アイキャッチ 宇宙サミット2023(日テレ)

月旅行が現実に…!? 宇宙を身近にする人たち【北海道宇宙サミット2023】

宇宙を遠いものと感じている方は少なくないかもしれません。しかし、宇宙は私たちの生活にどんどん近づいてきており、地球の未来の鍵を担っているのです。その未来を切り拓くため、宇宙業界のベンチャー企業で挑戦を続ける人々がいます。

2023年10月12日(木)に宇宙ビジネスカンファレンス「北海道宇宙サミット2023」が帯広で開催。「日テレPRESENTS~宇宙ベンチャー応援企画〜宇宙輸送・衛星・月面探査!宇宙を“もっと身近に”するキーパーソンが大集合」と題して、宇宙関連のベンチャー企業・事務局で活躍する4名が今後の展望について議論を交わしました。その様子をお届けします!

⇒そのほかのセッションの様子はこちら

登壇者

株式会社Synspective CEO補佐 淺田 正一郎氏

株式会社ダイモン代表取締役社長 兼 CEO 中島 紳一郎氏

将来宇宙輸送システム株式会社代表取締役社長 兼 CEO 畑田 康二郎氏

日本テレビ放送網株式会社 社長室宇宙ビジネス事務局 宇宙アナウンサー 弘 竜太郎氏(モデレーター)

はじめに:日本テレビと宇宙ビジネスの関わり

弘氏:日本テレビ宇宙アナウンサーとして帯広にやってまいりました、弘竜太郎です。どうぞよろしくお願いします。

弘氏:今日は、頼れる相棒『そらジロー』も一緒に北海道へ来てくれました。宇宙服を身にまとっての登場です。宇宙服がピチピチですが……大丈夫のようですので、よろしくお願いします。

私も宇宙のことが大好きでして。この度日本テレビの宇宙ビジネス事務局が立ち上がり、アナウンサーと宇宙ビジネス事務局との二刀流でやらせてもらっています。今回は「宇宙輸送・衛星・月面探査!宇宙を“もっと身近に”するキーパーソンが大集合」と題し、宇宙業界のベンチャー企業を日本テレビが全力で応援するセッションです。

まずは、日本テレビと宇宙の関わりを紹介します。日本テレビは2023年6月、社長室宇宙ビジネス事務局という新たな部署を設立しました。日本テレビは開局35年の1988年に、世界で初めてチョモランマの頂上から衛星生中継を行いました。そこから35年が経ち、開局70年にあたる2023年に「月面からの生中継を目指す」という次の目標を掲げ、日本テレビの宇宙に向けて新たな挑戦が始まりました。宇宙にかける想い、情熱はみなさまに負けないと思っていますので、日本テレビの宇宙ビジネスもご注目いただきたいです。

登壇者紹介

弘氏:将来宇宙輸送システム株式会社代表取締役・畑田康二郎様、株式会社Synspective CEO補佐・淺田正一郎様、株式会社ダイモン代表取締役・中島紳一郎様です。どうぞよろしくお願いします。まずは畑田さん、この広い会場でのトークセッションの雰囲気はいかがでしょうか。

畑田氏:思ったより人が少ないですね(笑)

弘氏:あら! 徐々に増えてくると思いますから、我々の話で熱を持って展開していきたいと思います。淺田さん、この北海道宇宙サミットの空気感、雰囲気はいかがですか。

淺田氏:その前に、先ほど畑田さんが気が付いたのですが、名前を見てください。そらジロー、(畑田)康二郎、(淺田)正一郎、(中島)紳一郎。

弘氏:本当だ。そして私、竜太郎ですので、“ろう”繋がりということで。

淺田氏:すごいと思いません?

弘氏:何という偶然でしょう。畑田さんが最初に気付かれたということで、ありがとうございます。一方、中島さんはいかがでしょうか。我々はまだ緊張感みたいなものがあるかと思いますが。

中島氏:緊張感はあるのですが、やはり宇宙を目指す者としては、緊張感に心を惑わされない、動揺されない訓練を今日もしたいと思います。

弘氏:そうですね、強心臓を持って取り組んでいきたいと思います。

宇宙への取り組み

「将来宇宙輸送システム株式会社」の取り組み

弘氏:まずは、各会社の取り組みについてご紹介いただきます。

畑田氏:『将来宇宙輸送システム株式会社』を2022年5月に立ち上げました。もともと私は理系の人間でしたが、国家公務員として経済産業省で14年働いていました。政府側で民間宇宙ビジネスの拡大を企画していたのですが、やはり自分でやらないと言っていることが嘘だと思い、会社を作りました。創業間もない会社ですが、エンジニア中心に28名。「宇宙ビジネスはどうなるのか」「必要なものは何か」をみんなで考えています。オフィスは日本橋にあります。

我々は、世界に勝つ日本、宇宙産業を日本の新しい産業にすることへ向けて、最終的には「スペースプレーンのようなものを2040年ぐらいに作りたい」という大きな目標を掲げています。2030年ぐらいには、日本列島から人工衛星や人も含めて宇宙空間に気軽にアクセスできるような手段を開発していこうと思っています。小型の人工衛星打ち上げ用のロケットを再使用しながら、技術を蓄積していく段階を踏んでいこうと。また、全てを自分の会社の中だけでやるのではなく、基幹ロケット開発で大変実績のある『株式会社IHIエアロスペース』などとパートナーシップを組み、連携しながら日本発の宇宙輸送の手段を作っていくことを目指しています。

おかげさまで、日本政府からSBIR基金の補助金採択をしていただき、最初の1年、最大20億円の100%補助をしてもらえることになりました。補助金を使ってロケットを作ろうとしているのですが、いきなり大きなロケットを一生懸命作ろうとして失敗したらダメージが大きいです。そのため、最初の1年で小型の実証機を作り、小さく飛ばしながらロケットを再使用していくうえで、最適なロケットの形状を研究しようと考えています。航空宇宙のエンジニアもとても大事ですが、今は、ソフトウェア開発をしているようなITエンジニアが集まり、小型の実証機をいろいろ試しながら学んでいくことを目指しています。

これはあくまで手段。「宇宙輸送は何のためにやるのか」という目的に立ち返ると、日本発で新しい宇宙産業を作りたいです。かつて、鉄道輸送の世界では小林一三さんというとても素敵な経営者がいて、彼も鉄道事業を志したのですが、周囲の人から非常に反対されたそうです。「小林さん、鉄道なんか絶対儲からないですよ」と。確かに鉄道は儲からないですが、彼は鉄道が走れば人の暮らしが変わる“わけ”を考えました。家を買う人が出てきたので、阪急不動産を作り、住宅を販売し始める。そうすると、通勤需要が生まれます。しかし、日曜日は電車に乗りません。ですが、反対側に宝塚歌劇団を作り、レジャー需要を作れば、また人が動き始めます。そうしていくうちに、阪急梅田駅はたくさんの人が乗り降りするようになる。「多くの人が使う阪急梅田駅に百貨店を作れば、みんなが買い物をしますよね」と、阪急百貨店を作りました。鉄道は儲からないですが、鉄道によって人々のライフスタイルが変わり、産業が生まれていくわけですね。

私のロケットが果たして儲かるのか儲からないのかわかりませんが、「ここから毎日のように宇宙に行きます、帰ってきます」ということが起きると、そこを中心に人が集まり、いろいろな産業が生まれます。集まる人たち向けにレストランができ、饅頭を売るおばあちゃんが出て……これらすべてが宇宙産業だと思っています。これから先、日本が何で食べていくのか? 私は宇宙産業で食べていけるようにしたいと思っています。

弘氏:ありがとうございました。地球の陸海空という輸送も超えて、宇宙で輸送システムを作ろうと。素敵な紹介でした。

「株式会社Synspective」の取り組み

淺田氏:我々は人工衛星を作り、人工衛星から地球を観測して、そのデータをみなさんに届けるという仕事をしています。使っているセンサーは、みなさんがイメージする普通のカメラで撮ったような映像ではなく、自分自身で電波を飛ばし、その反射波を使うというものです。人工衛星の太陽電池の反対側のアンテナから電波を飛ばし、地球に放射して、その反射波を受ける。光学カメラだと雲があったり夜だったりすると地球を見られませんが、我々の人工衛星は自分で電波を出しますから、雲を透過する。雨の下でも夜でも見られるという特徴があります。どういった画像が撮れるかというと、1回の撮像で1メーターの分解能で約100平方キロメーター。3メーターの分解能にすると1,000平方キロメーターの観測が可能になります。1,121平方キロメーターの札幌は、1回の撮像で覆うことができる。これまで3機の衛星を打ち上げて、画像取得に成功しています。

ただし、レーダー衛星で撮ると色が付いていません。白黒で、普通の人には見るのが難しい。白い部分は電波の反射強度が強く、黒い部分は電波があまり返ってこないです。波がないと電波が戻ってこないので、海は黒くなっています。

少しきな臭いのですが、クリミア半島のロシアの軍艦の画像もあります。見えている戦艦や潜水艦を非常に重要視する人たちもいるので、このような画像も撮っています。

レーダーを使った画像取得は、単に白黒のイメージでものを判別するだけではなく、実はいろいろな使い方ができます。電波は波なので、位相というものがあります。我々の使っているXバンドは波長が30ミリぐらいなのですが、実は30ミリ以下の微妙な変化がわかります。関西空港のモニタリングの結果ですと、500キロ以上の宇宙から、関西空港の数ミリの地盤変動を観測できるのです。すごいと思いませんか。広大な面積の地盤変動を一気に見て、1つ1つの解析もできます。役に立つ例を紹介します。以前、東京都府中市で道路が陥没する事故がありました。この事故はトンネル工事により表面の道路が陥没したのですが、後付けで観測したところ、地盤の変化率が急激に変わった後に陥没が起きていたことがわかりました。また、浸水被害の分析にも非常に有効です。レーダー衛星の画像では、水がある場所は電波が戻ってこないため黒く写ります。水があるところとないところの差が非常にわかりやすいので、浸水被害の分析に役立てることができます。

我々は今後、たくさんの衛星を地球の周りに上げて、高頻度な観測を実現します。観測をするうえで頻度はとても大事ですので、今まで見たいときになかなかいなかった人工衛星を地球周辺にたくさんある状態にし、見たい場所がいつでも見られるようにしようとしています。我々は人工衛星を作っていますが、人工衛星を売るわけではありません。自分たちで運用してデータを取得し、販売します。レントゲン技師がレントゲンの中身を詳しく知っているように、レーダー衛星の画像は専門家でないとわからない部分があります。我々が見て解析し情報に変えて、インフラメンテナンスや防災、損害保険会社、資源エネルギー開発などに役立てたいと考えています。

弘氏:ありがとうございました。気象条件に限らず衛星写真を撮れるとなると、いろいろなところに発展、応用ができそうですね。

淺田氏:災害発生時、光学衛星で見られないときに豪雨の最中でも観測できるということです。

弘氏:雲が覆っている場所でも撮ることができるということですね。ありがとうございました。

「株式会社ダイモン」の取り組み

中島氏:『株式会社ダイモン』は月面探査車を開発している会社です。私が今手にしているのが月面探査車で、名前を『YAOKI』といいます。私たちは月面探査車を『Project YAOKI』と称しています。

50年前、アポロ計画で人類が初めて月に着きました。そして、みなさんもご存じのように、3年後のアルテミス計画で再び人類が月に着きます。今まさに『Project YAOKI』で月面探査がスタートします。『Project YAOKI』のマイルストーンですが、私たちは基本的にNASAのミッションにジョインして月面探査を成し遂げます。NASAでは、2023年からは毎年4本程度の打ち上げが予定されているのですが、そこには私のような民間会社も参加できます。アメリカ企業でなくても、日本の企業でも参加できる。私が最初に契約したときはまだ1人の会社でしたが、今は6人です。超零細の小さな会社でも参加できると時代が訪れます。私たちは、毎年1回打ち上げるというマイルストーンで、最初の打ち上げは2023年度です。2024年1~3月に1回目の打ち上げを予定しています。

今持っているのが、『YAOKI』の仕様のものです。1番シンプルな構造で、まず月面着陸に成功すると、地球から遠隔操作をします。50年ぶりかつ、余計なリスクは排除するために充電が許されておらず、内部バッテリーで操作・操縦をするしかありませんが、バッテリーの持ちは大体6時間を見積もっています。6時間ではやはり満足した探査ができないので、翌年には無線充電をします。そうすると、大体月の半日、つまり14日間程度持たせられる想定です。2週間経つと月では、昼間がプラス150度以上の温度になりますので、熱で部品が溶けて機能しなくなることが予想されます。そのため、3回目の3年後にはシェルター設備を備え、熱対策をし、数ヶ月活動できるようにする予定です。その翌年にはいよいよ、1機から2機、2機から10機、ミッション4では、100機を月に持っていこうと計画しています。そして、100機の『YAOKI』で群探査をして月のマッピングをする。そのときには再び人類が月に降りますので、人類とロボットの共生社会を目指したいと思っています。

最後に、私たちのキャッチフレーズです。ジョン・ケネディーは、「We choose to go to the moon」と言ってアポロ計画を成し遂げました。私たちは「We choose to touch the moon」。実際に月面に着くぞという想いを込めて、日本語で言うと「私たちは月に着くことにしました」ということで、実現したいです。

弘氏:ありがとうございました。実際持ってきていただいた『YAOKI』は、ミニチュアではなく現物のサイズですか?

中島氏:現物のサイズで、現物の重量で、現物の素材です。

弘氏:手の平に乗るようなサイズですね。ちなみに重さはどのくらいでしょうか?

中島氏:重さは0.5キログラムです。

弘氏:1キロにも満たないんですね。

中島氏:1キロ輸送するのに1億円かかるんです。私はもともと契約したとき1人の会社だったので、1人で1億円は無理だなと。5,000万円だったら新築一軒家を諦めればできるということで、今中古マンションに住んでいるのですが。新築一軒家を諦めたことで達成できました。

弘氏:極力コンパクトにしているんですね。

中島氏:ただし、今、円安なので、5,000万円が6,000万円になってしまうんですよ(笑)

弘氏:そういった問題も出てきてしまうんですね。今後『YAOKI』にもご注目いただければと思います。ありがとうございました。

2030年の宇宙輸送は?

弘氏:ここからは、2030年の宇宙輸送はどうなっているのかを伺っていきます。宇宙輸送の分野の畑田さんからお願いいたします。

畑田氏:2030年、ぜひ弘さんを我々のロケットで宇宙に連れて行ってあげたいと思います。

弘氏:本当ですか。ありがとうございます。私も宇宙飛行士の選抜試験を受けたのですが序盤で終わってしまって、夢がある……。でも、そういった想いの方はいっぱいいると思います。

畑田氏:これまでは職業として宇宙飛行士になろうと思うと、身体的にも健康でなければならないとか、大変な訓練を経ないといけなかったですよね。2030年には観光気分で行けるぐらい宇宙を身近にしていきたいなと。安く安全に宇宙に行ける手段を作れば、そういう未来がきっと来ると思っています。

弘氏:宇宙を目指すとなると、これまではハードルがかなり高くて、選ばれし人間しか行けない、聖域のような分野だったと思います。

畑田氏:宇宙飛行士しか行けないのではなく、誰もが、それこそ一軒家を買うのを諦めたら宇宙に行けるなど、ハワイ旅行感覚で宇宙に行けるところまで目指していきたいです。

弘氏:中島さんも月面探査を目指されていますが、畑田さんのお言葉、いかがですか。

中島氏:はい、私ももう1回新築を諦めます。

弘氏:ハハハハ。一般の方にも宇宙に触れやすくしていただけるような未来が、2030年には本当にやって来そうですかね。

畑田氏:何とか2020年代には再使用可能なロケットを作ることによって……。さすがに「安全かどうかはわからないけれど乗りますか」と言われても乗らないですよね?

弘氏:いや、挑戦してみたい気持ちは十二分に持っているのですが……ただ、そういった危険も当然伴ってくる世界ではありますよね。

畑田氏:はい。やはりまずは何回も人工衛星を打ち上げたり、いろんな宇宙実験をしたりしながら、「100回やって大丈夫なら、101回目は大丈夫でしょう」という、技術的に安全なだけでなく実績も必要だと思っています。そのためにも、何度も繰り返し宇宙に行けるような手段を2020年代に頑張って作りたいです。

弘氏:力強い言葉をありがとうございます。

淺田氏:2030年ごろには、我々の人工衛星だけでも年間に10発ぐらい上げられます。これまで我々の人工衛星は全てニュージーランドから上げましたが、ぜひ日本で手軽に安く上げていただけるようしていただきたいです。

畑田氏:作ったそばからどんどん宇宙に上げていく形になるといいですね。

弘氏:この北海道の地で話しているのも、そういったことで意味があるかもしれないですね。ありがとうございました。

2030年の衛星活用は?

弘氏:続きましては、2030年の衛星について話を進めていきましょう。淺田さん、よろしくお願いいたします。

淺田氏:先ほど、我々はまだ3機しか上げていないと言いましたが、3機では全く足りないのですよね。我々が実現したいのは、 みなさんが見たいときにいつでも地球を見られるようにすること。当面目指すのは30機ぐらいですが、2030年になると100機くらいですかね。30機あれば1時間に1回、ある箇所によってはもっと短い時間で、世界中どこでも見られます。100機になると10分や20分で可能に。そうすると世の中が変わります。“リアルタイムGoogle Earth”のようなものができるわけです。今の世界中の情報が手に取るようにわかるということは、災害が起きても災害地点が今どうなっているかが瞬時にわかるということが実現できると思っています。

弘氏:台数が少ないと撮れる範囲も限界が出てきてしまうから、1機でも多く増やしたいということですか。

淺田氏:そうですね。人工衛星は大体1.5時間で1回地球を回るのですが、観測できる範囲は知れています。地球がぐるぐる回っていくので同じ場所に戻れるかというと、簡単には戻れないのです。だから、数を増やして頻度を上げることを考えています。

畑田氏:数が増えてくると、もう1つ考えなければいけないのは、宇宙環境の持続可能性です。人工衛星がたくさん上がると、「スペースデブリ(宇宙ゴミ)の問題は大丈夫なのか」と話す方もいます。しかし、まさにSynspective社がやられているような小型の衛星を地球の低軌道に入れるのであれば、衛星の寿命も4年ぐらいで地球に再突入して完全に燃え尽きてしまうのです。小型で低度なものをネットワークで作っていくことをいかに持続可能にしていくかは、1つの課題だと思います。そのために、スペースデブリを除去するお掃除衛星を打ち上げる需要も出てくるかと。再使用型の安い宇宙輸送の手段が衛星の活用の前でも大事になってくるということです。

弘氏:なるほど。そのようなことに対して、淺田さん、改めていかがでしょうか。

淺田氏:今畑田さんがおっしゃったように、衛星寿命は5年ぐらいしか考えていません。それ以上長くするとデブリになってしまうので。ということは、100機上げても、次から次へと打ち上げていかないといけないのです。安い再使用可能なロケットが出てきて、いつでも上げられるようになってくれると嬉しいですね。

弘氏:中島さんも、コストカットや極力コンパクトにという部分は通ずる部分があると思いますがいかがでしょうか。

中島氏:デブリの問題も、単純に小型軽量化して高性能化すれば、潜在的に低減できるので、最終的にはやはり技術力が肝になってくると思います。

弘氏:いくら小さくしたとしても、持続可能で使えることに意味があると思いますが、なかなかそれも難しいのですね。

畑田氏:小型軽量なものづくりは、日本は得意技だと思います。海外の方はどうしても大きく、火星だ、もっと先だ、ということをやりますけれども、ここは日本人らしく、きめ細かく、小型軽量でかつ地球環境も考えた宇宙開発をしていくことができると思いますね。

中島氏:最終的には私も同じ考えです。小型軽量化というところに表れてくるのが日本の技術のあり方で。西洋ではコンパクトにするという発想がないので、日本はそういうところのよさが生かせるのではないかと思います。

淺田氏:インターステラテクノロジズ社が考えていることで「『YAOKI』さんのような小さい衛星をたくさん上げて、大きな衛星の代わりにしよう」という案もあります。これなどは素晴らしい発想だと思いますね。

弘氏: 2030年まであと7年ですから、日本の技術力の進歩も楽しみにしたいところです。

2030年の月面探査は?

弘氏:続いては2030年の月面探査ですね。7年後ですが、中島さん、いかがでしょうか。

中島氏:先ほど、4年後には100機の月面探査車『YAOKI』を月に送ると言いました。ということは、2030年には少なくとも1,000機。私たちはベンチャーなので、探査も大事ですが、もう1つの裏ミッションとしては、操縦権を開放することを考えています。 開放すると何が起こるか。カメラは操縦者の目となります。車輪は操縦する人の足になります。ということは、自分の意識が月に転送することになります。これはアバターロボットとして操縦権も公開されているので、インターネットで操縦もできる。

ということは、例えば週末、自宅でラップトップを開いて予約を入れ、VRゴーグルをかけると、そこは本物の月面の世界。月面旅行ができるので、2030年にはいつでもどこでも、誰でも、安全に安く月面旅行が楽しめる時代に。これを作ろうと思っています。

弘氏:7年でそこまで掲げていると。実現の可能性はいかがですか。

中島氏:これが使命なので、そのために日々頑張っています。さらに付け加えると、自分の意識が月に行くといっても、地球外に行くということですね。人間は24時間のうち8時間寝ますと。これはもう生命維持のために寝る。残り16時間、生命維持のために2時間ぐらいは食事をします。残り14時間のうちの半分の7時間を、アバターロボットで月に行くような活動をしたとすると、人類は2030年に、どちらかというと宇宙で活動する時代が来ると。僕は真剣にそれを目指しているので、生命の一部である人類が宇宙で生活するということは、生命、人類の次の進化のポイントだと思っています。その変化点、次の進化のポイントというものを、2030年、7年以内に迎えたい。そうすると、僕自身も体験できるじゃないですか。まだ生きていると思うので、それを体験すれば、心置きなく「本当の宇宙に行ってもいいよ、あの世に行っていいよ」と考えています。

弘氏:映画や漫画であった「人間が本格的に宇宙空間に活動拠点を置く」という世界が、すぐそこまで迫っていますね。中島さんの言葉を聞いて、お二人はいかがですか。

畑田氏:まさに拡張現実というか、あたかもそこにいるかのように感じる技術も、2030年に向けて発展していくのではないかと思います。バーチャルでみんなが体験できるようになると、「一生に1回ぐらい月旅行へ行ってみたい」とリアルの体験の価値も相乗効果で高まるのではないでしょうか。今だと、画面の反対側の世界というか、自分の意識とは違う世界が宇宙だと思うのですが、僕たちと月を隔てるものは何もないわけです。その気になれば月にも行けるという、その人の発想の限界を超えることができれば、地球環境はこれから大変になるかもしれませんが、全て克服できるのではないか、いろいろな人に夢と希望を与えられるのではないか、と思います。 そういう意味では、人が月で暮らしているかのように感じられるのは、とても夢がありますよね。

淺田氏:バーチャルリアリティだけでなく、NASAが主導して行っている「月面に戻ろう」というアルテミス計画がありますが、おそらく2030年には日本人も月面着陸していますよ。 最近JAXAで選ばれた宇宙飛行士のお二人が月面に立ち、もっとリアルに月が感じられるようになるのではないかと思います。

中島氏:人間は地球では強そうに、偉そうにしていますが、宇宙では最もレアで弱い物質、存在になります。アルテミス計画は3年後ですので、ロボットをパートナーとして、ロボットと人間が助け合って宇宙でも発展していくことが実現できるのではないかと思っています。

弘氏:十分実現可能ということですね。ありがとうございました。

質問タイム

弘氏:お三方の熱く夢のあるお話を聞かせていただきましたが、ここから、会場にお越しのみなさまからの質問にお答えしていきたいと思います。

音声:弘さん、汐留からの質問も大丈夫ですかー?

弘氏:あれあれ? 辻岡義堂さん! 今、どこから?

辻岡氏:私、そちらに伺いたかったのですが、どうしても『news every.』の生放送がありまして、今みなさまのお声を傍受しておりました。私は名前に“ろう”が付いていませんが、質問しても大丈夫ですか?

弘氏:はい、快諾いただきましたので大丈夫です。

Q:協力関係が重要になるなかで、困っていることや大変なことは?

辻岡氏:畑田さんの小林一三さんのお話も面白かったですし、淺田さんのロシアの軍港、地盤変動も興味深かったですし、中島さんの中古マンションのお話も笑い転げておりました。ぜひ質問させてください。こういった機会は協力関係が大事だと思うのですが、みなさん、今何に困っていますか。何が大変ですか。

弘氏:同じく日本テレビ宇宙アナウンサーとして活動します辻岡義堂アナウンサーからの質問ということで、当然、夢を叶えるためには越えなければならない壁、ぶつかるべき壁があると思います。まず畑田さんから、大変な部分はどんなところですか。

畑田氏:困っていることしかないのですが、強いて言うなら、人が足りず、絶賛採用活動中です。航空・宇宙専攻でなくても、 アナウンサーの方にもお仕事はあると思いますので、ぜひ当社のホームページから応募していただければと思います。よろしくお願いします。

辻岡氏:ありがとうございます。畑田さん、私も宇宙に連れて行ってください。

弘氏:私ともどもよろしくお願いいたします。ありがとうございます。それでは淺田さん、いかがでしょうか。

淺田氏:私はもともと大企業に勤めていて、今スタートアップに勤めていますが、 スタートアップは人数が少なく規模も小さいので、本当に決定が早いです。スピード感があるのですが、ヒト・モノ・カネがない。だから、とっかかりは早くていいのですが、安定的にものを作ろうとすると、途端に人がいないし、ものがないし、金がないという状況になりますね。ヒト・モノ・カネ、ください。

全員:ハハハハハ。

辻岡氏:ご協力できればと思います。

弘氏:見ている方々のなかにはいらっしゃるかもしれません。ありがとうございます。では、中島さんもいかがでしょうか。

中島氏:うちも人が足りなさすぎています。6人しかいないので、 そろそろ限界を迎えています。もう少し大雑把に言うと、毎週毎週、何か危機を迎えます。ただ、今こうしてできているのは、毎週絶対絶命の危機を迎えるのに、解決しているからなんですね。最近思ったのですが、解決不可能ではないかということも、実はたくさん解決策があり、自分が無能なだけというか、世の中を知らないだけなのかなと。予想外な解決策は本当に偶然に、錯覚に陥るような感覚で解決していったというところです。

もう1つは、「月面探査をやっています」と私が言うと、5年前ぐらいは、悪い意味で「夢がありますね(実現性がないですね)」と言って離れていく。そういう夢でした。ただ、今はアルテミス計画に参加できたので、いい意味の夢として扱われるようになってきたと感じています。

弘氏:どうしても、スタートアップとなればマンパワーが課題になってくると思います。だからこその、この宇宙サミットだとも思いますので、今日話を聞いて興味が出たという方は、ぜひご一報いただければと思います。辻岡アナウンサー、どうでしょうか。

辻岡氏:大満足でございます。しっかりとみなさまと力を合わせて前に進んでいければと思っております。1つだけ、中島さん、あの世に行くなんて言わないでください。こちらからは以上です。本当にありがとうございました。

Q:北海道スペースポートに期待することは?

弘氏:まさかのサプライズ登場ということで、ありがとうございました。さあ、いろいろなお話を伺いましたが、あと1問紹介させていただきます。「今日ご登壇のみなさまが北海道スペースポートに期待することは何ですか」という質問です。お1人ずつお伺いしてもいいでしょうか。

畑田氏:きっと2030年にはここがスペースポートとなって、宇宙ベンチャーも来て、いろいろなことが起きていると思います。期待することは、ホテル。今はホテルが少ないんですよね。『HOTEL TAIKI』しかないので、JAXAが実験でたくさん来ると、満室になり予約ができないことも。インフラがないので、これから宇宙が盛り上がるらしいと察知された方々は、ホテルやおいしいレストランを建ててほしいです。ものづくりをする場所を作ったら、「ちょっと壊れたから直して」という仕事もあるかもしれないのですよね。ぜひ、宇宙港ができることを期待したいです。先回りして、さまざまなインフラを作っていただけたら嬉しいです。

弘氏:エンターテインメントの部分も大事ですよね。ありがとうございます。淺田さんはいかがでしょうか。

淺田氏:我々の衛星はニュージーランドで上げました。つまり、衛星を打ち上げるためにはニュージーランドに人が行かなければならず、数人が1ヶ月間いなくなってしまいます。今後年間10機も上げたら、 担当者がずっといないことに。人が足りないなかで、打ち上げることに人を取られたくないですよね。北海道で打ち上げることになれば、必要な人だけがそのときだけ日帰りで行ける。そういう時代になってほしいと思います。

弘氏:ありがとうございます。人の部分もありますね。中島さんはいかがでしょうか、

中島氏:ロケットの打ち上げでも、理由なく心がワクワクするじゃないですか。あの非日常体験が日常になっていただきたいと思います。私もSpaceXの見学に行ったのですが、打ち上げのシーンは社員がみんなドキドキしているのに「今日も打ち上がっているのね」という感じでクールを装っているのですね。「そういうのが当たり前だよね」と。でも、心の中はワクワクして止められないのです。だから、毎週打ち上がるような感覚で、ワクワクするのですがちょっとクールぶって「今週も上がるみたいだぜ」というセリフを言えるようになりたいです。

弘氏:ありがとうございました。

2030年に向けての決意

弘氏:最後にお1人ずつ、来る2030年に向けての決意をいただき、この会を締めたいと思います。

畑田氏:2030年には宇宙産業で働く人の数を10倍にしたいですね。現状8,000人ぐらいしかいません。日本の就業人口は6,500万人ぐらいいるなかで、1万人に1人ぐらいしか宇宙に関わっていないわけです。少なくとも、これを10倍の8万人ぐらいにすると、世の中が面白くなってくるかなと思いました。その1プレイヤーとして、当社が気に入らない人はSynspective社でもダイモン社でもいいので、宇宙産業で働きたいという人がもっと増えるといいなということで、10倍にします。

弘氏:そういった未来が来るといいですね。ありがとうございます。淺田さん、よろしくお願いいたします。

淺田氏:衛星を100機上げて、みなさんにリアルタイムで世界中の情報を伝えてあげる。災害が起きても、すぐに何が起きているか分かるようにする世界を作りたいと思います。

弘氏:世界中の空にSynspectiveの衛星がある未来を願っております。中島さん、よろしくお願いします。

中島氏:2030年には、人類の進化です。人類は生命の代表として宇宙に発展する役割を担っている種族ですので、それを実現したい。その礎になります。

弘氏:ありがとうございます。2030年、あと7年ですが、我々がかつて夢に描いていた世界がもうすぐそこまで来ているということで、ご登壇いただいたお三方の今後の活躍も心から願っております。

我々日本テレビとしても、宇宙ビジネスへ本気で取り組んでまいりますので、ぜひ1人でも多くの方に知っていただけますと幸いです。これからも頑張ってまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。今日は本当にありがとうございました。

【画像】matsuo8823、Eliff、sapphire / PIXTA(ピクスタ)

※本記事はカンファレンスでの発言を文字に起こしたものです。言い回し等編集の都合上変更している場合がございます。

連載「HOKKAIDO 2040」では、“2040年の世界に開かれた北海道(HOKKAIDO)”をテーマとして、大樹町を中心に盛り上がりを見せている宇宙産業関係者へインタビュー。宇宙利用によって変わる北海道の未来を広く発信します。連載記事一覧はこちらから。

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