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「私は宇宙人です」言うだけで割引…!? 自治体の宇宙ビジネス【北海道宇宙サミット2023】

2023.11.01

地球から宇宙へ飛び立つ。そんな言葉を聞いても、宇宙を遠い存在に感じる人は多いかもしれません。そんな宇宙への距離感を縮めてくれるのが“宇宙ビジネス”。現在、宇宙ビジネス創出推進自治体(S-NET推進自治体)は全国に13あり、各地域はさまざまな取り組みによって宇宙の存在をより身近にしようと奮闘しています。

2023年10月12日に北海道帯広市で、国内最大規模の宇宙ビジネスカンファレンス「北海道宇宙サミット2023」が開催。日本で宇宙に携わるフロントランナーが一堂に会したトークセッションでは、さまざまな視点で議論が交わされました。

Session4では「宇宙ビジネスが地方を変える!SNET自治体の取り組みと挑戦」と題して、宇宙ビジネスに取り組む自治体間での取り組みの議論が行われました。その様子をお届けします!

⇒そのほかのセッションの様子はこちら

登壇者

一般社団法人Space Port Japan共同創業者&理事 片山 俊大氏(モデレーター)

北海道 経済部 産業振興局 スタートアップ推進室 主幹 八木 裕輔氏

大分県 商工観光労働部 先端技術挑戦課 宇宙開発振興班 主幹(総括) 江藤 憲幸氏

鹿児島県 商工労働水産部 産業立地課 新産業創出室 主幹 西村 元一氏

鳥取県 産業未来創造課 課長補佐 井田 広之氏

「宇宙ビジネス創出推進自治体」の取り組み

片山氏:このセッションは、宇宙ビジネスを推進している自治体の方が登壇します。私以外は県、道の自治体の職員さんで構成されていますので、専門的なことよりも「宇宙と宇宙でないものを掛け算してどう新しい産業を作っていくか」を、県庁さん、道庁さんの目線で話し合っていきたいと思います。

私は、本業は広告会社でPR・ブランディング・企業連携をしております。政府系や内閣府系の仕事に携わったこともあり、宇宙産業系を2014・15年ぐらいからやるようになりました。2018年には、Space Port Japanという団体を創業しました。こちらは非営利団体で、業界の方の意見などを集約し、情報発信をしたり政策提言をしたりして、日本により多くのスペースポートを作ることを実現していくような団体です。

宇宙へは必ず地球上のどこかから行きます。その結節点を「スペースポート」と呼んでいます。スペースポートの周りにはいろいろな産業が生まれてくるだろうということで、宇宙と宇宙でないところをつなげることに注力しております。

今日は4つの自治体のみなさんにお集まりいただいています。北海道は大樹町をはじめ、かなり宇宙ビジネスが盛り上がっています。まずは北海道の八木さん、宇宙ビジネス創出の取り組みについてご紹介をよろしくお願いいたします。

1:宇宙機器産業と宇宙利用産業の成長を目指す北海道

八木氏:まずは北海道も属しているS-NET推進自治体について紹介します。

『S-NET』とは内閣府と経産省が協賛して行っている事業で、宇宙ビジネス創出推進自治体(S-NET推進自治体)と連携して、産業やサービスの創出を広げていく取り組みです。当初、S-NET推進自治体は4つから始まっているのですが、徐々に広がり、現在は13の自治体が指定されています。

道庁は宇宙基本計画に則り、宇宙機器産業(ロケットや人工衛星等の製造業)と宇宙利用産業(衛星データを利用したソリューションビジネス)の両分野の産業を育て大きくしていく方針です。10月12日現在で100の企業が参画しています。道内では連携会議でみなさまの取り組みを共有したり、出展をしたり、内閣府や経産省で用意しているさまざまな補助メニューを取りに行ったりしています。

片山氏:ここは帯広ですけども、北海道としても取り組みを展開しているのですね。また、政府とも連携をされているとのこと。ご共有ありがとうございます。

2:大分空港が持つ、スペースポートの可能性

片山氏:大分県の江藤さん、アウェイ感がありますよね……?(笑)

江藤氏:そうですね。北海道さんありがとうございます。私は2003年大分県庁に入庁し、20年間働いています。農林水産部が10年間と長く、この4月までは医療政策課でコロナ対応をしておりました。そのため、宇宙に1番遠い人間だと思います(笑)

大分県がなぜ宇宙に絡みがあるのかというと、大分空港には3,000mの滑走路があり、大分空港を宇宙港(スペースポート)にしていこうという目標があるからです。大分県は2020年、米Virgin Orbit社とパートナーシップを締結しました。Virgin Orbitは飛行機にロケットをくっつけ、飛行機からロケットを放す取り組みをしています。これを大分空港からやりたいという思惑があります。大分空港は海に突き出ており、周辺に民家が少ないのが利点。北海道・大樹町のスペースポートは海に面していて、南も東も開けていますが、大分空港もまさに同じような滑走路となっています。ご存じの通りVirgin Orbitは経営破綻してしまったのですが、2022年には米Sierra Space、兼松株式会社、JALにも入っていただき展開を広げていく予定です。

3,000mの滑走路だけではなく、観光資源(温泉)とモノ作り企業が集積している地域があるのが大分の魅力です。

片山氏:大樹町から打ち上げて大分に帰ってくるのも面白いですし、将来的には旅行も含めた新しい形が提案できるかもしれないですね。

江藤氏:最初は物資からになると思いますが、ゆくゆくは人が行って宇宙で何日か過ごし、大分に帰ってくることをイメージしています。

3:JAXA発射場を有する鹿児島の産官学連携の可能性

片山氏:鹿児島県の西村さんよろしくお願いいたします。

西村氏:私は北海道が大好きで。鹿児島にある『山形屋』という百貨店では北海道展に非常に多くの人が集まります。

鹿児島県の取り組みをご紹介します。鹿児島県には種子島と内之浦にJAXAが所有する発射場があり、種子島は54年目、内之浦は61年目を迎えます。県庁としては、打ち上げにあたり地域のみなさんと調整をしましたが、宇宙ビジネスについては全くやっておらず、令和2年にそれまでの未来創造ビジョンを改訂しました。

これまでは農業と観光で稼ぎ、福祉にお金を充てるスタイルでしたが、「中小企業が稼ぐ力をつけていこう」ということで、そのなかの1つのテーマに宇宙が入りまして。こういった経緯で、2022年6月30日に『鹿児島県宇宙ビジネス創出推進研究会』という産学官連携した団体が立ち上がりました。まずは宇宙ビジネスについて理解していくセミナーを中心にJAXAや三菱重工さんの協力を得て、ビジネスにつなげる研究をしています。

2023年3月にS-NET推進自治体に入り、まだまだ宇宙ビジネスとしては浅いのが鹿児島県です。

令和5年度の予算規模としては、1,900万円でソフト事業を中心に運営しました。実績は以下です。

・プレイヤーを育てるため、衛星データに触れるプロジェクトチームを立ち上げ運営
・人材育成セミナーの開催
・ビジネスの入り口を探るビジネスマッチングへの参加
・鹿児島大学のロケット開発や地上局アンテナの研究開発への補助金
・衛星データを活用した社会課題の解決(2022年は海況情報の可視化)

片山氏:ありがとうございます。内之浦はロケット発祥の地でもありますよね。種子島もあり、「スペースポートといえば」というところが鹿児島にはあるような気がしますね。

西村氏:鹿児島には打ち上げの実績がありますし、ハード面でもJAXAの施設があります。今後打ち上げをしていくときにぶつかる障害に対し、今までの知見を活かながら、民間の活用を少しずつ広げていきたいです。一方、鹿児島の射場はまだ使いづらい部分もあるなか、北海道や和歌山にはより使いやすい射場ができています。使用者のニーズに応えながら、鹿児島の射場の立ち位置も少しずつ変えていかなくてはいけないと考えています。『鹿児島県宇宙ビジネス創出推進研究会』により、研究会という形で自由に意見を述べられるのが今の強みです。

片山氏:JAXAも今、官民連携を強めて産業集積の可能性が高まっていますね。シリコンバレーを目指す大樹町で、官民連携と十勝それぞれの産業集積における棲み分けの有無も徐々に明らかにしていけるとおもしろいかもしれないですね。

4:月面=鳥取砂丘!?

片山氏:鳥取県の井田さん、よろしくお願いいたします。

井田氏:鳥取県も北海道のことが大好きです。鳥取県といえば鳥取砂丘が有名です。そのほか、松葉ガニや二十世紀梨、鳥取和牛など食も豊富ですし、温泉もたくさんあります。

鳥取における宇宙ビジネスの取り組みは少し毛色が違います。鳥取では、昨年から『鳥取砂丘月面化プロジェクト』を展開しています。鳥取砂丘のエリア内に、月面探査機などの実証試験ができるフィールドをオープンしました。砂丘のもともとある砂地を活かして、平らなエリアや最大20度の斜面、穴を掘れるスペースも置いています。プロジェクトの開始にあたり、起伏がある状態や砂の性質が、月と砂丘でどのように違うかを真面目に研究した結果、月の砂と鳥取砂丘の砂が比較的似ていることが分かりました。そっくりそのままではありませんが、類似性や差を把握し、月面を想定した場合の実験の想像ができるのがおもしろいところです。

この取り組みで鳥取県が目指すのは、「国内外の企業や研究者の方々に、月面探査などの実証試験の場として使ってもらうこと」。使用の際には鳥取県と連携協定を結んでもらい、鳥取県の産業創出につなげていきたいです。

片山氏:ありがとうございます。鳥取砂丘を月と見立てるという話を聞いたときは、とても面白いと感じました。実行力も素晴らしいですね。

井田氏:鳥取県の平井知事もとても協力的で、実証フィールドの整備は知事自ら「やろう」と投げかけてくれました。

片山氏:アルテミス(有人宇宙飛行)計画の推進にあたり、2030年に向けては月に到達するだけではなく、基地を作って恒常的に人が暮らせるような状態にしなければならないのです。その場合、食糧や水、エネルギーを地産地消する必要がありますが、月面でやることってたくさんあるんですよね。この状況を考えると、鳥取には非常にポテンシャルがあるのではないかと注目しています。

井田氏:S-NET推進自治体も各地に増えてきていますが、鳥取県は「月面=鳥取砂丘」で存在感を示しながら貢献していきたいと思います。

ウチは宇宙をこう使う!我が地域の「宇宙×○○」

片山氏:最近は、宇宙×金融、宇宙×旅行、宇宙×ビッグデータなどすべての産業が宇宙に向けて膨張している時代になっていますので、宇宙の展開を各自治体のみなさんに聞いてみたいと思います。まずは北海道の八木さんお願いいたします。

北海道:「宇宙×6次産業化」

八木氏:北海道内では「宇宙の6次産業化」という言葉がよく使われています。1次産業が射場・ロケット打ち上げ場。2次産業がロケット。3次産業がデータ利用です。それぞれ着実に取り組んでいかなければならないと思っています。

3次産業としてのデータ利用の取り組みとしては、道内で挑戦したい企業が3社あり、見事3社とも採択されました。ロケット側の話では、Session2に登壇された森田先生の株式会社ロケットリンクテクノロジー。道内の有名なロケット企業・植松電機さん協力協定を締結しています。将来的には、大樹町から抜本的な低コストロケットの打ち上げをしてくれるのではないかと期待しています。

また、こういった新しい企業の挑戦を支援するため、北海道庁は宇宙産業を成長産業分野の1つに位置づけ、企業立地補助金を用意しています。また、経産省の支援施策で事業再構築補助金もあります。私は5月まで経産省に出向し、この事業の企業採択に深く関与していました。非常においしい事業と言われ、宇宙分野に新しく参入したい企業に多く使ってもらっている施策です。すでに使っている企業でも、案件が異なれば再度使えますので、ぜひ2回目・3回目も狙っていただければと思います。

片山氏:とても手厚い補助だというのが伝わってきました。

大分県:「宇宙×観光」「宇宙×教育」

片山氏:続きまして、大分県の江藤さん、よろしくお願いいたします。

江藤氏:大分県からは2つ紹介します。

1つ目は、観光プロモーション施策です。『宇宙ノオンセン県オオイタ』と題して、“宇宙人割”の取り組みを開始しました。温泉旅館で入浴料金を割り引いたり、宿泊時間を1時間延長させたりなど、割引は各旅館のできる範囲でしていました。

2つ目は、県立国東高校に『SPACEコース』を開設(2024年~)したことです。スペースポートのあるイギリスのコーンウォール州の高校との交流が機会となり開設につながりました。教育分野でも宇宙を考えることのできる人材を育てていく予定です。

片山氏:ありがとうございます。“宇宙人割”は宇宙人に向けた割引制度なんですよね。どうやらこれは自己申告で「私は宇宙人です」といえば割り引かれるという、ツッコミどころを自ら作るのがとてもセンスがよく、全国でかなりバズりましたよね。

江藤氏:そうですね。みなさん地球人ですが、宇宙のなかの地球ですから(笑)

鹿児島県:「宇宙×教育」

片山氏:続きまして、鹿児島県の西村さんよろしくお願いいたします。

西村氏:鹿児島県も「宇宙×教育」がテーマです。内之浦の宇宙観測所がある肝付町(きもつきちょう)に、県立楠隼中学校・高等学校という全寮制の中高一貫校があります。こちらは2015年の開校当時からJAXA公認の推進モデル校として、JAXA職員や大学教授による『シリーズ宇宙学』の講義があります。

2023年からは、九州の株式会社QPS研究所、株式会社Fusicの協力をいただき、『起業』『ものづくり』『事業戦略・営業』『衛星データの活用』というビジネス寄りの特別講義を行いました。実際にこの学校の卒業生が、宇宙ビジネスを行う一般社団法人SPACETIDEに就職をするなど、実績も出ています。宇宙ベンチャーの企業と高校生を会わせることで、鹿児島から宇宙人材をもっと輩出していきたいと考えています。

片山氏:宇宙と教育は親和性が良く、宇宙自体がフロンティア精神の塊だと思うので、努力家で優秀な人材が集まってくると思います。また、宇宙は総合的な学問なので、宇宙を通じて実践を通じて学んでいくのが非常に有効かと。ただ、個人的な見解でいうと、最近は若干サイエンスとビジネスに偏りすぎていると感じるところはあります。

昔、宇宙は国際政治やSFなど、国防やエンターテインメントともっと密接につながっていました。歴史、政治、エンターテインメント、軍事などありとあらゆることを学べる旗印として宇宙が使える環境ができるのではないかと考えていますが、そのあたりはいかがでしょうか。

西村氏:宇宙だから宇宙を学ぶというよりは、「プロジェクトをどう回していくか」「資金調達はどうするのか」など、全体像を考えながらやることを考えられるのが宇宙のよさだと考えています。今後も挑戦を支援していきたいです。

鳥取県:「宇宙×R&D」「宇宙×観光」

片山氏:それでは最後、鳥取県の井田さん、よろしくお願いいたします。

井田氏:鳥取県は、宇宙産業創出の取り組みの下地として『星取(り)県』という取り組みを8年ほど前から始めました。美しい星空を活かした観光や地域振興、子どもの教育などを行っています。

例えば、行政では、都道府県初の星空保全条例を作ったり、『星空予報』といって星空がどれぐらいきれいに見えるかをWeb上で公開する取り組みを行いました。民間では、星空観光メニューを作る企業やグランピングなどの民間の星空活用イベントの支援をしたり、『星取県コラボ商品』として星空や宇宙をテーマにした商品を開発したりといった取り組みをしてきました。

片山氏:ありがとうございます。星がきれいで月面体験もできるということはR&D(Research&Development・研究開発)にもなり、観光資源にもなりますね。これが一元化できると非常に面白い産業に育ちそうです。

30年後は宇宙が当たり前の未来に

片山氏:最後は30年、40年先を見据え、みなさんに一言いただきたいと思います。

八木氏:今日の会場(ベルクラシック帯広)の近くに素敵なサウナがありますが、30年後は整いながらロケットが見られる未来を期待しています。

江藤氏:孫が大分から宇宙に飛び立つのを見ながら、帰ってくるのを迎えるような世界になればいいなと思っています。同時に、宇宙をみなさんが当たり前に使う社会になっているのではないでしょうか。

西村氏:スペースポートからスペースポートに行ける環境が整っていると思いますので、地域間の交流が活性化されるような未来を期待しています。

井田氏:鳥取県は若者がどんどん県外へ出ていき、県内に働けるような魅力的な仕事がないと認識していますが、月面分野を作ることで若者が帰ってくる。「月面といえば鳥取」ということで就職をし、鳥取が盛り上がってほしいと思います。

片山氏:30年後というと「宇宙ビジネス」は死語になっていると確信しています。宇宙の産業、生活がますます密接につながり、近い存在となり、30年後には当たり前の存在になっているはずです。そのころには、ここにいらっしゃるみなさんがリーダーとなり活躍されていることを祈って、今日のセッションを終わらせていただきます。ありがとうございました。

 

※本記事はカンファレンスでの発言を文字に起こしたものです。言い回し等編集の都合上変更している場合がございます。

連載「HOKKAIDO 2040」では、“2040年の世界に開かれた北海道(HOKKAIDO)”をテーマとして、大樹町を中心に盛り上がりを見せている宇宙産業関係者へインタビュー。宇宙利用によって変わる北海道の未来を広く発信します。連載記事一覧はこちらから。

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