重機を使い、競馬の公正を守る!馬場管理・渡部さんが感じる「プレミア感」とは
世界で唯一、帯広市だけで行われている“ばんえい競馬”。
体重がおよそ1トンもある大きなばん馬たちが、2つの大きな障害がある直線200mのコースで、騎手をのせた重いソリを曳き進み、その力強さや持久力を競い合うとてもパワフルな競馬です。ばんえい競馬が「ほかの競馬と大きく違う」と珍しがられる理由は、“軽種馬”のサラブレッドとは違う“重種馬”に分類される大型馬のレースであること。また、騎手が馬の曳く“ソリ”に乗って競うことなどが挙げられます。
今回お話を伺ったのは、ばんえい競馬で馬場管理を担当している渡部昌美さん。渡部さんにばんえい競馬を仕事にしたいきさつややりがいをお聞きしました。
渡部昌美(わたなべまさみ)。1970年生まれ、豊頃町出身。タイヤショベルのオペレーターを経て、2022年秋より馬場管理として勤務。最前線でばんえい競馬の開催運営を支える一人である。
今までの経験を活かし、新たなステージへの挑戦
北海道ライカーズライターKawahara:ばんえい競馬のお仕事に就いたいきさつを教えてください。
渡部さん:ばんえい競馬の開催される「帯広競馬場」では競馬以外にもさまざまなイベントが行われており、家族で何度か遊びに訪れたことがありました。
前職は重機オペレーターでした。伐採した丸太を建材に加工する製材工場へ勤めていた職業柄、レースをする本走路周辺のショベルカーやトラクターに目がいき……「何に使うのだろう、私もやってみたい!」と、とても興味が沸きました。その後、運良く重機オペレーターの求人募集があり、導かれるように2022年11月末に入社しました。
北海道ライカーズライターKawahara:渡部さんは馬場管理でどんなお仕事をしていますか?
渡部さん:入社当初は走路監視の補助から始めました。ばん馬たちは重いソリを曳くために頑丈な馬具をつけてレースに挑みますが、レース途中で競走を中止した馬が出た場合、馬具をその場ですぐに外す必要があります。その際の片付けの補助などをしていました。
現在は、重機を使ってばん馬たちの調教で使用する走路の整地をしたり、トラクターを使用したソリの重量測定やおもりの出し入れ、人手が足りていないポジションの手伝いをしたりしています。レース後に競走馬の検体検査で尿の採取をしたり、草刈りをしたり、依頼があればなんでもやっていますよ(笑)
北海道ライカーズライターKawahara:とてもパワフルですね! ところで、トラクターを使用したソリの重量測定とは何でしょうか?
渡部さん:ばん馬たちがレースで使用するソリの重さを量る作業です。ソリの重さは、“一律450kg”と決められています。そこで、レースを行う前に重機で持ち上げ、大きな計量機にのせて量るんです。レースでソリを使用し続けると摩耗し重さが変わるので、おもりで調整し必ず450kgにします。
最前線のポジションで「競馬の公正」を守る
北海道ライカーズライターKawahara:競走馬の尿を採取するとのことでしたが、何のためにするのですか?
渡部さん:ドーピング検査をするためです。ばんえい競馬では、レースで1着と2着になった競走馬はレース終了後、馬に禁止薬物を使用して出走させていないか調べるために、採尿検査をします。検体(尿)は栃木にある「公益財団法人 競走馬理化学研究所」へ送り、分析されます。
ソリの計量も競走馬の尿検査も、公正な競馬をするためにとても重要な作業です。
北海道ライカーズライターKawahara:競走馬たちに直に接する作業ですよね。怖くはないですか?
渡部さん:競走馬の検体検査は、レースを終えたばかりのまだテンションが高い状態の馬に対する作業ですので、正直怖いと感じる場面もあります。必ずヘルメットを装着し、できるだけ馬たちの動きに合わせて作業をするようにしています。
私が仕事をしていくなかで心がけているのは“けがをしない”ということです。周りの状況をしっかり考えながら、細心の注意を払い作業をしています。
検体検査の際は、馬たちに「はい、尿検査しますよ」と言っても伝わりません。ベテランの競走馬たちは「ここで尿をしたら厩舎に早く帰ることができる」とわかっているので作業は早いです。一方、デビューしたての若い馬たちは何をするのかわからない状況なので、とても時間がかかり根気のいる作業になります。
北海道ライカーズライターKawahara:ばんえい競馬で重機オペレーターの仕事をして特徴的だなと感じることはありますか?
渡部さん:作業の多くが“重機をバックで走行させること”です。
重機の作業は基本的に前に向かって進んでいくのですが、競走馬たちが移動で使用するパドック*からレースのスタート地点までの本馬場入場の道は、フルバックで真っ直ぐ走行します。また、冬場に行う競馬場内の除雪作業も今までの職場とは違い、バック運転で行うことが多いですね。
*パドック・・・レースに出走する馬がスタッフにひかれて周回する場所。下見所ともいう。
ばんえい競馬は「世界に一つだけの職場」
北海道ライカーズライターKawahara:ばんえい競馬の仕事に就いて大変だなと感じる事はありましたか?
渡部さん:真っ先に思い浮かぶのは“人の多さ”です。ばんえい競馬には、調教師さんや厩務員さん、そして競馬開催を運営するスタッフなど非常に多くの方が携わっています。私は今まで少人数の会社にいたので、はじめは人間関係に慣れず大変でした。
しかし、さまざまなお仕事の人たちと挨拶を交わしていくうちに、だんだんとなじんでいきました。調教師さんが「ショベルカーの運転うまいな!」と声を掛けてくださることもあるので、とても嬉しいですね。
北海道ライカーズライターKawahara:逆に、ばんえい競馬の仕事に就いて良かったと感じるのはどんなことでしょうか?
渡部さん:世界に一つしかないばんえい競馬に携わっているという“プレミア感”、たくさんの方と同じ目標に向かってばんえい競馬の運営に携わっている“一体感”を感じられることです。
ばんえい競馬の運営は、さまざまな会社から派遣される人たちによって成り立っています。会社の垣根を越えて周りの人たちに支えられ、助け合いながら仕事をできることがとても良いところだと思います。
北海道ライカーズライターKawahara:最後に、ばんえい競馬のファンの方へメッセージをお願いします。
渡部さん:ばんえい競馬のばん馬たちはとても大きく、重たいソリを力強く曳きながら障害をのぼる姿は圧巻です。
また、競馬場ではレースは以外にもさまざまなイベントが行われています。私もばんえい競馬で働く前は、玉ねぎの詰め放題をしたり、『人間ばん馬大会』を見たりして、“楽しい遊び場”のイメージがありました。『ふれあい動物園』にはかわいい動物がたくさんいますし、競馬場内の食堂や『とかちむら』にはおいしいものもあるので、隅から隅まで堪能してほしいです!
私はいつか、レース合間の本走路整備を担当するのが目標です。ぜひ遊びに来てくださいね!
ーーー渡部さんは”太陽のような人”というイメージがお似合いの、明るくて周りの人を笑顔にしてくれる方。とても楽しいひとときでした。
2000年代前半、数々の地方競馬場が経営危機で廃止されていったなか、同じく廃止の危機にあったばんえい競馬。2007年から帯広市での単独開催として生き残り、今年で17年目のシーズンを迎えています。それまで1年を道内4市(帯広市・旭川市・岩見沢市・北見市)で分けて開催されていた競馬が、年間を通して帯広市単独で開催。帯広市のみなさんにとって「ばんえい競馬は働く場所(雇用の場)」としての認識も定着していっているようです。
ばんえい競馬がさまざまなかたちで帯広市に貢献していることがわかる貴重なインタビューになりました。
連載「ばんえい競馬ではたらく人」では、ばんえい競馬を支える仕事に就くさまざまな人の魅力に迫ります。お仕事と記事の一覧はこちらから。
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