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北海道ホテル社長・林克彦。「十勝の自然に眠る魅力を引き出し続ける」熱い想い

新しい施設が増え、若い世代を取り込みながら盛り上がりを見せている“サウナ文化”。とくに北海道・十勝エリアには、魅力的なサウナ施設が多いのをご存じでしょうか? 今回はそんな“十勝サウナ文化の火付け役”、「森のスパリゾート 北海道ホテル(以下、北海道ホテル)」の林克彦社長(以下、林社長)にインタビュー。

ご自身もサウナ―だという林社長。意外な事実が盛りだくさんでした。

林克彦(はやし・かつひこ)。「北海道ホテル」取締役社長。日本サウナ学会理事。2019年6月に十勝で初めてフィンランド式のサウナを導入し成功させる。北海道をサウナで盛り上げようと、周辺施設へのアドバイスや地域を巻き込んだイベントを開催。

モール温泉をフル活用!「北海道ホテル」の発信力

北海道Likers編集部:まずは、「北海道ホテル」のサウナや温泉の魅力をお聞きしたいです。

林社長:「北海道ホテル」の温泉は、地中に埋まっている太古の植物の発酵熱などが起源といわれている“モール温泉”であることが特徴です。

火山性だと硫黄臭がするのですが、モール温泉は有機物が入っていて甘い香りです。だからこそ、モーリュ*を楽しむことができます。「北海道ホテル」のサウナはモーリュができる珍しいサウナです。“天然の化粧水”ともいわれるモール温泉の蒸気を浴びることができます。

モール温泉は発酵しているという点で、いわゆる発酵茶であるプーアル茶のようなもの。施設や場所によっては温泉を飲むことだってできるんですよ。

北海道Likers編集部:そうなんですか! 知らなかったです。

林社長:モール温泉で磨いて作られたラクレットチーズもあります。発酵しているもの同士、相性がいいんでしょうね。「北海道ホテル」で作っている一部のパンにも温泉を練り込んでいます。

北海道Likers編集部:モール温泉をパンに使っているんですか!? それは驚きです。ロゴマークもかわいいですね。

林社長:完全にシャレなのですが、ロゴマークの人物は『モールセンおじさん』っていうんですよ。こういう顔でフランスとかドイツにいそうじゃないですか?(笑) 温泉を使ったパンは珍しいということでメディアにも注目していただいたのですが、そのときにロゴマークがあるのとないのとでは全然違いますよね。

ホテルや旅館って、どちらかというと来た人をもてなすのは上手なのですが、来させるのは下手なんです。だから、“SNS映えするように”、“若い人たちも集まりやすいように”ということは意識しています。

*モーリュ・・・サウナストーンに水をかけて蒸気を発生させる“ロウリュ”をモール温泉で行うこと。

フィンランドで気づいた十勝の魅力

北海道Likers編集部:そもそもどうしてサウナがお好きになったんですか?

林社長:4年前くらいに赤字でホテルの経営を継いで、寝られない日々が続いていました。そんなときに、ととのえ親方*にサウナに連れて行ってもらったんです。

肌や喉がヒリヒリするのでもともとサウナは苦手だったのですが、そこで親方がウォーリュ*をしたんですよね。そうしたら肌や喉がヒリヒリしなくて。水風呂にも入って、上がったあとはすごくフワフワしたのですが、その日の夜は爆睡できたんです。これがきっかけでしたね。

北海道Likers編集部:もともとサウナが苦手だったとは、とても意外です!

林社長:サウナ発祥の地ともいわれている、フィンランドのルカにも行きましたよ。そこで白樺などの針葉樹と雪、トナカイがいる光景を見て、十勝にそっくりだなと。チーズとかが有名なのも一緒です。

現地でサウナに入ったときに、「忙しいのはいつですか?」と聞いたら、「11~4月で、世界中から男女問わず若い人たちがいっぱい来るんですよ。アジアからも来ますよ」と言われました。環境や食べ物、気温も近いので、十勝で同じことをやれば人が来てくれるかもしれない、と考えるようになりましたね。

帯広市内には温泉が30か所くらいあるんですよ。もともと温泉も嫌いだったのでそれまで気づかなかったのですが、札幌や旭川の市街地エリアと比べても意外と多いことを知りました。温泉が多いということはサウナも多いということなので、周辺施設への声掛けを始めました。今ではロウリュできる施設が十勝全体で17か所くらいありますよ。

北海道Likers編集部:多いですよね。

林社長:そうなんです。今まではサウナ室の温度が100度くらいだったところを、男性なら83度、女性なら78度くらいに設定することや、広い施設ではアウフグース*をやってもらうことなど、各施設を説得して協力していただきました。そうするとそれまでの何倍ものお客さんが入るようになったんですよね。

「北海道ホテル」では、あえて値段を少し高めにしたり、宿泊者と日帰りの入浴時間に差をつけることで、宿泊や観光客を優先する。十勝には低価格でモール温泉やサウナを楽しめる施設もあるので、そうすることで「北海道ホテル」と地元の周辺施設で相乗効果を生み出しています。

北海道Likers編集部:どうしてほかの施設を巻き込んで行くことを大切にされているのですか?

林社長:“ふくやの明太子理論”ってご存じですか? 博多の「ふくや」という辛子明太子を開発したお店が、その製法を他社に積極的に教えることで市場を広げ、明太子食文化発祥の地としての博多の発展に貢献したというものです。私はこの考え方がとても好きで。

フィンランドの聖地を見てわかったことは“自然を感じながらするサウナが究極”ということでした。地元の各施設にどんどん自然をいかしてもらうことによって、十勝の自然のなかで“ふくやの明太子理論”を実践できるかなと思ったんです。

*ととのえ親方・・・松尾大氏。複数の会社を経営する傍ら、サウナに関する番組やイベント、サウナ施設のプロデュースをしている実業家、兼プロサウナー。
*ウォーリュ・・・サウナ室の壁にロウリュをすること。「北海道ホテル」のサウナでも体験できる。
*アウフグース・・・ロウリュを行った後に、立ち上った蒸気をタオルなどで仰ぐ行為のこと。

北海道で「自然との対話」ができる場所を作りたい

北海道Likers編集部:最後に、これから北海道や十勝でどんなことをしていきたいか、お聞かせください。

林社長:そうですね、“水のリゾート”をつくりたいと思っています。

あと10年くらいで砂漠化が進み、水問題が深刻化していくといわれているなかで、北海道にはこの先も長く続くであろう水資源があります。2023年度に国立公園に指定される予定の日高山脈など、雪の降る森が多く存在するからこそですね。

北海道Likers編集部:水のリゾート! プールなどですか?

林社長:それこそサウナで水風呂を楽しむだとか、(解体過程できれいな水が必要な)ジビエを食べるだとか、いろいろあるとは思うのですが、水を拠点に何かをつくりたいなと思っています。

この水(取材時に「北海道ホテル」で出していただいたコップのお水)は実は水道水なんです。私自身、サウナ―になってから、この十勝の水の美味しさに気づきました。「水がすごく美味しい」と感じられる場所はなかなかないので、水を中心としたリゾートをつくることによって、地元の人にもよさに気づいてもらえたらいいですね。

あと十勝は熊や鹿など動物も多い。この「北海道ホテル」周辺の森にはリスが棲んでいて、朝ごはんの時間はよく走り回っているのを見かけますよ。だから“ハンティングリゾート”もつくってみたいです。ハンティングといっても、森に棲んでいる鹿などの動物を見に行くだけでもいいと思います。それだけでも案外面白いんですよね。動物を見ていると“野生の勘”というか、“生きている感”が研ぎ澄まされていきます。

北海道Likers編集部:サウナと共通するものもありますか?

林社長:そうです! 自然との対話ですね。最近我々人間が失ってきている、食べるため・生きるためという本能的なものを思い出せる場所をつくれたら面白いなと。

 

ーーー365日サウナに入っているという林社長。ワクワクお話しされている様子から、サウナ愛・十勝愛がひしひしと伝わってきました。まだまだ眠っている十勝の魅力をこれから林社長がどのように開花させていくのか、とても楽しみです。

連載「情熱の仕事人」では、北海道のさまざまな分野の“仕事人”を取り上げ、その取り組みや志、熱い想いなどを紹介します。北海道の未来をつくる仕事人たちの情熱の根源とは。連載記事一覧はこちらから。