注目馬を数多く生産!「農耕馬からはじまった」竹澤さんのばん馬生産にかける想い
北海道帯広市で開催されている世界唯一の競馬・ばんえい競馬。体重1トン前後のばん馬たちが、重いソリを曳きゴールを目指します。
そんなばんえい競馬では、2023年に最高峰のレースである『ばんえい記念』を勝ち、名実ともに「現役最強」と言われる“メムロボブサップ”が活躍中。今回は、メムロボブサップの生産者であり馬主でもある芽室町の竹澤一彦さんにお話を伺いました。
竹澤一彦(たけざわ・かずひこ)。1959年生まれ、生まれも育ちも北海道芽室町。芽室町でばん馬の生産を行う。メムロボブサップ、タイトルボスなど強い注目馬を多く生産している。
農耕馬からばんえい競走馬へ。馬の生産の「やりがいとつらさ」
北海道Likersライターりゅうと:ばん馬の生産を始めたいきさつを教えてください。
竹澤さん:トラクターのない先代の時代から馬耕をやっていたことが、今のばん馬の生産に繋がっています。トラクターを使うようになってからは、ばん馬の生産に集中しました。シャトルシンザンやエビステンショウ*の時代ですね。メムロボブサップもルーツは馬耕で使っていた馬で、その馬にナリタボブサップ*をつけて生まれました。
北海道Likersライターりゅうと:生産者のお仕事や工夫されていることについて教えてください。
竹澤さん:朝に来年能力検査を受けるテスト馬に草を与え、放牧している馬に飼料を与えたり数を確認したりしています。めったにないですが、数が減っている場合は仔馬が死んでいることがあるんです。
工夫というと……獣医の先生の言ったことに逆らわないようにすることかな(笑) 1人の先生にずっと診てもらっているので、安心して任せられますね。種を付ける馬の相談にのってもらっていて、予算を組むこともできるので、かなり助かっています。
北海道Likersライターりゅうと:血統はどのように考えていますか?
竹澤さん:どれだけ血統がよくても、嚙みついたり蹴飛ばしたりしてしまう馬は、避けるようにしています。
また、メムロボブサップの血統は外には出さないようにしているんです。この血統を繋げていけば、またどこかで強い馬が出るのではないかと思っていて。辛抱して自分の信じた血統を続けていくことが大事ですね。
*シャトルシンザン、エビステンショウ・・・2000年代前半ごろに活躍したばん馬。
*ナリタボブサップ・・・2008年に『帯広記念』を優勝するなど、力強いレースで人気を得た名馬。
北海道Likersライターりゅうと:血統の観点以外で、強い馬の生産法などは考えていますか?
竹澤さん:とねっこ*のころに、平らではない、山や坂のある広い牧場で育てることですね。また、1頭飼いではなくまとめて飼うことで遊んで運動させています。怪我をすることもありますが、とねっこのころから一緒に飼うと喧嘩はしないものです。
北海道Likersライターりゅうと:坂のあるところで運動をさせることで、心臓や筋肉を発達させるということでしょうか?
竹澤さん:そうです。放牧はとても大切で、親に付いて坂を歩いていくといったことができるので、小さいうちから筋肉を付けておくことができると考えています。
北海道Likersライターりゅうと:生産者や馬主のやりがいやつらいことはありますか?
竹澤さん:やりがいは、強い馬を生産することですね。タイトルボスが能力検査を3番時計(3番目に速いタイム)で合格し、先日(2023年7月9日)第8レースの2歳A-2クラスでも勝ちました。若馬なので少し休ませてから冬に動かそうと考えていますが、A1*で競うことができそうなので楽しみです。
つらいのは、とねっこが死んでしまったり体質が弱く生まれてしまったときですね。
親馬は最近死なせていませんが、こっこ(馬のこども)が弱いのは仕方ないですね。草を十分に与えていても、乳の飲みが悪くなり、熱を出してしまうことがあります。たいてい39度を超えると、獣医さんでも手に負えなくなってしまうんです。
*とねっこ・・・その年生まれの仔馬。
*A1・・・A2の上のクラス。
ついに「ばんえい記念」を勝利!メムロボブサップ
北海道Likersライターりゅうと:メムロボブサップがついに『ばんえい記念』を優勝しましたが、小さいころから成長したなと思うところはありますか?
竹澤さん:胸囲がものすごく成長しました。腹と胸囲が変わらないんです。身体だけでなく、レースに向けて自分で気持ちを高められる点も、すごいと思います。休ませると“ストレスいぼ”が出るみたいです。
北海道Likersライターりゅうと:レースが好きな馬なのでしょうか?
竹澤さん:レースが好きというより本番が好きなのかな。練習で強い馬は結構いますが、本番でこそ強くなければいけません。メムロボブサップは本番でも強いタイプなので素晴らしいです。
北海道Likersライターりゅうと:『ばんえい記念』を勝ったときの気持ちを教えてください。
竹澤さん:ほっとしました。第2障害の後ろで見ていましたが、角度的にわからなくて。勝ったのではと思っていましたが、勝ちが確定したときには安堵しました。レース前から私も、調教師や騎手も緊張していましたからね。
北海道Likersライターりゅうと:メムロボブサップには、今後どのようになってほしいですか?
竹澤さん:スーパーペガサス*のように4連覇する馬もいますし、もう1回か2回くらいは『ばんえい記念』を勝ってほしいと思っています。アオノブラックなどのライバルはいますが、「1つ獲れたらもう1つ」というように1歩ずつ進んでいきたいです。
あとは、オレノココロ*が重賞25勝でメムロボブサップが現在(取材時時点:2023年7月14日)14勝ですので、並びたいですね。可能なのではと信じていますが、ハンデ戦である『ばんえいグランプリ』など、難しいのではないかと思う部分もあります。ハンデが付くのは仕方ないですが、あまり大きくなると厳しい戦いですからね。
*スーパーペガサス・・・『ばんえい記念』を2003~2006年にかけて4連覇している名馬。
*オレノココロ・・・重賞優勝25勝という重賞最多勝記録を達成。名実ともに最強馬として人気を集めていた。
1人の生産者・馬主として見据える。ばんえい競馬の未来
北海道Likersライターりゅうと:生産者として、また馬主としてこれからばんえい競馬に望むことはありますか?
竹澤さん:ネット投票などでもっと全国のお客さんに楽しんでもらいたいですね。レースの形式として、強い馬が1、2頭だけでなく5頭くらいで競い合うようなかたちも面白いのかなと思います。ライバルが競い合う面白いレースをしていれば、もっとお客さんも付いてくれるのではないかなと。
北海道Likersライターりゅうと:能力検査をやっていますが、今年注目している2歳の生産馬はいますか?
竹澤さん:やはりタイトルボスです。強くなるかもしれないですね。
北海道Likersライターりゅうと:メムロボブサップは買い手がつかず、とりあえずご自分でデビューさせてみたと聞いたことがあるのですが、タイトルボスは小さいころから強くなりそうだと感じていましたか?
竹澤さん:そればっかりは、なかなかわかりませんね。ある程度雰囲気などはありますが、3番時計を出すといったことはやってみないとわかりません。メムロボブサップも最初の練習ではグダグダして、まっすぐ走りませんでしたしね。だからこそ面白いです。
ーーー芽室町で馬耕に使っていた馬の血を繫ぎ、『ばんえい記念』の勝ち馬まで生産した竹澤さん。お話を伺うなかで、“強い馬を生産するには”、“今自分が所有している馬を勝たせるには”、“この先もばん馬の生産を続けていくためには”など、多くのことを考えてばん馬の生産を行っていることがわかりました。
このインタビューの2日後(2023年7月16日)に『旭川記念』を勝ち、強さを見せつけたメムロボブサップや、タイトルボスなど、竹澤さんの生産馬の活躍を1人のばんえい競馬ファンとして楽しみにしています。
連載「ばんえい競馬ではたらく人」では、ばんえい競馬を支える仕事に就くさまざまな人の魅力に迫ります。お仕事と記事の一覧はこちらから。
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