とかち財団理事長・長澤秀行。若者の力を信じ、十勝から見据える「共創社会」
あなたは「十勝のイメージは?」と聞かれたら、なんと答えますか?
広い大地、どこまでも広がる青い空、美味しい食べ物……。いろいろ考えられそうですよね。
そんな十勝のイメージに、近い将来“共創のまち”が加わるかもしれません。今回は帯広畜産大学の学長などを歴任した長澤秀行さんに、十勝や北海道のこれからについてお話を伺いました。
長澤秀行(ながさわ・ひでゆき)。1954年、旭川市生まれ。馬の獣医師を目指して帯広畜産大学に入学。1980年に徳島大学へ進学し寄生虫免疫学の研究に従事。1995年、研究の場を母校帯広畜産大学に移し、原虫病研究センター長、副学長を経て2008年に学長就任。2015年12月に任期満了を迎えるまで務める。2016年6月、とかち財団理事長就任。帯広畜産大学名誉教授、JICA北海道(帯広)地域連携アドバイザー、とかち熱中小学校校長、帯広ラグビースクール校長。
「とかち財団」とは?
北海道LikersライターFujie:現在「公益財団法人とかち財団(以下、とかち財団)」の理事長を務めていらっしゃいますが、「とかち財団」はどういった組織なのですか?
長澤さん:もともと、1993年に「財団法人十勝圏振興機構」という名称で設置されたものが「とかち財団」のはじまりです。農業を核とした地域産業支援をする組織として設置されました。その後「北海道立十勝圏地域食品加工技術センター」を管理運営するなど、少しずつ形を変えて活動してきました。「公益財団法人とかち財団」になったのは2013年になりますね。形は変わっても、一貫して十勝地域のモノづくり支援や地域経済の活性化に励んでいます。
北海道LikersライターFujie:具体的にはどのような取り組みをなさっているのでしょうか?
長澤さん:もちろんいろんな目標があり、それに応じてさまざまな取り組みをしています。たとえば、ご存じの通り十勝地域は農業生産に関していえば、北海道のなかでも有数の地域ですよね。ですから農業・畜産・酪農といったジャンルの生産性は非常に高いのですが、付加価値が十分につけられておらず、非常にもったいない状態になっています。
食品安全性と付加価値を両立して、全国で勝負できる状態になるようサポートをする。そんな使命が「とかち財団」にはあると考えています。
それと同時に、機械・電子産業部門というのがあり、そこでは農業機械の作業効率化や環境への配慮に取り組んでいます。ソーラーパネル装着で環境への負荷軽減を図ったり、無人の自動走行で労働の省力化を図ったりとこれからの時代に即した農業を目指しているんです。
北海道LikersライターFujie:「十勝=農業」という図式は想定していましたが、そんなところまで支援なさっているのですね。時代の変化に応じて、役割に変化はありましたか?
長澤さん:これまでは事業者の「あれを加工したい、これの安全性を証明したい」といった相談にのるのが主でした。ただ、それだけでは持続性がなく地域の未来につながりません。自分たちで考え動ける人材を育てていく必要があります。最近では、ただ困ったら「とかち財団」に来て相談にのってもらうだけでなく、自分たちで新しいことにどんどんチャレンジしてもらって、「とかち財団」は、そのサポートをさせてもらう形に変化してきたように思います。
「生涯の目標は人材育成」
北海道LikersライターFujie:「とかち財団」は“縁の下の力持ち”となって、支えるという点に力を入れていらっしゃるのですね。長澤さんは、人材育成には並々ならぬ思いをお持ちのようですが……?
長澤さん:そうですね、どの取り組みにしても基本となるのは人材育成だと思っています。私自身、大学在籍期間が長かったこともあり、生涯の目標として人材育成を続けていこうという想いがあるので、人材育成は地域づくりの核となると信じて、「とかち財団」にいますね。
北海道LikersライターFujie:生涯の目標とはすごいですね! 若者をはじめとした人材の育成に力を入れるべきだ、という考えに至ったきっかけはあったのですか?
長澤さん:そうですね……実は父が中学校の先生で、よく家に卒業生が集まっていました。私はまだ小学生くらいでしたが、そのとき、父が卒業生のことを“さん付け”で呼んでいたんです。それを「先生は偉いのに、なんで“さん付け”しているのかな」と疑問に思ったんですね。それで父に聞くと「みんな人格を持っているんだから、呼び捨てにしてはいけないんだよ。ちゃんと“さん付け”するんだよ」と言われて。それ以来「若い人もみな、人格を持っていて尊重されるべきだ」という意識を持っています。
それともうひとつ。私が大学生のとき、教授に意見を言っても「お前はまだ経験が浅い」「若いから、言うことを聞け」と言われたことがありました。なんで年齢が上、教授であるというだけで言うことを聞かなければいけないのかと疑問に思っていたんですよ。
そんなことから、自分が教員という立場になったときに、学生の意見をまずは聞かないといけないと感じたんです。聞いたうえで「それは違うよ」と指摘するのはもちろん必要です。でも、話を聞いていると、キラリと光るものがたくさんあるのを実感するので、やはり大切にしないといけませんね。これからの世の中を担う人たちの意見を聞くというのは、当然のことです。
北海道LikersライターFujie:子ども時代や学生時代にそのような原点をお持ちだったのですね。人材育成と言いますと、「とかち財団」は「LAND(ランド)」という施設を設置されていますよね?
長澤さん:はい、3年前にアルプス技研創業者最高顧問の松井利夫さんが理事長をされていた、神奈川の起業家支援財団と合併したのを機に、事業創発支援事業を「とかち財団」は進めてきました。その一環として2年前に、帯広駅前すぐのところに「LAND」という場所をオープンしたんです。起業創業支援の拠点のような位置づけで、これから何かやりたい人に来てもらい、ビジネスの話や起業創業するときのノウハウなど、情報交換のできる場として提供しています。
北海道LikersライターFujie:オープン後の手ごたえはどうでしたか?
長澤さん:当初から本当にたくさんの人が集まって、十勝・帯広はもちろん、全国から人が来てくれました。ビジネスの種を見つけようという人たちや、実際に十勝で事業をやっている人が相談窓口に顔を見せてくれました。
最近ですと、地元の高校生がグループで集まってきています。地元の特色ある企業を視察に回り、理解を深めるとともに、何かアイデアを提供するといったイベントが開催されたこともありました。
高校生、大学生、それから社会人も起業創業、事業創発に利用しています。なんだかすごく十勝の未来は明るいなあと思いますね。
これからの北海道~共創社会に向けて~
北海道LikersライターFujie:十勝から北海道をどのように見ていらっしゃいますか? 長澤さんが見据える北海道の将来を教えてください。
長澤さん:そんな大きなことは言えないですが(笑) 私は生まれは旭川ですが、徳島に15年いたことがあって、北海道に戻ってきたとき「やっぱり北海道っていいなあ」と感じました。やはり自然環境が格別なんですよね。空がすごく広かったり、大地がどこまでも続いていたりしますから。
そして、十勝は十勝の、道北なら道北の、道南なら道南の、というふうに各地域に魅力がたくさんありますよね。その地域の特色というのは、仕事にも生活にも生かすべきだと思っています。十勝だけ栄えればいいのではなくて、それぞれの地域のいいところを理解したうえで、それぞれの地域が活性化すればいいというのが基本です。そのうえで、ぜひ連携、“共創”をしていった方が北海道がますます強くなるんじゃないのかなと思っています。
北海道LikersライターFujie:共に創るの“共創”ですか?
長澤さん:はい、最近は共に創る“共創”という言葉がよくいろんなところで使われていると思います。何かを単独でやろうと思うよりも、2~3人あるいは一組織から他の組織との連携というところからはじめていく。それを広げ、連携し、共創していくという必要性がすごく高まっています。
その具体例というほどでもないですが、十勝は産学官連携がすごく強い地域だと思っています。産学官連携自体は全国各地でやられていると思いますが、十勝の場合はそれぞれの規模が小さい分、すごく効率的にがっちりと連携が進んでいると感じています。
こうした流れを十勝に閉じることなく、北海道、日本全国へというふうに流れを大きくすることができれば、東京一極集中がだんだん分散して北海道でも仕事ができるし、北海道だけでなく、日本全体が元気になっていくのではないかと思っています。
――――インタビュー中、しきりに大学の役割や若者の育成を中心とした地域づくりが必要との想いを、熱っぽく語られていたのがとても印象的でした。現役大学生の筆者には、なんだか勇気づけられる時間となりました。
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