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他人事じゃない!おいしい小麦や魚を食べ続けるために…【北海道宇宙サミット2023】

気象予測や通信技術の向上など、宇宙テクノロジーは私たちの日常生活に多くの変化をもたらしています。その影響は一次産業にも広がりつつあり、新たな可能性と希望をもたらしています。

2023年10月12日に北海道帯広市で、国内最大規模の宇宙ビジネスカンファレンス「北海道宇宙サミット2023」が開催。日本で宇宙に携わるフロントランナーが一堂に会したトークセッションでは、さまざまな視点で議論が交わされました。

Session3では「宇宙×一次産業:衛星データが変革する農林漁業の生産現場」と題して、宇宙と一次産業の新たな局面について語られました。その様子をお伝えします!

⇒そのほかのセッションの様子はこちら

登壇者

宇宙キャスター® / JAXA研究開発プログラムJ-SPARCナビゲーター / 一般社団法人そらビ / YAC東京日本橋分団 分団長 榎本 麗美氏(モデレーター)

株式会社グリーン&ライフ・イノベーション 研究開発フェロー 齊藤 誠一氏

株式会社天地人 代表取締役 櫻庭 康人氏

北海道大学大学院理学研究院 教授 高橋 幸弘氏

十勝農業協同組合連合会 農産部 農産課 課長 前塚 研二氏

十勝農業協同組合連合会 農産部 農産課 小川 ひかり氏

登壇者紹介

榎本氏:今日はみなさんが「衛星データを使ってみようかな」と思っていただけるようなセッションにしたいと思っています。

北海道大学の高橋先生には、業界の全体像をお話いただきます。齊藤さんは、海洋資源計測学の第一人者ということで、水産学のスペシャリストとして漁業のお話をしていただきます。前塚さんは、先進的で持続可能な農業を目指していらっしゃる方ですので、現場の農業の視点をお話しいただければと思います。櫻庭さんは、今日唯一サービス提供側の立場でいらっしゃるので、現場の方々と、対櫻庭さん(サービスを作る人)という座組みです。

テーマ1:一次産業に貢献する衛星データ

榎本氏:まずは、「一次産業に貢献する人工衛星データ」と題しまして、お1人ずつ取り組みや活用法などをお話いただけたらと思います。

高橋氏:私たちが大学で作っている衛星は、大きさが50キログラム。従来の数百キロ、数トンに比べるとはるかに小さく、わずか1、2年で作ることができます。JAXAの衛星は思いついてから飛ぶまで10年以上かかります。そして、コストが100分の1。意外かもしれませんが、1枚当たりの画像の値段は、ドローンを使う場合と比べて1,000分の1程度に抑えられます。それでも元が取れます。それに付加価値をつけて儲けましょうという話もしますし、役に立つこともたくさんできます。

私たちの衛星は、観測できる波長数が世界最多で、600色で撮ることができます。このような衛星はNASAにもJAXAにもありません。しかも、好きな方向に1、2分で自由自在に向けることができます。よって1つの衛星で、今までの衛星の10~20倍をカバーします。従来、衛星は2週間に1回ほど見に行くものが多いのですが、我々の衛星は世界のどこでも1日以内に見に行くことができます。

大事なのは色を見ることです。とくに農業や植生を調べるとき。プロが目の前の草を見ても判別できないのですが、色を正確に見ることによって判定ができる。従来の方法で観測した場合、稲の収穫量との相関は頑張っても0.5ほど、「似ているな」という程度でした。しかし、詳細スペクトル計測によって特定の色を取り出してくると、相関係数が0.9など精度が飛躍的に上がります。

それから、木の種類と病気の木が分かります。フィリピンのバナナは年6パーセントが病害のために減り続けていますが、我々は宇宙から病害地域を特定することに世界で初めて成功しました。

海の汚染を見ることもできます。

地上観測をいろいろと組み合わせ、危険な積乱雲、ゲリラ豪雨や線状降水帯を見つけた後は衛星にバトンタッチして、精密な画を作るということもできます。従来の何十億もするような地上レーダーでさえできないような、精密な雲の画像を作ることができるんです。これによって、台風や線状降水帯の予測の精度が飛躍的に上げられると考えています。

人工衛星のカメラも衛星もロケットも大事なのですが、何しろ大事なのは、地上で色を正確に測ることです。そのために私は分光器を発明しました。人間の目やデジタルカメラは3バンド(測定できる波長の数)ですが、この分光器は100バンド相当です。農家の方にも使えるように簡単に作り、パテントも取っています。稲の生育段階の指標を作ったり、病気を見分けたりするための必要な色をこれで同定しておきます。30台ほど作ったのですが、将来的には千台、1万台作り、世界中のあらゆる作物のあらゆる状態のデータを集めると。そうすることによって衛星の価値そのものが100倍にもなると考えています。

今、海外のプランテーションでデータ収集をしています。また、プラスチックや海洋ごみが大きな問題ですが、海でごみを拾い何百種類というごみのスペクトルを測り、ゆくゆくは人工衛星からごみの種類を判別できるようにしたいと考えています。

榎本氏:ありがとうございます。誰でも使えるように簡単にしなければ広まらないというお話は、みなさん共感していただけたかと思います。齊藤さん、お願いいたします。

齊藤氏:私はグリーン&ライフ・イノベーションという北大発ベンチャーの会社で、水産業に衛星を中心としたICT技術を使い、スマート水産業を支援することを目指しています。

漁業は大きく分類すると、“とる漁業(獲)”と“つくる漁業(作・育)”の2つに分けられると思います。とる漁業は、かつおの一本釣りやさけの定置網など。つくる漁業は、まぐろやぶり、さけの養殖や、ほたて貝や昆布の養殖です。魚の養殖は餌が要るのですが、ほたて貝や昆布は自然の餌をそのまま使うので餌は要りません。とる漁業は狩猟的で、つくる漁業は農耕的と言ってもいいかと思います。両方の漁業に対して、衛星データを使って収益を上げるための支援をしています。

衛星データは空間情報なので、“みえる化”できる。例えば、かつおの場合は漁場探査、定置網だと来遊予測、まぐろなどはどこに養殖地を作ったらいいか……といったことです。

榎本氏:ありがとうございます。人工衛星データで“みえる漁業”になったことが、まさに変革の始まりと言えるのではないでしょうか。続きまして、前塚さん、お願いいたします。

前塚氏:十勝の農業をご紹介したいと思います。例えばポテトチップスの原料や生食の芋などみなさんが食べられている馬鈴薯、うどんに使われる小麦、砂糖の原料になる甜菜、豆類、こういうものを作らせていただいています。畜産も含めると、十勝の耕地面積は24万ヘクタールほどありまして、十勝は日本のみなさんが食べる食物を作らせていただく大産地だと自負しております。

ただ、農業が抱える問題として、経営者の高齢化が進んでいることから、年々離農される生産者もいらっしゃいます。現在では畑作と畜産の両方を合わせて農家さんは5,000戸ほどです。24万ヘクタールをこれらの農家さんで分けた平均面積は、1戸当たり43ヘクタール。つまり、東京ドームに換算すると約10個分の面積を1人の経営者さんが作付けしているということになります。十勝の農業は非常に規模が拡大していっているんです。

たくさんものが採れ、品質は平準化し、なおかつ低コストということが農業のポイントですが、面積が大きくなればなるほど難しい。人の目で見られる圃場の数は限られるので、今後より規模が拡大したときには、人の目でなく衛星の生の情報を頼っていかなければならない。それが今の課題を解決するための1つの手段だと思っています。衛星の画像を使った生育診断や、位置情報を使った効率的な収穫支援など、衛星の力を借りて農業の課題を解決していきたいと考えています。

榎本氏:ありがとうございます。人工衛星データを使う“超スマート農業”ということですね。では、櫻庭さんお願いいたします。

櫻庭氏:弊社の「天地人」という名前の由来は、「天」は宇宙のデータ、「地」は地上のデータ、「人」は人のノウハウや企業のデータ。3つを掛け合わせてAIで学習し、GIS(地理情報システム)のサービス上に分かりやすく使いやすいかたちで載せ、サービスを提供させていただいております。

衛星データも最低でも最近は4種類ほど使っており、マルチモーダルにAIで学習。衛星データ自体がまだコスト的に農業に合わないところが多いので、いかにコストを抑えながらサービスとして提供できるかというところに注力しています。

農業分野では、お米の卸でトップシェアを持っている株式会社神明さまと『宇宙ビッグデータ米』を山形県で栽培させていただいたり、水田で水を張っているときに発生するメタンガスを衛星で効率的に抑止できないかというデータ解析を行っていたりします。

農業系ではさまざまな課題があります。1人当たりの栽培面積が増えてきているなかで、例えばお米は一反当たりにどのくらい手を加えられるかというと、だんだんできなくなってきていて、収量や品質が落ちている。そういった課題を衛星データを使って解決できればと思っています。

榎本氏:ありがとうございます。課題を解決するためのサービスを作っているのが天地人さんですので、今日は現場の声をぜひ聞いて事業に活かしていただけたらと思っています。

テーマ2:人工衛星データ、こんなことにも使えます!

榎本氏:次のテーマは、「人工衛星データ、こんなことにも使えます!」ということで、高橋先生から、北海道が目指す大きなビジョンとともにお話をお願いします。

高橋氏:具体的な使用例は先ほど言ったように、できないことのほうが少ないです。何でも見られるんですね。大事なのは課題で、「利用者として何が欲しいのか」ということです。

残念なことに、日本の宇宙開発は今まで官需がメインで、国や宇宙機関のプライドがドライビングフォースになってきた面が否めません。しかし、この10年ぐらいで世界が“利用”のほうに大きくシフトしています。要するに、利用で役に立たないものは打ってもしょうがない、衛星を飛ばしてもしょうがないとみんなが思うようになってきたということです。

北海道では、我々北海道大学や私立、国立大学、公立大学を合わせると少なくとも7大学が、人工衛星やロケットの開発に非常に深く関わっています。さらには『北海道スペースポート』や利用する立場の農林水産業といったフィールドも日本で随一です。もう北海道以外ではあり得ないというぐらいのリソースがあるんです。だからこそ、これらを繋げることによって、北海道のためではない、日本のため、ひいては世界のために北海道が“宇宙センター”になる必要があると確信しています。民官学を全て繋げ、推進していく『北海道広域宇宙センター』の構想を描いています。世界に打って出るための中心地の1つにしたいと思っています。

“宇宙版シリコンバレー(宇宙バレー)”として、アカデミアと産業で人材と資金を循環させる成長モデルの実現を目指す。よく「シリコンバレー」という言葉が使われますが、単なる産業集積地をシリコンバレーとは呼びません。シリコンバレーの本場はカリフォルニアですが、スタンフォード大学やバークレー大学などが人とお金を産業界と回したことによって成立しています。人を作ること・研究をすることと産業が一体化しているところがシリコンバレーです。それを作るという観点で、産と学、作る側もありそれを利用する側の農林水産業もある北海道は、日本の中でユニークな場所ですし、世界が北海道を利用して豊かになってほしいと思います。

榎本氏:宇宙バレー、良い響きですね。次は農協連さんから、現在取り組まれていることを具体的にお願いします。

小川氏:十勝での衛星の利用について2つお話します。1つ目が『十勝地域組合員総合支援システム』、通称『タフシステム』。こちらを介して、衛星データを生産者の方に活用していただけるよう取り組んでいます。インターネットで使え、農家さんや農協さんが営農に必要なさまざまな情報を自分で登録したり、得たり、共有したりすることができるというものです。

『タフシステム』の「マッピング」というメニューは地図ソフトになっており、農家さんが自分の圃場図を地図としてインターネット上で管理できるようになっています。

地図ソフトでは『Sentinel-2』という衛星画像を利用できます。十勝には秋撒き小麦が多くあり、9月に種を撒き、越冬し、翌年の7月下旬~8月上旬に収穫するサイクルがあります。画像にあるように、7月上旬は緑色の作物の状態ですが、収穫前になると枯れ上がり茶色になるんです。衛星画像の中にはNDVI解析というものがあり、近赤外光の反射によって作物の活性を見ています。作物が枯れ上がり茶色になってくると、NDVIの数字が下がってきます。

農家さんは自分の畑だけでなく、地域で収穫を共同するスタイルが多いのですが、そのときに、どの畑の収穫が早く始まりそうで、どの畑はゆっくりかというのが衛星画像から分かるようになっています。こういった技術ができる前は、農家さんや農協の担当の方が圃場を全て歩いて、手で揉んだり目で見たりして決めていたのですが、衛星を使って効率的に作業を進められるようになっています。

さらに、トラクターの位置情報を地図上に飛ばせるようになっているんです。誰がどこで収穫作業をしているのかや、運搬しているトラックがどのぐらいで畑に戻り工場に行くのかが全て分かるので、連携の部分で効率化が進みます。また、実際に作業した軌跡が取れるため、どのぐらいの作業時間がかかったかが分かるようになっています。今まで労働力の管理は台帳に全て書いていましたが、これによってインターネットのシステムで自動的に取れるようになりました。

もう1つ、『タフシステム』ではない衛星画像の利用としては、トラクターの自動運転があります。トラクターは大きな畑をまっすぐ走ることが想像よりもとても難しく、作業には労力も時間も大変かかります。しかし、衛星から出る位置情報とそれを補正する情報を得ることによって、ハンドルを操作しなくても自動的にまっすぐ走ったり、畑の整地や種撒きができたりする技術があります。熟練の農家さんでなくても、後継者になった若い方や従業員の方にも作業をお願いできるので、作業の軽減や負担の分散が可能です。また、夜間や視界が悪い時でも作業ができるようになるので、収量や品質を向上していくこともできます。

榎本氏:ありがとうございます。システムを取り入れた農家の方は、すでに個人で変革が起きているのではないでしょうか。続きまして、 齊藤さん、お願いいたします。

齊藤氏:先ほど「みえる漁業」と言いましたが、漁場がみえる・来遊がみえる・危険がみえる・適地がみえる、の4つの“みえる”を紹介したいと思います。

まずは“漁場がみえる”ということについて。昔から漁場探査に衛星データを使うことはポピュラーでした。最近は漁場予測に数値予測のモデルを使い、例えば5日先の漁場を探すことができるようになってきました。

“来遊がみえる”に関しては、気象庁が出すひと月先までの海の3次元予測データを使うのですが、例えばぶりが10月何日ぐらいに来て何日ぐらいまで漁が続くかなどがわかる“来遊カレンダー”を提供します。それと同時に、周りの水温や近くの漁船の分布を見ることができます。

“危険がみえる”というのは、流木です。大雨で川から流木が出て、海岸に達したり漁港に入ってきたりすると大変危険です。網に刺さったり漁船にぶつかったりすることが起こり得ますが、雨が降っても夜でもしっかり見えます。

最後に“適地がみえる”についてです。日本では200万トンが“とる漁養”、100万トンが“つくる漁業”です。世界的には、とる漁業が1,000万トン、つくる漁業が1,000万トンで1対1程度。とる漁業は頭打ちで養殖が盛んになってきています。もちろん日本でもそうなっていくので、どこに養殖地を作ったらいいか分かることが必要になってきます。そこで、水温や水の濁り具合、流れ、気象情報も合わせ、さまざまな衛星情報を使い、判別し、8段階で適地の程度を示すことができます。とくに北海道では、さけの養殖場を試験的に行っており、衛星を使った適地をレコメンドするようなシステムができています。

最近、日東製鋼株式会社さんが不沈式のいかだを作ったので、今までできなかった荒れるようなところでも適地を探すことができるようになりました。そんなことにも今トライしています。

榎本氏:ありがとうございます。漁師のみなさんが危険な思いをせずに済むようになったということですね。漁場がみえるというのも、ここに行けば獲れるということが分かるわけですね。

櫻庭氏:衛星データは高いものから安いものまでありますが、高いものがどこにあり、安いものがどこにあるかということはあまり知られていないのが現状です。また衛星データを取得しても、解釈・分析が難しく、どう活用していくかはまだ難しい世界だと思っています。それをいかにアクションに落とし込み、使えるようにするかが、今後サービスを提供する側として我々に必要な部分だと思います。

今日本だけでなく世界中の課題になっていることの1つが、気候変動、温暖化です。経験だけではうまくいかないことが世界的に起きているので、衛星データを活用し、先が読めるというところは非常にメリットがあると思っています。

また、いかに地球環境と共存して農業や漁業を営んでいくのかも大きな課題だと思っています。衛星データで見ると、日本全国のかなり多くの地域で畑の温度が1年に1度上昇しています。そのようなところを時系列で見ながら、予測・対応することに衛星データは非常に有用だと思いますので、ぜひみなさんもご活用いただければと思います。

榎本氏:ありがとうございます。たしかに衛星データは難しいけれども、それを簡単に使えるようにしているのが櫻庭さんの会社ですよね。気候変動のお話は齊藤さんからもありましたが、櫻庭さんもそこを見据えていらっしゃるわけですね。

櫻庭氏:何が原因で起きているのかも分からなくなってきているので、その時だけで判断するのではなく、過去と比較したり、他と比較したりと、広域に時系列で見る必要があります。そこは衛星データが本当に得意な領域だと思います。

榎本氏:簡単に使えるように、という点では、高橋先生いかがでしょうか。

高橋氏:ソリューションまで落とし込んで初めて商売だと思っているので、生のデータはあまり面白くないですね。ドローンの1,000分の1の価格で作れる衛星データを加工し、その10倍で売るということを世界に展開していきたいです。

榎本氏:未来に欠かせない衛星データを、分かりやすく、そして安く気軽に使えるようにするために、みなさん頑張っていらっしゃいます。では、最後のテーマに移りたいと思います。

テーマ3:人工衛星データが変える一次産業の未来

榎本氏:「人工衛星データが変える一次産業の未来」ということで、どうゲームチェンジしていくのか、どんな未来になるのかというお話を、高橋先生からお願いします。

高橋氏:人工衛星データで本当に大儲けができるのか。まだ儲かっているところは少ないですが、ポテンシャルは非常に大きいです。国内だけで見ると、農業で100億円ぐらいかと思います。しかし、森林の樹種判別だけで世界で60兆円の潜在市場があるという見積もりもあります。

自然破壊を起こさないように監視する圧力が今世界的に高まっています。そのエビデンスを出すために衛星を使うことが考えられます。もちろん値段は下がっていくかもしれませんが、日本の国家予算規模の潜在市場があるということを心に留めておいていただきたいと思います。もちろん、カーボンクレジットになるとプライスレスで、日本の国策に近くなります。

北海道で磨いた技術を世界に展開したい。世界は日本の1,000倍ほどの市場があるはずです。衛星は国境がありませんので、明日・今日中にほかの国に日本と同じクオリティでデータサービスができます。十勝で培った農業技術をもって穀物メジャーに殴り込みかけるくらいの気概を持っていったらいいのではないかと思います。

世界的IT企業や巨大国家が地球情報を独占しようとしています。しかし、それほど高いクオリティではありません。今打って出れば、我々は世界で1番信頼性の高いデータを世界中に提供できます。それを開発途上国と一緒にできると思っています。

私たちのところでは途上国の学生さんを受け入れ、フィリピンの国家1号衛星・2号衛星を日本からのODAゼロで作りました。10億円というお金ですね。日本の予算規模と比較して10分の1の国がこのような決断を下してくださいました。

ミャンマーは日本の100分の1の予算で動いている国ですが、10億円以上の約束をしてくれました。教えながら、衛星を作るだけではなく、利用していく世界を協力して作ろうと考えています。

また、1つのアイデアですが、「今日、自分の農場の収穫量を知りたい」「赤潮が来る時間を教えて」ということをスマホで操作すると、最寄りの衛星が見に来て、世界のどの衛星よりも正確な情報を提供し、ソリューションをその日のうちに返す。そんなサービスをつくる夢を持っています。これはまだ世界で誰も実現していません。そもそも、今のところこれができるのはうちの衛星だけです。今勝負すれば勝てるのですね。

衛星が48機あると世界中どこでも連続観測ができるようになります。アメリカの企業が今200機持っていますが、1日に1回しか観測できません。我々は48機あれば連続で津波の進行や火災の進行を記録でき、提供できます。これを、国際的な学術とビジネスのプラットフォーム、シリコンバレーの例として日本全体に示したいと思っています。

超大国や世界的IT企業に支配されない世界を、日本がリーダーシップを取り、日本だけ大儲けするのではなく途上国とともに作っていく。そうすることで、30年後に日本と同じGDPになる国がたくさんあります。そのような国とのお付き合いを今から考えることが必要です。

榎本氏:ありがとうございます。北海道から世界を変えようというお話でした。続いて、前塚さん、お願いいたします。

前塚氏:農業の未来を考えたときに、これからも経営者さんは減っていきますし1つの農家さんの経営規模はより拡大していくと考えています。農業の未来を明るくするためには、より細かな栽培支援ができるような衛星情報の活用が必須になってくると思います。

作物は均一には育たず、畑の中でさまざまなことが起きます。衛星でしっかり見て、それぞれの畑のどの部分で何が起きているのかを判断した上で、その場所に対して適切な栽培技術を行使することができればと思っています。

ここで、衛星のリアルタイム性が必要です。その時に必要な衛星情報がリアルタイムで取れれば、気象情報も含めて適切な処理ができる。それが今後できるようになれば、日本の未来の農業は明るいものになると思います。

ただ、実際にその技術を使うのは農家さんです。本当に分かりやすいかたちで、ボタン1つでできるようなソリューションになってほしいと切に思います。

榎本氏:高橋先生が持っていらっしゃった機械のように、ボタン1つで分かるということがこれから大事だと。

高橋氏:私の分光器は簡単に使えます。子どもでも使えるぐらい簡単な装置なので、これでデータを集めたいですね。

榎本氏:続いて齊藤さん、お願いいたします。

齊藤氏:農業でも漁業でも、高齢化や人手不足により、省力化という方向に進んで行くと思います。かつおの一本釣りは2秒で1尾釣り上げるのですが、今はロボットの竿を作っています。そのようなもので自動化することによって、これまで30人でしていた漁を5、6人でできるようになる。いろいろなデータを必要に応じて提供したり、漁場に行って帰ってくる前に自動オペレーションするといった方法もあると思います。

また、つくる漁業に関しては、盛んになっている洋上風力発電と養殖を繋ぎ、電力を提供して、同時に日本沿岸の空間利用をうまく管理していくことも必要になってくると思います。

榎本氏:農家の方、漁師の方と触れ合っている前塚さん、小川さん、齊藤さん。そして高橋先生も、何とか北海道から世界を変えるぞと、より簡単に衛星データを使えるような世界にしたいと動かれています。最後に櫻庭さん、みなさんの想いを受け止めたお話をお願いいたします。

櫻庭氏:実績として、いい話のご紹介です。昨年(2022年)天地人では、衛星の気象データと地上データで分析し、新品種のお米を栽培しました。すると、食味スコアは日本のトップブランドよりも高く、収量は20パーセント多かったんです。こういったことが衛星データで実現できるようになります。未来はもっと衛星データを活用していただけると思っていますので、ぜひみなさんも検討してみていただきたいと思います。

最後に

榎本氏:最後に代表して、高橋先生、みんなで頑張ろうというエールをお願いできますか。

高橋氏:北海道が中心にならずして日本の宇宙ビジネスはあり得ないと固く信じています。全国の方々に北海道を使っていただく。北海道は北海道のためだけではなく、日本のため、アジアのため、途上国のため、そして世界のためですね。我々が一緒に切り開いていくことを何とか早く行いたい。日本は何でも遅いのですが、ぜひここで大幅に加速して、世界のトップに立っていきたいと思っています。

榎本氏:ここまで、「宇宙×一次産業:衛星データが変革する農林漁業の生産現場」をお伝えしました。みなさん、ありがとうございました。

 

※本記事はカンファレンスでの発言を文字に起こしたものです。言い回し等編集の都合上変更している場合がございます。

連載「HOKKAIDO 2040」では、“2040年の世界に開かれた北海道(HOKKAIDO)”をテーマとして、大樹町を中心に盛り上がりを見せている宇宙産業関係者へインタビュー。宇宙利用によって変わる北海道の未来を広く発信します。連載記事一覧はこちらから。

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