3人制バスケで世界を目指す「IWAMIZAWA FU」。チーム代表3人が考える地域の未来とは
北海道でも有数の豪雪地帯、岩見沢。そんな岩見沢から、2021年7月にとあるスポーツクラブが産声を上げました。
その名も「HOKKAIDO IWAMIZAWA FU(ホッカイドウイワミザワエフユー。以下、IWAMIZAWA FU)」。バスケットボールのクラブです。2022年度からは「3X3.EXE PREMIER(スリーエックススリー・ドット・エグゼ・プレミア)」と呼ばれる3人制バスケットボールのプロリーグに、道内唯一のチームとして参戦します。
「IWAMIZAWA FU」は「岩見沢から、世界へ。」というコンセプトを掲げており、2032年開催のオリンピックで金メダル獲得を目指し活動しています。それだけでなく、岩見沢という土地をスポーツの力で盛り上げることも目標にしているんです。
今回は、共同代表を務める松重さん、辻本さん、田尻さんに岩見沢が目指す未来についてお話を伺いました。
松重宏和(まつしげ・ひろかず)。北海道岩見沢市出身。HOKKAIDO IWAMIZAWA FU共同代表。IWAMIZAWA FUではビジネス面を主に担当。株式会社ボランチ代表取締役、東京に集まる「どさんこ」コミュニティ「リトルホッカイドウ」の主催など、北海道と東京の二拠点生活をしながら幅広い事業を手がける。
辻本智也(つじもと・ともや)。岩手県盛岡市出身。HOKKAIDO IWAMIZAWA FU共同代表。一般社団法人 SLDI代表理事。大学進学を機に岩見沢市へ。ドイツのハイデルベルク大学の先生が提唱した“バルシューレ”というプログラムに則った子どもたちの育成を主導する傍ら、IWAMIZAWA FUでは選手育成を担当。
田尻洋輔(たじり・ようすけ)。北海道札幌市出身。HOKKAIDO IWAMIZAWA FU共同代表兼プレーヤー兼GM。地域リーグ「Camellia」にも所属する現役バスケットボールプレーヤー。
はじまりは岩見沢への熱い想い
北海道LikersライターFujie:これまでバスケットボールにずっとかかわってきたのは、現役プレーヤーである田尻さんお1人と伺いました。また、岩見沢出身であるのも松重さんお1人です。どのような経緯で「IWAMIZAWA FU」は設立されたのでしょうか?
松重さん:僕は東京の大学を卒業後、広告・クリエイティブ業界に勤めていたんですが、2年ほど前に独立をし、地方創生にかかわりたいと思うようになりました。そのときはまだ、地元の岩見沢の活性化に取り組もうとまでは考えていませんでしたが、漠然といずれは戻る場所だとは思っていました。どんな形で戻れるのか、あれこれ考えているとき、たまたま岩見沢で面白い活動をしている人たちと出会い、そこから辻本とつながりました。
そこで彼が“バルシューレ”というプログラムを通して、子どもたちと面白い活動をしていることを聞き、興味津々。岩見沢には今までプロスポーツクラブがなかったのですが、「スポーツは地域を盛り上げる役割を持っているよね」と盛り上がりました。いいタイミングで出会えたなと感じています。
岩見沢には、芸術・スポーツ学科を設置する北海道教育大学岩見沢校がある、そして辻本と組めば選手の育成やビジネス面の重視など、他のクラブとは一味違った形を築くビジョンが描けたので、 早速事業をスタートしました。
北海道LikersライターFujie:なるほど。松重さんの想いに応える形となったのが辻本さんの活動だったのですね。辻本さんはいつから岩見沢とかかわるようになったのですか? また、クラブ結成に大きな影響を与えた”バルシューレ” とはどんな活動なのでしょうか?
辻本さん:岩手の盛岡出身で、北海道教育大学岩見沢校への進学を機に岩見沢へ来ました。岩見沢はいろんな可能性を秘めていて、自分自身も成長できる場所だなと感じているので、住んでいて心地よいです。もはや北海道から出る気はないですね(笑)
“バルシューレ”はドイツのハイデルベルク大学で開発された運動プログラムです。子どもたちが体育館に来て、科学的根拠のもと作られたプログラムを通して、先生と運動することで「楽しい!」と感じながら自然と球技の基礎や運動能力などさまざまなスキルが身につくようになるプログラムなんです。
英語にすると“ballschool(ボールスクール)”。直訳すれば“ボールの学校”ですから、球技を主体として、幼少期に必要な運動能力をつけることを目指しています。トレーニングの特徴は、子どもたちへのコーチングのタイミング考えること。あくまで、環境設定を頻繁に変えることを重要視し、子どもたちが自ら考えて直感力を養うのがまず最初の目的です。
このプログラムは、社会の変化にともなう現代的な課題を背景に1998年に開発されました。それ以前の子どもたちは、日々地域で過ごすなかで自然と社会性も運動能力も身に付けていましたが、時代とともに価値観や環境が変化し、そういったスキルを身につけづらくなってきた。そこで登場したのが、“バルシューレ”です。
北海道LikersライターFujie:なるほど。自分も子どもだったら参加してみたいと思いますね(笑) まず松重さんと辻本さんがタッグを組んだところから「IWAMIZAWA FU」は始まったのですね。
出会ってしまった「3人制バスケ(3×3)」
北海道LikersライターFujie:地域を盛り上げるスポーツクラブを結成することから、ストーリーが始まりましたが、そこからどういった経緯で3人制バスケットボール(3×3)にたどり着いたのでしょうか。
松重さん:実は当初、サッカーでビジネスができないかなと思っていたんです。北海道教育大学岩見沢校はバスケも強いですが、サッカーが特に強い印象があったので。ただ、ご存じの通り岩見沢は超豪雪地帯なので、年間5か月くらい雪の影響を受けます。そうすると、屋外スポーツよりもアリーナスポーツの方が適当だろうとなり、まず5人制のバスケにたどり着きました。バスケは、バルシューレとの相性も良いので、Bリーグの参入を目指していたのですが、Bリーグはいい意味で規制が厳しく、僕らが目指したいビジョンに沿ったクラブ運営が難しいという問題が立ちはだかりました。
そこで出会ったのが、3人制バスケです。3人制バスケは、場所も運営も自由度が高く、プロアスリートのキャリアの新しい形をリーグとして模索しているなど、革新的な一面もあります。これは、僕らと相性がいいかもしれないと考えるようになりました。
僕らにとって主な拠点は岩見沢ですが、北海道全体に展開していきたいという想いもあります。3人制バスケは場所を取らずに、コートさえあれば北海道中どこでもできるというのもメリットでした。たとえば道の駅を巡業して全道で試合を開催するなど可能性の広がりを感じたのも決め手でしたね。
北海道LikersライターFujie:そうした経緯があったとは驚きました。3人制バスケに種目が決まってから田尻さんが加わったそうですが、当初岩見沢や3人制バスケに対するイメージはどういったものをお持ちでしたか?
田尻さん:そうですね、私は北海道出身ではありますが、岩見沢にはほとんど縁がなく……。3人制バスケについても、お二人と一緒に活動し始めてから勉強するようになりました。
3人制バスケは、5人制に比べて、まず文化が新しいですね。私は24年のバスケ競技歴がありますが、同じバスケのなかでも新しいスポーツと捉えています。
5人制ではベンチを含めて多い人数で回しますが、3人制では4人で回していくので、非常にタフさが必要です。5人制におけるいわゆる“控え”という存在がなく、コート上でプレーする時間がほぼ確約されており1人のプレー時間が長くなります。また、5人制よりも接触が多く1人にかかるプレッシャーも大きいことや、競技の特性上ポジションという概念がないことなど、プレーヤーとして幅広い経験を積めることが3人制バスケの魅力です。
同じバスケのなかでも自分のプレーの幅を増やしていくことで、プレーヤーとしてのレベルを上げられる競技だと考えています。
「ワクワク」の気持ちでつながる世界とは
北海道LikersライターFujie:フィロソフィーやビジョンに何度も“ワクワク”という言葉がある印象を受けました。そこに込められている思いを教えてください。
松重さん:3人のやりたいことをすり合わせた結果を反映しているのがこの言葉であり、理念ですね。僕には「地域をよくしたい」という想い、辻本には「子どもたちが楽しくスポーツ運動できる環境を創りたい」という想い、そして田尻には「バスケットボール界、特に北海道のバスケットボール界をよりよくしたい」という想いがある。それぞれの強い想いを一言で表せる言葉が“ワクワク”だったんです。
北海道LikersライターFujie:その“ワクワク”を大事にしながら「IWAMIZAWA FU」が目指していく世界はどのようなものですか?
松重さん:「IWAMIZAWA FU」がハブ的な存在になって、自治体・企業・人など地域の垣根をこえた新しいつながりが、広がっていく先に“ワクワク”する世界が生まれるのかなと思っています。
辻本さん: 私は「IWAMIZAWA FU」があることで子どもたちの未来が変わっていけばいいなと思います。子どもたちの選択肢が増えて、彼らの成長の機会にもしたいですし、ゆくゆくは町の成長にもつながったらいいですね。そして、日本中から注目してもらえるようなまちづくりをしていきたいです。
田尻さん:北海道ではまだどうしても、大学・社会人以降もバスケを続ける環境が整っていません。今頑張っている子どもたちにとって、将来の選択肢の一つとしてプロ選手への道、そしてさらなる高みを目指せる環境を作っていきたいです。また、新しいバスケットボールの楽しみ方を幅広い年代に広げたいですね。
———「岩見沢はこれから」取材中、印象に残ったフレーズです。地域が持つポテンシャルを活かしながら、これからの岩見沢を牽引する存在になるという「IWAMIZAWA FU」の決意を感じました。まだ最初の一歩を歩み始めたばかりですが、それは何よりも力強い一歩となることでしょう。
「IWAMIZAWA FU」は『北海道好きが自由に投稿!北海道Likers POST』で連載中! 「IWAMIZAWA FU」の挑戦の数々をチェックしてくださいね。
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