あきらめなかった日々が実を結んだ、ばんえい競馬騎手として生きることへの決意

2026.01.20

十勝エリアの人気観光スポットとして有名な帯広市のばんえい競馬。

北海道遺産に認定されている『ばん馬』たちが、2つの大きな坂(障害)がある直線200mの砂利が敷き詰められたコースを、最大1トンにもなる重いソリを曳いて、馬力と持久力を競うダイナミックなレースです。

ばんえい競馬が“ほかの競馬と大きく違う”と珍しがられる理由は、世界で唯一、競走馬であるばん馬たちが、軽種馬(けいしゅば)に分類され、スピードを競うサラブレッドとは違い、重種馬(じゅうしゅば)に分類される大型馬であること。また騎手がレースに騎乗する際は、馬ではなく、馬の曳く『鉄のソリ』に乗って戦うことなどがあげられます。

今回お話を伺ったのは、ばんえい競馬新人騎手の吉田理人さん。現在の心境、そしてばんえい競馬への思いについて語っていただきました。

画像:ばんえい十勝

吉田理人(よしだりひと)2000年生、大阪府吹田市出身。兵庫県園田競馬の厩務員として、また地方競馬教養センター・騎手養成課程で学んだ経験を持つ。2025年11月20日(木)に地方競馬全国協会(NAR)の令和7年度騎手免許試験に合格し、同年12月よりばんえい競馬騎手としてデビュー。勝負服は胴黒、黄一本輪、袖黄。ばんえい競馬と園田競馬のそれぞれの恩師である調教師が、騎手時代に使用していた色と柄を受け継いでいる。

サラブレッドへの想いの中で背中を押してくれた、あの言葉

騎手試験合格、そしてデビューおめでとうございます!大阪府ご出身の吉田さんがばんえい競馬の騎手になられたいきさつを教えてください。

幼い頃から大の動物好きで、その中でも飛びぬけて馬が好きでした。家族が競馬場に連れて行ってくれ、馬と騎手が共に戦いに挑む姿を見る事がとても好きで、中でも武豊騎手の騎乗スタイルのあまりの格好良さに衝撃を受けたことがきっかけで、「自分も競馬の騎手になりたい」と思いました。

高校を卒業後、園田競馬で厩務員として働き、半年後、地方競馬教養センターの騎手養成課程の試験に合格し入学、サラブレッド競馬の騎手デビューを目指し寮生活で学びました。

画像:ばんえい十勝

騎手養成学校では、常に厳しい体重制限との戦いで、身体が成長していくと同時に、騎手としての体重の調整が難しく苦労しました。毎朝、教官の前で体重測定をし、規定を100グラムでも超えてしまうと、その日の騎乗訓練などに出席できなくなります。ボクサーのように厳しい食事制限や、サウナスーツを着て減量に努めていましたが、最終的に断念し、以前お世話になっていた園田競馬の松浦聡志調教師のもとで、また厩務員として再スタートさせてもらい、5年間勤めました。

*騎手の体重制限:レースに出走する競走馬は、決められた負担重量(騎手の体重や、鞍などの総重量)を背負って出走することが定められています。サラブレッド競馬の負担重量は、現在、多くが50キロ台(最軽量はJRAの49キロ)のため、騎手自身の体重は40キロ台から50キロ前半を維持しなければならない、大変過酷な制限が設けられています。なお、ばんえい競馬の騎手の負担重量の場合は、自身の体重を含め77キロと定められています。

ばんえい競馬の騎手を目指そうと決意したきっかけはどんなことでしたか?

騎手養成学校を辞める際に、校長先生から「ばんえい競馬なら騎手になれるチャンスがあるぞ」と教えて頂きました。ただ、当時はサラブレッド競馬の世界で頑張りたいという気持ちが強かったので、胸の内にしまっていました。

園田競馬では、厩務員としてやりがいを感じていたのですが、経験を重ねていく中で、やはり幼いころからの夢だった「騎手だけが見ることのできる景色を見たい」という気持ちが強くなっていき、2024年の2月にはじめて一人でばんえい競馬を見に帯広を訪れました。

厳寒の空のもと、ばんえい競馬を実際に見たときに、純粋な気持ちで、「ばんえい競馬で騎手を目指したいと思うか」ということを確かめたい。そんな思いでした。

まだ見ぬ絶景をもとめて

初めてライブ観戦をした時の印象はいかがでしたか?

第一印象で雄大な馬体のばん馬たちが魅せるスピードとばん馬たちの迫力に圧倒されました。とにかくライヴ感がすごい。「ばん馬たちは、あれだけの重い重量をよくスピードを出して運ぶことができるな、ばん馬と騎手はどうやって息を合わせてレースを進めていくのだろう!自分も挑戦したい!」そう思い、ばんえい競馬調教師会へ連絡をし、久田守調教師のもと下で4月から厩務員となり、騎手を目指すことになりました。

騎手デビューのレースでは2着、そして昨年12月20日に初勝利の後、翌日の開催では連勝もありましたね!

デビュー戦はあまり緊張しませんでしたが、第2障害であせってしまったことが、最終的に勝利に届かなったと反省しています。その後のレースでは反省点を踏まえて、久田先生や先輩の赤塚健仁騎手に教えて頂いた事を自分なりに考えて進めることができています。

画像:ばんえい十勝

初勝利の時のマゴ号は、前走も乗せてもらっていた馬でした。一つ勝てたことで、気持ち的には楽になったこと、そして連勝できたことで自分なりにレース感覚がわかりだして来たように思っています。

サラブレッドとばん馬の厩務員はどんなことが違いますか?

ばん馬はサラブレッドの2倍の大きさがありますので、パワーが違いますが、一番の違いは、トレーニング方法です。サラブレッドの場合は馬に乗って行いますが、ばん馬の場合はほとんど馬には乗らず、手綱やソリですすめていきます。また、馬に使う道具も全く違うので、慣れるまでに少し苦労しました。

はじめての北海道での生活はいかがでしたか?

実は寒さが苦手で、帯広へ行くと決めた際には周りから大分心配されましたが、北海道の建物は半そででいられるほどとても暖かく、外に出ても、しっかりした防寒着があるので、あっという間に慣れました。

支えてくれた人たちの想いを胸に

12月に開催された新人騎手お披露目会
画像:ばんえい十勝

昨年12月の新人騎手お披露目会での自己紹介で「自分は周りに恵まれている」という言葉が印象的でした。

園田競馬時代の恩師である、松浦聡志調教師には、自分の騎手としての夢を後押ししてくださり、ばんえい競馬で所属する久田守調教師、そして同厩舎の先輩、赤塚騎手にはいつも相談しやすい環境を作って頂き、本当に感謝しています。そして家族はいつも自分の背中を押してくれる存在です。初勝利の時は家族のグループLINEでとても喜んでくれました。多くの方に支えてもらっていることに感謝し、騎手として頑張る姿を見てもらうことで恩返しをしていきたいと思っています。

座右の銘で語られた「愚公移山(ぐこういざん)」を選んだ理由は?

地方競馬教養センターの時の担当教官から頂いた言葉です。とても厳しい教官で、必死に教えについていく日々でしたが、その教官が半年後に退職することになり、最後の日、毎日提出していた日誌の返信のメッセージの中にこの言葉がありました。

画像:ばんえい十勝

「どんなに困難なことでも根気よく努力を続ければ最後に成功する」この言葉を胸に今までがんばって騎手になることができました。お披露目会で発表することで、どこかで教官が気が付いてくださったらいいなと願い、選びました。

騎手と厩務員として多忙な日々と思いますが、お休みの日は何をされていますか?

私は野球が好きで、雪のない季節には、金田調教師が監督をしているばんえい競馬の有志で活動している野球部に入っています。対外試合もあってとても楽しいです。

ばんえい競馬ファンの皆様へメッセージをどうぞ

今はデビューしたばかりで、周りの騎手の皆さんと技術の差を感じる日々です。また、50勝すると新人騎手のメリットになる軽ハンデでの騎乗もできなくなりますので、そうなった後が、これから騎手としてやっていけるのか本当の勝負だと思っています。

画像:ばんえい十勝

久田厩舎では、レースに騎乗してわからなかったことはすぐに質問できる恵まれた環境を作ってくれて本当に感謝していますし、騎乗するレースは全力でがんばりますので、ぜひ映像で、そして競馬場に足を運んで頂いて観て欲しいと思います!

担当ライター
川原恵子

『愚公移山』のごとく、すでにホースマン精神が備わっている吉田さん。お話をして、ベテランのように感じられたのは、長い間のサラブレッド競馬での経験があったからこそとわかりました。

幼いころからの夢に向かって、ひたむきに努力を続けてきた吉田さんのその姿勢が、周りの人々の心を動かし、たくさんの協力を得られ今につながっているのだろうと感じました。吉田騎手のこれからの活躍を楽しみに、応援しています!

取材・文/川原恵子 写真提供/ばんえい十勝

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