堀江さんアイキャッチ

あなたも宇宙に携われるかも!? 世界をリードする「小さな町の可能性」【宇宙サミット2023】

2023.11.02

多くの人にとって“宇宙”という世界はまだ遠い存在ではないでしょうか。宇宙をビジネスとして浸透させていくには、これから出てくるスタートアップ企業の育成、人材確保が必要不可欠です。

2023年10月12日(木)に宇宙ビジネスカンファレンス「北海道宇宙サミット2023」が帯広で開催。Session5では「宇宙スタートアップ育成とイノベーションエコシステム」と題して、スタートアップや宇宙業界に携わる5人の議論が行われました。その様子をお届けします!

⇒そのほかのセッションの様子はこちら

登壇者

一般社団法人SPACETIDE理事 兼 COO 佐藤 将史氏(モデレーター)

株式会社岩谷技研 代表取締役 岩谷 圭介氏

衆議院議員 鈴木 英敬氏

インターステラテクノロジズ株式会社 ファウンダー 堀江 貴文氏

The Breakthrough Company GO 代表取締役 PR / CreativeDirector 三浦 崇宏氏

宇宙業界を伸ばすために!「スタートアップ育成5か年計画」

佐藤氏:宇宙業界が今注目を浴びており、スタートアップとしても盛り上げていこうとしています。政府の方は大きな転換期にあって、スタートアップを中心とした新しい経済圏、社会構造を作っていく方針を打ち出しています。世界で見ればスタートアップへの投資が冷え込んでいるので、このチャンスを活かして日本の企業が世界へ出ていければいいなと思っております。

まず衆議院議員の鈴木さんから、『スタートアップ育成5か年計画』の全体像についてご紹介いただいてよろしいでしょうか?

鈴木氏:僕はこの9月まで政府のスタートアップ担当の大臣政務官として、『スタートアップ育成5か年計画』の策定に携わっていました。この10年間で、スタートアップへの投資は800億円から8,000億円へと10倍になったのですが、それではほかの国に追いつかないので、5年間で10倍以上の10兆円規模に投資額を増やしていく目標を掲げました。そしてユニコーン企業を100社、スタートアップを10万社創出することにより、我が国がアジア最大のスタートアップハブとして、世界有数のスタートアップの集積地となることを目指しています。

『スタートアップ育成5か年計画』には大きく以下の3つの柱があります。1つ目は、“スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築”。エコシステムを作る端緒を5か年の間に作りたいと考えていますので、人材とネットワークはとても重要視しています。

2つ目は、“スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化”。SBIR制度*の抜本強化やベンチャーキャピタルの育成、海外からの資金の呼び込み、公共調達*の拡大をしていこうというものです。

最後3つ目は、“オープンイノベーションの推進”です。大企業を中心としたオープンイノベーション、CVCからのお金や技術で、スタートアップ育成を促進したいと考えています。

佐藤氏:ありがとうございます。堀江さん、この『スタートアップ育成5か年計画』はどのように宇宙業界に伝わっているのでしょうか?

*SBIR制度・・・政府が中小企業による研究技術開発とその成果の事業化を一貫して支援する制度。
*公共調達・・・政府がモノやサービスを民間から購入すること。

堀江氏:宇宙の業界は輸送システム(ロケット)とデブリ(軌道上で要らなくなった衛星やロケットの残骸)除去の2つの分野にSBIRの予算がついています。これまではこういった支援は広く薄くでしたが、宇宙分野や核融合などお金が必要なスタートアップにしっかり予算をつけるようになったところに、やる気をひしひしと感じます。

上限が20億円の補助金で満額が出たり、通常成果物を出さないと補助金が受けられないことが多いのにも関わらず、先に補助金を出したり。「スタートアップは資金繰りが大変でしょうから先に出します」というのはすごいと思いました。

佐藤氏:たしかにその通りですね。鈴木さん、設計のときの想いをお聞かせください。

鈴木氏:日米の比較で、SBIRの報告書や手続きが面倒だと言われていたので、そこを改善したのと、契約方法はすべて終わってからお金を出すのではなく、随時目標を決めて、目標が達成できているかどうかで支払うかたちで柔軟化しました。

佐藤氏:三浦さんはいろいろなスタートアップや投資を見てこられたと思うのですが、宇宙×スタートアップはどんな位置づけでしょうか?

三浦氏:僕はスタートアップのマーケティングやブランディングをする仕事を普段していて、出資もしています。宇宙は「宇宙業界」という言葉があると少し狭く感じるんですよ。農業でも宇宙と関わることはできるし、映像業界でも宇宙と関わることはできます。宇宙を業界で閉じたものではなく、ほかの産業ともっと繋げていかなければならないと思っています。

また、鈴木さんが言っていた「国としてお客にならなければならない」というのがとても面白いと思いました。フランスは10年前からスタートアップ育成をとても頑張っていて、そのとき彼らが1番何をやったかというと、補助金を出すだけではなく行政でスタートアップのサービスを率先して取り入れたんです。なおかつ、フランスの財閥系の大きな会社にもスタートアップのサービスを取り入れるように言いました。

お金を配ることも非常に大事なのですが、それ以上にユーザーになったり一緒に事業を作っていったりするような取り組みを国が加速させ、それに大企業が乗っていくような新しい護送船団方式ができるといいなと思っています。

佐藤氏:最終的に宇宙のビジネスは地球の経済活動に繋がっていかなければいけません。いろいろな人が入っていけるように業界の境界線を曖昧にしていかなければいけないと思います。また、物を作って使えるようにするには、お客さんがいないといけませんよね。このお客さんがまだ足りていないかもしれません。

資金を出すだけではなく、政府がお客さんとなって伴走まで

佐藤氏:SBIRがあり、開発するまでのお金をつけたがその先はどうするのか。SBIRを含めた資金に関する支援について、鈴木さんからご説明いただけますか。

鈴木氏:はい、まずSBIR、Small Business Innovation Researchの話をします。SBIRはアメリカが発祥で、もともとはR&D(研究開発)の支援をするために作られました。アメリカでは最初に政府が研究開発としてお金を出し、SBIRの資金で研究を深めた後に、ベンチャーキャピタル、事業会社のお金でスタートアップを生み出していくような流れでした。つまり、アメリカのSBIRは創業初期のスタートアップへの研究開発支援でした。

しかし、日本のSBIRは位置付けが不明確になっており、改めていこうと考えています。例えば、SBIRは86%が経済産業省がやっていたので、ほかの役所、各省で使えるような動きを作ろうとしています。

また、開発のフェーズを支援し、政府がお客さんとなってサービス調達するフェーズも伴走しようとしています。今まではこのサービス調達のフェーズがなかったので、今回の予算から作りました。

鈴木氏:SBIRの全体2,060億円のうち、823億円が宇宙分です。その中の350億円が宇宙輸送、スペースデブリが206億円になります。あとはリモートセンシングや月面ランダーです。SBIRをより改良していきながら、開発支援からサービス調達へとシフトしていきたいと思っています。より円滑に資金供給されるような工夫を我々もしていきたいです。

佐藤氏:ありがとうございます。「将来のサービスインに向けた開発をしなさい」ということが国からのリクエストになっていると思うのですが、市場に近いところをやることは開発の大きなハードルになるのか、堀江さん教えていただいてもいいですか?

堀江氏:我々がやろうと思っていたことなのでちょうどいいです。宇宙の分野において、日本は先行していた割には民間転用に遅れをとっています。ここを逃すと産業の育成、僕らのようなスタートアップのサプライチェーンの維持や発展ができないので、ギリギリのタイミングだと思います。

サプライチェーンはチェーンのように繋がっているので、どこかが欠けてしまうとその技術は失われます。急に戦争が起きた時にロケットが作れないとなると致命傷になります。ここを逃すと日本の宇宙産業は二度と作れなくなってしまうことになります。

佐藤氏:今までは薄く広くだったのが、尖ったプレーヤーが出てくることによって周りのサプライヤーも育っていく。エコシステムになるのでみんなにとって良いことだと思います。

三浦氏:ハブとなるようなプレーヤーにしっかりお金が投入されることによってエコシステムが成立し、エコシステムとなる技術も知恵もそこから生まれていくと思います。だからこそ、お金の配り所をどうするかがとても重要なポイントで、何にお金を配分することが産業を守ることになるのかが、これから主張していかなければならないポイントです。

佐藤氏:岩谷さんは、SBIRとは全く違う領域でビジネスを切り開いていらっしゃると思うのですが、どのようなことをされているのでしょうか?

岩谷氏:私は北海道で気球屋さんをやっております。高く上がれる気球を作って、宇宙船をつけて宇宙旅行をするようなことを真面目にやっている会社です。我々は気球という分からないものをやっているので、SBIRの対象になっておりません。何とか補助を受けずに山を越えてきたようなかたちです。

気球の下に加圧式のカプセル(宇宙船)をつけ、高度25kmまで上がれる気球を作っています。そこまで上がると空気がないので、地球が見下ろせて宇宙が見える。星々が昼間に見えるような世界まで上がれるので、ロケット以外でも宇宙旅行気分が味わえるというエンタメのようなサービスです。

三浦氏:面白い! いくらですか?

岩谷氏:1人2,400万円です。

佐藤氏:岩谷さんは人はもちろんですが、宇宙業界から実験のオファーも来ていて……25kmとはいえ宇宙空間の疑似体験ができ、いろいろなデータが取れるそうなので、R&Dとしても使われていますよね。岩谷さんの会社は既に死の谷(山場)を越えている会社として先輩企業となると思います。次のステージとして必要な支援もあると思うのですが、いかがでしょうか?

岩谷氏:アメリカのように政府から受注して企業成長に繋がり、上場までするような流れが日本でもできてくるのではないかと思います。これからベンチャーが育っていくような流れは確実にできると思いますので、私たちは着々とそこに応えられるような技術を作り、足腰をしっかりさせて、残っていくような企業になるべく日々努力する必要があると思います。

誰でも宇宙に携われる!

佐藤氏:『スタートアップ育成5か年計画』において資金調達に加え、人材確保も必要になるかと思います。宇宙業界は今日本の中で1万人いかないぐらいの規模です。自動車業界が圧倒的に大きく500~600万人規模と言われています。ちなみにアメリカの宇宙業界は日本の10倍、10万人規模と言われていますね。ここにどういう風に人を連れてくるか。

私は3つぐらいパターンが必要かと思っていて、1つ目はほかの業界から連れてくること。宇宙は自動車業界と親和性が高いといわれていますが、それ以外からでもありだと思います。

2つ目は若い世代。まだまだ若い世代は大企業志向から抜けないと言われていますが、若い人がもっと入ってくるのはとても重要だと思います。大学に航空宇宙学科が少なく、他学科から触れることもないので、どのように若い世代を巻き込んでいくかが重要だと思います。

3つ目はグローバル。外国人社員など、いかに優秀な人材を世界から集めて世界と戦えるスタートアップができるかだと思います。

現場で採用に関わられている岩谷さんと堀江さんにお伺いしたいのですが、岩谷さんの企業の実態はどのような感じですか?

岩谷氏:うちの会社はありがたいことにメディアに取り上げていただいているので、比較的苦労はしていない会社かと思います。ただ、地方のベンチャー社長さんとお話すると、「全然人が来ません」と悩んでおられます。我々も本社は札幌ですが、メディアに取り上げていただくことでカバーができています。

私は若者の獲得が必ずしも重要とは思っていません。若い人は若い人の役割が、シニア層にはシニア層の役割があるのです。人間が入れ替わりながら、教える人、教えられて伸びる人ができるようなかたちです。

佐藤氏:何か悩んでいるポイントはありますか?

岩谷氏:課題はたくさんありますが、丁寧に解決すればいいぐらいの課題ばかりではあります。スタートアップの場合は死の谷(山場)を越えるまでが全く人が来ないのです。私は、会社らしい評価システムがあり、指揮命令系統があって、報・連・相がしっかりあるような組織を作ることが重要だと思います。

佐藤氏:堀江さんは、採用や雇用は順調ですか?

堀江氏:全然順調ではないです。ベンチャー企業をいくつも立ち上げてきた経験から言うと、上場するまではまだまだ保守的なんですよね。「なんでこんな面白い会社に来ないのかな」と思います。だって自分たちが開発しているロケットが飛ぶのに。

なぜ来ないのかというと、ある程度ロケットが飛ぶことは信じられていると思うのですが、それまでに会社がつぶれるのではないかとも思われているのではないかと思います。ただ、僕は人が来ないということに関しては心配していません。上場したりロケットがバンバン打ち上がるようになると、手のひらを返したように人が来ることが経験上分かるからです。

でも、多くの人が誤解しているのが、ロケットや宇宙開発は東京大学の工学科などごく一部の賢い人しかできないと思っていることです。「僕なんかができるはずがない」と思っていても、所詮ロケットは工業製品なので、車と一緒です。溶接している人もいるし、町工場のように加工をしている人もいる。コンピュータのプログラミングをしている人もいますし、営業も総務も財務もあります。なので、誰でもチャンスはあることを伝えたいです。

三浦氏:アメリカで最高のアニメーションスタジオ「ピクサー・アニメーション・スタジオ」が、トップのクリエイターしか採用できないという悩みがあったんですよ。そこで何をやったかというと、映画のエンドロールに経理や財務の名前も全員載せました。そうしたら、その子たちが大変喜んで広め、バックオフィスの人がとても増えたことがありました。ロケットもいろいろな人が関わっていることを広めることは非常に大事だと思います。

佐藤氏:宇宙というと、確かにファウンダーにスポットライトが当たりがちですが、人が増えていく中でようやくチームで活躍する人が露出することも出てきました。

三浦氏:ロケットは真ん中の技術者以外にもいろいろ人が必要なのだと伝えていくことが大事だと思います。

佐藤氏:鈴木さん、宇宙業界の人材を集めるのは特殊性があると思いますが、これから政策の面でどういった支援をしていけそうでしょうか?

鈴木氏:グローバルという視点でいくと、アメリカのユニコーンの創業者の55%が移民で、そのうちインドとイスラエルで30%を越えるのです。アメリカで創業した彼らが本国へ戻り、引き続きアメリカのベンチャーキャピタルなどとネットワークを持ち続けながら、さらに大きいビジネスを展開しています。

日本としては、グローバルな人材を惹きつけたり、展開している場所に起業家になりたい人を派遣したりして、グローバルのエコシステムの中に入っていくことを応援しようという取り組みが『スタートアップ育成5か年計画』に入っています。

また、いろいろな場に宇宙が出ていくことが大事だと思っていて、2023年10月2日から航空自衛隊が「CIC Tokyo」というところに宇宙協力オフィスを出しました。スタートアップや人材、お金を出す人との交流を進め、どんどん露出しながら人材確保をしていくのが大事かと思います。

佐藤氏:「CIC Tokyo」のようにいろいろな業種の人が集まる場は大事だと思います。そういうところで宇宙というコミュニティが根づくようになれば良いなと思います。

高まる十勝・スペースポートへの期待

佐藤氏:最後にお1人ずつコメントをいただければと思います。今日の話を踏まえ、十勝や大樹町の「北海道スペースポート」に期待することがあれば教えてください。

三浦氏:宇宙というこれから100%伸びる市場に早いうちからクリエイティブディレクター、マーケターとして関わりたいと思ってきました。僕のよく使う言葉に「ブランディングアクション」という概念があります。実際のブランディングは言葉やデザインではなく、行動でしか表現できないということです。

北海道大樹町が宇宙産業についてこれだけ行動しているのは、とても価値のある取り組みだと思っています。宇宙の入り口としての北海道大樹町をこれからも応援しています。

堀江氏:我々以外にも台湾からロケットを打ち上げる会社さんが来るなど、さまざまな人たちが「北海道スペースポート」というインフラに注目し、「いいじゃん」「十勝晴れでロケットの打ち上げにすごく適している」と知り、盛り上がってくると思います。大樹町に人が集まり、十勝全体が盛り上がり、我々がロケット『ZERO』を打ち上げるころには「あのころは大変だったけど、今は完全に宇宙のまちとして定着したよね」と振り返れるような未来を期待したいです。

岩谷氏:アメリカ、中国、インドなど海外も宇宙に向けて非常に投資しており、日本の「技術立国」と言われた時代は昔となりつつあります。ライバル国ができる中で、こうして集まり、同じ方向を向いて戦っていくのは素晴らしいことなので、これからの発展も願っております。

鈴木氏:3月に大樹町にお邪魔をさせていただきましたが、期待というより羨ましいです。家もお店もたくさん建ち、若い人がたくさん来て、とても羨ましい。私もこういうまちづくりをやりたいと思いました。ほかの地域が憧れるようなまちづくりをこれからもやってほしいと思うし、僕も応援したいと思います。みんなに憧れられるまちになることを期待しています。

佐藤氏:「この流れが10年、20年と続いた時に、十勝・大樹町はどうなっているかな」と歴史に伴走しながら、私も一緒に盛り上げていきたいと思います。ありがとうございました。

 

※本記事はカンファレンスでの発言を文字に起こしたものです。言い回し等編集の都合上変更している場合がございます。

連載「HOKKAIDO 2040」では、“2040年の世界に開かれた北海道(HOKKAIDO)”をテーマとして、大樹町を中心に盛り上がりを見せている宇宙産業関係者へインタビュー。宇宙利用によって変わる北海道の未来を広く発信します。連載記事一覧はこちらから。

⇒こんな記事も読まれています
【PR】 「母の影響で馬の虜になった」神戸からやってきて奮闘中!ばん馬の新人獣医師・柴田さんが描く未来

【連載】意外とハマるかも…?北海道マンホール特集
一生に一度は見てみたい!神秘的な北海道の絶景

LINE友だち追加