続々と移住者が!“新しい挑戦を始めたくなる”北海道上川町の取り組みとは
移住を考える人の多くが直面する問題に“仕事をどうするか”ということがあると思います。この問題の解決の一助となりうるのが、地域おこし協力隊制度。
近年、地域活性化や地方創生を目的に、規模も内容も拡充されつつある制度。一度は耳にしたことがあるという方も多いかもしれません。全国の自治体の実情に合わせたバラエティ豊かな運用がされており、仕事内容も非常に多種多様。そのなかでも、とりわけ目を引く募集が各地に存在しています。
北海道上川町の“カミカワーク”もその一つ。一見協力隊募集とは気づかない、ユニークな名前を持つ取り組みについて、上川町役場担当者・戸田さんと現役協力隊員・松井さんに取材し、お話を伺いました。
旭川から車で50分!人がのびのびと活躍する「上川町」
高梨沙羅選手など、多くのスキージャンプ選手を輩出していることでも知られている上川町は、北海道のほぼ真ん中に位置する町。旭川市からは、車でおよそ50分ほどの距離です。
町内の南部を中心に雄大な「大雪山国立公園」が広がり、道内でも有数の温泉地として知られている「層雲峡」では多くの観光客を出迎えています。
一方で、町民の生活は北部に集中しています。近年は、交流&コワーキングスペース『PORTO(ポルト)』や未来型公民館の『大雪かみかわ ヌクモ』などの施設もオープンし、活性化に一役買っています。
また、移住者によるカフェやホットドッグ屋さんなど、新たな飲食店の開店も増えており、賑わいが見られます。
元来、上川町は大雪山系の美味しい水をふんだんに使って作られるラーメンが有名。30年以上前から“ラーメン日本一の会”なるものが結成され、美味しいラーメン屋さんがそろっているのです。一時と比べると店舗数こそ減ってはいるものの、新たな飲食店の台頭もありつつ、活動は継続されており、ラーメンへの熱量は保たれ続けています。
上川町内に店を構えるラーメン店『二代目鉄人たかはし』の高橋さんも、地域おこし協力隊制度を使って事業承縦されています。
雄大な自然、その環境に暮らす移住者の活発な動き、元からの住民たちによる継続的な活動、がうまく作用しているように感じられる上川町。
移住者がのびのびと活躍できている背景に浮かび上がるのは、上川町の地域おこし協力隊“カミカワーク”の存在です。今日は道内在住経験があり、現在宮崎県で地域おこし協力隊をする筆者が、実際にカミカワークのど真ん中に携わるお二人にインタビューをしました。
上川町が考える「カミカワーク」の狙い
北海道LikersライターFujie(以下、Fujie):上川町に今いらっしゃる移住者の方は、 地域おこし協力隊の制度を実際に使って来る方が多いのでしょうか。
戸田さん:そうですね。5年間で約30名の方が地域おこし協力隊で移住されています。
ありがたいことに、上川町に来てくれる地域おこし協力隊の方は、最初から「自分がやりたいことをこの町で展開していきたい」と目的を持って来ている方が多くて。役所としては、受け入れる体制を作っていく意識で取り組んでいます。そのため、「地域おこし協力隊で来てほしい」というよりも、「自分の将来展望のために制度を活用し、夢を叶えていってほしい」という想いの方が強いです。
Fujie:上川町では、地域おこし協力隊の制度を“カミカワーク”という独自の名称のシステムで運用されています。このような打ち出し方は珍しいように感じますが、いつからされているのでしょうか?
戸田さん:地域おこし協力隊制度を導入した当初からです。人口や観光客の減少など地域課題が山積している中で移住者(地域おこし協力隊)が、「自然」「水」「人の温かさ」といった上川町の地域資源を活かした新しい働き方や暮らしで町をプロデュースしてほしいと願い、現在のネーミングにしました。
地域おこし協力隊制度が始まってからの1~2年は、町民の方から「協力隊は何をしているのだろう」と思われていた部分もあったと思います。ですが、現在は卒業生のOB・OGが開業したり、現役の協力隊の方々が学校教育に足を踏み入れて活動したりと、町民との関りが増えているおかげで、協力隊のイメージがだんだんと広まってきていますね。さまざまな活動が行われているので、町民にとっても過ごしやすい町になってきているのは間違いありません。
自然教育とデジタル教育を融合!松井さんの「カミカワーク」での活動
Fujie:松井さんは現役の協力隊員でいらっしゃいますが、上川町を選んだのにはどのような理由がありますか?
松井さん:先ほどあったように、“カミカワーク”と言っているところなんかもすごく好きなのですが、私自身、10年ほど保育教諭として働いて培ってきたものを活かし、自分の理想とする教育を自ら作りたいと思っていたんですよね。そこで実際に理想を実現できる場所として、自身の研究テーマであった自然教育とデジタル教育を融合できる全道各地の自治体を探していました。
そのなかで、「大雪山国立公園」という素晴らしい自然環境と、全国で唯一『チームラボ』プロデュースのプログラミング体験に関するデジタルコンテンツ常設展示を行う施設『大雪かみかわ ヌクモ』がある上川町に出会いました。かつて5年間住んでいて風土を知っていたことも大きな理由ですね。
“カミカワーク”として実際に来てみたら、町長も「自分の本当に好きなようにしていいよ」とおっしゃってくださって。自分の理想の実現をバックアップしてくれる言葉をトップの方から直々にいただいたときには、来てよかったなと思えましたね。
Fujie:まさにこれ以上ない環境に出会えたのですね。“カミカワーク”にある全7部門のプロデューサー職*には、他の地域おこし協力隊ではあまり聞かないような名称が使われていることもあり、多分野融合型な活動内容の印象を受けます。
松井さんは“アカデミックプロデューサー”でいらっしゃいますが、どのようなことをされているのですか?
*7部門のプロデューサー職・・・クリエイティブプロデューサー、フードプロデューサー、アウトドアプロデューサー、クラフトプロデューサー、コミュニティプロデューサー、アカデミックプロデューサー、官民共創プロデューサー
松井さん:町民からもよく言われるのですが、「え、何やってんの?」って絶対に言われる肩書きなんですよね(笑)元々は、アカデミックプロデューサーという職種はなく、私は移住希望者や旅行者の交流をつくるワークショップやイベントを企画する“コミュニティプロデューサー”だったんですよ。
Fujie:そうだったんですね。なにがあったんですか?
松井さん:コミュニティプロデューサーの活動時に、地元の高校である上川高校が存続の危機に陥っていまして。入学者数が3年連続で20人を下回ることが廃校の目安になっていましたが、当時は綱渡り状態で何とか廃校にならずに済んできたという状況でした。そこで、上川町が目指す個人と社会全体のWell-being(幸福・豊かさ)の実現のため、郷土愛を持つ人材を育てることを目的とした事業の一環として、上川高校の魅力化事業が役場で始まりました。
魅力化事業が始まって数年経ったタイミングで、内閣府による副業・兼業を推進する事業への補助金が使えることになり、それを契機に“カミカワーク”には新たに上川町の教育に多様な面で関わることができる“アカデミックプロデューサー”が創設されました。創設のタイミングで打診いただき、今はアカデミックプロデューサーとして活動しています。
Well-being事業には越境人材、グローバル人材、デジタル人材という3つの柱があるんですね。組織の境界を超えて価値を創造する越境人材の育成には、学校外で魅力的な面白い大人や企業から刺激を受けて、将来の選択肢を増やす狙いがあります。グローバル人材を育てるために必要なのは、国際的な視点や英会話などですね。生徒数(全学年で55人)から考えると驚きますが、上川高校にはALT(外国語指導助手)の先生が3人いるんですよ。デジタル人材育成は私が主に担当しており、プログラミング的思考を培いながら、デジタルの物作りなどを通じて、自分の設定した目標や思いを形にすることを重要視してやっています。
ほかにも、体育の授業でブレイクダンスをしたり、ふるさと納税の商品開発やeスポーツに挑戦してみたりと特色ある授業カリキュラムがありますね。
活動を通して、上川町が教育に力を入れていることを知ってもらい、自分もあの面白そうな高校に入ってみたいと思ってくれる方が増えてくれたらうれしいです。
やりたいことがあるけれど、自分にあった場所を見つけられていない人へ
Fujie:松井さんは、協力隊の任期である3年が終了した後も今の延長線上で活動をされていくのですか?
松井さん:上川管内を教育で盛り上げたいという思いがありますので、そうですね。“カミカワーク”の3年間で土台となる形を作らせてもらったので、それを糧に『大雪かみかわ ヌクモ』を拠点にこれ以上ないくらい盛り上げようと思っています!
Fujie:これまでの協力隊OB・OG同様、松井さんも上川町を拠点にさらなるご活躍が期待されるところですが、新たな仲間を募集するべくイベントを開催されるそうですね。
戸田さん:はい。3月10日に札幌市で、グループトークやトークセッションをメインとした、“カミカワーク”プロデューサー現隊員の方と、関心を持ってくださっている方との交流イベントを開催します。
Fujie:上川町としては、どのような方にお越しいただけるとうれしいでしょうか?
戸田さん:松井さんのように地方に対して熱量や夢がある人にとっては、上川町は拠点として大きなメリットのある場所だと思います。やりたいことがあるけれど場所がない人を受け入れる体制を今作っていますので、 経験のあるなしに関わらず、とにかく自分のやりたいことや夢、熱量がある方にはぜひ来ていただきたいですね。
松井さん:自分も熱量で地域おこし協力隊をやっている人間なので、熱量があること、自分の思ったことを形にしたいというのは大事だと思います。
上川町は役場の方がたくさん協力してくださるので、正直、思いつきでも行動してみていいのかなと私自身は思っていまして。自分のやりたいことをやっているとは言っていますが、“カミカワーク”の活動は町民をはじめとした他の人たちにも還元されていると感じることが多いです。役場の戸田さんが「自己実現のために活用してほしい」とお話しされていることも心強いですし、やはり熱量は大事ですね!
筆者も現役の地域おこし協力隊という立場であり、大変参考になる話が多かった今回の取材。自己実現できる町・上川を堂々と宣言できる環境と、これまでに築いてきた信頼関係の強固さを見た気がします。上川町のみならず、多くの地域で一人でも多くの夢が花開きますように。
<インタビュイー>
戸田源(とだ・はじめ)さん。上川町出身。上川町役場地域魅力創造課に所属し、協力隊のサポートを行っている。
松井丈夫(まつい・たけお)さん。2021年7月より地域おこし協力隊着任。転勤族の家庭で育ち、小学5年生から5年間を上川町で過ごす。幼稚園・保育園での現場経験が豊富で、自らが理想とする教育を実現するために再び上川町へ。
<イベント概要>
■KAMIKAWORK café 2023
■日時:2024年3月10日(日)14~16時
■会場:bokashi Base
■住所:北海道札幌市中央区南2条西1丁目7番地1 二番館ビル
■アクセス:地下鉄「大通駅」35番出口より徒歩0分
■費用:参加料無料 ※全体交流会に参加する方は、当日1,000円(軽食・ドリンク付き、現金のみ)をいただきます。
■イベント申込:https://peatix.com/event/3822581
■KAMIKAWORKについて:https://kamikawork.sfsite.me/
■主催:上川町
【画像】上川町
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