「競馬場で観戦しているような臨場感を」中嶋カメラマンがレース映像に込める想い
北海道遺産のひとつである“ばん馬”たちのレース、ばんえい競馬。
“馬の速さ”を競うサラブレッドの競馬は世界各地で行われていますが、“馬の力強さ”を競うばんえい競馬は、なんと日本の帯広市だけでしか観ることができない、世界でオンリーワンの珍しいレースです。ばん馬たちの多くは、明治の開拓時代に労働力として活躍した農耕馬たちの子孫にあたります。サラブレッドのおよそ2倍の大きさがあるとても丈夫な馬達です。
今回お話を伺ったのは、ばんえい競馬レース映像カメラマンの中嶋寛孝さん。中嶋さんにレース映像を撮影する仕事のやりがいや、ばんえい競馬への想いを語っていただきました。
中嶋寛孝(なかしま・のりゆき)。1978年生、幕別町出身。2018年よりばんえい競馬のレース映像カメラマンとなる。ばんえい競馬の迫力あるレースを最前線で発信する一人である。
偶然だったばんえい競馬との出会い
北海道LikersライターKawahara:ばんえい競馬のレース映像カメラマンになられたいきさつを教えてください。
中嶋さん:2018年の2月頃に何度かアシスタントをしていて今でもお世話になっている映像カメラマンから「ばんえい競馬のカメラマンを探しているようだがやってみないか」という話をいただいたことがきっかけでした。ちょうど平昌オリンピックのときで、女子パシュート決勝のパブリックビューイングの映像放映の手伝いを出場選手の高木姉妹の故郷である幕別町で行った日だったことを覚えています。ばんえい競馬のレース撮影は誰もができるわけではないとても貴重な機会で、これはおもしろそうだと思い引き受けることになりました。
北海道LikersライターKawahara:レース映像カメラマンのお仕事はどんなことをするのですか?
中嶋さん:はじめのうちは、ばん馬たちのレースを正面から撮影する担当で、二つ目の障害を最初に越えて下ってくる馬の姿を撮っていました。現在は、レース映像全般とばんえい競馬実況中継『ばんスタ』のスタジオカメラマンを兼務しています。
映像は観てくれる人がいてはじめて成り立つもの
北海道LikersライターKawahara:ばんえい競馬の映像を撮影していて印象に残っているのはどんなことですか?
中嶋さん:どれも忘れられないですが、一番印象に残っているのは2020年に無観客競馬で開催された『ばんえい記念』です。
ホクショウマサルが連勝記録を伸ばせるか、はたまたその記録を止める馬が登場するかというレースでした。そして本来であれば、ばんえい競馬を代表するレースの開催日。ばんえい競馬で、もっとも華やかな一日です。大きな歓声が飛び交っていただろう『帯広競馬場』で、お客様が誰もいない中、開催されたレースという意味でも印象に残っています。
私はいつも通り、とにかく可能な限りレース映像を見ているお客様が実際に競馬場で観戦しているように、テレビの前で大声を出して観戦していただけるような映像をお届けできるよう心がけました。
北海道LikersライターKawahara:撮影をしていて大変だと思うことはありますか?
中嶋さん:全長200メートルのコースの戦いは、雨天や大雪など天候の変化やごく稀に発生するアクシデントなどで状況が全く変わってきます。その中でいかに公正にレース映像を撮影するかという点を常に考えています。撮影したレースは必ず再度確認し、次の開催に備えるようにしています。以前馬がコースから出てしまうアクシデントが発生したことがあり、驚きのあまり映像を引き過ぎて撮影してしまった苦い経験がありました。そのときの反省から現在は、冷静に全体の状況を確認しながら撮影をしています。私の使命は、起こったことに私情を交えず、公正な目でしっかりと記録することだと思っています。
北海道LikersライターKawahara:撮影を担当して感じるばんえい競馬の魅力を教えてください。
中嶋さん:ばんえい競馬はサラブレッドの競馬とは全く違うばん馬の“力強さ”を競うレースです。勝つための騎手同士の駆け引きや、馬が大きな障害を越えるために一度息を整えて立ち止まったりする姿などは特徴的だと思います。また、ばんえい競馬の勝敗を決めるのは「ばん馬たちが曳くソリの後端が最初にゴールを通過するところ」になりますので、ゴール直前でばん馬たちが接戦になったときがばんえい競馬の一番の醍醐味だと思います。ゴールを通過中に立ち止まってしまい、後から来た馬が先に通過することもよくあります。最後まで観ていてエキサイトできるような映像撮影を心がけています。
北海道LikersライターKawahara:ばんえい競馬のレース映像を見ている方へメッセージをお願いします。
中嶋さん:映像は観て下さる方がいてはじめて生きてくるものだと思っています。「いいレースだった」とか「印象に残るレースだった」と思っていただけることが私の喜びです。
レースの最大のポイントの第2障害はもちろんのこと、その他にもどのシーンを切り取ればより臨場感が伝わるかと常に考え研究しています。
夢に向かって一歩踏み出す勇気を
北海道LikersライターKawahara:最後に、ばんえい競馬に関わる仕事を目指している方へメッセージをお願いします。
中嶋さん:一番お伝えしたいのは「やりたい事に向かって一歩踏み出す勇気を持つ」ことです。
馬に携わる仕事は想像以上に厳しいと思います。その中で厩務員さんの担当している馬が勝ったときの喜びというのは、撮影をしているとよく見かける光景です。また、担当馬が1着を獲ることができなくても「よく頑張ったね」と馬をねぎらう姿を見かけるたびに、人馬の信頼関係の厚さが伝わってきます。本当にやりがいのある仕事なのだと思います。
私も思い切ってばんえい競馬の世界に一歩踏み出したことで、たくさんの素晴らしい人との出会いや貴重な経験をさせてもらっています。大変なこともありますが、とても活気にあふれているので、ぜひ思い切って飛び込んできてほしいと思います。
―――中嶋カメラマンのお話を聞いて、映像を通して十勝の馬文化である「ばんえい競馬を記録する」、北海道遺産の伝承者の役割を担っていることに誇りを持ち、日々努力を重ねている姿がとても印象的でした。
ばんえい競馬では20歳以上の方を対象に勝馬投票券(馬券)をインターネットで発売しています。これは競馬場へ足を運ばなくても、パソコンやスマートフォンなどで馬券が購入できるシステムです。
また、ばんえい競馬実況中継『ばんスタ』は楽天競馬の『地方競馬 ライブ動画』やばんえい十勝の公式YouTubeチャンネルで視聴可能です。重賞開催時には『ばんスタ延長戦』もYouTubeチャンネルで楽しめます。ぜひ今後も中嶋カメラマンの撮影する迫力あるレース映像でばんえい競馬をお楽しみください!
連載「ばんえい競馬ではたらく人」では、ばんえい競馬を支える仕事に就くさまざまな人の魅力に迫ります。連載記事一覧はこちらから。
【画像】ばんえい十勝
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