未来のスターが見つかる!? 専門紙の編集長に聞く「秋のばんえい競馬の見どころ」【ばん馬の見方、プロが教えます。#3】

世界で唯一のばんえい競馬。その魅力はレースの迫力だけではありません。個性豊かな馬たちが成長していく姿、そして未来のスターホースが誕生する瞬間を見届ける感動もまた格別です。

画像:ばんえい十勝

専門家がばんえい競馬の”今”を紹介する連載『ばん馬の見方、教えます。』第3回目は、春のばんえい競馬の楽しみ方を教えてくれた『ばんえい競馬』の専門紙『ねっとばんばキンタロー』編集長・板垣雅己さん。

とくに11月は、馬産地ごとに2歳馬のエースが出場する『ばんえい甲子園』をはじめ、見逃せない大レースが目白押し。11月のレースの見どころや注目馬、馬の見方について、深掘りしていきます。

板垣 雅己(いたがき まさみ)
1969年生まれ、北海道旭川市出身。ばんえい競馬の専門予想紙『ねっとばんばキンタロー』の編集長。読みやすい紙面として定評のあったばんえい競馬名門新聞『ばんえい金太郎』の2017年3月休刊を機に、『ねっとばんばキンタロー』を立ち上げた。ばんえい競馬・馬場管理の職員から転身した経験、人脈を活かした予想を提供する。

秋のばんえい競馬は見ごたえ抜群!コースの変化にも要注目

今季も折り返しを迎え、秋のシーズンに入りました。ばんえい競馬では、秋はどのような季節でしょうか?

画像:ばんえい十勝

秋は1年のなかでも見ごたえのある季節ですね。特に見ごたえがあるのは、馬の成長とコースの変化です。

暑い夏を越えてばん馬が成長する時期なので、馬体も大きくなり、どんどん力をつけてきます。夏の暑さで調子を崩していた馬も、このあたりから復活してくるでしょう。

また、秋は大きなレースも多いです。11月は重賞と呼ばれる賞金額の大きい重要なレースが4つも控えています。2歳馬が産地ごとに競い合う『ばんえい甲子園』の予選も始まるので、目が離せません。

コースの状態やレース傾向にはどのような特徴がありますか?

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気温が低くなって馬場が乾燥しにくくなるので、コースが砂っぽくならずスピードが出やすいです。また、冬季期間に向けて凍結防止の設備(ロードヒーティング)を入れる関係で、11月8日(土)の開催からゴール前にある坂がなくなります。ゴール直前で止まる馬が少なくなるので、スピードを活かして先行できる馬が有利になる傾向にありますね。

ただ、今年は第二障害の砂をほぐす作業があると聞いています。柔らかくなった砂で脚を取られやすくなる可能性があるので、障害をいかに上手に攻略できるかも重要になりそうです。

11月は重賞ラッシュ!見逃せない4レースを徹底解説

11月に開催される4つの重賞について、それぞれの特徴や注目馬を教えてください。

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1つ目は11月2日(日)の『ばんえい菊花賞』です。3歳馬の2つ目の重賞で、7月の『ばんえい大賞典』、12月の『ばんえいダービー』と並んで3歳馬の3冠レースとなっています。

(左から)スターイチバン、キョウエイエース、スーパーシン
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3歳馬は現在、スターイチバン、キョウエイエース、スーパーシンの3頭が上位を争っており、他の馬がつけ入る隙がないほど突出した力を見せています。『ばんえい大賞典』ではスターイチバンが勝利し、今回の『菊花賞』に2冠がかかっていますが、この3頭は誰が勝ってもおかしくありません。将来有望な3強の争いとして、ぜひ注目したいレースですね。

スマイルカナ
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続いて11月9日(日)には、4歳牝馬の頂点を決める『クインカップ』が開催されます。昨年、3歳牝馬限定の『ばんえいオークス』を勝ったスマイルカナに牝馬重賞の連覇がかかっていますが、クラスが上がって苦戦していたようで、最近ようやく調子が戻ってきたところです。

カフカ
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一方で、カフカという馬が力をつけており、今シーズンに入って重賞を2勝しています。カフカがどこまで追い上げるか、力関係の変化が見どころですね。

また、このレースは格付けが上位の馬にハンデがつき、ソリの重量差が比較的大きくなります。スカーレットやクリスタルイプセのような重量が軽くスピードのある馬が有利になり、番狂わせを起こす可能性もあります。

メムロボブサップ
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3つ目の重賞は、11月23日(日)の『ドリームエイジカップ』です。4歳、5歳、6歳、7歳、8歳以上の各年代から、これまでの獲得賞金の上位2頭ずつが集まり、世代を超えて競い合います。

古馬の重賞としてはソリの重さが比較的軽いため、若めの4歳、5歳の馬にもチャンスはあります。今回の本命は現役最強とうたわれるメムロボブサップですが、彼が出走しない場合は混戦になりそうです。

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11月最後の重賞は、11月30日(日)に開催される3歳牝馬限定の『ばんえいオークス』です。3歳の牝馬は今のところ群を抜いて強い馬がいないため、予想が難しいですね。

ホクセイヒラリが2歳のときに牝馬の重賞で優勝しましたが、3歳になってからあまり力を出せておらず、ほかの馬も差がほとんどありません。直前のレースで調子のよかった馬が有力候補になると思います。

※各重賞レースの出走馬についてはばんえい十勝ホームページにてご確認ください。

未来のスターホースを探せ!産地別の強者がそろう「ばんえい甲子園」

11月は『ばんえい甲子園』も始まるとのことですが、こちらはどのようなレースでしょうか?

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『ばんえい甲子園』は、12月に行われる2歳馬の重賞『ヤングチャンピオンシップ』と、それに向けた予選の総称です。ばん馬の生産地を十勝、釧路、北見、北央、南北海道の5つに分け、まずは地区別のレースを開催。各地区の上位2頭が『ヤングチャンピオンシップ』に出走します。地域ごとに代表馬を選ぶことから『甲子園』の名で親しまれています。

例年、十勝が激戦になりやすく、ここで強豪がたたき合う分、ほかの産地の馬にとっては大きなチャンスです。とくに最終戦の『ヤングチャンピオンシップ』では、獲得賞金が上位の馬にハンデとして重量が課されます。ソリが軽くスピードのある馬がハンデの差を活かして台頭し、予想外の展開になることも。産地の振興にもつながり盛り上がるレースなので、ぜひ予選から楽しみたいですね。

2歳馬の重賞として、直近では10月12日(日)に「ナナカマド賞」がありました。その結果を踏まえて、今年の2歳馬の傾向や「ばんえい甲子園」の予想はいかがですか?

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4月のデビューから半年が経ち、だんだん力の差が出てきましたね。トップ層が形成され、その中で接戦が繰り広げられています。『ナナカマド賞』では、1着と2着がほぼ同じタイムで、上位5頭も僅差でした。

とくに上位3頭はすべて十勝の馬。『ばんえい甲子園』では上位勢が予選でぶつかることになります。逆にほかの産地の馬は、今回あまり結果が出ていなくても予選で2位までに入れば勝てるチャンスがあります。

牝馬が力をつけているのも特徴的ですね。2歳馬の獲得賞金上位10頭のうち4頭は牝馬ですし、『ナナカマド賞』で出走した10頭のうち6頭が牝馬というのもかなり珍しいです。牝馬どうしで切磋琢磨してさらに成長していけば、『ばんえい甲子園』でもおもしろい結果が期待できます。

板垣さんがとくに注目している馬について教えてください。

(左から)フェスタクィーンやジェイノホマレ
画像:ばんえい十勝

フェスタクィーンやジェイノホマレなど、牝馬に注目したいですね。フェスタクィーンは『ナナカマド賞』には出走しませんでしたが、2歳牝馬が戦う『白菊賞』、『いちい賞』でそれぞれ2着、1着と上位に入っています。ジェイノホマレも『白菊賞』で優勝、『ナナカマド賞』では4着と好成績を残しました。ソリの重量も牝馬は20キロ軽いため、勝つ可能性は十分あると思います。

ホクセイイワキヤマ
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『ナナカマド賞』のトップ勢も、当然ながら有力候補です。1位を獲ったホクセイイワキヤマは、別の大きなレースでも優勝するなど、2歳馬でトップクラスの力を見せています。ぜひ2冠を狙いたいところですね。

ただ、2歳馬の上位勢の間に大きな力の差はありません。ホクセイイワキヤマは『ナナカマド賞』で勝った分、ハンデとしてソリが重くなるうえ、後から追い上げを見せるタイプです。ソリが軽くスピードのある馬が先行すると、勝負の行方はわからなくなります。

馬の個性を知ってばんえい競馬をもっと楽しもう!

ここまで、各年代のさまざまな注目馬を教えていただきました。馬のことをより深く知るためには、どうすればよいでしょうか?

まずは1頭好きな馬を見つけて情報を集めてみてください。「○○賞で優勝した」など、強い馬や話題になっている馬からで構いません。1頭を追っているうちに、ライバル馬をはじめ、ほかの馬のことも自然とわかるようになります。

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馬の個性を知るうえでは、競馬新聞が参考になります。とくに見ていただきたいのが、タイム欄に書いてあるレースの各ポイントでの所要時間です。第2障害に着いてから降りるまでの時間が短い馬は障害を越えるのが上手ですし、障害を越えてからゴールまでの時間が短ければ後から追い上げるタイプだとわかります。

レース映像や競馬場で実際の様子を見るのもよいですね。過去のレース映像はすべて地方競馬全国協会のホームページから視聴できます。好きな馬が出ているレースを見ていくと、少しずつ馬のタイプがわかってくると思いますよ。

ぜひ馬の個性も楽しみたいですね。最後に、読者のみなさまへのメッセージをお願いします

画像:ばんえい十勝

ばんえい競馬は、ばん馬がソリを引いて障害を越える世界で唯一の競馬です。ゴールまでの力の配分や騎手のかけ引きがおもしろいですし、障害を越えるばん馬たちの賢明さもひしひしと伝わってきます。彼らのがんばる姿をたくさんの方に見ていただきたいですね。

とくに秋冬は、シーズン最後の大一番ともいえる『ばんえい記念』に向けて馬もどんどん成長していきます。ぜひ帯広競馬場に足を運んで、生でその迫力とおもしろさを味わってください。

担当ライター
たまき あまね

注目のレースが数多く開催される秋のばんえい競馬は、見どころが盛りだくさん。圧倒的な強さを持つ馬どうしでの上位争い、力関係の変化、それぞれの戦い方など、ばん馬たちの間で繰り広げられるドラマに目が離せません。ぜひ11月の重賞や『ばんえい甲子園』に注目して、あなただけの推し馬を見つけてみてください!

文/たまき あまね 画像/ばんえい十勝

連載『ばん馬の見方、教えます。』では、『ばんえい競馬』に精通する専門家が、“今”のばんえい競馬について紹介していきます。次回もお楽しみに。

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