「馬の能力を育むレースづくりを」大江番組編成委員が語るばんえい競馬の面白さ
競馬は「公営競技(こうえいきょうぎ)」と呼ばれており、国や地方自治体が主催しています。賭博行為が禁止されている日本において、競馬開催での収益金を財政に納付するための健全な事業として法律で認められているものです。たとえば、北海道・帯広で開催されているばんえい競馬は帯広市が主催しています。そして、競馬を開催運営するスタッフのみなさんには、常に厳しい法律に従い公正に業務を行うことが求められます。
今回インタビューを行ったのは、ばんえい競馬番組編成委員の大江史晃さん。番組編成委員のお仕事や、ばんえい競馬で働くやりがいを語っていただきました。
大江史晃(おおえ・ふみあき)。1987生まれ。宮城県出身。帯広畜産大学畜産学部から当時の民間運営会社を経て、現在は北海道有線放送株式会社に勤務。番組編成委員として、公正なばんえい競馬の開催運営に携わっている。
みんなのアイドルリッキーくんから番組編成委員へ
北海道ライカーズライターKawahara:ばんえい競馬のお仕事に就いたいきさつを教えてください。
大江さん:学生時代に帯広競馬場のマスコットキャラクター『リッキーくん』の着ぐるみに入るアルバイトをしたことがきっかけです。帯広でしかできないし、競馬が好きだったので「レースを見ながら仕事ができるのは最高だ!」と思っていました。ゆるキャラが集まるイベントで徒競走をしたり、ばんえい競馬のPRで札幌のテレビ局に行って番組出演したこともあります(笑)
この経験のおかげで場内で働く人たちと知り合いになり、お手伝いをしているうちに、当時の運営会社に声を掛けていただき就職しました。
北海道ライカーズライターKawahara:番組編成について教えてください。競馬の番組とはどういうものですか?
大江さん:「番組」と聞くとテレビ番組を想像する方が多いと思いますが、番組とは本来的な意味で言うと“勝負事の組み合わせ”や“演目の組み合わせ”です。
競馬の番組編成とは、レースの構成や出走するための条件をつくり、各レースの出走馬の選定を行うなど、レースを開催するための大きな枠組みをつくる仕事のことを指します。テレビ番組に例えると、競馬のレースを統括するプロデューサー的な役割。レースひとつひとつを馬券を発売するための商品としてとらえれば、商品開発というイメージです。
北海道ライカーズライターKawahara:普段はどんなお仕事をされているのでしょうか。
大江さん:開催中はレース結果や付随するデータを関係各所へ配信し、レース結果をもとに次の競馬開催のレースを組み立てていきます。
番組編成委員として一番忙しいのは1開催*の最後、予定していたすべてのレース結果が整った後の“次の開催の編成をする”ときです。次に行う開催、72レース分のレース内容や出走馬の条件や出走馬の選定などを行い翌朝9時に発表するのです。
ナイター競馬開催中はレース終了後の21時頃から本格的に編成を開始するので、終わりは深夜1時を過ぎてしまいます。翌朝は発表準備のため8時に出勤しますので一番体力勝負のときでもあります。
*ばんえい競馬の開催日は基本的に毎週土、日、月曜日の3日間。各日約12レースが実施される。開催6日間(2週間分)を1セットとして「1開催」と呼ぶ。
サラブレッドとは大きく異なる、ばん馬のピーク年齢とは
北海道ライカーズライターKawahara:レースに出走する馬の条件や格付けはどうやって決まっていくのですか。
大江さん:基本的にはサラブレッドの競馬と同じで、レースに出走し、その収得賞金額によってクラス分けされます。レースは同じクラスや近いクラスの馬たちで競います。
それ以外に、出走馬の選抜方法を変えて編成するレースなど、バリエーションを加える工夫もしています。ばんえい競馬ファンのみなさんの人気投票で出走馬が決まる『ばんえいグランプリ』や軽量のそりを曳きスピード自慢を競う『スピードスター賞』などです。
2010年度から行っている『スピードスター賞』は、本来「重いソリをいかに早く運ぶか」を勝負するばんえい競馬競走において、「軽いソリを脚の速い馬が曳くと、どういうレースをするのか」という逆転の発想から生まれました。
普段700~800キロのそりを曳く馬たちが軽量の500キロのソリを曳いてコースを走るように駈け抜けていきます。おかげさまで重賞に次ぐ準重賞として定着しています。
編み出したレースの中でも正解不正解はあります。ばんえい競馬は1レースを最大10頭で競うため、1着を獲った1頭に対して勝てなかった馬は最大で9頭。勝負事なのでどうしてもすべての馬に平等にレースを編成するのは難しく、どう折り合いを付けていくかが課題であり、醍醐味でもあります。
北海道ライカーズライターKawahara:ばん馬が能力を最大に発揮できる年齢は何歳ごろですか?
大江さん:競走成績のピークが、サラブレッドとは大きく違います。サラブレッドは『日本ダービー』に出走する3歳、もしくは4歳くらいがピークだと思いますが、ばん馬は5歳でもまだひよっこという感じで、ピークは7~10歳くらいです。7歳でばんえい競馬の最高峰『ばんえい記念』に出走しても早い方です。時間をかけてじっくりと育てていくという感じですね。
ばん馬は現役時代が長いので、“推し馬”ができて長い間追いかけているファンの方もいらっしゃるようです。そういう見方もばんえい競馬の楽しみ方ではないかと思います。
レース体系を通して強いばん馬を育てていきたい
北海道ライカーズライターKawahara:ばんえい競馬の頂点を決めるレース『ばんえい記念』については、どのような気持ちで取り組まれていますか。
大江さん:ばんえい競馬で馬を預かる調教師や厩務員、騎手が最終的な目標としているのが『ばんえい記念』だと思います。そして、私たち事務方も同じように「2歳のデビューから古馬になるまでの競走体系を通じて、ばんえい競馬の競走で最重量である1トンの重いソリに耐えうる馬を育てていきたい」と考えていますので、やはり『ばんえい記念』は集大成です。デビューから何年もかけてレースに出走し続けた馬が力をつけ『ばんえい記念』の出走にたどりつくのは感慨深いものがあります。
北海道ライカーズライターKawahara:番組編成のやりがいはどんなところでしょうか?
大江さん:やはり競馬の根幹に携われることですね。レースが無いと競馬は成り立たないですし、レースをつくった以上責任を持たなければならない。難しいことが本当に多いですが、自分たちがつくったものが形となりお客さまに喜んでいただけることは達成感につながっています。
北海道ライカーズライターKawahara:最後に、ばんえい競馬のお仕事に興味のある方にメッセージをお願いします。
大江さん:まず今は、ばんえい競馬を楽しんでほしいし、好きでいてほしいです。自分が楽しんでこそ相手に「ばんえい競馬はこんなに楽しいんだよ」ということが伝えられるのではと私は思っています。そしてそれが仕事に就いたときのやりがいや達成感につながる。そういう人たちとともに、ばんえい競馬を一層盛り上げて行ければ幸いです。
ーーー宮城県出身の大江さんは、高校時代の進路指導で大好きな動物に囲まれて学ぶことができる帯広畜産大学の環境の良さを知り入学、それからずっと帯広で暮らしています。「帯広で生活する年数が人生で一番長くなり、これで晴れて道民となりました」と笑顔で話す姿が印象的でした。
番組編成を通して、ばんえい競馬の繁栄に寄与し十勝の文化を育む。まさに大地に根を下ろした大江さんの熱い思いを感じるインタビューでした。
連載「ばんえい競馬ではたらく人」では、ばんえい競馬を支える仕事に就くさまざまな人の魅力に迫ります。連載記事一覧はこちらから。
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