小林友貴装蹄師

家電販売員から転身「一生かけて学ぶことがある」小林装蹄師が語る、馬の脚を守る仕事の奥深さ

2022.06.30

ネックレスやピアスなどのアクセサリーに、U字型のモチーフがついているのを目にしたことはありませんか。これは「ホースシュー」や「馬蹄」と呼ばれ、ラッキーアイテムとして親しまれているものです。

「ホースシュー」は和訳すると“馬の靴”。日本では「蹄鉄(ていてつ)」と呼ばれています。人間が歩くために靴を履くように、乗馬や競馬で活躍する馬たちの多くは脚の蹄(ひづめ)を保護するために、鉄などでできた蹄鉄をつけています。世界で唯一帯広だけで開催されているばんえい競馬で活躍するばん馬たちも例外ではありません。

今回お話を伺ったのは、ばんえい競馬装蹄師*の小林友貴さん。ばん馬たちの蹄鉄を作る職人です。小林さんに装蹄師としてのやりがいやばんえい競馬の未来への思いを語っていただきました。

小林友貴(こばやし・ゆうき)。1994年生、帯広市出身。会社員を経て2020年よりばんえい競馬装蹄師となる。父は小林長吉調教師。

*装蹄師とは馬の蹄を保護するために蹄鉄を装着する技術を持った職人のこと。四本脚で大きな胴体を支える馬にとって、脚や蹄のけがは命に関わる大きな病気となり得るため、確かな技術力と経験で馬たちのけがを未然に防いでいる。

ばんえい競馬の未来をつくる人

会社員から一念発起、ばんえい競馬装蹄師の道へ

北海道LikersライターKawahara:装蹄師の仕事を選んだきっかけを教えてください。

小林装蹄師

撮影時ポーズをとってくださった小林さん。今回の取材はオンラインで行いました。 出典: 北海道Likers

小林さん:父がばんえい競馬の調教師で、幼い頃から馬は身近な存在でした。学校帰りに厩舎へ行き馬とふれあうのが楽しみだったので、自然と「大人になったら馬の仕事に就きたい」と思っていました。しかし就職について考え出していた2000年代初頭は、ばんえい競馬が存廃問題を抱え厳しい状況。父に反対され違う仕事に就きました。

装蹄師の仕事を意識したのは3年ほど前です。たまたまテレビで装蹄師を特集した番組を見たときに「競馬にはこんな仕事があるのか、面白そう!」と感じ、ばんえい競馬に関わる仕事への気持ちが強くなりました。父にも「これならやってみてもいいのでは」と言ってもらえました。

北海道LikersライターKawahara:装蹄技術はどうやって習得したのですか。

小林さん:技術を習得し認定装蹄師となるための全寮制の学校『装蹄教育センター』が栃木県にあり、1年間そこで学びました。『装蹄教育センター』では、馬の蹄への装蹄技術はもちろんのこと、馬の世話や基礎馬学、生理学など、馬に関わる全般的なことを学びました。装蹄師として働くためには、必ずこの学校を卒業し認定装蹄師の資格を取得する必要があります。

日々の試行錯誤が結果につながる

北海道LikersライターKawahara:ばんえい競馬で装蹄師の仕事を開始したのはいつからですか。

小林さん:装蹄教育センターを卒業したあと、ばんえい帯広競馬場で装蹄師の親方の下で学びました。その後は先輩の装蹄師の隣で学ばせてもらいながら、不足していた実践技術を積んでいきました。装蹄師として独り立ちして約1年。現在は1日多くて4頭の装蹄を行っています。

北海道LikersライターKawahara:ばん馬の蹄鉄はかなり大きいですよね。

小林さん:ばん馬の蹄鉄はサラブレッドより一回り以上は大きいです。厚みはあまり変わりませんが、横幅がとても広くなっています。また、ばん馬の蹄鉄は夏用・冬用と2種類あるのも特徴です。冬は雪で滑らないように刻みが入っています。

北海道LikersライターKawahara:装蹄師としてやりがいを感じるのはどんなときですか。

小林さん:担当しているばん馬の厩務員さんから「1着を獲ったよ!」、「ひづめの具合が良くなってきているよ」、「歩き方が良くなっているよ」などと声を掛けてもらえると、自分なりに試行錯誤して装蹄した結果がちゃんと出たのだなと思いうれしくなります。

ばん馬たちの命である脚を守るために

北海道LikersライターKawahara:装蹄師に興味のある方へメッセージをお願いします。

小林さん:装蹄師は一言では語れない非常に奥深い仕事です。サラブレッドや仔馬、ばん馬への装蹄の仕方は違いますし、馬の症状によってもさまざまです。大変難しいですし思い悩む場面もたくさんあります。しかし、馬たちの調子が良くなる姿や、脚に問題のある馬たちが回復していく様子をみると、何にも代えがたい面白さや達成感が得られるのがこの仕事の魅力です。

私自身、納得のいく装蹄師になるためには、本当に一生学び続けなければならないと感じています。馬や競走馬が好きだという人でしたら面白い仕事だと感じていただけるのではないでしょうか。

北海道LikersライターKawahara:馬と関係のない環境で育ってきた人でも装蹄師に挑戦できますか。

小林さん:全く問題ないです。私も前職では家電量販店の販売員をしていました。私の知り合いには、馬好きが高じて建築関連の仕事から装蹄師になった人もいますよ。

北海道LikersライターKawahara:最後にばんえい競馬の魅力や未来への展望をお聞かせください。

小林装蹄師の担当するスーパーシンデレラ

小林装蹄師の担当するスーパーシンデレラ(写真手前)出典: ばんえい十勝

小林さん:ばんえい競馬がひとつのレースにかかる時間は2分ほど。サラブレッドの競馬で2000メートルを走る時間と同じくらいです。この時間の中でいかにしてばん馬が持つ到底人間には出せないような大きな力を引き出せるのかが魅力です。

皆さんにも一度生のレースを見ていただくと、ばん馬たちの迫力や、そりを曳き進むときの地響きのような音など、たくさんの臨場感を味わえると思います。ぜひ帯広にばんえい競馬を見に来てくださいね。

———小林さんのいきいきとした表情に装蹄師としての日々の充実ぶりを感じました。会話をすることのできない馬たちの体調や気持ちをいかにして読み取っていくか、それは馬にかかわる全てのホースマン達の永遠のテーマであると、お話を聞きあらためて思いました。

連載「ばんえい競馬の未来をつくる人」では、ばんえい競馬で活躍する若者たちに迫ります。伝統文化を次の世代へつなげる彼・彼女たちの想いとは。連載記事一覧はこちらから。

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