18年ぶりの誕生!「6度目の挑戦、ついに憧れの舞台へ」新人騎手・今井千尋さんの初勝利とこれから
世界で唯一、北海道帯広市で行われているばんえい競馬。直線200mのコースの中には大小2つの障害があり、ばん馬たちは約1トンものソリを曳いて速さや力を競います。レースの勝敗に大きく関わるのが、息を入れる(馬を止める)タイミングと障害の山を登るタイミング。これらを馬に指示するプロ、それがばんえい競馬の騎手です。
今回は18年ぶりに誕生したばんえい競馬の女性騎手・今井千尋騎手にお話を伺いました。
今井千尋(いまい・ちひろ)。2000年、北海道帯広市生まれ。今井厩舎所属。ばんえい競馬の女性騎手は史上4人目。11年ぶりの複数騎手同時デビューでもあり、同期は中村太陽騎手と小野木隆幸騎手。父は今井茂雅調教師。
6回目の受験で憧れの舞台へ
北海道Likersライターたてかわ:まずはデビュー、そして初勝利おめでとうございます。騎手試験は6回目の受験とのことでしたが、合格が分かった時のお気持ちをお聞かせください。
今井騎手:本当に涙が出るくらい嬉しかったです。
北海道Likersライターたてかわ:過去のインタビューでは、高校生のころから騎手を目指していたとお話しされていましたが、ここまで頑張ってこられた秘訣はありますか?
今井騎手:毎年不合格通知を見るたびにめげそうになったのですが、「自分でも乗ってみたいな」という思いが強くて。「来年もまた受けて、絶対騎手になってやろう」と、周りの人たちに支えていただきながら何回もチャレンジしていました。
北海道Likersライターたてかわ:厩務員のままでいいかなと思うことはなかったのですか?
今井騎手:落ちた直後は「騎手にならなくても……」と考えたりもしたんですけど、自分の担当馬がレースに出たり、憧れの鈴木恵介騎手が乗っている姿を見たりすると「やっぱりかっこいいな〜騎手になりたい!」と思っていました。
北海道Likersライターたてかわ:実際に憧れの騎手と同じ舞台に立ってみて、どのようなことを感じましたか?
今井騎手:隣で騎乗すると迫力が違うし、アドバイスをいただくときも、すごいなといつも思います。レース後の振り返りでも、つい自分より鈴木騎手ばっかり追ってしまいます(笑)
厩務員時代からの担当馬で初勝利!
北海道Likersライターたてかわ:デビュー週を終えて、ご自身の騎乗はどうでしたか?
今井騎手:全然思ったように動けないですし、ただただ緊張してしまって。少しでも「あ、これ失敗した」と思うとレース中でもパニックになってしまいました。乗る子(馬)には負担をかけてしまっていますが、頑張ってくれています。
北海道Likersライターたてかわ:デビュー3戦目での初勝利でしたが、騎乗馬は厩務員時代からの担当馬(ホクセイサクラコ)でしたよね。担当馬との初勝利はどうでしたか?
今井騎手:そうですね、サクラコちゃん。嬉しい気持ちもありましたが、最後まで目一杯頑張ってくれて「ラコちゃんありがとう」という思いが強かったです。今は運動からレースまで担当しているので、レースの時はパドックでも「あれ?なんでお前背中に乗ってるんだ?」って顔をしていますね(笑) 2歳のころは蹴られたり、引きずられたりいろいろあったので、思い入れの強い子です。
北海道Likersライターたてかわ:初勝利を挙げたのは日曜日ということでお客さんも多かったと思います。レース中、お客さんの声は聞こえるのでしょうか?
今井騎手:パドックでの「頑張ってー!」といった声援は聞こえますが、レースになると聞こえないです。もう少し落ち着いて乗れたら、周りの声が聞こえたり、位置取りも把握できたりすると思いますが、まだ慣れずに慌ててしまっています。周りを見る余裕を持てるようになりたいです。
北海道Likersライターたてかわ:地方競馬は勝負服を自分でデザインできますが、今井騎手はどのように決められましたか?
今井騎手:父(今井茂雅調教師)の勝負服がメロディーレーンの勝負服(水色地に白の山形が2本入ったデザイン)の水色をもう少し濃くしたような感じだったんですよね。自分が生まれる前で映像も残っておらず、父も「どんな色だったっけな〜」と言うし、母も知らないと言うので、実際の色味はわからないのですが、絶対に水色は入れようと思っていました。
最初は全く一緒にしようかなと思ったりしたんですけど、父が「それはやめとけば」と言うので(笑)山形1本にして、腕は好きなデアリングタクトの勝負服の柄を入れています。山形と腕には自分の好きな青、胴を父と同じ水色にしました。
北海道Likersライターたてかわ:騎手になってから、厩務員時代と1日のスケジュールは変わりましたか?
今井騎手:ほとんど変わらないですね。運動する馬も変わらないです。厩務員時代に担当していた馬はそのまま調教していますし、攻め馬で乗せてもらえる馬に触ることがあるくらいです。それ以外には、レース前に自分で手入れをして馬を装鞍所に連れて行っていたのが、今は朝のうちにある程度手入れを終わらせたら、あとは厩務員さんにお願いしてレースに馬を持ってきてもらうかたちに変わりました。
ばんえい競馬には女性専用の調整ルーム(レース前日から外部との接触を遮断して、騎手がレースに向けて心身の調整を行う部屋)が無いので、時間までに名前を書きに行って、開催日前日の金曜日夜8時前くらいに携帯を預けたら、自分の部屋に帰ります。厩舎地区の中に自分の部屋があるからできることですよね。
北海道Likersライターたてかわ:同じく今井厩舎から同期として中村太陽騎手もデビューされましたね。
今井騎手:「千尋も太陽も合格して良かった」と両親も喜んでいました。中村騎手が初勝利を挙げた時も、装鞍所で父と一緒になって応援していたんです(笑) すごく一生懸命な子なので、応援したくなりますね。
北海道Likersライターたてかわ:中村騎手は身長が高く、今井騎手は小柄と対照的です。レース運びに体格差は関係するのでしょうか?
今井騎手:手の長さもそうですけど、大きければ大きいだけいいというわけでもないと思います。とはいえ自分は身長が155cmなので160cmくらいはほしかったんですけど……伸びないですからね(笑) 筋トレをして、カバーしています。たとえばレースの道中、馬によっては自分の力じゃ止まらないんです。それで息が入れられなくて、山で止まってしまう場面も出てくると思うので、今後はちょっとずつ鍛えていかなければいけないと感じています。
やりたいと思ったら諦めないで
北海道Likersライターたてかわ:今後の騎手としての目標を教えてください。
今井騎手:周りの人の期待に応えられるような騎手になりたいと思っています。あとは馬に負担をかけないようになりたいです。「このレースで絶対勝ちたい」というのはないですが、一戦一戦大事に乗って、勝てたらいいなと思っています!
北海道Likersライターたてかわ:ばんえい競馬の騎手を目指す方、そしてファンの方へメッセージをお願いします。
今井騎手:自分は5回落ちてやっと6回目で受かったので、やりたいと思ったら諦めないで目指し続ければいつか叶うと思います。まだぎこちないところもいっぱいありますが、期待に応えられるように頑張りますので、これからも応援よろしくお願いします!
ーーー今回は、18年ぶりの女性騎手となる今井千尋騎手にお話を伺いました。終始素敵な笑顔の中に、騎手としての意志の強さを感じました。騎手としてこれから成長されて、ご活躍される姿がすごく楽しみです!
連載「ばんえい競馬の未来をつくる人」では、ばんえい競馬で活躍する若者たちに迫ります。伝統文化を次の世代へつなげる彼・彼女たちの想いとは。連載記事一覧はこちらから。
Sponsored by 楽天競馬