伝説の騎手・金山明彦さんに聞く!ミスターばんえいが語る「ばんえい競馬」の魅力

2021.08.23

帯広競馬場で行われている“ばんえい競馬”。歴史は古く、公営競技となったのは1946年です。今回は、1999年12月30日にばんえい競馬の騎手を引退後、現在は調教師としてばんえい競馬をけん引する“ミスターばんえい”こと金山明彦さんに、ご自身の経験をふまえながらばんえい競馬の魅力、おもしろさを教えていただきました。

金山明彦(かなやま・あきひこ)。1951年生まれ、北海道旭川市出身。ばんえい競馬の騎手として活躍後、調教師に。サダエリコやフジダイビクトリーといった数々の名馬を輩出。騎手時代には、ばんえい競馬史上最多勝記録を達成(引退当時)し“ミスターばんえい”の異名を持つ。

ミスターばんえいが語る、ばんえい競馬の魅力とは

北海道Likersライターkino:ばんえい競馬は平地での競馬と異なる点がたくさんありますが、その中で「これだからばんえい競馬はおもしろい!」と金山さんが感じる部分はどのようなところでしょうか。

金山調教師

今回の取材はオンラインで行いました。

金山調教師:レース展開のおもしろさですね。ばんえい競馬は幅1.8m、距離が直線で200mのセパレートコースになっていて、2つの障害が見どころです。スタートが遅れて後方になっても坂を降りる時には先頭になったり、最初はよかったものの障害が苦手で負けてしまったり一筋縄ではいかないんですよ。

馬と並行して一緒に歩くと自分が騎手になったような感覚になれるのも、直線コースのばんえい競馬ならではの魅力。ばん馬が駆け抜けていく迫力を間近で体感できます。レース中は馬を止めて息を入れさせることもあるので、騎手が行う駆け引きやゴール前の接戦も見どころです。

北海道Likersライターkino:騎手から調教師となられ、長年ばん馬と過ごされていますが、ばん馬の魅力はどのようなところでしょうか。特徴とあわせて教えていただきたいです。

金山調教師:馬体が1トンを超える馬も多いので、見た目の大きさからは想像できないかもしれませんが、実は性格がとてもおっとりしています。人にも従順で、意外と扱いやすいんです。たまに気性が荒い馬もいますが、ほとんどがおっとりしていますね。

「騎手」から「調教師」へ

北海道Likersライターkino:騎手から調教師となり、馬に対する思いや気持ちの変化はありますか。

金山調教師:小さい時から馬が好きで、この世界に入りました。騎手になった時は「騎手になったからには、いい結果を残したい!」という強い思いがありましたね。周りの人の応援がありましたし、いい結果を残すことができて本当によかったです。レースに出た以上は勝ちたいと思っていましたし、当時は1日に最大で6回騎乗という規定があったのですが、“6回しか乗れなくても7回勝つ!”気持ちでレースに臨んでいました(笑)

調教師になってからはレースで乗っていたような強い馬を自分の手で育てていきたいという思いに変わりました。いろんな馬を管理していますが、馬ごとの能力を見極めながらそれぞれの馬にあった調教を行っています。現在は20頭を担当しています。

北海道Likersライターkino:ばんえい競馬は騎手の学校のようなものはあるのでしょうか?

金山調教師:ばんえい競馬にはないんです。騎手になりたいという人たちは、まずは厩務員(きゅうむいん)を経験しながら騎手を目指していくことになります。最近はばんえい競馬の知名度が上がり、騎手になりたい若い人が増えてきているので、育てていく環境を周りで作っていかなくてはと思っています。ばんえい競馬のことをもっとたくさんに人に知ってもらい、騎手を目指す人が増えていってほしいですね。

北海道Likersライターkino:今までの競馬人生で「騎手をやっていてよかった」「調教師をやっていてよかった」とどんな時に思われましたか。

金山調教師:騎手をやっていてよかったなと思ったのは、やはり初めてのレースで勝利を挙げたときですね。そして、大きなレースでは特に勝ちたいという思いが強かったので、そこで勝てた時は満足感がありました。負けた時はどうして負けたのか敗因を考えたり、反省をすることがたくさんあったので、それを生かして勝てたときは喜びもひとしおでした。

調教では一頭一頭性格が違うため管理が難しい面もありますが、名馬になっていく馬を育てることができたら調教師としてやっていてよかったなと思えるんじゃないでしょうか。お客さんに名前を覚えてもらえるような特徴のある馬、レースに出ると応援してくれるような馬を育てていきたいですね。

北海道Likersライターkino:調教師になられてから印象に残っているのはどんな馬ですか?

金山調教師:重賞で13勝を挙げたサダエリコ(2008年引退、2012年死亡)という馬ですね。牝馬だったんですけど男勝りな強さでした。大きなレースを勝つと馬に格がつきますし、調教師としても“こんなすごい馬を育てたんだ”という自信にもなりましたね。サダエリコには本当にいい思いをさせてもらいました。

おもしろさを全国に、そして世界に

北海道Likersライターkino:ばんえい競馬は観光地としてはもちろん、地元の人々にも長年愛されています。地域との繋がりはどのような意味をもっていますか。

金山調教師:保育所や小学校などでのイベントに馬を連れて行って近くで見てもらったり、スケッチをしてもらったりして、地域の方が馬と交流する機会をつくっています(※現在はコロナ禍の影響で実施していない)。ミルキーという真っ白な馬がとても人気で、子どもたちはいつも大喜びでしたね。

たくさんの方が帯広競馬場にある「ふれあい動物園」に足を運んでくださっています。現在はコロナ禍の影響がありますが、いずれはそんな場所をどんどん増やしていきたいです。幅広い年代の方に馬とのふれあいをきっかけとしてばんえい競馬に興味を持っていただき、応援してもらえたら嬉しいですね。

北海道Likersライターkino:今後、ばんえい競馬やばん馬を通じてどんなことを伝えていきたいですか。

金山調教師:ばんえい競馬の馬(ばん馬)はもともと農耕馬なので、北海道の開拓にはなくてはならない存在でした。開拓時代に馬主さんたちが自慢の馬で力比べをしていたのが今のばんえい競馬のもとになっているんです。

かつて、ばんえい競馬は旭川、北見、岩見沢、帯広と4箇所あったんですが、2007年度以降は帯広競馬場でのみ行われることとなり、私も帯広にやってきました。北海道の方には、開拓に使われていた馬たちが今ばんえい競馬で活躍しているばん馬たちのルーツにあることなど、背景や歴史を知ってもらいたいです。

そして、コロナ禍が落ち着いたら帯広競馬場に足を運んでもらえるように、これからもばんえい競馬の魅力とおもしろさを北海道だけでなく、全国そして世界に伝えていきたいです。

 

―――今回の取材で、ばんえい競馬に長年携わっていらっしゃる金山調教師の馬に対する深い愛情や、ばんえい競馬の未来への思いが伝わってきました。ばんえい競馬はいろんな楽しみ方ができるので、今回の記事を参考に自分なりの楽しみ方を見つけてみてはいかがでしょうか。

※新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響で、帯広競馬場への入場規制や無観客などを実施している場合があります。事前に『ばんえい十勝』ホームページなどでご確認ください。

【画像】ばんえい十勝