想像以上に難しい。「競馬のゲートを開く」橋本発走委員が語る仕事のやりがいとは

2022.06.23

北海道遺産のひとつである“ばん馬”たちが、その力強さを競うばんえい競馬。

サラブレッドの競馬は世界各地で行われていますが、ばんえい競馬はなんと日本の帯広市だけでしか観ることができないとても貴重なレースです。

砂塵を立てながら曳き進む強靭な馬体、馬たちの圧倒的な存在感、そして共に生活をする人間たちとの信頼関係の深さ。それらは明治の開拓時代の面影を残す北海道遺産として今もその文化が継承されています。

今回お話を伺ったのはばんえい競馬発走委員*の橋本学さん。橋本さんに発走委員としてのお仕事のやりがい、そしてばんえい競馬への思いを語っていただきました。

橋本学(はしもと・まなぶ)。1964年生、千歳市出身。サラリーマンや牧場勤務を経て2014年より帯広市特殊業務員となる。発走委員として公正なばんえい競馬の開催運営に携わっている。

* 発走委員とはスタート地点の責任者。レースに出走するどの馬も公平にスタートができるように監視しゲートを開く業務で、公正確保上とても重要なポジションである。

ばんえい競馬ではたらく人

すべての出走馬が公平公正にスタートを切れるように

橋本発走委員

今回の取材はオンラインで行いました。 出典: 北海道Likers

北海道LikersライターKawahara:発走委員とはどんなお仕事をされているのですか。

橋本さん:レースの開催日当日は、レースが始まる前に馬が使用するソリや装着する用具の点検、またスタート地点で馬が入るゲートの開閉やランプなどの点検を行います。その後、他の発走委員と打ち合わせを行い、その日の出走に関する情報を共有しています。

レースが始まると、出走に必要な事項の最終確認を行った上で決勝審判委員からの「発走オーライ」の連絡を受け、スターターの台上に上り、出走馬たちのゲート入れを完了させ、ゲートの発走合図(開扉)を行います。

レリーズと旗

レリーズと旗 出典: ばんえい十勝

発馬機の開扉を行う道具を“レリーズ”といいます。こちらを握ると出走馬たちが入ったゲートが自動で開くシステムになっており、その瞬間にレースが開始します。ゲートを開くとスタート地点での業務は終了です。

毎レース後執務室へ戻り、映像でゲート開閉時の馬や騎手の動きを確認し、必要に応じてその馬の管理調教師や騎手へ報告や指示を行っています。レース中はこの流れを繰り返します。

北海道LikersライターKawahara:競馬のレースを行う上でかなり重要な仕事と思われますが、どういう方が担当されているのですか。

橋本さん:ばんえい競馬だけでなく「地方競馬」とよばれる競馬の発走委員を担当するのは、私のような競馬を主催する側の職員と地方競馬全国協会*(以下NAR)から派遣された職員の方々です。

発走委員研修時の様子

研修の様子 出典: ばんえい十勝

発走委員の仕事内容は、レースの開催が無い日に馬がレース本番のコースを使って練習(走路開放)をする際などに、少しずつ経験していきました。その後、栃木県にあるNARの研修施設で発走委員研修を受け、実際のレースのゲート開扉を行えるようになります。この施設では、将来騎手になるために訓練している生徒たちもおり、早朝から彼らと一緒に馬の世話をし、乗馬の経験も積むことができました。

*地方競馬全国協会(NAR)とは、地方競馬を主催する地方自治体が主体となって運営する地方共同法人。馬主・競走馬の登録、調教師・騎手の免許、開催執務委員の派遣及び研修、競馬の公正化促進と運営改善、企画・広報及び競馬振興策等の推進、調教師・騎手等の養成及び訓練と競馬専門職員の養成などを行っている。

人・馬ともに安全第一でレースができるように

北海道LikersライターKawahara:発走委員という仕事をしてよかったことや、経験してはじめてわかった大変なことは何だったでしょうか?

橋本さん:レースに出走する競走馬たちは、どのレースでも多くのファンの方々や、競馬関係者の大きな期待を背負ってゲートに立っています。そのスタートとなる注目の瞬間を自らの手で開始できるのはとても光栄ですし、レースと一体となれる喜びを感じられます。

大変と感じたのは、ひとつひとつの作業を実際に行ってみると、見た目以上に難しいという点でした。

スタート時、ゲートを開くときは絶対に失敗は許されません。重いレリーズを親指1本で支え持ったまま、前に立つ厩務員が退避するまでの安全を確保して、ゲート内の馬や騎手などのこまかい動きを瞬時に判断しながら落ち着いた瞬間にゲートを開く、毎度緊張を伴う職人技です。また一見簡単そうに見える旗振りも、実は風の影響を受けやすく、意外にも難しい作業です。

北海道LikersライターKawahara:発走委員の仕事をするために心がけているのはどんなことでしょうか。

橋本さん:一番は“安全第一”です。出走馬たちはレースが始まる前の元気いっぱいな状態でスタートまで待機しています。突発的な事故が発生しやすい場所でもありますから、常に細心の注意を払っています。

またゲートを開く際に使用するレリーズを握る際は、人の命を預かる瞬間でもあります。焦らず、慎重に、安全第一で公正なスタートができるように心がけています。

北海道LikersライターKawahara:これから発走委員としてばんえい競馬の職員になりたいと思っている人へメッセージをお願いします。

橋本さん:ばんえい競馬は世界に一つだけの重いソリを曳く競馬です。発走委員を含めて帯広競馬場で働くということは、世界で唯一の仕事ができるということでもあり、地域社会に貢献しているというやりがいを感じていただけると思います。

最初はやさしい仕事から始めて、徐々に仕事を覚えていけるようになっています。ぜひお力をお貸しください。

―――インタビュー中は終始なごやかでたくさんの笑いもあり、橋本さんのお人柄の良さがとても伝わってきました。また、ばんえい競馬で働く事に誇りを持たれ、質問に真摯にお答えくださった姿が印象的でした。

『北海道Likers』では今後も、ばんえい競馬にかかわる仕事に携わる方々をご紹介していきます。次回の記事もお楽しみに。

連載「ばんえい競馬ではたらく人」では、ばんえい競馬を支える仕事に就くさまざまな人の魅力に迫ります。連載記事一覧はこちらから。

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