでいた時期でした。
競馬のレースを観たものの、僕はまったく賭け事をしないので、さっぱりわからなくて。でも、翌朝の競馬場内で行われる調教風景を撮影した時に、その印象は一変しました。

強靭な体をしたばん馬が肉体を鍛え上げる豪快な雄姿、汗が湯気となりまるで馬体からオーラを放つような姿、暗い時間から始まる調教がやがて朝日に包まれる光景、何もかもが初めて見るものばかりで、感動したのを覚えています。中でもやけにきれいな馬がいるなと感じて撮り続けていたら、あとでその馬がスーパーペガサスだったと知ったりね。
※スーパーペガサス ばんえい競馬史上唯一、ばんえい競馬最高峰のレース『ばんえい記念』を4連覇した歴史的名馬。
はじめて写真集が出版されたのは2008年のことでしたね。元々予定されていた事だったのですか?
当初は写真集にすることを考えていなかったのだけど、「競馬場での撮影をこれから続けていこう」と思っていた矢先に、ばんえい競馬が廃止の危機にあることを知りました。人と馬が築き上げた、文化遺産でもあるばんえい競馬を残そうと奮戦している人たちのひたむきな姿勢に触れ「何とか続けてほしい、もっとたくさんの人々にばんえい競馬の魅力を知ってもらいたい」そう思い、発行に至りました。

写真集のデザインはグラフィック界の巨匠・長友啓典さんが、帯は長年お世話になっていた俳優・西田敏行さんが書いてくれました。とにかく自分でも何とかばんえい競馬を盛り上げたかった。
競馬場でばん馬を撮影する際の特徴はどんなところにありますか?
まず大前提としてあるのは、馬、そして騎手や関係者に迷惑をかけないような位置と装備で撮影すること。

朝日が昇ってくる位置を確認し、常に同じ位置から撮影しています。同じ場所で見続けることで、馬や人のちょっとした細かい変化にも気づくことができるし、季節や時間帯による光の変化でまた違った写真になっていくのです。
撮影を続けていく中でのエピソードで思い出されることは何でしょうか?

画像:山岸伸
ばんえい競馬は帯広市が主催しているので、競馬場で撮影するためには、帯広市とばんえい競馬の方々の協力無くしてはできない事。そんな中、たくさんの人が助けてくれて撮影ができていることをとても感謝しています。

画像:山岸伸
撮影を始めた当初、競馬場で調教の邪魔にならずにどう動いていいかの不慣れだった中、元ばんえい競馬職員の古舘さんがいつも同行してくれ、優しく臨機応変に対応してくださりとても助かったことが印象に残っています。おかげで徐々に調教師さんたちが話しかけてくれるようになりました。
写真集「馬力」に込められた思い
12月にばんえい競馬写真集の新作が発表されますね!
ばんえい競馬の撮影を始めてまもなく20年になり、今回はその集大成ともいえるべき作品になりました。120ページの中を4つのテーマで構成しています。

タイトルの『馬力(ばりき)』は、あえてばんえい競馬とつけないことで、たくさんの人に手に取って欲しいと思ったから。表紙のデザインも“馬の力強さ”が感じられるように、馬が鉄の重いそりを曳いた後にできる無数の跡にしました。

この作品で、ばん馬たちの生命力をぜひ感じ取ってほしいと思っています。
ばんえい競馬を撮り続けるこだわりはどこにありますか?
美しい馬を撮影しようとすると、きっと牧場の芝生の上をさっそうと駈けていく姿を頭に描くかもしれない。だけど僕にとっては、帯広競馬場でばん馬たちを撮影することに意義があるんです。競馬場の外へ一歩出れば大きな帯広の町があるとは思えない程、町の中心にある競馬場の中で、たくさんの馬たちが力強く生きている。

同じ場所でずっと馬を撮り続けていると、馬たちの大きな生命力を感じることができて、僕にない勇気とか元気とか、たくさんもらうことができる。

撮影する時は人間と変わらず馬たちにも声をかけているよ。「健康を守って」とか「力を僕にもわけてほしい」とかね。だから初めから、お金のためにはやっていないよ。それ以上のものをばんえい競馬からもらっているからね。
僕にとって「十勝は第二のふるさと」
ばんえい競馬のある十勝への思いをお聞かせください。
十勝は自分の故郷の次にたくさん訪れている町だね。心も体もパワーをもらうことができるんだ。帯広で必ず訪れる『大光』でラーメンをすすると、「あぁ帰って来たな。」とほっとした気持ちになるよ。
大好きな朝の調教を撮るために、深夜に起きて1時間かけて行う防寒対策。夜明け前が一日で一番寒い時間帯だから厳寒期には重装備でだるまのようになってしまう(笑)。でも、しっかり時間をかけることで、気持ちにスイッチが入り、撮影の態勢に入ることができる。

早朝の撮影を終えてホテルに帰って頂く朝食は、晴れやかで最高な気分だね。なかでもおしるこは最高だよ(笑)。
帯広へ行くと皆さん優しく接してくださって、「また来れてよかったな」という気持ちになるし、とてもありがたく感じるよ。あと10℃暖かかったら住みたいくらいだね(笑)。
最後にばんえい競馬ファンの皆さんへメッセージをお願いします。
ばんえい競馬がこれからもっと良くなるように、みなさんの力で盛り上げて応援してあげてください。
山岸さんのファンの皆さんへメッセージをお願いします。

画像:山岸伸
12月には『馬力』を持って帯広競馬場へあいさつに行く予定です。ぜひ見てくださいね。皆さん、これからも宜しく!
写真集情報
商品名「馬力」
著者 山岸伸
発売日 2025年12月12日(金)
定価 3,300円(税込)
出版社 日本写真企画
規格 B5判 128ページ

川原恵子
山岸さんが2008年にばんえい競馬の写真集を発表される以前、競馬に関する写真集は、人気騎手や活躍した名馬などを題材にした個別の作品はあっても、“競馬場での人馬の日常”を題材にした作品はほとんど見られませんでした。
こうして“人と馬が競馬場で共に生活し、競馬を作り上げる姿”を発表して下さった事が、ばんえい競馬にとって、そして北海道の開拓の文化を守るためにも大きな後押しとなった事は間違いありません。
これからもばんえい競馬の奥深い魅力を私たちに教えてくださることを願っています。12月の新しい写真集を心待ちにしております!
取材・文/川原恵子 写真提供/山岸伸
連載「ばんえい競馬ではたらく人」では、ばんえい競馬を支える仕事に就くさまざまな人の魅力に迫ります。お仕事と記事の一覧はこちらから。
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