高橋毅さん

地方創生の仕掛け人、高橋毅。ほかとは違うアイデアで仕掛ける「栗山町のローカルベンチャー」

2021.08.06

北海道日本ハムファイターズの栗山監督と同名の町、栗山町。北海道民なら一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。札幌から車で50分、新千歳空港からは約45分と抜群のアクセスが特徴のこの地に移住した高橋毅さんは栗山町で起業し、地方創生の中核を担っておられます。栗山町に移住したきっかけやその生活を生の声でお届けします。

高橋毅(たかはし・つよし)41歳 合同会社オフィスくりおこ 業務執行社員
神奈川県横浜市出身、北海道大学大学院農学部修士課程修了後、(株)リクルート北海道じゃらん入社。旅行情報誌『北海道じゃらん』、宿泊予約サイト『じゃらんnet』企画、制作、営業に携わる。横浜にUターン、ITベンチャーに転職。新規WEBメディア立ち上げ、WEBマーケティング、WEBコンテンツ製作に携わった後、親交のあった栗山町職員の紹介で地域おこし協力隊として栗山町へ移住。協力隊任期中に同期着任の石井翔馬と合同会社オフィスくりおこを立ち上げ、現在は、栗山町ふるさと納税業務、商店街活性化事業、関係人口創出プロジェクトなどの外部委託を受ける傍ら、飲食店、ゲストハウス、ECサイトの運営を行う。

俺が行くよで早6年

オンライン取材の様子

今回の取材はオンラインで行いました

北海道Likersライターsorakaze(以下、sorakaze):ご出身は神奈川県で、大学進学を機に北海道へ移住。その後道内で就職し、地元にUターンされましたが再び北海道に移住されています。今度は栗山町へ。何がきっかけだったのでしょうか。

高橋さん(写真左)と三木さん(右)

高橋さん(写真左)と三木さん(右)(提供:高橋さん)

高橋さん:栗山町への移住は“人”が影響していますね。道内で旅行情報誌の製作をしていたころ、栗山町役場の制度で役場職員を民間企業に1年間出向させる制度があったんです。その制度で私の会社に来た三木さんという栗山町職員とたまたま同じチームの配属となり1年間活動しました。彼が栗山町役場に戻ったあともバーベキューや草野球に呼んでくれたりと関係は続き、公私ともにすごくお世話になったんです。

その恩を「何かの形で返したいな」と思っていたのですが、私も転職して東京で働いていたので、三木さんとはたまに連絡をとったり、出張があるときに会うぐらいしかできていませんでした。そんなとき、彼が“地域おこし協力隊”を担当する部署に配属され、私に「誰か地域おこし協力隊に興味がある人を紹介してほしい」と連絡してきたんです。私としてはこれまでの恩を返すチャンスかもしれないと思ったので、「人は紹介できないけど俺が行くよ」と栗山町に移住することになりました。

sorakaze:「俺が行くよ」はフットワークが軽すぎます(笑) 移住となると多少のためらいもあったのではないですか。

地域おこし協力隊任期中の高橋さん

栗山町地域おこし協力隊任期中の高橋さん(出典: 北海道栗山町ふるさと応援寄附 Facebook

高橋さん:最初は、地域おこし協力隊が任期3年なので、それが終わったら地元に帰ろうと思っていました。それまで勤めていた会社も帰っておいでと言ってくれていましたしね。

sorakaze:それぐらいの短期で帰ってくるような気持ちだったのが今では移住されて6年と、すっかり栗山町民という感じですが長期的な移住となったのは何か心変わりがあったからなのでしょうか。

高橋さん(写真左)と地域おこし協力隊同期の石井さん(右)

高橋さん(写真左)と栗山町地域おこし協力隊同期の石井さん(右)(出典: オフィスくりおこ

高橋さん:地域おこし協力隊同期着任の石井翔馬くんと “起業した”からですね。栗山町で知り合った人たちがとてもよくしてくださって、町に居心地の良さを感じはじめ、地域おこし協力隊の任期後もこの町で暮らしたいという思いが出てきました。そのためには生活していく収入を得る手段がないといけないので、石井くんと「オフィスくりおこ」を起業するという選択になったんです。

起業に関しては石井くんの存在ありきでしたね。私はそもそも起業願望とかなかったですし、性格的にも向いてないと思っていました。「オフィスくりおこ」の社長は石井くんが務めてくれています。

私と石井くんは、何事もなく、お互いのこれまでのキャリア通りの人生を送っていたら、おそらく接点がなかったと思うんです。年齢、出身地、キャリア、性格もバラバラなので。そういった新しい可能性を広げてくれる人と出会えるのも、移住の面白い点かも知れませんね。

8つの事業を同時展開

sorakaze:神奈川県横浜市出身で北海道に移住となると生活スタイルも大きく変わると思うのですが、移住して辛かったことや苦労したことはありますか。

「オフィスくりおこ」のメンバー

「オフィスくりおこ」のメンバー(出典: オフィスくりおこ

高橋さん:苦労とは少し違うかもしれませんが、この町にもっと長くいたいと思ったとき、これまでの私の感覚だと、新しい働き口を求めて転職活動をするイメージがありました。ですが、こっちだと都会のようにたくさんの求人が転がっているわけではないのが、少し悩んだ点ではありましたね。結果的には起業することで新しい挑戦もできて面白さを感じていますけど、会社を立ち上げることは、私にとって簡単に決められることではありませんでしたし、会社がこの先やっていけるかという不安も、もちろんあります。

sorakaze:起業されて実際にどのような事業に取り組んでおられるのでしょうか。

『ゲストハウスくりとまる』

『ゲストハウスくりとまる』(出典: オフィスくりおこ・撮影:FRASCO)

高橋さん:自主事業と外部委託業務合わせて8つぐらいの事業を同時に取り組んでいます。

自主事業としては、石井くんが調理の世界にいたので、地場産品を活用する飲食店『cafe&barくりとくら』、友人や移住希望者が栗山町に訪れた際、滞在できる場所を作ろうということではじめた2部屋6ベッドだけの宿泊滞在施設『ゲストハウスくりとまる』。去年からは『Chestnuts & Market(チェスナッツ&マーケット)』という地場産品のECサイトもはじめました。

それにプラスして、栗山町役場から“ふるさと納税業務”を外部委託として受けており、栗山町ふるさと納税業務の多くをやらせてもらっています。

『cafe&barくりとくら』

『cafe&barくりとくら』(出典: オフィスくりおこ・撮影:FRASCO)

そのほかにも、町の“商店街活性化業務”も委託していただいており、私どもが運営する飲食店『cafe&barくりとくら』をシェアキッチンとして活用しています。日替わりで、町のお肉屋さんが豚丼屋さんを出店したり、他地域の元地域おこし協力隊のカレー屋さんやたこ焼き屋さんがお店を出したり、飲食店をはじめようと考えている人が、開業前のマーケティングをしたり。いろいろな方々に利用していただいています。

現役の栗山町地域おこし協力隊のみなさん

現役の栗山町地域おこし協力隊のみなさん(出典: 北海道栗山町地域おこし協力隊 Facebook

昨年度、企画の立ち上げ、採用活動から関わらせていただいた、2021年度着任の地域おこし協力隊のメンバーも4月から加わり、彼らの活動にも携わらせてもらっています。さまざまな経歴を持った、才能豊かで個性的なメンバーが集まってくれたので、これからの展開がとても楽しみですね。今まさに追加メンバーの募集もおこなっているので、地方での活動、移住に興味がある方がいらっしゃったら、ぜひ、手を挙げていただきたいです。

目標は、栗山町「関係人口」の創出

sorakaze:さまざまな活動をされてきて、高橋さん自身の今後の見通しや展望はどのようなものでしょうか。

高橋さん:昨年から栗山町の観光業務にも関わらせていただいているのですが、栗山町はいわゆる観光地ではありません。札幌から1時間ぐらいの立地であるものの、同じような条件の札幌近郊の観光地と同じ土俵に乗っても勝ち目はないと個人的には考えています。有名な観光スポットもないですし、全国的な特産物があるわけでもありません。

ですので今は、観光客ではなく、栗山町の“関係人口”、栗山町のファンを増やしていこうと考えています。先ほどのふるさと納税や商店街の活性化も栗山町関係人口の創出を目指して行っており、関係人口の創出が自分たちのビジネスとどう嚙み合っていくのかがポイントだと考えています。

sorakaze:具体的にどんな取り組みをされていますか?

栗山町ふるさと納税のパンフレット

栗山町ふるさと納税のパンフレット(出典: 北海道栗山町ふるさと応援寄附 Facebook

高橋さん:たとえば、栗山町ふるさと納税のパンフレットは、栗山町のファンになって欲しいという思いを込めて作製しています。町に知り合いができたような感覚を作るため、“栗山町民”を表紙に据えて、気軽に手に取ってもらえるように雑誌風のデザインにするなど、ほかの自治体と差別化が図れるよう、“人”にフォーカスすることを心がけています。

「オフィスくりおこ」メンバーと。写真左下がふるさと納税パンフレットなどPRを担当する金谷さん

「オフィスくりおこ」メンバーと。写真左下がふるさと納税パンフレットなどPRを担当する金谷さん(出典: オフィスくりおこ

PR関連の製作物は、今年度からオフィスくりおこの社員となった栗山町地域おこし協力隊OGの金谷美咲が中心となって進めてくれています。

sorakaze:遊び心があって面白い……! たしかにほかの自治体の海産物や農産物のパンフレットと並んでいたら目を引きそうです! 最後に栗山町の魅力を教えてください。

高橋さん:栗山町の魅力はポジティブな意味で”ちょうど良い”ところですね。札幌や新千歳空港からのアクセスも良いですし、スーパー、コンビニ、病院、銀行など生活に必要なインフラは揃っています。一方で、少し車を走らせると北海道らしい牧歌的な風景が広がっていますし、都会では感じにくい農家さんとの繋がりを感じることもできます。この町の”ちょうど良さ”が私にとって居心地がいいんです。

一方で、栗山町は全国的な知名度が低いというのは、イベント出展したときなど、めちゃくちゃ感じます。だからこそやりがいを感じますし、日本全体で考えたらそういう全国的に知られていない市町村の方が多いはず。なので栗山町で成功事例を作ることができたら、日本中に展開可能なんじゃないかと思っています。

最終的には栗山町で作ったモデルをもとに、日本中の地方の人たちと繋がって一緒にお仕事ができたらいいなと考えていますし、それが栗山町への恩返しにもなるはずだと考えています。

 

———食から住までさまざまな活動をこなす高橋さんには、栗山町のポテンシャルを最大限に引き出す魅力がありました。筆者もこの機会を通して栗山町の“関係人口”になれたら幸いです。

高橋さんとおもしろいまちづくりに挑戦してみたい!

※関係人口・・・移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のこと(関係人口ポータルサイト / 総務省 地域力創造グループより引用)

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