公正な検査で騎手を支える。元自衛官の検量委員が語る「守ること」への強い思い

2022.10.31

北海道遺産のひとつである“ばん馬”たちのレース、ばんえい競馬。“馬の速さ”を競うサラブレッドの競馬は世界各地で行われていますが、“馬の力強さ”を競うばんえい競馬は、なんと日本の帯広市だけでしか観ることができない、世界でオンリーワンの珍しいレースです。

今回お話を伺ったのは、ばんえい競馬検量委員の永田光男さんと菊池孝典さん。検量委員は公正なレース開催に欠かせない仕事です。お二人に具体的な仕事の内容や、ばんえい競馬にかかわる仕事のやりがいを語っていただきました。

永田光男(ながた・みつお)。1963年生、鹿児島県出身。菊池孝典(きくち・たかのり)。1963年生、幕別町出身。ともに元自衛官。2017年より現職。走路監視委員(検量)として公正なばんえい競馬の開催・運営を担う。

ばんえい競馬ではたらく人

公正なレース開催のために

北海道LikersライターKawahara:検量委員の方々はどんなお仕事をされているのでしょうか?

プロフィール写真

今回の取材はオンラインで行いました。永田さん(左)、菊池さん(右) 出典: ばんえい十勝

永田さん:ばんえい競馬の騎手は、レースで騎乗する際、自身の体重を含め77キログラムの重量を負担することが定められています(騎手重量にハンデはなく、77キログラムで統一。ソリ重量とは別)。検量委員の仕事は、すべてのレースの発走前後に騎手が負担重量を守っているか体重を測定することです。2開催ずつで検量委員と走路監視を交代しながら行っています。検量は公正なレース開催を確認するための重要な役割です。

*ばんえい競馬の開催日は基本的に毎週土、日、月曜日の3日間。各日約12レースが実施される。開催6日間(2週間分)を1セットとして「1開催」と呼ぶ。

北海道LikersライターKawahara:騎手自身の体重はさまざまだと思いますが、どのようにぴったり77キログラムに合わせているのですか。

弁当箱が置かれている棚

弁当箱が管理されている棚 出典: ばんえい十勝

弁当箱

騎手ごとに大きさが異なる 出典: ばんえい十勝

菊池さん:騎手は不足している重量分のおもりを持つことになります。鉄製で100グラムからあり微調整が可能です。おもりは騎手ごとに管理している重量箱に入れソリに置きます。スチールでできた箱で通称「弁当箱」と呼ばれています。

国防からばんえい競馬を守る世界へ

北海道LikersライターKawahara:お二人はどのようないきさつで、ばんえい競馬の検量委員になることになったのですか。

永田さん:定年までは自衛隊で働いていました。検量委員の仕事と出会ったのは、セカンドキャリアとして自衛隊職員に紹介してもらったのがきっかけです。帯広競馬場へ見学に行き「これは面白そうな世界だ」と感じて就職しました。

菊池さん:私も自衛隊を定年退職後、故郷である十勝へ帰り就職先を探していたところ、ばんえい競馬の求人募集を知り、この仕事に就くことになりました。

北海道LikersライターKawahara:検量委員の仕事が大変だと感じるのはどんなときですか?

検量の様子

検量の様子 出典: ばんえい十勝

菊池さん:レース終了後、限られた時間内ですべての騎手の重量を検査するときです。騎手たちはレースが終わった後、すぐに検量室へ入ってきます。不正なく行われたことを確認してはじめて競馬の勝敗が決まりレース結果が確定するため、すばやく確実に検量しなければなりません。短い時間の中で正確さを求められる業務だからこそ毎回緊張します。

永田さん:やはりレース終了後の検量です。私の測った検量結果がレース確定に反映されます。万が一ミスがあれば馬券の発売に影響が出るうえ、騎手にも迷惑がかかってしまいます。その責任をしっかりと意識し、業務に取り組んでいます。

ばんえい競馬の最前線ではたらく

北海道LikersライターKawahara:ばんえい競馬の仕事をしてよかったと思うことはありますか? また、ばんえい競馬の仕事に興味のある方へメッセージをお願いします。

菊池さん:帯広だけで行われている競馬になりますので、誰でも経験できる仕事ではありません。この貴重な仕事に携わっていることがやりがいにつながっています。ばんえい競馬の最前線で働くことができる貴重な仕事です。他にはない経験をしたい思っている人や、競馬が好きな人にはぜひ来ていただきたいと思っています。

永田さん:騎手と近くで接する仕事です。ばんえい競馬に興味のある方にとっては楽しい仕事なのではと思います。

北海道LikersライターKawahara:最後に、競馬ファンの方や興味のある方へ一言お願いします。

菊池さん:オンラインでも多くの競馬ファンの方に馬券を買っていただきありがたく思っています。ぜひ帯広競馬場にも足を運んでいただいて、ばん馬たちの迫力のあるレースを体感しながら楽しんでいただけたら嬉しいです。

永田さん:ばんえい競馬はサラブレッドの競馬と違い、ばん馬たちを間近で見ることができます。全長200メートルあるコースを、ばん馬たちがソリを曳き進むスピードに合わせて歩きながら観戦することもできる。これはばんえい競馬ならではの楽しみ方だと思います。ぜひ帯広競馬場へお越しくださいね。

ーーー長年勤務された自衛隊から、ばんえい競馬の世界へ。ばんえい競馬を支えるお二人の、公正な競馬運営で騎手たちを“守る”という強い意識と、セカンドキャリアとしてやりがいを持って活き活きとされているお姿がとても印象的でした。

ばんえい競馬の運営は実に幅広い年齢の方々が支えています。どの年代になってもやりがいを持てる仕事にたずさわることは、社会人にとって最高の憧れだとお二人を見て強く感じました。

連載「ばんえい競馬ではたらく人」では、ばんえい競馬を支える仕事に就くさまざまな人の魅力に迫ります。連載記事一覧はこちらから。

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