【唯一無二のレースが歩んだ道】廃止寸前からの復活「ばんえい競馬」の歩み~歴史編~

世界で唯一『ばんえい競馬』のレースを開催している北海道帯広市。公営競技として、大型馬の『ばん馬』が重いソリを引き障害物を乗り越えゴールを目指すレースです。

実は、このレースの起源は北海道の開拓時代(1880年代)まで遡ることを知っていましたか?

1:ばんえい競馬の“はじまりの一歩”

実は、『ばんえい競馬』は、ただの競馬ではありません。北海道の開拓時代に誕生した『お祭りばん馬』という伝統的な力比べがルーツになっています。

北海道の開拓が進められた明治時代において、馬たちは『農耕馬』として荷物や木材などの運搬のために不可欠な存在でした。

農民たちは苦楽をともにした自慢の馬で、綱引きのような『力比べ』を行い、農作業の合間の娯楽として楽しんでいました。

やがてそれが、馬の力や丈夫さを競う農村のお祭りとして広まり、『お祭りばん馬』として定着していったのです。

ソリを引いて競走する形になったのは明治の終わりごろ。馬主自らが騎手となり、ソリに乗って馬を操るという北海道ならではの競馬が生まれ、農耕の技術が色濃く受け継がれていきました。

その後、時代と共に進化し、現在では多くの観光客や地元の人々に愛される『ばんえい競馬』となっていきます。

2:「ばんえい競馬」、公営競技の新時代へ

終戦直後、ばんえい競馬は『地方競馬』の一つとして加えられました。農作物の輸送や肥料の確保が急務とされるなか、食料増産を支える力として馬が欠かせなかった時代。優れた馬の育成が各地で求められていました。

そして、1947年に旭川市と岩見沢市で初めて公式のばんえい競走が2日間にわたって開催されたものの、当時はまだ組合連合会が主催でした。

その後、1953年からは旭川・岩見沢・北見・帯広の4市が公営競馬としてスタート。ルールや開催方法はまだ手探りで、騎手の多くは農業や運送業を兼業していたそうです。やがて専業化が進み、耐久性に課題のあった木製のソリは鉄製へと改良されるなど、少しずつ形を整えていきます。

また、4市開催の時代には、約700頭の馬と関係者、家族までが各地を巡回。馬具や牧草だけでなく、生活に必要な家財道具一式を積み込んだ大がかりな移動が行われていました。

一方、同じ時期に青森県でも公式のばんえい競馬が始まりましたが、わずか3年で廃止されてしまいます。こうした背景から、ばんえい競馬は北海道独自の伝統競技として根付き、多くの人に親しまれるようになっていきました。

3:危機を越えて切り拓く、帯広市単独開催への挑戦

帯広競馬場

画像: 帯広市

2000年代に入ると、地方競馬は全国的に厳しい状況に直面することに。多くの競馬場が相次いで廃止され、競走馬たちは行き場を失い、競馬に関わっていた人々の多くも職を失うなど、非常に困難な時代となったのです。

『ばんえい競馬』も例外ではなく、2006年末には累積赤字が30億円を超え、存続が危ぶまれる事態となりました。

この状況を受けて、旭川市・岩見沢市・北見市の3市が開催から撤退。存廃の岐路に立たされた『ばんえい競馬』は、関係者や市民有志が存続運動を行い、当時の帯広市長・砂川敏文氏の英断により、2007年から帯広市が単独で開催を担う新体制へと移行しました。

当時は、単独開催を始めても赤字が続けば廃止も避けられないという、非常に厳しい状況でした。それでも、スタンドの大幅な改修や新スポットの新設を行い、多くの競馬ファンや関係者の支えがあり、帯広市は大きなリスクを背負いながら再スタートを切ったのです。

4:今とこれからを紡ぐ──文化遺産・ばんえい競馬の未来図

画像:ばんえい十勝

新生『ばんえい十勝』の再スタートは、ナイター開催を実施し、多くのファンが競馬場に足を運んだり、インターネットを通じて馬券を購入したりすることで、売上は好調に推移していきます。

その結果、2013年度には帯広市による単独開催以降で初めて実質黒字を達成し、2024年度には売上が578億円となり、過去最高を記録しました。こうした発展を受けて、『ばんえい競馬』は北海道遺産にも登録され、地域文化としての価値があらためて見直されています。

ばんえい競馬

画像: 帯広市

売り上げは伸びているものの一方、『ばんえい競馬』が抱える課題はさまざまです。

たとえば、レースの公平性を守るための“公正確保”、重種馬(ばん馬)の生産頭数が減っていることへの“競走馬の確保”、スタンドや厩舎など施設の老朽化に伴う“施設の改修”、賞金などの“報酬制度の見直し”、そして競馬運営に必要な知識や技術を次の世代へ引き継ぐ“人材育成と継承”など。

これからも『ばんえい競馬』を後世に残すために、こうした課題への解決が求められています。

画像:ばんえい十勝

だからこそ、今こそぜひ『帯広競馬場』に足を運び、ばんえい競馬を実際に観戦してみてください。一生懸命に力を出し切るばん馬たちは、たとえ坂の先が見えなくても、騎手を信じてまっすぐに登っていきます。

会場に行かなければわからない息遣いや、馬たちのたてる音、張り詰めた空気感――そうした“生の迫力”を、ぜひ体感してほしいと思います。

【画像】帯広市、ばんえい十勝、北海道Likers

文/はし、きくち真一、川原恵子、オオイノリコ

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