差し換えフウワイさん②

漫画の力で実現!? 北海道の町から「宇宙がもっと身近な未来」へ【宇宙カンファレンス@NoMaps】

2023.09.29

宇宙をテーマにした漫画や映画は多いですよね。例えば宇宙飛行士は、宇宙漫画の主人公としてよく登場し、宇宙に興味を持つ人なら誰もが1度は憧れる存在。しかしどこか遠い存在と感じている人が多いのではないでしょうか。

そんな宇宙飛行士ではなく、宇宙に行くためのロケットを作る民間会社の技術者に焦点を当てた、スマホで読める縦型のフルカラー漫画『晴天のデルタブイ』が配信中です。

2023年9月13日(水)、宇宙をテーマとしたトークイベント『北海道Likers presents 宇宙カンファレンス@NoMaps』が札幌で開催。Session1では「『晴天のデルタブイ』生みの親と語る宇宙×エンタメ最前線!」と題して、『晴天のデルタブイ』関係者により、漫画を通じてより宇宙を身近に感じてもらうための熱いトークが行われました。その様子をお届けします!

Session1 登壇者

モデレーター:
藤田誠氏。『北海道Likers』統括プロデューサー、「INCLUSIVE株式会社」代表取締役社長

ゲスト:
小林琢磨氏。株式会社ナンバーナイン代表取締役/「晴天のデルタブイ」プロデューサー
フウワイ氏。漫画家、「晴天のデルタブイ」ネーム*担当

*ネーム・・漫画において、コマ割り・コマごとの構図・セリフ・キャラクターの配置などを大まかに表したもの。プロット(作品の世界観やストーリー)からキャラクターの魅力・物語の見せ場をつかみ、セリフや演出で読者に分かりやすく伝わるようにする。

「晴天のデルタブイ」を中心に熱いトークの幕開け!登壇者紹介

藤田氏:まずはゲストのお2人から自己紹介をお願いいたします!

フウワイ氏:『晴天のデルタブイ』のネームを担当させていただいております、フウワイと申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

小林氏:漫画大好きっ子39歳、「ナンバーナイン」の小林です。現在「ナンバーナイン」という会社を経営していて、漫画家さんのデジタル化を支援しています。すでに紙になっている漫画をデジタル化して、漫画スタンド、漫画アプリなどのコンテンツを提供する事業です。直近ですと“WEBTOON”という韓国発の縦型フルカラー漫画のオリジナル作品を作るようなこともしています。

『LINEマンガ』さんで『神血の救世主』というWEBTOONの作品を配信しています。国産WEBTOONでは今日本で1番売れている作品です。日本を代表するWEBTOONなので、僕らの話を聞くよりも、スマホを取り出してぜひ見ていただければ嬉しいです(笑)

藤田氏:ありがとうございます。漫画といえば昔は大手出版社が強かったですが、WEBTOONのように新しい領域で世界へ行く“漫画ベンチャー”が出てきました。『晴天のデルタブイ』は、そんな漫画ベンチャーが日本の新しい産業である宇宙産業の物語を作るという、“ベンチャー×ベンチャー”の取り組みですよね。

無限に懐が広く、宇宙に関わるチャンスを広げてくれるもの

藤田氏:宇宙をテーマにしたエンターテインメントの魅力は何だとお考えですか?

フウワイ氏:そもそも宇宙という題材が非常に面白いと思います。

「宇宙って何?」と宇宙のことをまったく知らない人はいない。しかし、詳しくは知らない人がほとんどです。例えば、『晴天のデルタブイ』で描いたこともあるのですが、「地上から何mが宇宙なのか」ということをご存じの方は意外と少ないのではないでしょうか。

宇宙のことを知っているつもりでも、具体的にどういうものなのかを意外と知らない。つまり、未知の世界が無限に広がっているということです。

だからこそ、宇宙を題材にした作品がいくつも存在しますが、どれも似通っていないのだと思います。宇宙人が地球に来ることもあれば、宇宙で戦争が行われることもある。無限に懐が広いところが宇宙作品の魅力だと感じています。

藤田氏:ありがとうございます。小林さんはどうでしょう?

小林氏:漫画業界では「宇宙漫画にはずれなし」と言われています。例えば『宇宙兄弟』や『プラネテス』、僕の好きな『MOONLIGHT MILE』など、昔から宇宙の漫画って多いんです。

そのなかで『晴天のデルタブイ』は、今までの宇宙漫画に出てくるような主人公たちではないところが1つのポイントです。まさにフウワイさんが言っていた“懐の深さ”を出せたのかなと思っていて。今まで宇宙漫画は、宇宙飛行士が主役となって宇宙に行くのが王道でしたが、『晴天のデルタブイ』はロケットを作る技術屋さんたちが主人公です。

宇宙って大きいし憧れるんですけど、敷居が高い。頭も良くて運動神経も良いほんの一握りの人しか、宇宙に行けないし関われないというイメージがあったと思います。しかし、そんなことはない。ロケットを作る技術屋さんだって当然ですが宇宙に関わっていますし、僕みたいに漫画を作る人でも、このようなイベントに呼んでいただけています。宇宙に関わるチャンスが広がることがエンタメとしての魅力だと考えます。

藤田氏:『晴天のデルタブイ』は、北海道・大樹町を舞台に行われている宇宙開発の話です。大樹町で世界に向けて宇宙開発をしている「インターステラテクノロジズ株式会社(以下、インターステラテクノロジズ)」さんの熱い人たちの話なので、ぜひ『LINEマンガ』を開いて読んでみていただきたいですね。ちなみに2人は「インターステラテクノロジズ」さんにどんな印象をお持ちですか?

フウワイ氏:今でこそ立派な社屋が建っていますが、最初はプレハブから始まったと聞きました。そして今も同じ拠点で宇宙開発をされていて……。何もないところから始めて部品を作って、実際に宇宙に飛ばすところまで実現できたというのがすごいと思いました。また、社員さんと話していても、本当にこの人たちは宇宙が好きなんだなと感じました。

藤田氏:ほかにも、廃校になった小学校の敷地を活用したり、潰れたスーパーを工場にしてしまっていたり……すごいですよね。

フウワイ氏:今もその工場に精密機械を置いているらしく、本当に漫画みたいな話だなと思います。

小林氏:僕も本当に宇宙が身近にあるなと感じました。社屋はすごくきれいだったんですが、会議室に入ると当たり前のように失敗したロケットの破片が置いてありました。もともと宇宙開発は敷居が高く、破片なんてものすごく貴重なものだと思っていましたが、社員さんたちにとっては、身の回りに置いてあっても気に留めないくらい身近なものなのでしょうね。

また、見学させてもらうたびにいろんなものが増えていて、日に日に成長しているんだと感じました。

漫画の力で宇宙が身近になる…!? 「晴天のデルタブイ」の可能性

藤田氏:ビジネス観点で漫画、宇宙をどのように見られているんでしょうか?

小林氏:もっともっと盛り上がっていくと思います。テレビで見たのですが、気球に乗って宇宙に行けるビジネスができてきていて、2,400万円くらいで行けるみたいです。

昔は2、3億、なんなら10億円払っても宇宙に行けませんでしたが、今では、高いかどうかは分かりませんが2,400万円あれば行くことができる。10年後、15年後には、もしかしたら240万円払えば宇宙に行けるような時代になるかもしれません。そうしたら、10倍の人が宇宙に行けるようになって……というようにどんどんできることが増えていきますよね。宇宙に関わる人が増え、宇宙に付随するビジネスも増える。これと同様のことをエンターテインメントの力を使って実現したいと思っています。

小林氏:例えば、最近話題になったバスケットボールワールドカップでの日本代表の躍進。もともと日本はバスケットボールが盛んではありませんでしたが、『SLAM DUNK』のおかげで競技人口が一気に増え、上手い人が増え、練習環境が増えたことが、結果に繋がったのだと思います。

漫画を通じて「宇宙って面白い」と感じ、「宇宙飛行士になりたい」「宇宙飛行士にはなれないけどロケット作りはしてみたい」など宇宙を身近に感じてもらうことで、宇宙に付随するビジネスに携わる人が増える。その結果、気球で2,400万円で行ける宇宙が、次は240万円になり、一般層にとっても身近になっていくかもしれない。これからの可能性が非常にあるビジネスだと思います。

漫画は年を取りません。読んで、感動して、「宇宙に携わりたい」と思うのは10年後も20年後も同じなんですよね。これから宇宙ビジネスが盛り上がっていくなかで、『晴天のデルタブイ』が宇宙業界を目指す人たちの1つの土台となればいいと考えています。

あと、漫画業界では“聖地巡礼”なるものがありまして。『晴天のデルタブイ』は大樹町が舞台なので、読むと「漫画のこの場所って大樹町のあの場所なのかな」と大樹町に住んでいる人たちも楽しめますし、町外の人が大樹町に来る流れもできます。北海道を舞台にしている作品を北海道みんなで盛り上げていくことで、北海道にお金が落ちていくと思います。

藤田氏:フウワイさんは『晴天のデルタブイ』の前は、ハンドボールの漫画を作られていたんですよね。

フウワイ氏:はい、そうです。自分の作った漫画で「ハンドボールを始め、インターハイに出た」というコメントをいただくと、とても嬉しい気持ちになりましたし、漫画が青少年の人生設計に影響を与えていることを感じました。だからこそ、『晴天のデルタブイ』を見てロケットを作りたい人が出てくるのではないかと信じています。

藤田氏:WEBTOONの作品作りというテーマで、コツなどがあれば教えていただけますでしょうか。

小林氏:チームや人を大事にすることです。WEBTOONは普通の漫画と違って、1人で描くものではありません。普通の漫画だと、多くても作画の方と原作者の2名で描かれることが多いですが、WEBTOON(『晴天のデルタブイ』)だと最大で10人ぐらいが関わっています。原作者がいて、ネームがいて、線画がいて、着色がいて、背景を担当する方がいて、さらにそのほかに6人いるような壮大なスケールです。なので、能力だけではなく、チームや人柄も大事にしています。

漫画は原作や線画も大事ですが、ネームがものすごく大事です。そこでネームがしっかり描けるフウワイさんに、今回お声がけさせていただきました。

藤田氏:WEBTOONのターゲットはどの世代なのでしょうか?

小林氏:10代が多いです。理由としては、連載場所が『LINEマンガ』か『ピッコマ』というアプリに限られているからです。紙の媒体がなく、漫画をスマホで読む世代が中心になっています。

僕のような30代、40代くらいはまだまだ漫画を紙で読む世代ですが、今の10代、20代は漫画をスマホで読むのが当たり前の世代です。15年前だと『週刊少年ジャンプ』や雑誌を電車で読んでいる人がちらほらいましたが、今はいません。漫画をスマホで読むことが普通にできる世代が10代、20代です。

藤田氏:なるほど。10代、20代中心のWEBTOONの人気の傾向やジャンルとしては、どういうものがあるのでしょうか。

小林氏:人気の傾向はかなり分かれていますね。ただ、『晴天のデルタブイ』は人気傾向にはないジャンルかと思います。

藤田氏:なぜそのなかで『晴天のデルタブイ』を作られたのでしょうか?

小林氏:より宇宙を知ってもらいたいという想いがあったからです。今のリアルな宇宙を伝えていきたいという話を「INCLUSIVE株式会社」さんからいただいて。嘘を描かないことを意識し、今のリアルな技術や知識をしっかり出すために、「インターステラテクノロジズ」さんに監修に入っていただきました。

藤田氏:「インターステラテクノロジズ」さんに内容を検証してもらいながら描かれたんですね。何か難しかったことはありますか?

フウワイ氏:私は今までハンドボール作品を描いていてそもそも宇宙に関わる作品を描いてこなかったのと、宇宙の正しい情報を広めるという目的があり嘘をつけないことが難しかったです。

ただそのまま情報をなぞるだけではYouTubeを見ているのと変わりません。どうやったら嘘がなく、かつフィクションとして盛り上げられるか、というバランスをとるところに一番苦労しました。1コマ2コマの演出でも、「インターステラテクノロジズ」さんと密にやり取りをしているので嘘は描いていません。

小林氏:そうですね。「ロケット関係者はこういう表現はしない」など表現の仕方まで細かくチェックが入っているので、嘘は描いていないと自信を持って言えます。きちんと事実を描きながらも、どのように面白くしていけばいいかは一番頭を悩ませた部分です。そこで、実際に携わっている人を美少女キャラクターに変えて登場させるといった工夫をしました。

『晴天のデルタブイ』には大樹町の名前も出ており関係者も多いので、よりしっかりやろうという意識が芽生えましたね。関係者全員が納得できるものを作ろうとしていたからこそ、完成した作品は様々な方が宣伝をしてくれています。

意義とビジネスの両立を目指す「WEBTOON」

藤田氏:ここで会場のみなさんからの質問をお受けしたいと思います。

来場者:小学生だとスマホを持たない人も多いと思うのですが、夢を持たせるという意味で、例えば単行本の発行などの取り組みも考えてらっしゃいますか?

小林氏:『晴天のデルタブイ』は全部の漢字にふりがなを振っていて、通常の3倍手間をかけています。それでもやっている理由は、小学生に読んでもらいたいからです。なるべく早いタイミングで読んでもらって、「宇宙ってかっこいいな」「宇宙のことを勉強したいな」と思ってもらいたいと思っています。

ただ、「小学生のために紙にしましょう」という考え方は結構難しく、在庫を抱えることや、流通を考えなければならないということはハードルが高いです。

しかし、自主出版をしてサイトで販売したり、大樹町の道の駅でのみ買えるようにして現地に行く目的を作ったりする、といった取り組みはやりたいですね。北海道の小学校に1冊ずつ配るなど、自治体と協力することもとても意義深いですし、やってみたいと考えています。意義も大事ですし、同時にビジネスにしなければならないというのが大変なところです。

もし『晴天のデルタブイ』を読んで宇宙業界を目指す人が出てくれれば嬉しいですし、なにより北海道や自分の町に誇りを持ってくれる北海道の方、大樹町の方が増えたらとても嬉しいです。すごく遠回りかもしれませんが、やる意義は大きいと思っています。

本番は20、30年後。宇宙エンタメのこれから

藤田氏:最後に、WEBTOONや宇宙とエンタメの展望について、ぜひ教えてください。

フウワイ氏:これから、宇宙開発が進めば宇宙飛行士やSFの漫画は多く出てくると思いますが、宇宙に行くロケットを作る人を主人公にするような作品は『晴天のデルタブイ』のほかに当面は出てこないのではないかと思います。「“宇宙を目指す”と言い続けた結果、宇宙に行けるロケットを作ってしまった」ということがこの漫画の趣旨です。初めてロケットを作る人たちにスポットを当てた社会的意義のある作品なので、もっと広がってほしいと願っています。

小林氏:そうですね、『晴天のデルタブイ』を読んで宇宙業界を目指し、「インターステラテクノロジズ」に入ったという人がいればとても嬉しいですね!

藤田:「インターステラテクノロジズ」さんの挑戦に共感してこの作品が始まりましたが、なぜ紙ではなくてWEBTOONなのかというと、これは海外に通じているからです。

縦型の漫画はこれから市場がとても伸びる領域です。いずれ民間ロケットが話題になるときに、世の中の人々はこの物語が漫画になっているということに気づいて、読むと思います。そしてアジアで初めて宇宙に到達した民間企業「インターステラテクノロジズ」さんが有名になり、宇宙産業を目指す人がより増えればいいですね。

きっと物語の本番は、20年後、30年後から始まっていくと思います。

連載「HOKKAIDO 2040」では、“2040年の世界に開かれた北海道(HOKKAIDO)”をテーマとして、大樹町を中心に盛り上がりを見せている宇宙産業関係者へインタビュー。宇宙利用によって変わる北海道の未来を広く発信します。連載記事一覧はこちらから。

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