命を繋ぐ量産と美味しさ全振り。ミシュランシェフを唸らせる十勝・兄弟農家の挑戦

北海道Likersの連載『情熱の仕事人』では、北海道のさまざまな分野の“仕事人”を取り上げ、その取り組みや志、熱い想いなどを紹介しています。 北海道の未来をつくる仕事人たちの情熱の根源とは……?

今回は、北海道十勝地方の北部、上士幌町で4代続く『須田農場』を牽引する、須田侑希さんと和雅さんご兄弟にお話を伺いました。彼らの育てる野菜は、東京のミシュラン三つ星レストランでも使用され、その圧倒的な“美味しさ”で高い評価を得ています。

“日本の食料基地として量産責任を果たすこと”と“究極の美味しさを追求すること”。一見相反する2つの農業を両立させるご兄弟に、農業への熱い想いを伺いました。

画像:須田農場

兄・須田侑希(すだ・ゆうき)。
1994年生まれ。北海道立農業大学校卒業、花・野菜技術センターで野菜の研修を半年間受講後、2015年就農。
職業農家、趣味家庭菜園。

弟・須田和雅(すだ・かずまさ)。
1996年生まれ。拓殖大学北海道短期大学卒業後、2016年就農。職業農家、趣味家庭菜園。

直感と理論。お互いを補い合う兄弟の絆

北海道では、農地面積の観点から長男が単独で家業を継ぐことが多く、兄弟で一緒に農場を経営するのは珍しいケースです。しかし、須田農場ではご兄弟がタッグを組み、独自の経営スタイルを築き上げています。

兄・侑希さん:子どもの頃から畑で遊び、土や植物と一緒に育ちました。僕は長男として農家を継ぐものだと思って農業高校に進学したのですが、そこで学んだことが転機になりました。今まで感覚的に知っていた植物の特性が理論で説明できると知ったとき、農業が俄然面白くなったんです。

弟・和雅さん:僕も農業高校で、冬に無暖房で野菜を作る研究をしていて、その面白さに惹かれました。先に兄が家を継ぐと決まっていましたが、自分も農業をしたいと言ったときに、兄も父も反対せずに一緒にやればいいと言ってくれました。僕はどちらかというと理論に基づいて考えるのが得意で、兄は僕が苦手な人前でも一流シェフの前でも堂々と話しができる気持ちの強さがある。お互いに足りない部分を補い合える関係なんです。

先人へのリスペクト。「命を繋ぐ農業」と「心を満たす農業」の両立

須田農場最大の特徴は、食料としての野菜を大量生産する大規模な畑と、美味しさに特化したこだわり畑という、2つの農業を並行して行っている点にあります。

画像:須田農場

侑希さん:十勝の農業の原点は、開拓者たちが飢えと戦いながら、子どもたちに食べさせるために命がけで土地を切り拓いた歴史にあります。祖父の代は食べるものに困るほど貧しく、父の代になってようやく日本の食料基地として量産化が進みました。僕たちが今“美味しさ”を追求するという贅沢ができるのは、先人たちが命を守る農業の基盤を築いてくれたからです。

画像:須田農場

だからこそ、須田農場では“量産をして人の命を守る”という農家としての最大の責任を果たした上で、人々の心を満たす“美味しさ”に全振りした挑戦を続けています。

科学で引き出す美味しさ。60年続く「土づくり」と「品種選び」の潔さ

「甘い野菜が美味しいなら、砂糖が一番美味しいはず」と和雅さんは語ります。須田農場が考える美味しさとは、単なる糖度ではなく、アミノ酸や揮発性有機化合物といった微細な成分が織りなす“重層的な風味”です。その複雑な旨味を引き出す最大の要因が、土づくりと品種選びです。

画像:須田農場

侑希さん祖父の代から60年間、『休閑緑肥(きゅうかんりょくひ)』という土づくりを続けています。収益にはなりませんが、畑を休ませるためだけに1年間、緑肥(畑の栄養になる植物)を育てることで土壌が豊かになり、微生物が活性化し土を豊かにします。味の奥行きを作るアミノ酸などは、植物の代謝回路が活発化することで生まれます。ミネラルバランスを適切に管理することで代謝回路がよりよく回り、重層的な旨味成分が作られます。農業は科学なんですよ。

品種選びにおいても、理論と潔さが光ります。

和雅さん:僕たちは品種の持つ微細な味がしっかりと発現している野菜が美味しい野菜だと思っています。そのためにはポテンシャルの高い品種選定が重要で、毎年30〜50種類もの野菜を試験栽培しています。僕たちが選ぶのは、誰が作ってもそこそこの点数が取れる品種ではなく、技術次第で100点以上の“上振れ”が狙える、味のポテンシャルが極めて高い品種です。毎年勝ち抜き戦をして、須田農場の土で一番美味しくなる品種を選んでいます。

ミシュランシェフも驚愕。ポテンシャルを引き出す「熟成じゃがいも」

そのこだわりが結実した代表格が、三つ星レストランから指名買いされるじゃがいも『きたひめ』です。一般的にはポテトチップスなどの加工用とされ、味が淡白だと思われがちな品種ですが、須田農場の土と技術で健康に育て、さらに低温で数ヶ月熟成させることで、極上のじゃがいもへと変貌します。

画像:須田農場

和雅さん:『きたひめ』は風味が繊細なので、ご家庭で食べるなら蒸すかレンジでチンして、塩もつけずにそのまま食べるのが一番美味しいです。一方で星付きレストランのシェフたちは、その素材の力を土台にして、僕たちの想像を超えるような一皿に仕上げてくれます。

自信作である野菜たちを、卸売業者を通さず、自らの手紙を添えて直接トップシェフへ送り届けるという“ダイレクトなアプローチ”が、現在の確固たる評価へと繋がっています。

食べる人に、生産者の背景を少しだけ想像してほしい

冬には最低気温がマイナス20度を下回る過酷な環境で甘みを凝縮させた『寒締めほうれん草』の栽培や、気候変動を見据えた北海道でのさつまいも栽培など、兄弟の挑戦は尽きません。彼らが見据えるのは“農家の未来”です。

画像:須田農場

侑希さん:今の市場では、野菜の価格は主に見た目や規格で決まってしまいます。しかし、僕たちは“味”で正当に評価され、適正な価格がつく世の中にしていきたい。農家がきちんと稼げて、かっこいいと尊敬される職業にならなければ、若い世代は農業をやりませんし、この国の食料生産は守れません。

和雅さん食卓にあがる野菜は食べてもらうために農家が一生懸命作ったものです皆さんが野菜を食べる時、少しだけでいいので、それを作った生産者の努力や背景を想像してもらえたら嬉しいです。僕たちの日常や野菜づくりへの思いはSNSでも発信しているので、ぜひ覗いてみてください。

最後に、あなたの北海道Likeを教えてください

和雅さん:北海道・十勝の魅力は、開拓からの歴史が浅く、先人たちが切り開いた土地の息吹を今でも直接感じられるところです。三国峠の壮大な手つかずの自然と、広大なナイタイ高原牧場や畑の景色を見比べると、何もなかった場所を今の食料基地にまで作り上げた先人たちの凄まじい努力に思いを馳せることができます。それが私の“北海道Like”ですね。

侑希さん:私は上士幌町ならではの『熱気球』ですね。熱気球を飛ばすだけならどこでもできるかもしれませんが、上士幌町が熱気球の聖地と呼ばれているのは、地元の農家が協力しているからなんです。収穫が終わった空いた畑を、熱気球の着陸場所として提供しています。農家同士の助け合いや地域への協力体制が根付いているところも、この地の大きな魅力だと感じています。

北海道Likers編集部のひとこと

お二人が作り出す農作物は、まさに“自然との共作”。

取材を通して、口にする食べ物の背景にどれだけの試行錯誤と情熱が隠されているかを知りました。読者の皆様もぜひ、須田農場のSNSなどをチェックし、ご兄弟の情熱に触れてみてください。

取材・文/北海道Likers編集部 取材協力/須田農場