きっかけはオグリキャップ。「馬好きの輪を広げたい」厩務員・堂阪幸子

ばんえい競馬は世界で唯一、馬がソリを曳く競馬。ここ帯広という地で人々を魅了するレースの裏側には、馬を想い、業務に勤しむ人たちがいます。

身体の手入れや馬房の掃除、練習やレースの付き添いにいたるまで、朝早くから馬たちのために走り回っているのは厩務員の方たち。

今回は谷あゆみ厩舎に所属する厩務員の堂阪幸子さんに、仕事の内容や楽しさについて聞かせていただきました。

堂阪幸子(どうさか・さちこ)。1971年生まれ。奈良県出身。厩務員。乗馬クラブ勤務と日高町の生産牧場での経験を経て2019年7月から谷あゆみ厩舎所属。現在は、ムホウマツゴロウ、アサヒクイーン、オイテカナイデ、リコッタの4頭を担当。

 

好きという気持ちが突き動かした「馬と歩む人生」

堂阪さん

今回の取材はオンラインで行いました。 出典: 北海道Likers

北海道Likersライター木登りアフロ:厩務員は馬とともに歩む仕事ですよね。もともと馬がお好きだったのですか?

堂阪さん:馬に興味を持ったきっかけは、学生の頃に見たオグリキャップ*です。当時、世間からかなり注目されていて、テレビで競馬を見るようになり、そのうち競馬場にも足を運ぶようになりました。生のレースに魅了され、気づけばすっかりハマってしまって! 私は奈良県出身なので、阪神競馬場や京都競馬場に通っていました。

その後、神奈川の大学に進学し馬術部に入りました。夏休みに行った静内の牧場でのアルバイトで、馬に関わる仕事に就きたい想いが強くなって。大学を辞め、静内の牧場で4年ほど働きました。一度、奈良に戻り会社員をしながら乗馬クラブに通っていたのですが、やっぱりどうしても馬の仕事がしたいと思い、浦河の生産牧場で働くことにしました。

北海道Likersライター木登りアフロ:どのような経緯でばんえい競馬の厩務員として働くことになったのでしょうか。

乗馬クラブ時代の堂阪さん

乗馬クラブで働いていた頃(画像:堂阪さん提供)

堂阪さん:浦河の生産牧場で働いていた頃、お休みの日に帯広に買い物に出かけたことがあったんです。ちょうどばんえい競馬の開催日だったので、帯広競馬場に立ち寄ってみました。その時に受けた衝撃が大きくて。それから休みのたびに帯広に通い、ばんえい競馬や能力検査*を見ていました。そんな中で出会った人たちに「そんなに好きなら働けばいいじゃない」と言っていただけたことが背中を押す一手になりました。

*オグリキャップ・・・1985年生まれ。地方競馬・笠松所属のサラブレッド。地方で12戦10勝後、JRAに移籍。有馬記念2勝など重賞12勝(うちGI競走4勝)を挙げ、ぬいぐるみが爆売れするなど第二次競馬ブームを巻き起こした。

*能力検査・・・2歳新馬たちの能力を計るテスト。レース同様のコースで行なわれ、一定タイム以内で合格した馬だけがデビューできる

北海道Likersライター木登りアフロ:ばんえい競馬の厩務員になる前と今では、ばん馬やばんえい競馬に対するイメージは変わりましたか?

堂阪さん:浦河ではサラブレッドの生産牧場にいたので、それよりも大きなばん馬を扱えるのかなという不安はありました。実際に触れあってみると、おとなしくて人懐っこい子が多くて。サラブレッドよりも扱いやすいと思います。あと意外とばん馬ってどんくさい子が多いかもしれないですね(笑)

馬たちが教えてくれること

朝調教の様子

朝調教の様子(画像:堂阪さん提供)

北海道Likersライター木登りアフロ:普段のお仕事の内容と一番好きな業務を教えてください。

堂阪さん:午前4時前には仕事に向かい、4頭の朝調教をします。それから馬糞出しといった馬房の掃除をします。週に1回、草切りというロールの草を機械に入れて砕き、馬のエサを作るという仕事があります。これが一番大変です。1時間ほどみんなで作業するのですが、汗だくで埃まみれになります。あとはレースに馬を連れて行ったり、馬たちのご飯を用意するのも厩務員の仕事です。馬たちは1日4食食べています。レースが一番楽しいですが、朝調教の時に見る綺麗な朝陽も好きです。今朝の朝陽もとっても綺麗でしたよ!(取材日は9月8日)

北海道Likersライター木登りアフロ:ばんえい競馬の厩務員という仕事の魅力を伝えるとしたら?

アサヒクイーン号

担当馬アサヒクイーン号(画像:堂阪さんご提供)

堂阪さん:とにかく何よりばん馬が可愛いです! これにつきますね(笑)

北海道Likersライター木登りアフロ:反対に覚悟しておくべきことはありますか。

堂阪さん:しいて言うならば寒さです。帯広の冬はとっても寒く、朝はマイナス20度の中ソリに乗ります。とはいえ、慣れてしまえば全然平気です! あとは、ばん馬は体が大きいので力では絶対に勝てません。距離感や動きをうまくつかむことが大切です。ほとんどないですが、足を踏まれると血が出たり、指が曲がったりすることも。実は私の足の指も曲がったままになっています。

もっと身近に感じる存在に

北海道Likersライター木登りアフロ:堂阪さんがこれから取り組んでみたいことはありますか?

堂阪さん:まだまだ勉強中で、日々向き合いながら馬たちに正解を教えてもらっています。なので、「こんなことをやってみたい!」と私が口に出せるのは10年後、未来の話だと思います。今は、レースに合わせてしっかりとコンディションを整えることに全力を注ぎたいです。

ゴール後のムホウマツゴロウ号と堂阪さん

ゴール後のムホウマツゴロウ号と堂阪さん 出典: ばんえい十勝

少しずつ馬の引っ張り方や歩き方で「調子がいいな」「元気がないな」と感じ取れるようになってきましたが、調教は馬の能力によってやりすぎになったり、足りなかったり一筋縄ではいかないものです。反応から馬たちの気持ちを敏感に感じ取る能力がまだまだ足りません。いいレースをしたら例え一位でなくても、ゴールした瞬間にいっぱい褒めて撫でるなど、触れ合いを続けることで馬の気持ちを理解していきたいです。

北海道Likersライター木登りアフロ:最後に「馬が好き」、「馬にかかわる仕事に興味がある」という方たちに伝えたいことを教えてください。

アサヒクイーン号

アサヒクイーン号 出典: ばんえい十勝

堂阪さん:たしかに馬に直接関わる仕事は限られています。しかし、馬たちがレースに出られるのは馬券を買ってくれる人がいるからです。そして、馬たちに仕事があるから我々厩務員のような仕事も成り立ちます。つまり、競馬ファンの方たちが馬や馬に関わる人々を支えてくれているんです。厩務員という立場では伝えられないばんえい競馬の面白さや魅力を、ファンの方々に広めていただき、馬好きの人を増やしてくださったら嬉しいなと思います。

また、馬が働く場所は競馬以外にも、乗馬クラブや観光地の馬車など意外と身近にあります。犬派、猫派の次に、馬派が挙がるくらい、馬好きの人が増えたらいいなと願っています。

 

ーーーお休みの日は知り合いの牧場に馬の世話のお手伝いに行くほどに馬が大好きな堂阪さん。明るくお話してくださった堂阪さんの言葉には、馬に対する熱い想いが込められていました。

連載「ばんえい競馬ではたらく人」では、ばんえい競馬を支える仕事に就くさまざまな人の魅力に迫ります。連載記事一覧はこちらから。

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