「松尾ジンギスカン」4代目社長・松尾吉洋さんに訊くウィズコロナ戦略――羊肉文化を全国へ
北海道のソウルフード“ジンギスカン”。タレは味付き派か?後付け派か?が話題になるほど、道産子にとってポピュラーな食です。滝川市で創業、ジンギスカン一筋64年の『松尾ジンギスカン』4代目社長、松尾吉洋さんに、ウィズ・アフターコロナ構想について伺いました。
株式会社マツオ代表取締役社長 松尾吉洋(まつお・よしひろ)さん。1974年北海道滝川市生まれ。高校時代を千葉の全寮制高校で過ごす。早稲田大学政治経済学部卒業後、1999年4月に株式会社マツオに入社、2014年同社4代目代表取締役社長に就任。フードコートの出店、「松尾めん羊牧場」の開設、東京に新業態店進出など次々とブランドを確立する戦略を展開。創業の地滝川のPRにも尽力する。株式会社マツオ|松尾ジンギスカン。
「松尾ジンギスカン」全店舗休業したが、その中でオンライン通販は3倍増に
北海道Likers編集部:改めて、新型コロナウイルスパンデミックによる『松尾ジンギスカン』への影響についてお聞かせください。
松尾さん:『松尾ジンギスカン』は、滝川本店そして札幌地区、新千歳空港、東京の5店を含めて16店舗で展開しています。お客様と従業員の安全を最優先に、感染拡大を防止するという観点で、各地域への緊急事態宣言の直後から基本的には休業としました(新千歳空港店のみ5月7日より休業)。今後は事態の推移を見ながら、地域ごとに営業を徐々に再開する予定です。
レストラン事業は、東京でもオリンピック開催を一つのフラッグに新規店舗の出店、新業態の開発を進めてきました。売り上げの中でも約60%を占める大きな柱に成長していますのでダメージはもちろん甚大です。
しかし、もう一方で我々には味付きジンギスカンメーカーとしての側面があります。スーパー量販店向けの商品の出荷はほぼ正常に動いていますし、自社サイトでのネット通販の売り上げは3倍になりました。
店舗においても、滝川の本店と札幌の拠点となる北19条東店に関しては、パッケージ商品販売の窓口は営業しています。レストランとしてはすべてクローズしていますが、ご自宅用のお持ち帰りのお客さまにはお買い求めいただいてるというような状況ですね。
この状況下においては、改めてレストラン事業とメーカーとしてのパッケージ販売の両輪がある強みというのを実感しています。
地元「北海道ファースト」の姿勢が難局を乗り切る力に
北海道Likers編集部:ウィズコロナ期間に入っても、インバウンドの回復は難しいと思われます。この損失はカバーできるのでしょうか。
松尾さん:従来から『松尾ジンギスカン』では、インバウンドへの依存度は極めて少ない状況です。もちろんプラスアルファの有難いお客様ですが、あくまでも国内、道内のお客様にご来店いただくということを明確に掲げて取り組んできましたので、インバウンドが減少する影響は売り上げに占める割合からもとても少ないと言えます。「インバンドには極端には依存しない」という体質をつくってきました。万が一国際線が長期間にわたり再開されないとしても、国内さえ落ち着けば、コロナ前に完全に戻ることはあり得ないにしても、我々は日常をある程度取り戻せると思います。
一番は地元の皆さんに愛される松尾ジンギスカンというベースを大切にしています。「松尾ジンギスカンは観光客だけで、地元の人は食べないよね」となってしまったら意味がない。従業員にも、北海道、滝川で愛されるジンギスカンというベースがあっての観光のお客さまだし東京への展開だということを徹底して伝えています。
子どもたちに、給食のジンギスカンを通じて自分たちの地域を知ってほしい
北海道Likers編集部:地元に根差した活動といえば、給食提供がありました(前回インタビュー参照)。
松尾さん:給食提供先は毎年、増えています。1年目は、我々の創業の地である滝川市でスタートし、2年目は新十津川町と雨竜町、3年目は赤平市、4年目は砂川市、そして昨年は芦別市も加え6つの市町村に提供しました。昨年の2019年度だけで約1トンのジンギスカンを約6,000人の子ども達に提供させていただきました。毎年、だいたい夏休み前の週あたりに提供しています。「毎年、松尾ジンギスカンの給食を食べたらすぐ夏休みだったな」と大人になっても思い出してもらえるような記憶に残る給食になってくれたらいいなと思っています。
給食の間、「なぜ空知・滝川で味付きジンギスカンが生まれたのか」がわかるDVDを観ていただいてるんですよ。国の政策で全国初の種羊場が滝川に設置され、羊毛用の羊を飼ったのが始まりです。肉は副産物だったんですね。そして、たまたまリンゴと玉ネギの産地だった。滝川だから、リンゴと玉ねぎを使った味付きジンギスカンができたんです。
子どもに、自分たちの地域の話なんだと思ってもらうこと、これが重要だと思っています。十年二十年続けていって中空知に住んでいる子供たちが、全員ジンギスカンを給食で食べたという経験を共有できたらいいなと。
給食の他、親子でジンギスカンを作ってみようという、出張食育教室の取り組みも行っています。動画もアップしています。
道外は広大なフロンティア。全国に羊肉文化を。
北海道Likers編集部:アフターコロナに関して、どのようなビジョンを持っていますか?
松尾さん:先日発表された「新しい生活様式」。現実にこれが続くということになると、レストランはもちろん、その他多くのサービス業のビジネスの前提条件が崩れると思ってます。今後しばらくはレストラン事業への新規の投資は控え、まずは既存店においてアフターコロナのレストランの在り方を追求していきます、そして我々のもう一つの強みであるメーカーとしての側面により軸足を置き強化していくことになるでしょう。
北海道Likers編集部:無店舗販売、オンラインもしくはスーパー量販店様向けを強化していく方針ですか?
松尾さん:そうです。というのも、道外がまだまだフロンティアであると思っているんです。
日本人のひとり当たりの羊肉の年間消費量は約100グラムちょっとだといわれてるんですよね。1年間に1人100グラムということは多くの日本人が1年に一度も食べていない、ということになると思います。北海道民で約2.3キロと言われてるんですけども。これがたった200グラムになるだけでも倍のマーケット広がっているということを考えると、そこはフロンティアです。昨年10月には東京営業所を開設していますので、道外での販路拡大をより積極的に行っていきます。
羊肉、これを日本の第4の食肉に育てていきたい。全国の日常の食卓にジンギスカンを含めた羊肉料理が上るイメージです。羊肉文化を広めるという共通の想いがあるので、他のメーカーさんや生ラムタイプのジンギスカン屋さんの活躍も歓迎です。道外での羊肉の消費は着実に伸びていますし、羊肉文化の裾野、マーケットが広がっていけばウィンウィンの関係になると思っています。
ただ一方で、北海道にわざわざ来てジンギスカン、羊肉料理を食べていただけるような北海道限定メニューや商品なども提案し続けなければ、と思っています。そのような目的もあり平成28年、滝川に松尾めん羊牧場を開設し、サフォーク種の生産を始めました。
―――地元北海道の日常に根差す、という地元への強いプロミスが感じられました。創業の地である滝川について「滝川はあまり知られていませんが、グライダーのメッカなんです。5月には全国1位と言われる美しく広大な菜の花畑の絶景を空から見ることができます。滝川スカイスポーツ振興協会の会長をさせていただいているということもあり滝川といえばグライダーとジンギスカンといわれるよう盛り上げていきたい」と想いを語ってくれました。