渡辺修_プロフィール写真

株式会社恵和ビジネス・渡辺修。「みんなが豊かになるために」養蜂をするIT企業の意図とは

2022.03.28

突然ですが、質問です。

印刷を手掛ける会社のイメージは? 筆者のイメージは、巨大な機械で1分間に何千枚というスピードで大量の紙がプリントされているかんじ。

次に、IT企業のイメージは? 筆者のイメージは、あらゆるものがスタイリッシュ。

では、最後にハチミツを作る養蜂家のイメージは? 筆者のイメージは、顔を覆う網のついた麦わら帽をかぶっている人。

……怒られますかね、筆者。

なぜ、こんな質問をしたのか。実は、これら3つの側面を併せ持つ会社が札幌にあるからなんです! 驚きです!

今回は、印刷業務・システム開発・データ入力・BPO業務・コールセンター業務など、さまざまな事業を手がける「株式会社恵和ビジネス」の渡辺修さんに、北海道の“あれこれ”を伺いました。

渡辺修(わたなべ・おさむ)。
1945(昭和20)年、神戸育ち。北海高等学校から明治大学へ進学と同時に上京。卒業後、東洋インキ製造株式会社に入社。1971(昭和46)年に退社し、恵和ビジネスフォーム株式会社(現、株式会社恵和ビジネス)へ入社。1985(昭和60)年、父・純治氏の後を継いで株式会社恵和ビジネス3代目社長に就任。2009(平成21)年に社長を退任し、同時に会長に就任。2016(平成28)年より取締役相談役を務める。

いつの時代も「お客さまの声」を聞いてきた

北海道LikersライターFujie:「株式会社恵和ビジネス」は、創業62年の“老舗IT企業”だと認識しています。ここ10年でも時代が大きく変化していくなかで、企業としてどのように時代の流れを掴み、これまで経営されてきたのでしょうか。

渡辺修さま取材

今回の取材はオンラインで行いました

渡辺さん:1959(昭和34)年に林下忠三が「北海道カーボン印刷株式会社」を創業したのが当社のはじまりです。それまでは伝票などに使われる裏カーボン印刷ができる会社が北海道になく、本州に頼っていたんです。その状況を改善すべく、北海道の印刷業界から出資を受けてできた会社です。

しばらくはカーボン印刷を中心に据えていましたが、儲かるとわかるとどこもかしこも機械を導入するようになって。競争ですよ。そのころは、印刷会社からの仕事だけをやっていたこともあり、なかなか売り上げは安定しませんでした。

昔から使用している印刷機

昔から使用している印刷機 出典: 株式会社恵和ビジネス

そこで親父(2代目社長の純治氏)が目をつけたのが、ビジネスフォームというコンピュータ用の帳票。1963(昭和38)年には平圧のビジネスフォームの機械を導入しました。印刷機もビジネスフォームも道内初だったと思います。おかげさまで仕事が増えましたが、やはりこれもまた競合他社が増えて仕事は減る。この流れを繰り返してきました。

北海道LikersライターFujie:最初は印刷会社の下請けの仕事をメインに担ってきたのですね。今やられている事業とはかなり異なるようですが……。

渡辺さん:そうですよ。当初は、印刷業界でやってきましたから株主は印刷会社だけ。

私自身は1971(昭和46)年に、「東洋インキ製造株式会社」という会社から戻ってきましたが、私には下請けのままでは将来を見通すことはできませんでした。そこで直接取引を中心にしたビジネス展開をしていくべきだと判断して、徹底的に直需の開発を私1人でやり始めました。やったことはとにかくお客さまの声を聞き、課題を解決することですよね。

昔の印刷工場の様子

昔の印刷工場の様子 出典: 株式会社恵和ビジネス

その甲斐あってか、今のシステム事業に通ずるコンピューターソフト開発を担ったり、データエントリー事業につながる漢字の入力機の導入を道内で初めて行ったりと、少しずつ新しい道が拓けてきました。

どれも、お客さまが持つ課題を解決しようと試みた結果として事業になったものが多いですね。お客さまからお話を聞いたうえで、課題の解決策や具現化する方法を考える。我々にできることは何かを見つける。今日までずっとその姿勢でこられたというのが、長く続く企業を経営できた理由ではないでしょうか。

北海道のポテンシャルを活かすために

北海道LikersライターFujie:これまで道内初の試みを多くされてきたかと思いますが、北海道が抱える課題は何だとお考えですか?

渡辺さん:課題は多々あると思いますが、北海道から東京に進出して業界でも1、2位を争うような会社もたくさんあります。それを踏まえたうえで、やはり課題なのは次が出てこない点だと思いますね。その背景にはいろいろな要因が考えられるでしょう。

たとえば、北海道の大卒のうち約6割が道内就職というデータがありますが、就職先は一部の産業に限られているのが現状だと思います。電力、ガス、金融などがいい例でしょう。その他の産業に人材が来ない理由としては、東京と比べたときの低賃金や長時間労働、低価格受注といったことが挙げられるのだと思います。そうした環境に身を置いて将来に望みが持てるのかと考えたときに、大学生たちに敬遠されているのではないでしょうか。

農業や漁業、林業、観光、酪農。誰が何といおうと北海道がナンバー1だと思いますが、それだけのポテンシャルの塊であるだけにもったいない。そのポテンシャルをどう生かし、どう産業として展開させていくのかがカギになると思います。

現状は、何かモノを作ったり生産して終わる形が大半です。この状況に対し、たとえば農業なら、収穫した農作物を生産地北海道で加工すれば、シェアが低いといわれている北海道の製造業に新たな活路を見いだせます。その動きが生まれれば、人や設備が必要になってくる。そこへ優秀な人材や知識を持った専門家などが入れば、その企業もまた強くなってくる。そういう好循環を作る必要があると思いますね。ですから、そうした場になりうる会社が少ないことが一番の課題だなと思っています。

札幌本社ビル

札幌本社ビル 出典: 株式会社恵和ビジネス

北海道LikersライターFujie:その課題に対して、どのような企業になっていきたいとお考えでしょうか。

渡辺さん:そうですね、高賃金で高価格受注できる企業になっていくことを常に目指しています。利益が出たら、ある一定の金額は企業に残したうえで、残りは株主や従業員に還元すべきだと考えているんです。

株主であれ、従業員であれ、仕入れ先であれ、その企業を取り巻くあらゆるステークホルダーがみんな幸せになれる・豊かになれる、そういう企業にしないといけませんよね。

屋上から模索する「北海道の豊かさ」

北海道LikersライターFujie:具体的にどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。

屋上養蜂箱設置時

屋上に養蜂箱を設置 出典: 株式会社恵和ビジネス

渡辺さん:それでいうと、実は3年ぐらい前から、この屋上でハチミツを採っているんです。

北海道LikersライターFujie:え、ハチミツですか? 突然ですね。

渡辺さん:事の始まりは、私の高校の後輩にハチミツを作っている人がいて、あるときハチを九州から持ってきたんです。「先輩のところの屋上でやりませんか」って。どこでも採れるというもんだから、本社ビルと白石の事業所、それから大通り東8丁目のビルの屋上の3カ所でやり始めたんですよ。

それで最初、採れたハチミツを瓶に詰めて、東京のお客さまに渡したら、直接私に電話が来たんですよ。「また来年もいただけますよね」と(笑) 北海道ブランドの力も感じつつ、お客さまとのコミュニケーションを促進するという点でもいいかもしれないと思ったんです。

当別町にある養鶏場

当別町にある養鶏場 出典: 株式会社恵和ビジネス

昨年(2021年)5月にはひよこを100羽飼い始めて、養鶏も行っています。以来、ハチミツと卵入りのクッキーを札幌の洋菓子店「Bon Vivant(ボン・ヴィバン)」さんにお願いして作ったり、ハチミツ入りのビールも作ったり。どれもお客さまや従業員に配っています。

さらに、昨年300坪の農地を借りて無農薬野菜を7、8種類栽培しています。今度は昆布に目を付けています。

北海道LikersライターFujie:ハチミツだけでなく卵に野菜、それに昆布とは! すごいですね!

お客様にお送りした蜂蜜セット

お客様にお送りしたハチミツセット 出典: 株式会社恵和ビジネス

渡辺さん:遊んでるんです、要するに(笑) ですが、一次産業物をどう加工するか試してみて新しい事業を模索しつつ、それをお客さまや従業員、仕入れ先にお配りすることでなにかきっかけが生まれればいいなと思ってね。

私は物好きなもので、いろんな人と会って、いろんな話をするのが単に好きなんです。今の取り組みもすべて人とのつながりから生まれたものなので大事にしたいなと思っています。

我々は、一次産業と接点がないと思われるかもしれませんが、例えば一次産業の加工品のラベルだとか、輸送時の伝票など、意外と印刷やビジネスフォームは身近なところに関係しているんですよ。将来的にどこかで結びつく可能性を探っている最中です。

北海道LikersライターFujie:IT企業という枠に囚われず、新たな可能性を探っておられる姿勢に感銘をうけました。

渡辺さん:従業員やステークホルダーみんなで豊かになるにはどうしたらいいかということを考え、実際に行動に移す人が増えれば北海道はもっと良くなると思いますよ! その答えをまだ見つけられていないところが、私もまだ途中なんですがね。

 

―――取材中、時折こぼれる快活な笑い声。北海道を創ってきた。これからも創っていく。そんな決意がそんな笑い声とともに聞こえてくるようでした。

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