
きっかけは高校時代のアルバイト!? 期待の新人騎手が心に刻む「ホースマンとして大事なこと」
北海道遺産のひとつである『ばん馬』たちのレース、『ばんえい競馬』。
“馬の速さ”を競うサラブレッドの競馬は世界各地で行われていますが、“馬の力強さ”を競うばんえい競馬は、日本の帯広市だけでしか観ることができない世界でオンリーワンの珍しいレースです。
今回お話を伺ったのは、ばんえい競馬騎手の中原蓮さん。2024年より新人騎手としてスタートを切った中原さんに、ばんえい競馬の騎手になるまでの道のりや、これからの目標について語っていただきました。

画像:北海道Likers
中原 蓮(なかはら れん)
2002年生、北海道帯広市出身。北海道士幌高等学校 卒。金田勇厩舎所属。
高校を卒業後、ばんえい競馬の厩務員となる。地方競馬全国協会における『令和6年度 騎手免許試験』に合格し、2024年12月1日騎手免許交付。
騎手服:黄、黒山形一本輪、青袖白二本輪
抱負:勝って驕らず負けて腐らず
金田調教師から学ぶ「ホースマンとして大事なこと」
まずはばんえい競馬の厩務員になったいきさつをお聞かせください。

金田利貴騎手との接戦
画像:ばんえい十勝
私は、金田利貴騎手の弟である金田駿人厩務員と小学生1年生の頃からの仲の良い友人なんです。高校時代にコロナ禍の影響で勤めていたアルバイトの仕事が無くなってしまったときに、厩舎での馬房清掃のアルバイトを金田駿人厩務員が勧めてくれたことがはじまりでした。
馬房清掃をしながら、金田勇調教師や利貴騎手がばん馬をあつかっている姿を見ていて「楽しそうだな」と思っていました。実際に自分にできるのか不安がありましたが、見れば見るほど「やってみたい!」という気持ちが強くなり、就職を決意しました。
ばん馬はその時にはじめて触れあったのですか?
ばん馬を初めて見たのは、保育園に通っていた時です。
当時、服部調教師がばん馬とのふれあい体験でばんえいPR馬のミルキーやリッキーを連れて幼稚園や保育園などを巡られていたのですが、馬車に乗せてもらったことがとても楽しくて、ばん馬が好きになりました。
厩務員を始めたころばん馬をどのように感じていましたか?

画像:ばんえい十勝
厩務員の仕事をはじめたばかりの頃は「あの大きな馬を手綱2本だけでどうやって動かしているのか」を理解できるまで時間がかかりました。
ばん馬をまっすぐに進ませることは簡単そうに見えるのですが、実は技術が必要です。初心者だとばん馬にも不安や緊張が伝わってしまい、言うことを聞いてくれませんでしたし、急に変わるばん馬の動きに対応していくことがとても難しかったです。
金田勇調教師に一から細かく指導していただいたおかげで、だんだんと“馬とコンタクトをとる”ことができるようになったのですが、とてもうれしかったです。
厩務員として印象的なエピソードは?

アバシリルビー号
画像:ばんえい十勝
厩務員1年目の2021年のことです。初めて担当した馬が、前年の2020年に『ばんえいオークス』を優勝したアバシリルビー号だったのですが初めて学ぶことも多かった分、特に印象に残っています。
その1年後にはアバシリルビー号が引退したのですが、繁殖牝馬となり生産牧場へ帰るまでの間にもいろいろなことを教えてもらいました。ただ、自分が担当している馬が勝った時は分け隔てなくうれしいです。
中原騎手からみた金田調教師はどんな方ですか?

画像:ばんえい十勝
はじめからさまざまな階級の馬を担当させてもらい、細かく指導をいただけて非常にありがたく思っています。
金田調教師はどんな時でも“馬優先主義”が徹底しており、馬の心身にできるだけ無理をかけないように調子を上げていくというスタイルです。「金田厩舎の馬は夏場に調子がいい」とよく言われますが、馬にとっても酷暑はそれだけで体力を消耗してしまうので、運動量を減らして体のケアを重点的にやっていることが要因かと思います。常に馬の様子に気を配り、体調面を見ながら運動量を調整しています。
勝って驕らず負けて腐らず
厩務員となり4年目で見事騎手試験に合格されました。騎手お披露目式で発表された抱負の「勝って驕らず(おごらず)負けて腐らず」という言葉とはどこで出会ったのですか?
読売ジャイアンツ終身名誉監督・長嶋茂雄氏の言葉です。確か、子どもの頃からよく遊びに行っていた金田家で読んだ本の中で出会った言葉だと思います。金田一家は利貴騎手が元甲子園球児でおなじみの通り、家族全員で野球一家であり、金田勇調教師はばんえい競馬に携わるメンバーを集めたチーム、『ばんえい野球部』の監督をしています。
「ばんえい野球部」があるのですね!
はい。メンバーは約20名で、メンバーの中には騎手もいます。帯広畜産大学や農協の野球チームと練習試合もしていますよ。昨年は練習試合などできなかったのですが、日々の業務の合間をぬって練習しています。
2024年12月7日にデビューし、同日の最終レースではパワーハンター号で、同じきゅう舎所属の金田利貴騎手とのデッドヒートを制して早くも初勝利をあげましたね!

画像:ばんえい十勝
パワーハンター号は日々の運動よりもレースに出た方がスイッチが入って頑張ることができる馬ということで期待していましたが、結果はその通りになりパワーハンター号のおかげで勝つことができました。
ゴールした後、しばらく自分が勝ったのかどうかがわからなかったのですが、利貴騎手に「負けた~!」と声をかけられました。その瞬間はすごくうれしかったのですが、「自分の力で勝てた」という気がしなかったというのが正直な気持ちです。
中原騎手の騎手服は西将太騎手のデザインも参考にされていますね。

画像:ばんえい十勝
そうなんです。実は、西将太騎手は厩務員の時から一番仲良くさせてもらっている騎手です。騎手免許試験の実技の対策の練習もわざわざ見に来てくれてアドバイスをくださいました。感謝しています。
「周りの力を借りて」前に行くだけ!

画像:ばんえい十勝
2024年12月にデビュー後、順調に勝ち星を積み上げて快進撃が続いていますね。要因はどんなところにありますか?
自分の中では馬たちにゴールまで引っ張っていってもらっている感じがまだ抜けないていないです。勝ち星が増えているのは馬の担当をしている厩務員さんのおかげだと思っています。レースに出るたびに反省点ばかり出てくるので、レースに出させていただいている関係者の皆さんには感謝と申し訳ない気持ちとふたつの思いがいつもあります。
また「騎手として上達するために自分の体格に似た騎手の動きの真似をしなさい」と言われているので、まだ真似も何もできていないのですが、鈴木恵介騎手のことは特によく見ています。先輩騎手とは手綱の長さや動きの速さ、そしてここぞという時のパンチ力など何もかも違いすぎて途方に暮れてしまうこともあります(笑)。
騎手としてこの1年をどう過ごしていきたいですか?
「ひとつでも上の順位を獲りたい」という思いでいつも乗っています。勝利数もそうですが、周りの人から「あいつは成長したな」と思ってもらえるようにならないといけないと思っています。しかし現実は自分の力ではどうにもできないことばかり。出走したレースを振り返ったり、先輩騎手にアドバイスをもらったり、周りの力を思う存分借りて成長していきたいです。
どんな騎手になりたいですか?
「あいつは一生懸命乗ってくれるから、次のレースはあいつに任せてみるか」というような選択肢でもいいので、乗せていただける理由をひとつでも確実に持っている騎手になりたいです。
また厩務員の仕事としては、技術力が高い担当者が運動を付けている馬たちは乗りやすいと感じるので、自分が担当している馬たちの成績が少しでも上がるように、技術力を磨いていきたいと思います。
読者へメッセージをお願いします。

画像:ばんえい十勝
私がばん馬を初めて見たときは「うそだろ!」と思うくらいのとてつもない大きさに圧倒されました。競走馬は他の動物と違ってアスリートなので、お尻の筋肉などが隆々として本当にかっこいいと思います。
そんなばん馬たちが活躍するばんえい競馬は、レースをしているコースとお客様との距離がとても近く、ほかの競馬にはない迫力を体感できるのが魅力だと思います。ばん馬たちが曳いているそりは最大で1トン。とてつもない馬力で、足を取られやすいコースを勇ましく登っていきます。
一度来てもらえればばんえい競馬の魅力がわかってもらえるはずだと思います。ぜひ帯広競馬場に遊びに来て応援してください!
ーーーデビュー早々、多くの勝利数を重ねる中原騎手。その要因を感じさせるような落ち着きと、さまざまなことに客観的な視点で語られる姿がとても印象的でした。これからの活躍がとても楽しみです。
ばんえい競馬を代表する騎手に成長されますよう応援しています!
文/Kawahara
連載「ばんえい競馬ではたらく人」では、ばんえい競馬を支える仕事に就くさまざまな人の魅力に迫ります。お仕事と記事の一覧はこちらから。
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