函館はオーラがすごい!? さらに若者に来てもらうための次の一手

2023年10月7日(土)・8日(日)、公立はこだて未来大学において『NoMapsはこだて2023』が開催されました。

「NoMaps(ノーマップス)」は、北海道を舞台に新しい価値を生み出す大きな枠組みで、クリエイティブな発想や技術で次の社会・未来を創ろうとする人たちのための交流の場(コンベンション)。2016年から産学官の連携により始められた取り組みは、これまで札幌などで開催されてきましたが、今年は函館でも開催されました。

『NoMapsはこだて2023』では、「あなたとつながる『シン・道南』」をテーマに、「公立はこだて未来大学(以下、未来大学)」にて2日間にわたりトークセッションが行われました。今回は見どころたっぷりだった基調講演の様子をお伝えします!

函館市長から北海道ゆかりのトップランナーまで!

231007nomaps002.JPG

左から、仙石智義氏(NoMapsはこだて実行委員長)、柴田氏、大泉市長、五十嵐氏、山田氏 出典: NoMapsはこだて実行委員会

柴田氏:「株式会社とける」代表の柴田と申します。今回モデレーターを務めます。最初にお三方から自己紹介をお願いいたします。

大泉氏:函館市長の大泉です。2023年4月27日から函館市長をしています。私は30年間地方公務員で、函館市役所に勤めていました。最初は行政課という、文書法制や事務事業、組織機構の組み立てをするところでした。それから国際交流課や観光の仕事、保健福祉の仕事をしました。

私は地方公務、とくに基礎自治体の仕事が大好きです。理由は住民のみなさんと直接話せるから。ときにはぶつかったり、クレームをいただいたり、強烈な意見をいただいたりするのですが、それができるのが基礎自治体の職員の特権なので、30年間、悩んだり苦しんだりしながらも楽しんでやってきました。今も同じことをしています。役所に入ったころと同じように、地方自治を地道にやっています。どうぞよろしくお願いします。

五十嵐氏:みなさんこんにちは。「株式会社大人」をはじめ複数の会社をやっていますが、今日は「NoMaps」総合プロデューサーという立場で来ました。僕自身、生まれは小樽市、中高は札幌で育ち、大学から東京に出ました。「株式会社大人」を起業し、4年前に完全に北海道にUターンしました。

仕事は、場づくりの仕事です。実際にお店やコミュニティスペースを作ったり、最近では積丹町で温泉の再生など、リアルな場所の仕掛けを作ることと、一方で、町作りや移住、起業など、地域をどう元気にするかという企画をやらせてもらっています。

その中で、「NoMaps」は札幌で開催するイベントとして7年前にスタートしています。北海道を盛り上げたいという人たちが集合して、いろいろな企画を同時に繰り広げるイベントです。今年は函館初開催です。『NoMapsはこだて』をスタートし、今回このメンバーでお話できるのがとても楽しみです。よろしくお願いします。

山田氏:「株式会社アドウェイズ(以下、アドウェイズ)」代表の山田と申します。僕は「未来大学」に4年間通っていました。4期生だったのでまだ卒業生がいないときに入り、4年間勉強をして、東京に出て、「アドウェイズ」に新卒で入りました。それから10何年経ち、今は社長をやらせてもらっています。

「アドウェイズ」はインターネット広告の会社で、みなさんが普段見られているYouTubeやスマートフォンのアプリ、webサイトの広告のクリエイティブを作ったり配信する仕組みを作ったりしています。2020年に東証プライムに上場しているので、ちゃんとした会社です。会社の規模としては、年間600億円ほどの売り上げがあり、従業員は1,200人ほどいます。我々としては、「全世界に“なにこれすげー こんなのはじめて”を届け、すべての人の可能性をひろげる“人儲け”を実現する」ということを会社の存在意義に掲げています。何か驚きを与えたりとか、人が成長するようなことを事業としてやっていきたいと考えています。

おそらく広告好きな人はいないと思うんですよね。邪魔だなと。広告の会社や広告を出す企業がお金儲けをしようとしすぎると、全く関係のないみなさんが邪魔な広告を見せられ、嫌な気持ちになることが世の中で起こっていると思います。これは広告だけでなくいろいろな産業で起こっていて、そのような問題をなくしていこうという動きがSDGsだったりすると思います。僕らとしては、もちろん広告でお金を稼ぐ会社ではあるのですが、世の中により良い広告を届け、世の中を良くしていき、お金を稼ぐようになっていきたいと考えています。

「未来大学」からアドウェイズに入った社員がこれまで28人いました。大学の中でも採用数がとても多いです。

僕は函館を出てしまったのですが、東京にいる身として、どうやったら函館が良くなるかについて、今日はお話したいと思っています。よろしくお願いします。

柴田氏:ありがとうございました。僕も簡単に紹介させていただきます。「株式会社とける」という会社をやっていまして、いろいろなコミュニティ作りに貢献しています。その中で、『U35札幌』という22~35歳の産官学民のさまざまな世代が集まるコミュニティの発起人として代表をしていたり、五十嵐さんと一緒に北海道の移住を促進する『北海道移住ドラフト会議』という野球のドラフト会議にちなんだマッチングイベントの代表を務めたりしています。よろしくお願いします。

それでは、「アドウェイズ Presents リーダーに聞く“若者に選ばれる街”になるには?」ということで、市民のみなさまに事前に質問をさせていただき、答えをいただいているので、それに沿って進めていきたいと思います。

もっと函館に来てほしい!

柴田氏:「Q1:函館・道南から若者が離れてしまっている状況です。函館の課題は何ですか?」という質問がきています。函館だけがこの課題に向き合っているわけではありません。全国です。アンケートでとくにチェックが多かった地域活性化、雇用、経済、子育て支援をベースに、みなさんのお考えを聞けたらと思います。

大泉氏:若い方は、高校を卒業すると函館から出てしまいます。そしてUターンしてくれるかというとしてくれない。

もっと言うと、若い人よりも先生や親が「もう函館にいてもしょうがない」となりつつあるんですね。大学で函館を離れるというよりも、例えばスポーツが得意だったら、中学校ぐらいから「ほかの街で自分のスポーツを伸ばそう」といったこともある。「とにかくこの街を出たい」から始まる方も多いですよね。

親が思っていると、子どもにも乗り移っていく感じがあると思うのです。ときには議員さんも「函館はどうせダメだから」と口走ってしまう。本音でないにしても口から出たりする。地域全体のマインドが負のスパイラルに落ちてしまっているんですよね。これを逆回転させなければいけないと思います。とても難しいようだけれども、「やればできるね、この街も」ということが1つ、2つ起きてくると、相乗効果が出て必ずできると思います。

私の公約の中で「未来大学」の授業料の無償化が入っています。すぐにはできないのですが、今検討しています。そして、「この地域は子どもや教育など、未来に向かってしっかり投資をしている」ということを発信し理解してもらうことが重要です。

また、都市ブランドの確立も必要です。幸いなことに、函館は都市ブランドが確立されています。『市区町村魅力度ランキング』で1位を何度も取っているので、これを活かしていきたいと思っています。

未来への8つの扉

大泉市長の8つの提言(大泉じゅん公式サイトより) 出典: 北海道Likers

柴田氏:ありがとうございます。大泉市長のオフィシャルウェブサイトにも8つの提言が書かれていて、今回のセッションに非常に参考になりました。みなさんもぜひ一度見てもらえたら嬉しいです。では、山田さんにもお聞きしたいと思います。

山田氏:僕は北海道の縮図のような人生を歩んでいると思います。函館は僕からするとまだ都会ですね。僕が生まれたのは遠別町という道北の小さな町なのですが、高校まで行った時点で人口が4,000人で、今は2,500人くらいまで減ってしまいました。何もないところで生まれたので、そこから自分が働いて人生をかけて大きなことができるというイメージは正直湧かなかったこともあり、大学で函館に出ました。

「未来大学」で勉強しているなか、当時インターネットを使って新しいサービスを作れる会社を探しましたが、残念ながら北海道にはなかった。親としては地元にいてほしいということがありましたが、結果的には東京に出て「アドウェイズ」に入りました。

やはり若い人が人生をかけて「こういう仕事をしたい」とか「こういうことをして、もしかしたらお金持ちになれるかもしれない」というような、仕事で夢がある状態は必要だと思います。おそらくそういったものが足りないので、札幌なり東京に出てしまうのだと感じます。函館には観光があるので魅力もあるのですが、やはり“働く上で魅力かどうか”は1つあると感じます。

柴田氏:ありがとうございます。北海道地方出身である山田さんが東京の大きな会社の代表になっているのは希望があると思いました。では、五十嵐さん。積丹や小樽などたくさんの地域に関わってきた中で、課題の共通点などがあると思いますが。

五十嵐氏:そうですね。若者がいなくなり戻ってこないのは、もはや札幌ですらそうです。北海道で札幌極集中と言われるのですが、それは中高年の方が雪かきが嫌だという理由や、病院が札幌に充実しているからという理由で流入しているのであって、若者は流出しているんですよね。基本はみんな東京へ行くことがリアルだと思うのですが、ではその人たちがどうしたら戻ってくるのかを真剣に考えるのは、とても大事じゃないかと思っています。

最近、作ったらいいのにと思っていることは、“地元に戻ってきたら返却しなくてもいい奨学金”です。戻ってくることにインセンティブをつけるようなことは面白いのではないかと思います。

年上の大先輩たちが街を作り支えてきたことは間違いないのですが、一方で、その方たちが昔ながらのスタイルを続けるのはとても問題があると感じています。“何かあったらどうしよう病”を駆逐しないといけないというのは大テーマです。人口減少が続く今、もはや同じことをしていたら未来がないのに、新しいことをすることに対しての抵抗が非常にあるわけですよね。

若い人たちが「何か変えなきゃいけない、何かしたい」というなかで、上の世代が重箱の隅をつついて「こうだったらどうするの」ということだと、街自体のイノベーションも生まれませんし、若者も「もう嫌だよ」となってしまう。そこを変えていくのはとても大事で、それはリーダーができる部分なのかなと思います。

柴田氏:ありがとうございます。情熱溢れるお話でした。

函館の好きなところ・ほかのまちにはない魅力とは

柴田氏:みなさまに投げさせていただいた次の質問は「函館の好きなところ、ほかの街にはない魅力は何ですか?」でした。「安価でおいしいものが食べられる」「市内から空港や新幹線の駅が近い」など、たくさんの声が届いています。函館の素晴らしいところ、魅力は何かというところを聞いていこうと思います。

大泉氏:本当にたくさんあるので、挙げればキリがないです。一言で言えば、オーラが違う。例えば空港や駅に降りた時に全く“オーラ”が違うと思っています。住んでいる人からすれば当たり前の景色かもしれないですが、砂浜があり、港湾があり、函館山があり、五稜郭があり、トラピスチヌ修道院があり、今や世界遺産の縄文文化もあるという。

しかし、景観やきれいさではない、本当の魅力は人間だと思います。函館の人は閉鎖的だとか、とっつきにくいと言われることがあります。けれど、最初のとっつきにくさを一歩踏みこむと、非常に人情味があったり、あたたかかったり、「この人と会って良かったな」という人がとても多いです。函館の“オーラ”を一番感じるのは実は人間なのです。それがこの街の一番の魅力です。

柴田氏:大泉市長が何気ない日常を美しく描写できるのが素晴らしいと思いました。先ほどのお話にあったように、「うちの街には何もないよ」と大人が子どもに伝えてしまうと、子どもはそのイメージで育ってしまいます。大泉市長のような情熱で子どもたちへ函館の魅力を伝えてくれる大人がもっと増えたらいいと思いますし、函館はこれだけ素晴らしい場所なのだと気づかされました。

では、仕事や観光で来ることが多い五十嵐さんの視点で函館の魅力を教えていただけますか。

五十嵐氏:「オーラ」という言葉がしっくりきました。色気みたいなものがあるという印象です。少ないコンテンツをどう発信していくかを頑張っているまちが多い中、函館は贅沢すぎるのかもしれないですね。逆に、そのままでも何とかやれて来られた。

北海道内でいうと、人口が5,000人を切るぐらいのまちが面白い動きをしています。5,000人を切ると高校が保てなくなります。中学を出たらまちを出なければいけないというなかで、危機意識が高まり、首長やキーマンが面白い動きをしています。函館はあまりに魅力があるから、全員で危機意識を持ちにくいという側面はあるのかなとも思います。魅力の裏返しですね。

柴田氏:それはあるかもしれないですね。山田さんも、お願いします。

山田氏:やはり「未来大学」があることが一番の魅力かと。在学中面白かったのが、「未来大学」ができて学生が住むからといって、新築のアパートがたくさんできている状況でした。これは例えば、大学の規模が10倍だったら10倍家が必要になり、10倍人が来て、大体みんなアルバイトをするので10倍労働力が増える。魅力的な大学をさらに大きくしていくと、街もさらに良い方向に向かっていくのかなと思います。

また、「未来大学」に入って一番良かったことは、世の中の課題を見つけ、それをテクノロジーや新しいアイデアで解決することを体験的に学べたことです。それは社会でとても重要な能力なので、仲間と一緒に学校の中で身に着けることができたのは良かったですね。そのような経験を多くの人ができれば、世の中も良くなり、世の中で活躍できる人が育つということであれば、街に来る人も増えると思います。ほかの街にない魅力として「未来大学」は馬鹿にできないと思いますね。

柴田氏:全学生に聞かせたかったですね(笑)

山田氏:僕は経営者になろうと思って社会人になっていないですし、社会人になってからも経営の勉強はしたことがありません。ですが、結局会社は“人をどう動かすか”じゃないですか。会社の目標に対して社員にどう動いてもらうか。それは実は大学で勉強できることで、どうその仕組みをデザインするかという話でしかない。特殊なことはしていないんですよね。「みんながどう思っているのか?」「会社が思っていることとのギャップは何だろう?」「どうやって解決できるかな?」とやっているだけなので、あまり難しく考える必要はない。大学生でも会社の経営ができると思います。

函館・道南に若者が増えるには?

柴田氏:続いての質問にまいります。「函館・道南に若者が住み続けるアイデア、若者が戻ってくるアイデアは?」ということで、みなさまにアンケートでお答えいただいたものを紹介します。「函館の高等教育機関で学んだことを活かせる企業を誘致し、新卒の学生を雇用できる仕組みを整える」「大型商業施設を誘致する」「若者が流行り物を買い物できる施設があれば札幌・東京への流出が少しは止められのでは」「面白い大人と出会える場所、自分のアイデアを共にブラッシュアップしてくれる学びの場があると良い」などですね。では、山田さんからお願いします。

山田氏:両親が千歳市に住んでおり、千歳市を長年見ているのですが、コロナ前に国際線が増え、海外の方が北海道に流入するようになったタイミングで、千歳市も非常に変わったと感じています。空港職員が増えた関係で人が増え、甥の通っていた小学校が日本で一番大きな小学校になりました。メカニズムが大きく変わるような産業がわき上がると、人がたくさん入ってくることがあるので、新たな産業を生み出すこと、僕らのような企業と一緒に何かをやるということは起爆剤になると思います。

最近は半導体の工場を作ることが盛り上がっていますが、そのようなかたちで、函館で特殊な産業を作っていくことにチャレンジできると面白いと思います。働く人が増え、家族が増えるとなると、みんながご飯を食べたり娯楽をしたりするようになり、施設の需要も出てきます。そういったものがどんどん街に増えていくので、まずは大きな産業を作ることがキーになると感じています。

僕らは実は大変な環境で事業をしています。インターネット広告は、グローバルで一番競争が激しい産業領域なのです。みなさんが知っているような会社は、ほぼ広告で会社が成り立っている。そういう会社と競争をしなければいけない環境がとても大変で、本当に高いレベルのテクノロジーがなければいけないので、地方からいろいろな学生を採用し勝負をしています。

ふと考えると、「日本はもっとほかに魅力があるよね」と思うことがあります。例えば、どう見てもグローバルで北海道の一次産業が圧倒的ナンバーワンで、おそらく今後も変わらないことを考えると、“日本特有の魅力×僕らのテクノロジー”といったように、日本特有の魅力に僕らのような会社のバイタリティを掛け合わせて日本の競争力を作るほうが、実は会社として正しいのではないかと思うことはあります。とはいえ、今メインとなる広告事業を全部やめますということはなかなか難しいのですが、新たな事業で大きくアクセルを踏むとしたら、“一次産業×ハイテク”をできないかという話はあります。

柴田氏:続いて、五十嵐さん。先ほどの奨学金のお話もこのアイデアの1つかと思いますが、お願いします。

五十嵐:1つ非常に大きいのは“働く”です。ある程度稼げたり、やりたい面白い仕事があるかどうかが重要で、みんな東京へ行ってしまうので。

それこそ、産業を作るのはどうすればいいんですかね? 働くことに関しては、どう注力していこうとされているのかお聞きしたいです。大樹町のように宇宙で町おこしをしていくのは分かりやすいですが、これだけ規模があり、さまざまなコンテンツがある函館において、働くというシーンをこれから強めていかなければいけない。どこから仕掛けていかれるのでしょうか。

大泉氏:魔法の杖があり、打ち出の小槌を1つ振ればいいということではないのですよね。いろいろなことを総合的にやっていかなければいけないのですが、例えば仕事であれば、もともとある地場産業を振興させていく。企業誘致・企業立地を進めていく。スタートアップをどんどんやっていく。そういうものをもちろん総合的にやっていかなければいけないですが、人手も足りない。

先ほど言っていた奨学金の返還制度も来年度からできるように作っていこうとしています。保育や介護の分野で働いている方に最初に奨励金を出し、継続している方にまた奨励金を出すこともやっていきます。

総合的にいろいろやっていくのですが、やはり企業立地を進めることは非常に大きいことです。函館は観光都市なので、つい観光誘致を一生懸命やりがちです。観光誘致をすればどんどん来るような感じで、“やった感”もある。スポーツでいえばバスケットボールのようなところがあるのです。企業誘致は観光プロモーションよりもっと力を入れなければいけないと思いますが、これはサッカーみたいなもので、なかなか点が入らない。

しかし、企業を誘致するための武器が3つあります。「未来大学」をはじめとする人材養成力があります。それから、交通の利便性。陸海空の交通の要所です。あとは、やはり都市ブランド。

例えば経営者が、どこかに工場を作るときや移転するというときに、もちろん固定資産や補助金が出るなどのインセンティブも大事ですが、それだけではないのです。大事な社員をそこに住まわせ働かせるので、やはり素敵な街、ブランドが立っている良い街だったら行ってみようと思うはずです。幸い函館は都市ブランドが確立されているので、3つの武器に一生懸命テコ入れし、ガンガン企業誘致を進めなければいけないと思います。

インセンティブもレベルが高いです。特にITの分野でいえば、全国でトップレベルのインセンティブを持っています。この6月に新たに政策に入れた、サテライトオフィスを設置するときの支援金も強化しています。着実に進めていこうと思っています。

仕事というテーマからは外れますが、子どもや教育、未来の投資を場当たりでなく政策パッケージにしてずっと続けるということ。しっかり発信するために、いろいろなことをやっていきます。

「未来大学」は1人54万円ぐらい授業料がかかっていると思います。今、住民税非課税の方は無償ですが、所得の上限をぐっと上げたいと思っています。できるものなら青天井でいければいいかなと検討中です。地元の高校生限定で考えており、例えば東京や大阪、札幌から受験してくる方は授業料をいただくしかないと思っていますが、函館・北斗・七飯という地元の高校に通った方については無償にしていく。本当であれば国全体でそうなるのが一番良いことですが、函館と北斗・七飯で話し合いで決めていけば、制度を改善できるはずです。

「子どもや子育てを頑張ります」と言ったら、「小さい頃もいいけれど、教育費のピークはいつだか知っていますか」と選挙中によく問われました。「大学4年間だよ。そこを何とか安くするとか、無償にできないか」と。函館には公立の「未来大学」があるので、改善できるように話し合いを進め、できるだけ早く実現したいと思います。

五十嵐氏:『NoMapsはこだて』も頑張らないといけないと思います。大学までの間は親と先生しか出会わずに卒業していきます。そうすると、ぬるっと社会人になってしまう。函館にこんなにチェレンジしている面白い大人がいるのだということを知らずに出てしまうと、戻って来にくいと思います。自分の中に“函館の大人図鑑”があることがとても重要で、地域の面白い人、熱い人に出会える場をどう作ってあげるかは、とても大事な気がします。

山田氏:僕は東京に住んでいるのですが、去年子どもが生まれ、そろそろ保育園というタイミングです。妻がいろいろな友達から話を聞いているのですが、東京都内ですら子育てしやすい街はどこだという話が起こっていて、それを理由に引っ越そうかという話があります。もし函館がその部分で強かったら、近隣から引っ越してくることはあると思います。

五十嵐氏:札幌でこの数年面白いのは、“嫁ターン”が増えていることです。奥さんが札幌出身で、子育てをするなら奥さんのお父さんやお母さんがいたほうが絶対に良いということで、最近は場所を問わず働けるようになってきているので、戻ってくるのです。

柴田氏:ある方が言っていました。「移住、定住という言葉を逆にしよう」と。「定住、移住」だと。今住んでいる人たちが住みたくなる街を作った結果、移住したいという外の声が増えるよね、と。大泉市長の施策はそのような歩み方をしていると思いましたし、五十嵐さんと山田さんがおっしゃったように、奥さんがきっかけでという、今までの流れとは違う入り方をする人たちが増えているので、両面からアプローチしていくのが大事だと思いました。

夢や目標に向かう人、向かっている人へ

柴田氏:それでは最後の質問です。「これから夢や目標に向かう人、向かっている人へ、リーダーとしてどんな言葉を掛けますか?」ということで、山田さんからお願いします。

山田氏:日本を広く見ていくと、悲観的なムードが漂っているような報道がされがちなのですが、もっと悲惨なことになっている国が多いです。例えば、サンフランシスコなど、ホームレスが増え、街が荒れていて……という状況になっているところがあります。

その中でいくと、実は日本は若干停滞感はあるものの、函館を中心に街がきれいで、魅力があり、食べ物がおいしく、住む上で何かをチャレンジする環境が整っている国だと感じます。

一方で、やはり変えていかなければいけないところもある。何かをしてもそれほどリスクがある国ではないし、安定して生活ができる国なので、ぜひ日本を良くするチャレンジをいろいろな人にしていただきたいです。僕自身も東京で会社の経営をしていてグローバルに展開しているものの、せっかくだったら日本を良くしたいと思っています。今後も函館市と何かできれば嬉しいですし、チャレンジを作るきっかけになれたら嬉しいので、ぜひ今後ともみなさんよろしくお願いします。

五十嵐氏:最近、大学や高校に行かせてもらうことが増えてきたのですが、「人と違うことをするのが怖い」とか「枠の外に出るのが嫌だ」という声をとても聞きます。それが怖いなと。価値は相対的なものなので、人と違うことは非常に価値があると思います。

そこを飛び出していく若い人がたくさんいたら世界は楽しくなると思うので、ガンガン飛び出してもらえたらと。「株式会社大人」という名前ですが、大人の言うことは聞く必要がないと(笑) やりたいようにやればいいのではないかと思うので、楽しく好き勝手にやらかしてもらえたらいいなと思っています。

大泉氏:僕の場合は、選挙をくぐり、民主主義の洗礼を経て出てきた地方自治体の長なので、経営者の方とは違うかもしれません。僕の立場からすると、民主主義とは責任者を決めるのです。失敗した時に誰が責任を取るかということです。手柄はみんなで分けて、何かあった時に首を取られるという。だから、責任を取らなきゃいけないという意識が僕は強いです。

管理職は「俺が責任を取る」とあまり言ったことがないようですが、言ってみると気分がいいのです(笑) だから管理職には、「“俺が責任を取る”と言ってみよ」とよく言っています。「責任は取るけれど手柄はみんなで」という考え方でいかないと、組織は回りません。そういう人たちと一緒に夢をかなえてほしいと思っています。

若い人の特権は、無名で失うものが何もないから強気に出られることです。トライできる時期はあまりありません。今はとにかくチャンスなのでトライしてみてください。失敗を恐れずに。若い人はものすごくパワーがある。山を動かすような強烈なパワーがあるので、恐れずにどんどんトライしてもらいたいと思います。

最後に言えば、夢をかなえようとしている人には別に声を掛けなくていいのです。みんな前向きだから。肝心なのは、夢すら見つからない、どうしようと下を向いている、くじけている人が大変なのです。役所にいるとそのような場面に出会います。そういう人に掛けたい言葉は2つ。「1人じゃないよ」と「そのままでいいよ」。そんなメッセージを届けるようにしています。社会みんなが、苦しんでいる人にそう言えるような社会になるのは重要だと思います。もしくじけている人がいたら、ぜひその言葉を伝えたいと思います。

 

大泉市長、山田さん、五十嵐さんのお三方から、愛と情熱に溢れるメッセージが届けられた基調講演。講演の最後には大きな拍手で会場が包まれましたよ。

『NoMapsはこだて2023』では、ほかにも魅力的なトークセッションが行われました。気になる方はこちらをのぞいてみてください。

基調講演登壇者プロフィール

登壇者:

大泉 潤(函館市長)
1966年生まれ。北海道出身。1990年早稲田大学法学部出身。1995年函館市勤務。2017年観光部長、2019年保健福祉部長を経て、2023年4月から現職。

五十嵐 慎一郎(NoMaps総合プロデューサー)
1983年北海道小樽市生まれ。東京大学建築学科卒。「北海道から、世界をちょっぴり面白くクリエイティブに」を掲げ「株式会社大人」を2016年に設立。「大人座」「SAPPORO Incubation Hub SAPPORO」といった店舗や施設のプロデュース・運営事業をはじめ、「北海道移住ドラフト会議」などの地域活性化・移住・起業支援の企画、事業etc.を行う。2021年北海道積丹町のまちづくり会社「株式会社SHAKOTAN GO」を立ち上げ、温泉の再生に取り組む。2022年から都市型スタートアップフェス「NoMaps」の総合プロデューサーに就任。 株式会社大人 代表取締役社長、株式会社SHAKOTAN GO 代表取締役、株式会社LANDRESS 取締役、株式会社COMMONS FUN 社外取締役、NPO法人OTARU CREATIVE PLUS 理事、一般社団法人SAPPORO PLACEMAKING LABO 理事、一般社団法人さーもんず 理事、札幌移住計画代表、NoMaps総合プロデューサー/実行委員

山田 翔(アドウェイズ 代表取締役社長)
2007年アドウェイズに入社後、新規メディアの立ち上げを担当。2009年10月、PC向けアフィリエイトサービス「JANet」のプロダクト責任者に就任。その後、スマートフォン向け広告配信サービス「AppDriver」など新規サービスの立ち上げに貢献する。2012年10月に新規事業開発室室長に就任。2014年4月にアドウェイズ執行役員、2016年1月に上席執行役員に就任。2016年6月に取締役に就任後、2021年7月より代表取締役社長に就任。

モデレーター:

柴田涼平
株式会社とける代表「あらゆる境界を融かし、未来が歓迎する環境を想像×創造(ソウゾウ)する」というモットーの元、メディア運営やコミュニティ事業、伴奏支援事業などを実施している。

※本記事は講演での発言を文字に起こしたものです。言い回し等編集の都合上変更している場合がございます。

【参考】大泉じゅん(大泉潤)公式サイト / 函館市

【画像】NoMapsはこだて実行委員会、ELUTAS、denkei、まちゃー、 kikuo、freeangle / PIXTA(ピクスタ)

⇒こんな記事も読まれています
【PR】 「母の影響で馬の虜になった」神戸からやってきて奮闘中!ばん馬の新人獣医師・柴田さんが描く未来

【連載】意外とハマるかも…?北海道マンホール特集
一生に一度は見てみたい!神秘的な北海道の絶景

LINE友だち追加