
「馬も、人も、すべてを大切に」服部調教師が築いた、ばんえい競馬歴代最多勝への道
十勝地方の観光スポットとして人気の“ばんえい競馬”。帯広競馬場で一部期間を除きほぼ毎週土・日・月の3日間行われ、ばん馬たちの臨場感あふれるレースを楽しもうと、多くの地元の人々と観光客でにぎわっています。
砂塵を立てながら曳き進む、ばん馬たちの強靭な馬体、圧倒的な存在感、そして共に生活をする人間たちとの信頼関係の深さ。明治の開拓時代の面影を残す北海道遺産として、今もなお文化が継承されています。
今回お話を伺ったのは、ばんえい競馬調教師の服部義幸さん。5月2日に、ばんえい競馬調教師として史上初めてとなる3,000勝を達成されました。服部調教師に、これまでの歩みとばんえい競馬への想いを語っていただきました。

服部義幸(はっとり・よしゆき)
1947年生、弟子屈町出身。会社員を経験後27歳でばんえい競馬の世界に入る。厩務員と、9年間の騎手生活を経て1985年に調教師に転身。通算勝利数3,007回は、ばんえい競馬調教師として最多であり、現在も自身の記録を更新中である。(2026年5月28日現在)。競馬場内にある『ふれあい動物園』の創設・運営にも携わり、ばんえい競馬の発展に尽力する調教師である。
優しさが強さを育む。服部調教師の育成哲学
前人未到の3,000勝達成おめでとうございます! 達成された時はどのような思いでしたか?

画像:ばんえい十勝
3,000勝という数字についてはあまりこだわっていませんでした。スターノチカラ号を勝利に導くために努めた結果、しっかりと勝ってくれた。そして、周りから「3,000勝だよ」と言われ、びっくりやら、嬉しいやらという思いです。
服部調教師は調教師となられて41年、モットーとされていることは?
それぞれの馬たちの素質を見極め、能力を最大限に引き出すのは、携わる人間の能力や技術力次第だと思っています。「人を総合的に育てていく」ことが一番大事だと思っています。厩務員にしても騎手にしても、やっぱり馬の素質をどうやって開花させてあげるか、それを上手に出来る人を育てていきたいと思いながらここまで続けてきました。
スターノチカラ号の鞍上は、服部厩舎所属の鈴木恵介騎手でしたね。

画像:ばんえい十勝
彼はデビューの時からうちの厩舎に所属しています。身内を持ち上げるわけではないが、騎手として、優秀だと思います。
※騎手の厩舎所属とは、騎手が特定の調教師(厩舎)と専属の雇用契約を結ぶことです。ばんえい競馬では多くの騎手が厩舎に所属し、調教(練習)や厩舎作業をこなす従業員として働きながらレースに騎乗しています。
現在、服部厩舎には何名のスタッフさんが在籍されているのですか?
現在は所属騎手を含めて11名です。この春に、20代の新人が騎手を目指したいと、入ってきましたよ。
ばん馬たちの育成についてはどのように考えていますか?
所属しているばん馬たちは、そりを曳く事に対して、できるだけ「もう無理だ」とか「嫌だ」という感情になるまで頑張らせないように心がけています。あくまでも「喜んで」、「楽しんで」ソリを曳いて行けるような気持ちを掴ませてあげられるように、常にばん馬たちの様子を伺いながら調教することが大事だと考えています。
服部調教師と言えば、やはり2015年にばんえい記念を制覇したキタノタイショウ号を思い出される方も多いと思います。キタノタイショウ号の印象的なエピソードはありますか?

画像:ばんえい十勝
キタノタイショウは、実はデビュー前、競走馬としてなかなか芽が出ないのではないかという見立てで、一度馬主さんにお返しした事があったんです。でも、馬主さんからの「素質はあるはずだからどうしてもデビューさせてほしい」という熱意に動かされ、再び鍛えなおしたところ、レースに使っていくうちにどんどん強くなって、最終的に名馬となりました。
ファンとばん馬たちをつなぐ「ふれあい動物園」に込めた願い
服部調教師と言えば、『ふれあい動物園』を設立されたことでも有名ですね。
『ふれあい動物園』が設立されたのは、ばんえい競馬が帯広市単独開催になった2007年です。

競馬場には700頭あまりのばん馬たちがいるのに、競馬場に来てくれるお客さんが、身近で見たり、ふれてもらったりする場所がないのは何だか不自然なような気がしていました。ばん馬たちはとても大きいので一見怖く感じる人もいると思いますが、実際は穏やかで優しいということを知ってもらえる場を作りたいと考えました。
当時の競馬開催委員長に相談したところ、話はとんとん拍子で進み設立となりました。 はじめは調教師さんや騎手さんたちが手伝ってくれて、自分たちの手で馬小屋を作るところから始めました。
『ふれあい動物園』ではどんなことを楽しむことができますか?

現在はばん馬やポニーやヤギなどとふれあえるようになっています。にんじんをあげることもできますよ。隣には、ばん馬ギャラリーという休憩スペースもあり、私も時間を作ってみなさんと話をしたり遊んだりすることもあります。大きなばん馬を間近で見るとはじめは圧倒されると思いますが、おだやかなので、みなさん、だんだんと慣れて楽しんでくれていますよ。
乗馬教室などはありますか?
コロナ禍前は地域の方を集めての乗馬サークルがありましたが、現在は障がいを持つ方のための乗馬体験をやっています。最初は怖がっていても、頑張って馬に乗って笑顔になる姿を見ていると、「ふれあい動物園を作ってよかったな」と思います。
競馬廃止寸前の時代を支えてくれた、すべての人へ感謝を忘れずに
服部調教師のこれからの目標をお聞かせください。
これからも変わらず、目の前の1勝に向かって服部厩舎一丸となって頑張っていきたいと思います。
長年ばんえい競馬を応援してくれているファンの皆さんへメッセージをお願いします。
長年温かく見守ってくれたファンの皆さんや地元の皆さんがいてくれたからこそ、苦しい時代も踏ん張ってこれましたし、こうやってばんえい競馬が長く続いていると、いつも感謝しております。これからもぜひ応援してください。
北海道Likersの読者へメッセージをお願いします。
ばんえい競馬は世界で唯一帯広市だけで見ることができるレースです。大きなばん馬たちが人と共にダイナミックに戦う姿は、一度観戦してもらえればその魅力が伝わってくると思います。ぜひ2度でも3度でも遊びに来てください。

川原恵子
廃止寸前から奇跡の復活を遂げたばんえい競馬。競馬が無くなってしまうと、人もばん馬たちも行き場を失ってしまう大変厳しい存廃問題に揺れた2006年当時、服部調教師は多くの調教師をまとめる調教師会の会長として先頭に立ち、日々存続に向けて運動を続けてこられました。今現在も、数多の後輩に力強い背中を見せ続けているその雄姿には、ただただ頭が下がる思いです。
ばんえい競馬は、1レース最大で10頭まで出走することができます。その中で勝つのはたった1頭のみ。1勝の重みを誰よりも知っている服部調教師の大偉業に、本当に胸が熱くなります。改めて、本当におめでとうございます!
取材・文/川原恵子 写真提供/ばんえい十勝
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