今井千尋厩務員

2000年生まれの厩務員・今井千尋。大好きな馬への想いと追いかける騎手の夢

2021.09.02

厩務員(きゅうむいん)という仕事をご存じですか? 一言でいうと、競走馬のお世話をする仕事。体調管理、餌やり、運動、お手入れなど、日々馬たちに向き合いコンディションを整えています。彼・彼女らの仕事が迫力のある競走馬たちの力強い走りを支えているのです。

北海道帯広市では、開拓時代にルーツを持つ“ばん馬”たちが鉄ソリを曳いてレースを走る、世界で唯一の“ばんえい競馬”が開催されています。今回は、ばんえい競馬の騎手を目指す弱冠20歳の厩務員・今井千尋さんに注目。仕事のやりがいや将来の夢、ばんえい競馬のおもしろさなど、たっぷりお話を伺いました。

今井千尋(いまい・ちひろ)。2000年、北海道帯広市生まれ。厩務員。幼いころから馬とともに育つ。開業25年目に歴代20人目となる通算1,000勝を達成した父・今井茂雅調教師は憧れの存在。現在は、ばんえい競馬の騎手を目指し日々奮闘中。SNSには馬たちとの日常がつづられている。

かわいくて仕方ない!溢れる馬への愛情

厩務員・今井千尋さん

今回の取材はオンラインで行いました。

北海道Likersライターyukko:厩務員として今井厩舎で働いていらっしゃいます。どんなときに仕事のやりがいを感じますか?

今井さん:やっぱり担当する馬が1着を獲るのは嬉しいです(もちろん怪我をしないことが一番ですが!)。そして何より、馬がかわいいです。

北海道Likersライターyukko:今井さんのSNSを拝見して、馬たちをとてもかわいがっていることが伝わってきました。

今井さん:かわいくて仕方ないです! 今井厩舎の子たちは名前を呼んだら反応してくれるくらいお利口。すごく人懐っこくて、ニンジンをあげるときは「早くご飯ちょうだい!」って大騒ぎになります(笑)

今井千尋厩務員(右)とブチオ(ばんえいグランプリ時)

今井千尋厩務員(右)とブチオ(ばんえいグランプリ時) 出典: ばんえい十勝

北海道Likersライターyukko:SNSには“ブチオ”という名前の馬がよく登場しますね。

今井さん:ブチオは私が担当している馬で、本当に賢いんですよ。名前を呼んだら反応してくれるし、どうすれば人が喜ぶのかを分かっていて……こちらがビックリするくらいです。

北海道Likersライターyukko:今井さんが担当していた馬に子どもが生まれたと聞きました。

今井さん:クイーンドリーマー(2019年引退)に子どもが生まれました。父親はナリタボブサップです。実は2年間くらい子どもができなくて「もう難しいのかな……」と思っていた矢先のこと。嬉しくて牧場(十勝管内)まで見に行きました!

男性騎手との違いは「力」だけ

北海道Likersライターyukko:今井さんは今、騎手を目指しているとのこと。小学生のころにポニーばん馬競走で優勝した経験があると聞きました。そのころから将来は騎手になりたいと思っていましたか?

今井さん:小さいころから「将来騎手をやってみたいな」とは思っていましたが、「絶対になるぞ」と思ったのは高校生くらいですね。北海道では各地で草ばん馬が開催されています。当時ハクリュウという真っ白のポニーに乗る機会があって、それをきっかけにポニーばん馬に通うようになりました。

父についてよく朝調教には行っていたんですが、実際のレースは出られないじゃないですか。だから、自分がレースに出られるポニーばん馬競争は、とても楽しかったことを覚えています。

北海道Likersライターyukko:騎手は男性中心の社会かと思いますが、そのなかで働く大変さについて考えることはありますか?

今井さん:“力”が男性より少ないくらいですね。男性だから女性だからといって意識することはありません。厩務員も力仕事が多いので、なにをするにも筋肉が必要です。馬を止めるために手綱を後ろで引くときはものすごい力が必要なんですけど、全然止められなくてそのまま引きずられることもありますね(笑)

今はまったく鍛えていませんが、厩舎で作業をしていると自然と筋肉がつきます。ソリに乗せる調教用の重り(重さは100kg、50kg、20kgの3種類)を50kgは持てるようになりました!

尊敬する父の存在と、周囲の協力

北海道Likersライターyukko:お父様の今井茂雅調教師は立派な功績を残されていますね。騎手を目指すうえでお父様から影響を受けることはありますか?

今井調教師と今井厩務員

父・今井茂雅調教師と厩舎の前で 出典: ばんえい十勝

今井さん:ありますね。私ができないことも父は簡単にやってのけてしまいます。どこが違うのだろうと父の仕事を観察していますが、まだまだ届かないです。2歳のばん馬に行う“ソリ慣らし”でも、父が手綱を握って指示を出すと馬がまっすぐ後ろに下がるのに、私だとお尻がぶれてまっすぐ下がらなかったり……。父は馬の鍛え方が上手で、かなり影響を受けています。尊敬していますし、大好きです。

北海道Likersライターyukko:騎手試験を目前に控え、仕事との両立が大変なのではないでしょうか。厩務員の一日の仕事を教えてください。

今井さん:朝5時に起きて餌やり、厩舎の掃除、馬の運動などをします。11時くらいまで仕事をしたらお昼休憩です。餌やりは1日4回(朝、昼、夕、夜)あるので、馬の様子を見ながらやっています。19時に最後の餌やりをして一日が終わります。

北海道Likersライターyukko:勉強する時間はありますか?

今井さん:お昼休憩時や、夜の仕事が終わったあとに勉強しています。他の厩務員さんがすごく協力してくれるので、仕事の合間に勉強できることも。とても恵まれている環境に感謝しています。

駆け引きで勝利を目指す!レース運びは必見

北海道Likersライターyukko:ばんえい競馬ならではのおもしろさや、注目してほしいポイントを教えてください。

今井さん:ばんえい競馬は直線200mのコースです。途中に山のような形をした高さ1mの第一障害と、高さ1.6mの第二障害があります。2つの障害の間で、ソリを曳く馬と騎手がどんな駆け引きをするかが見どころです。

第1障害と第2障害間の駆け引き

2つの障害間での駆け引きが見どころ 出典: ばんえい十勝

障害を上るのは苦手だけど降りた後はすごく早い馬がいたり、反対に上るのはすごく早いけど降りるとゆっくりになる馬がいたり。その馬が得意とするレース戦術のことを脚質(きゃくしつ)といいますが、私は脚質を考えながら騎手のレース運びを見るのが好きです。

馬の特徴通りにレースを進める騎手もいれば、思いもよらないレース運びで勝つ騎手もいます。第1障害と第2障害の間で馬の呼吸を見ながら、脚質とどう折り合いをつけて馬を止め進めるか。作戦を練りながらゴールを目指す騎手の戦略を見るのがおもしろいです。

どんな馬も乗りこなす騎手になりたい

北海道Likersライターyukko:今後の目標を教えてください。

今井さん:まずは試験に合格し、騎手として活躍したいです。憧れは鈴木恵介騎手。どんな馬もオールマイティーに乗りこなし、結果を出すところがかっこいいです。まさに馬を選ばない騎手。必要以上に馬を疲れさせないようにしているし、ペース配分も上手です。障害のとき砂に脚を取られて動けなくなる馬もいるのですが、そうさせない技術もすごいです。

20210718_第52回旭川記念_センゴクエース

第52回旭川記念で優勝したセンゴクエース。手綱を取ったのは鈴木恵介騎手 出典: ばんえい十勝

北海道Likersライターyukko:最後に、ばんえい競馬の好きなところを教えてください。

今井さん:人馬一体なところです。“迫力”もばんえい競馬ならではの魅力だと思います。サラブレッドの競走はどれくらい早く走れるかですが、ばんえい競馬はどれだけ力があるかが見どころです。

―――インタビュー中、笑顔を絶やさずお話を聞かせてくださった今井さん。ばん馬の話になると母親のような優しい表情を見せ、厩務員の仕事や騎手の夢については非常に熱く、芯の強さを感じました。騎手になる夢を応援します!

ばんえい女子とは:
世界で唯一、帯広競馬場でしか見ることができないばん馬によるレース“ばんえい競馬”。大きな馬と騎手が生み出す、力強い迫力は見る者を圧倒します。そんな「ばんえい競馬(ばんえい十勝)」を主催する北海道帯広市と、インターネット勝馬投票券(馬券)購入サイト『楽天競馬』を運営する楽天グループの競馬モール株式会社が実施する「ばんえい十勝応援企画」は、ばんえい競馬を通じた地域振興の取り組み。本企画では、騎手や調教師など、ばんえい競馬を盛り上げ、支える女性たちの活躍に迫ります。彼女たちだからこそ知っている、ばんえい競馬の魅力とは?

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【画像】ばんえい十勝

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