難関の騎手試験に一発合格!幼い頃からの夢を叶えた新人ジョッキー・中村太陽さんが描く未来

2022.12.27

帯広市で開催されているばんえい競馬は、馬の力強さを競うレースです。体重が1トン余りあるとても大きな馬たちが重いソリを曳き、「障害」と呼ばれる2つの大きな坂を乗り越え、最初にソリの最後部までゴールに到達した馬が勝利馬となります。

ばんえい競馬のルーツとされているのが“草ばん馬”です。明治時代の開拓期から人間と共に広大な北海道を馬力で開拓した農耕馬たち。多くの家庭で飼われていた馬達の中で一番の力持ちはどの馬かを競い合っていたことが始まり。道内各地や東北で頻繁に行われ、やがて祭となり、ばんえい競馬へと発展しました。

2022年12月、ばんえい競馬に新人騎手が3人誕生しました。騎手が複数人誕生するのは11年ぶり、また女性騎手の誕生も18年ぶりということで、ファンの間で明るい話題となっています。今回お話を伺ったのは新人騎手の一人、中村太陽さん。中村さんにばんえい競馬騎手を目指すまでのお話や、これからのばんえい競馬への思いを語っていただきました。

中村太陽(なかむら・たいよう)。2002年生まれ、森町出身。今井茂雅厩舎所属。2022年度第2回騎手免許試験に新規合格し、12月よりばんえい競馬騎手としてデビュー。勝負服は同赤・白一本輪、袖白。尊敬する島津新騎手のデザイン赤白をモチーフに、白一本輪は好きな数字”1”を表しているそう。

ばんえい競馬の未来をつくる人

道南森町で騎手の技術を磨いた少年時代

ばんえい中村太陽騎手

今回の取材はオンラインで行いました。 出典: 北海道Likers

北海道LikersライターKawahara:ばんえい競馬の騎手になりたいと思ったきっかけを教えてください。

中村騎手:祖父の代からばん馬の生産と馬主をしていたので、幼い頃から生活の中に馬がいる環境で育ちました。「ばんえい競馬の騎手になりたい!」と思ったのは、小学校4年生の頃、初めて草ばん馬のレースを見た時です。大きなばん馬たちがソリを曳き進む力強さと迫力に「こんなすごい競馬があるのか!」と衝撃を受けました。その後、帯広競馬場で騎手の姿を初めて間近で見て「かっこいい!僕もばんえい競馬の騎手になりたい!」と思ったのがきっかけです。

北海道LikersライターKawahara:ばんえい競馬の騎手になるためにどのような練習をしていましたか?

草ばんば

草ばん馬大会の様子 出典: ばんえい十勝

中村騎手:小学生の頃から大人に混じって草ばん馬の大会に参加していました。当時は北海道各地で開催されていたので、地元道南だけでなく他の地域の大会にも積極的に参戦しました。

騎乗はどうしても大人と比べて技術差があったので、いろいろな人のレースを見ながら練習していました。特に同じ道南でばん馬の生産をされている島津新騎手のお父さんからは騎乗技術や競馬のレースについてたくさん学びました。草ばん馬の世界で大変有名な方で、大きな影響を受けています。島津新騎手のレースもよく見て勉強していました。

草ばん馬で1戦ずつ積み重ねていくうちに、「どうやったら勝つことができるか」自分なりに考えることができるようになりました。

一度目の受験で難関の騎手試験に合格!

ホクセイタイヨウと厩舎にて

ホクセイタイヨウと厩舎にて 出典: ばんえい十勝

北海道LikersライターKawahara:所属する今井厩舎はどのような雰囲気ですか?

中村騎手:今井調教師は、いろいろな面で指導してくださいます。僕は少しせっかちな面があるので、もう少し落ち着いて乗れるようにと声を掛けていただきます。

厩舎はみんなが一致団結していてとてもいい雰囲気です。厩務員同士も仲が良く、馬は人になついていて信頼を寄せているのがわかります。厩務員たちのポケットには常ににんじんが入っていて、馬がいいことをしたりしっかりと人間の指示に答えられたりしたときにあげています。馬もそれをわかっているので、どの馬も人を見たらポケットに顔を寄せて口を“はむはむ”と動かし食べようとします(笑) 人と馬が家族ぐるみという印象です。

北海道LikersライターKawahara:騎手を目指す中で、どんなことが大変でしたか?

中村騎手:ばんえい競馬は厩務員の仕事をしながら騎手を目指すため、仕事と勉強の両立が本当に大変でした。すべての仕事が終わり疲れた状況で勉強をしていたのできつかったですね。

北海道LikersライターKawahara:同じ厩舎から今井千尋さんも騎手試験に合格されましたね。

お披露目会にて。左から今井騎手、小野木騎手、中村騎手 出典: ばんえい十勝

中村騎手:同じ厩舎に同じ目標を持った千尋さんがいたことは自分にとってプラスだったと思います。千尋さんには騎手試験に向けての勉強法を教わりました。

北海道LikersライターKawahara:騎手試験の合格について、ご家族はどのような反応でしたか?

中村騎手:合格は電話で伝えたのですが、家族はみんなすごく喜んでくれて。電話越しからも喜びが伝わってきました。僕自身は初めての受験で合格したので、喜びよりも驚きが大きかったです(笑)

変化する時代にあっても北海道の馬文化を守りたい

初騎乗の様子 出典: ばんえい十勝

北海道LikersライターKawahara:念願の騎手となりました。これからどんな騎手になっていきたいですか?

中村騎手:初めて騎手になりたいと思った小学生の頃、僕にとってばんえい競馬の騎手は本当に憧れの存在であると同時に、夢のまた先にいるとても遠い存在でした。いつか騎手になれるその日を目指して練習を続けてきました。その夢が叶った今、まだ実感がないけれどついにスタートラインに立つことができました。この気持ちを大切に皆さんに信頼される騎手になれるように頑張っていきたいと思います。

北海道LikersライターKawahara:ばんえい競馬の仕事に興味のある方へメッセージをお願いします。

中村騎手:ばんえい競馬を長く続けていくためには、これからも多くの若い力が必要です。この仕事に興味を持っている人と、ぜひ一緒に盛り上げていけたらと思います。また、帯広競馬場へ一人でも多くの方に来てもらえたら、ばんえい競馬で働く人たちの励みにもなると思っています。レースを通じて、ばんえい競馬に興味を持ってもらえるように頑張っていきたいです。

北海道LikersライターKawahara:最後に、ばんえい競馬のファンへメッセージをお願いします。

2022年12月11日(日)の第6レース。ジェイスターに騎乗し、見事初勝利! 出典: ばんえい十勝

中村騎手:「おっ新人騎手たち、頑張っているな!」と思っていただけるように、そして3人で先輩騎手たちに追いつけるように取り組んでまいりますのでぜひ応援してください。よろしくお願いします!

ーーー「僕は人見知りしない性格です(笑)」と終始明るい笑顔で答えてくれた中村太陽騎手。子どもの頃からの夢に向かって、純粋にひたむきに努力を続けてこられた姿がとても印象的でした。たくさんの方に愛され信頼される騎手になりますように。応援しています!

連載「ばんえい競馬の未来をつくる人」では、ばんえい競馬で活躍する若者たちに迫ります。伝統文化を次の世代へつなげる彼・彼女たちの想いとは。連載記事一覧はこちらから。

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