左から:白糠印刷株式会社 佐々木社長、白糠町役場 ふるさと納税推進係 林、白糠印刷株式会社 佐々木幸希さん、元とみやストア社長 吉松さん

廃業の危機から復活!白糠町のソウルフード「鳥じん」を異業種が受け継いだ感動の物語

“運動会で青空のもと、家族で囲んだ焼肉”、“夏休みの夕暮れ、庭に広がるあの香り”。北海道白糠町(しらぬかちょう)で育った人々にとって、焼肉に欠かせない味付け肉『鳥じん・らむじん・ぶたじん』は、単なる食べ物ではなく“思い出そのもの”です。

しかし2025年、50年以上にわたりこの味を守り続けてきた製造元の廃業により、町のソウルフードは消滅の危機に直面しました。その絶体絶命のピンチに「この味を消すわけにはいかない」と立ち上がったのは、なんと町内で3代続く印刷会社の社長でした。

肉の加工とは無縁の異業種による事業承継。途絶えかけたバトンはいかにして繋がれたのか。そこには、時代ごとに血縁を超えて味を守り抜いてきた人々の、熱きドラマがありました。

50年前のバーベキュー文化から。血縁を超えて受け継がれたバトン

今回廃業を決断した『とみやストア』の吉松俊幸社長がこの味を作り始めたのは、実は吉松さんの代からではありません。今から50年ほど前、白糠町の人口は現在の倍ほどあり、町内には30軒ほどの個人商店がひしめき合っていました。花火大会や商工会の祭りなど、人が集まる行事には必ずバーベキューをする文化があり、各商店がオリジナルの味付け肉を販売していたそうです。

そんななか、吉松さんの知り合いだった『宮本商店』がコンビニエンスストアへ業態転換することになり、「もう作ることができないから」と、当時人気だった味付け肉『らむじん』の製造をとみやストアに託しました。血縁関係はなくても、共に町で商売をする仲間として受け継がれたバトンだったのです。

その後、吉松社長は時代の荒波の中で奮闘します。2019年の消費税10%やキャッシュレス化の波、さらにはコロナ禍や大型チェーン店の進出を受け、高齢の顧客への配慮から新しいレジ導入を断念。実店舗をたたんで『鳥じん・らむじん・ぶたじん』の製造販売に特化しました。

地元に根付き、ふるさと納税の返礼品としても売れ行きは好調でしたが、夫婦で「65歳になったらやめる」と前々から決めていたゴールに向けて全力で走り抜き、2025年、ついに事業を閉じる決断を下しました。

なぜ印刷会社が?“ふるさと納税の中間事業者”だから気づけた真の価値

『鳥じん』が消滅するという知らせを聞き、「もったいない!」と真っ先に声を上げたのが、町内でカレンダーや行政指定ゴミ袋などの印刷を手掛ける『白糠印刷株式会社』の3代目、佐々木啓行社長でした。

まったくの異業種である佐々木社長が事業承継を考えた背景には、白糠印刷が持つ“もう一つの顔”が関係しています。実は同社は、白糠町ふるさと納税の中間事業者として、長年ECサイトの運営や返礼品の発送業務を担ってきました。佐々木社長が20代だった頃、ITやペーパーレス化の流れにいち早く危機感を抱き、持ち前のチャレンジ精神で未経験ながらECの世界に飛び込みました。その後、2010年から白糠町がふるさと納税の返礼品贈呈を開始した際、そのEC運営の経験が大きく活きることになります。

日々の業務を通じて、『とみやストア』の商品が町民だけでなく、全国の寄付者からも深く愛されていることを、佐々木社長は誰よりもデータと肌感覚で理解していました。自身も白糠で育ち、運動会や夏休みの思い出にこの味があるからこそ、「これを次の世代に繋いでいくのが自分の使命なのでは」と考えるようになったのです。

スライサーを握るのも初めて。ゼロからの工場建設と“秘伝のタレ”の伝承

とはいえ、肉の加工はまったくの畑違い。「自分にできるだろうか?」と不安を抱える佐々木社長の背中を押したのは、吉松社長の「そんなに難しく考えるな、俺が全部教えてやるから大丈夫だ」という力強い言葉でした。さらに、白糠町で活躍する他のバイタリティ溢れる事業者や、異業種から水産会社を事業承継した同年代の社長の存在も大きな刺激となり、2026年2月、ついに承継を決断します。

そこからの日々は怒涛の連続でした。工場の建設、各種申請、機材の準備、関係各所への説明を猛スピードで進め、なんとか4月からの製造開始にこぎつけました。

製造管理責任者として現場を牽引するのは、佐々木社長の妻・幸希さんです。「あの鳥じんを自分たちが引き継げるなんてすごい!」と夫の挑戦を全力で応援し、スライサーを握るのも初めてという状態から、新たに採用した三上玲美さんとの二人体制で製造をスタート。師匠である吉松社長の直接指導のもと、技術と“秘伝のタレ”のレシピを完全に習得し、無事に新しい工場での生産が軌道に乗りました。

商売の喜びは儲けることだけじゃない。白糠町から全国へ

「商売の喜びは、儲けることだけじゃない。お客さんに喜ばれながら続けていけること。それが一番だよ」。吉松前社長のこの哲学は、見事に佐々木ご夫妻へと受け継がれました。血縁ではなく「想い」で受け継がれてきたことを知った佐々木社長は、「自分の代が守り育てて、また次の世代に必ずつないでいきます」と力強く語っています。

北海道Likers編集部のひとこと

現在、新体制で作られた『鳥じん・らむじん・ぶたじん』は、道の駅しらぬか恋問館や町内スーパー、釧路の和商市場などで販売されているほか、白糠町のふるさと納税返礼品としても再び全国へ届けられています。

秋鮭やいくら、そして近年ブランド化が進む『極寒ぶり®』など、豊かな海産物で知られる白糠町ですが、町民のソウルフードである『鳥じん』もまた、町が誇る大切な宝物です。

地方の優れた商品が後継者不足で失われていく現代において、この血縁や業種を超えた白糠町の事業承継は、日本中の地域に勇気を与える素晴らしいモデルケースとなるでしょう。

文/北海道Likers 画像・参考/北海道白糠町
※この記事はリリース時点の情報です。最新の情報は各店舗・施設にお問い合わせください。

 

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