1枚の求人票からばん馬の世界へ。「不安より好奇心が大きかった」北村厩務員を惹きつけたばんえい競馬の魅力

2023.01.23

約1トンのソリをばん馬が曳く力や速さを競うばんえい競馬。世界で唯一、北海道・帯広で開催されているばんえい競馬を支えている仕事のひとつが厩務員です。厩務員のみなさんは、レースに出る競走馬たちを毎日調教し、一番近くでお世話をしています。

今回は、2018年デビューのコマサンブラック(初仔)と重賞勝ち経験のあるコマサンダイヤ(2番仔)の全弟*であるコマサンタカラを担当する、金田厩舎の北村雄馬さんにお話を伺いました。

*母も父も同じ兄弟

北村雄馬(きたむら・かずま)。1994年生まれ。秋田県出身。金田厩舎所属。厩務員歴6年。担当馬はマサタカラ、コマサンタカラ、サクラジョージ、ブルースカイ。

ばんえい競馬の未来をつくる人

飛び込みたくなる楽しさがあった

北村さん

今回の取材はオンラインで行いました。 出典: 北海道Likers

北海道Likersライターたてかわ:ばんえい競馬の厩務員として働くことになったきっかけは何ですか?

北村さん:求人票を見て応募したのがきっかけです。もともと地元で働いていたのですが、求人票で住み込みで働ける環境に魅力を感じて連絡をしたところ、1週間体験させていただくことになりました。実は現地に行くまで、ばんえい競馬を見たことがなかったんです。サラブレッドの競馬と同じだろうと思っていたので、ソリを曳いていて驚きました。

ばんえい競馬の厩務員は知り合いからの紹介をきっかけに働いている方が多く、みんなからは特殊な形だと言われます。最初はそういった環境になじめるのか躊躇もありましたが、1週間の体験で不安よりも楽しそうだなという気持ちが大きくなったので思い切って飛び込みました。

たてかわ:働くまでは馬に触れたことはあったのですか?

厩舎での仕事

コマサンタカラと厩舎にて 出典: ばんえい十勝

北村さん:厩舎に来てから初めて馬を触って、イチから勉強しました。来た時は本当に大変でしたね。怪我も小さいものから大きいものまで、ほとんど毎年しています。一番酷かったのは最初の年で、小さい怪我が本当に多かったです。大きい怪我だと、2歳のテスト馬の背中を慣らしているときに、頭から落ちて鎖骨を骨折し頭を10針縫いました。大人しそうな馬でも急に走ったりするので、2歳馬は本当に大変です。でも、記憶がなかったのでトラウマにはなりませんでした。聞いた話によると、結構な大怪我だったみたいです。記憶がないことが唯一の救いで、覚えていたらきっと今はここにいないと思います(笑)

たてかわ:1日のスケジュールを教えてください。

北村さん:金田厩舎では冬の期間だと大体5:00〜5:30の間に起きて運動をさせます。担当馬が運動している間に馬房の掃除をするなど、運動の合間を縫って馬の入れ替え。運動が全部終わった後、馬が食べる草を詰めたり、つなぎ馬房の掃除をしたりします。

伸びしろのある馬たちを応援して

たてかわ:担当馬の中でイチオシの馬はいますか?

マサタカラ

人懐っこいマサタカラ 出典: ばんえい十勝

北村さん:マサタカラとコマサンタカラの“タカラ2頭”です! 伸びしろもありますし、ぜひ応援していただきたいです。2頭とも人に慣れていて甘えてくる馬です。マサタカラは特にかわいいのですが、甘えすぎて噛んでくることもあります。でも馬なりのスキンシップというか、本当に人に慣れています。

コマサンタカラ

コマサンタカラの成長にも期待 出典: ばんえい十勝

コマサンタカラも人に慣れていますが、すごく敏感で、音に反応したり、レース前には触っただけで筋肉が硬くなってしまったりするところがあります。発走ゲートに入るまではすごく大人しいのですが、ゲートが閉まった瞬間に硬くなってしまうんです。ゲートに入ってしまうと、厩務員としてはなだめることしかできないので馬に任せています。馬は頭がいいので、走ることを分かっているんでしょうね。まだ若さのある馬なので、もう1年ぐらいすれば、他の馬のように慣れてくれるのかなと思います。コマサンタカラは兄弟馬にコマサンブラックとコマサンダイヤをもつ血統の3番目で、血統としてもすごくいいです。

たてかわ:この2頭は11月19日に行われた「摩周湖特別」で1、2着でしたよね。そういった時、担当者としてはどのような気持ちになるのでしょうか?

摩周湖特別レース

「摩周湖特別」競走 出典: ばんえい十勝

北村さん:実は私はあの時、2着になったコマサンタカラを応援していたんですよ。コマサンタカラが勝てたら1月3日の重賞「天馬賞(BG1)」に出られるかなと思っていたので。残念ながら2着だったので少し厳しくなりましたが……。マサタカラが勝って嬉しい気持ちもあるんですけど、やっぱりコマサンタカラを「天馬賞(BG1)」に出させたかったなという気持ちもあります。嬉しいけど、もやもやした複雑な気持ちです。

たてかわ:所属する金田厩舎の魅力は何ですか?

北村さん:最近は若さが魅力ですね。厩務員8人中、金田利貴騎手を含めて19〜23歳の若い人が6人います。活気があって明るいです。それに今の若い人たちはみんな馬を扱うセンスがあって上手いです。金田利貴騎手も最初からセンスが抜群にありました。騎手を目指している子たちもいます。厩務員の仕事も大変なので、両立しながら頑張ってほしいですね。

たてかわ:北村さんが大変だと思うことはありますか?

北村さん:レース開催日が大変ですね。冬は夏に比べてレースの発走時間が早く、朝の運動が終わってすぐに手入れをしないといけないので休む時間もなく大変です。あと、以前は厩務員が3人しかいなかったので1人6頭も担当していて本当に大変でした。今は若い人たちが入ってくれて厩務員も多いので、分担しながら調整しています。

海外にも届けたい魅力がある

マサタカラとコマサンタカラ

マサタカラ(左)とコマサンタカラ(左) 出典: ばんえい十勝

たてかわ:今後の目標や夢を教えてください。

北村さん:目標はこれから担当する馬も含めて、自分の担当馬で重賞を勝つ馬をつくることです。そういう馬を2歳から育てることに携わっていきたいなと思っています。

たてかわ:ばんえい競馬を見たことがなかった北村さんが思うばんえい競馬の魅力は何ですか?

北村さん:サラブレッドの競馬と違って、速さではなく馬の力強さを見られるところですね。重いソリを引っ張ってゴールを目指す馬たちは、馬体によって筋肉の使い方も違います。ボディビルのような、刺さる人には刺さる魅力があるのではないでしょうか。速いのもいいけど、どっしりしたのもいいなあと見るたびに思います。YouTubeでも動画が配信されているので、海外の馬好きの人たちにも知ってほしいです。厩舎でもここ2~3年でインド出身の厩務員が増えました。インドの他にもさまざまな場所から、ばんえい競馬をいいなと思って働きに来てくれる方が増えるといいなと思いますし、その時はぜひ金田厩舎に来てほしいです!

 

ーーー今回は、金田厩舎で働く北村さんにお話を伺いました。終始笑顔でお話しされている姿がとても印象的でした。働くまでばんえい競馬を見たことがなかったという北村さんでしたが、お話を伺っているうちに厩務員というお仕事をすごく楽しまれているのが伝わってきました。北村さん、そして金田厩舎の今後のご活躍を楽しみにしています!

連載「ばんえい競馬の未来をつくる人」では、ばんえい競馬で活躍する若者たちに迫ります。伝統文化を次の世代へつなげる彼・彼女たちの想いとは。連載記事一覧はこちらから。

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