酒森町長

大樹町町長・酒森正人。先代らの想いを胸に、生粋の大樹人が挑む「宇宙のまちづくり」

2021年4月、大樹町に『北海道スペースポート(HOSPO)』が開港しました。アジア初の民間に開かれた宇宙港は、大樹町が提供する公共の設備です。

“宇宙”をキーワードにまちづくりを進める大樹町をけん引するのは、今年2021年で任期6年目をむかえる町長、酒森正人さん。大樹町で生まれ育った酒森さんは、20歳のころから大樹町役場につとめ、大樹町の未来にアツい情熱を注いでいらっしゃいます。

今回は酒森さんに、大樹町の宇宙産業の変遷や未来の大樹町にかける想いを伺いました。

酒森正人(さかもり・まさと)1959(昭和34)年生まれ。大樹町で生まれ育ち、大樹高校卒業後、1979(昭和54)年に大樹町役場入職。農林水産課長の職務についたのち、2015(平成27)年に大樹町町長に就任。現在は2期目。

苦労した先代町長たち

北海道Likers編集部:長年役場職員として勤務されてきましたが、町長になるきっかけはなんだったのでしょうか?

大樹町長 酒森さん

今回の取材はオンラインで行いました

酒森さん:先代の町長が4期目に入るタイミングで、当時の私は課長でした。一番下の管理職である私に、「副町長やらないか」と声をかけていただいたのがきっかけなんです。そのときは新米課長でしたから、周りの先輩たちがしっかりと支えてくれましたね。4年間、副町長としてお仕えさせていただいた先代の町長が勇退されるときに町民の方々から「あなたが頑張ってみなさい」「大樹を守れ」というお声をいただき、町長選に立候補しました。

副町長時代に、町長は大変だということはわかっていたはずなのですが、実際は想像以上でしたね(笑) 今現在は町長としては6年、副町長時代を含めると丸10年になります。

大樹町の風景

出典: 大樹町

北海道Likers編集部:大樹町での宇宙産業の取り組みがはじまったのは、今から約35年も前です。そのときから役場に勤めておられますよね。

酒森さん:私が宇宙産業に関わるようになったのは、副町長に就任してからです。最初の頃は本当に苦労されたという話をよく聞きました。東京に出向いて文科省や宇宙を所管する省庁、または宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)の前身となった宇宙科学研究所などへご挨拶したとしても、名刺すら受け取っていただけないような状態が何年も続いたようです。地道な努力を重ねて、「日本にまだこんな可能性のある土地があるのか」と多くの方にご認識いただけるようになったのは、5年ほど経ってからでしょう。

1992(平成4)年に、文部省宇宙科学研究所が「グライディングパラシュートロケット回収システム基礎実験」を大樹町で行ったことが大きな分岐点になりました。

今の大樹町があるのは、4代続く町長がめげずに宇宙への取り組みをするというコンセプトをずっと紡いできたからです。

3者の息が合ったタイミング

北海道Likers編集部:『北海道スペースポート(HOSPO)』の開港や『宇宙サミット』の開催が決定するなど、近年大樹町の宇宙をコンセプトとしたまちづくりに盛り上がりを感じます。取り組みが加速する要因はあったのでしょうか。

北海道スペースポート(HOSPO)

北海道スペースポート(HOSPO)

酒森さん:2016(平成28)年ころ、大樹町が30年以上前から地道に進めていた宇宙航空の取り組みに、国や民間の動きが加わったことで一気に加速していったんです。

国は民間に宇宙を開くため、宇宙活動法という法律の整備へ動き出しました。民間としては、大樹町を拠点とするインターステラテクノロジズ株式会社(以下IST株式会社)が設立後3年ほど経って、ロケットエンジン実験を成功させるなど具体的な動きが見えてきたころでした。

IST株式会社はベンチャー企業ですから、行政としては考えられないくらいの加速度的な勢いでロケット開発を進めています。そこに牛の如く歩みが遅い行政がついていくことはとても大変でしたが、彼らの頑張りがなければ今の状況は到底なかったと思っています。我々もまだまだ汗をかいていかなければならないですね。

町民・産業を含めた射場としての大樹町

北海道Likers編集部:大樹町は、天候やアクセス、海との距離などといった土地柄、ロケットの射場としてのポテンシャルが非常に高いといいます。

酒森さん:はい。ただ、地理的な魅力だけではなく、町民の協力もあって成り立っているんですよ。

JAXA大気球実験

JAXA大気球実験の様子

大樹町はJAXAと連携協力協定を結んでおり、2008(平成20)年からJAXAの正式な実験場として活用いただいています。JAXAの実験では、大気球を高度30~50キロまで打ち上げます。それが大気圏を舞って、最後海に落ちる。海に落ちた研究資材などを回収しているのが大樹町前浜にある大樹漁協の漁師なんです。JAXAをはじめ、IST株式会社など大樹町で実験をする方々が口を揃えて、環境が良いといってくださるのは、大樹町の漁業者が宇宙の取り組みに理解してくださっているからだと考えています。

北海道Likers編集部:射場として魅力たっぷりな大樹町ですが、今後はどのようなビジョンを掲げていらっしゃいますか。

酒森さん:大樹町の取り組みをもっと全国に広げていきたいです。十勝ではある程度理解が深まってきていると感じますが、北海道外になるとまだまだです。現在の取り組みを広く知っていただくために2021(令和3)年8月には『北海道宇宙サミット』を開催します。可能であれば来年以降いろいろな形で開催していきたいと考えていますし、和歌山や大分など大樹町以外にもスペースポートを作ろうとしている町はありますから、そういった自治体とも連携していきたいです。よくライバル関係のように思われますが、全くそういう認識はありません。足りない部分をお互いに補完していくことが、民間の航空宇宙の取り組みにとって大きな力になっていくと考えています。

北海道Likers編集部:新型コロナウイルスの状況次第ではありますが、さらに認知が拡大すれば、観光も盛り上がるのではないでしょうか。

酒森さん:そうですね。ぜひお越しいただきたいです。ロケット発射だけでなく、大樹町の風景も食の魅力も味わっていただきたいです。大樹町には、日高山脈も海も、カヌーイスト憧れの川もあり、普段当たり前に目にしている私たちですら、きれいだなと感じる自然ばかりなんですよ。

北海道Likers編集部:酒森さんにとって、大樹町とはどんな存在でしょうか。

役場からの景色

大樹町役場からは日高山脈が一望できます

酒森さん:大樹町は私が生まれ育った町でもあり、こよなく愛している地域です。そして町長として守るべき、未来にこの町を繋いでいく責任もある地域。長年取り組んできた航空宇宙の取り組みを含めてこれから可能性は広がっています。この取り組みを成就させた先に大樹町の未来はあるでしょうし、それは大樹町に限らず、北海道全体にとっても大きなエネルギーになるはずです。大樹町が北海道の未来に繋いでいけるような存在になる。大樹町には、十勝にはそういう力があると思っています。

 

———生まれ育った町、大樹町の力を信じ、未来に向けて突き進む酒森町長。35年以上の想いを紡いで生み出されるそのエネルギーはこれからの航空宇宙を、北海道をさらなる進化へと導いてくれるようです。