日本の宇宙戦略、日本の勝ち筋【北海道宇宙サミット2023】
“2040年の世界に開かれた北海道(HOKKAIDO)”をテーマにした特別連載「HOKKAIDO 2040」の特別編として、2023年10月12日に北海道帯広市で行われた、国内最大規模の宇宙ビジネスカンファレンス「北海道宇宙サミット2023」の様子をお届けします。日本で宇宙に携わるフロントランナーが一堂に会したトークセッションでは、さまざまな視点で議論が交わされました。
今回は、Session1「日本の宇宙戦略、日本の勝ち筋」で語られた内容を掲載します。
登壇者
宇宙エバンジェリスト / 一般社団法人Space Port Japan 共同創業者兼理事 青木 英剛氏(モデレーター)
一般社団法人SPACETIDE 代表理事兼CEO / A.T.カーニー株式会社 ディレクター 石田 真康氏
文部科学省 研究開発局 宇宙開発利用課 宇宙科学技術推進企画官 竹上 直也氏
慶應義塾大学理工学部機械工学科 教授 松尾 亜紀子氏
内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 参事官 山口 真吾氏
テーマ1:日本の宇宙政策が進化!宇宙基本計画改訂について
青木氏:本日最初のトークセッションは、テーマが「日本の宇宙戦略、日本の勝ち筋」ということで、かなり大きなお題を与えられています。本セッションで登壇する4人は政府に関係のある方ですので、政府の立場からいろいろな情報を届けて、考えてもらうセッションにしたいです。今回は大きく3つのテーマを用意しています。
宇宙基本計画の改訂の概要
青木氏:1つ目のテーマ「日本の宇宙政策が進化!宇宙基本計画改訂について」です。『宇宙基本計画』という、日本の宇宙政策の根幹を担っている政策の計画が2023年大きく改訂されました。最初に内閣府の山口さんから、宇宙基本計画の改訂の概要についてご説明いただきます。
山口氏:まず、宇宙基本法ですね。宇宙基本法によって日本の宇宙政策、開発推進の体制の骨格ができました。今年は施行から15周年で、ある意味節目を迎える年なのかなと思っています。次の15年をどうするかを我々は考えていかねばなりません。
次に、宇宙3法という法律が3セットあります。ロケットや人工衛星を打ち上げるときにはさまざまな手続きが必要なのですが、運用開始から5~6年経ちました。制度として順調に動いていますが、ほころびも見えつつありますので、相談しながら変えていかなければなりません。
続いて、政府の宇宙関係予算ですね。今年度・昨年度の補正予算も含めると、6,000億円超。毎年1,000億円弱、予算が右肩上がりで増えています。政府や国民も含め、日本全体の宇宙に対する期待はますます高まっているということが分かりますね。
宇宙基本計画は、2023年6月に閣議決定されました。今後20年を見据えた10年間の宇宙政策の方針を決めるもので、全41ページあります。ご覧になったことのある方は……4分の1もいないですね。検索すると1発で出るので、ぜひ目を通していただきたいです。文量は多いですが、非常に密度が濃いです。じっくり読むと、政府や民間で今後やることの道しるべになりますので、ぜひお読みください。
宇宙基本計画には骨格が4つありまして。1番目は、現状分析が書かれた『宇宙政策をめぐる環境認識』。2番目は、将来ビジョンが書かれた『目標と将来像』。3番目は、ビジョンのための政策が書かれた『宇宙政策の推進に当たっての基本的なスタンス』。最後は、政策やプロジェクトが書かれた『宇宙政策に関する具体的アプローチ』という構成になっています。
3番目の『宇宙政策の推進に当たっての基本的なスタンス』をかいつまんで紹介します。まず『(1)安全保障や宇宙科学・探査等のミッションへの実装や商業化を見据えた政策』には、宇宙技術の商業化と日本の勝ち筋を見据えた政策に政策資源を振り向けていくことが書かれています。『(2)宇宙技術戦略に基づく技術開発の強化』には、新しい試みとして宇宙技術戦略を2023年度末までに作り公表していくと記載されています。我が国の開発を進めるべき技術を見極めて、サプライチェーンの自律性の確保も視野に入れながら技術戦略を作ることになります。『(3)同盟国・同志国等との国際連携の強化』は、同盟国との連携強化。『(4)国際競争力を持つ企業の戦略的育成・支援』は、国際競争力を持つ企業を作ることや支援が書かれています。つまり、国際市場で勝ち残っていくんだという強い意志を持っている企業を重点的に育成し、支援することです。宇宙技術戦略を作ったあと、戦略に基づいて企業に研究開発投資支援をする流れになります。『(5)宇宙開発の中核機関たる JAXA の役割・機能の強化』では、JAXAの戦略的かつ弾力的な資金供給機能を強化していくことが書かれています。
私は、宇宙輸送・ロケットの担当です。今は宇宙政策委員会の小委員会で、松尾(亜紀子)委員長のもと、前述の将来像を描きながら技術戦略を作る議論を進めています。まだ未定項ですが、いずれ公表をしていきたいです。2030年代の宇宙輸送の将来像は、ロケットを飛ばすだけではなく、ロケットが地球に帰ってきたり、洋上から打ち上げたり、洋上に帰還したりすること。または、サブオービタル飛行というのもあります。当然、軌道上でロケットや積んだものがサービスを展開していくことがイメージとして描かれています。ロケット開発や射場は、多様なニーズに対応した柔軟性の高い宇宙輸送サービスを作っていくためにあるものなのです。
1番重要なのは、「ロケットは何のためにあるか」。荷主様と荷物があることを前提に、ロケット開発があることを我々は忘れてはいけない。それから、輸送サービスをするためのハブである、宇宙港やスペースポート、射場も非常に大事なアイテムになりますので、大切に支援することがこれから求められるのかなと。
私見になりますが、今回のテーマ「日本の宇宙戦略、日本の勝ち筋」は、最初に申し上げた通り、今後の15年が勝負だと思います。荷主様のためであることは前提ですが、日本国外の動きは注視したいですね。SpaceXが非常に大きなシェアを取ることになりますし、AmazonのProject Kuiper(プロジェクトカイパー)は先日初めて2基打ち上がりました。たとえば、ロケットビジネスとか通信インフラ。よく「規模の経済」といわれますが、もし規模の経済が働くとしたら「我々の宇宙輸送ロケットはどうあるべきなのか」と先読みをしないといけない。
それから、政府予算。大きな予算はついていますが、同じことに同じ予算を投入するのはありえないので、いずれシフトしていくのだと思います。「どういう分野にシフトしていくべきなのか」という議論もあっていいのかなと。以上踏まえると、我々に必要なのは、後追い型でない研究開発、新しい領域のビジネスモデルを磨いていくことも必要です。そのために「ロケット開発や宇宙港はどうあるべきか」という議論もあってもいいと思います。
日本の利点を生かすとしたら、国内産業のエンドユーザーを早めに巻き込むこと。ロケットや宇宙輸送、軌道上サービスなど、さまざまな実験を日本企業・他企業とオープンイノベーションで作っていくことが必要です。国内需要だけで宇宙産業は、なかなか成り立たない。ビジネスモデルとしてもマーケティングの先としても、初めから「アジアまたはヨーロッパ、アメリカの市場を取っていく」というマインドセットや、市場を取るための技術戦略、標準化戦略が必要になります。
また、日本の領土や立地の優位性を生かす意味では、大樹町もいい立地ですよね。利点をどんどん生かしながら、宇宙港を発展させていくことが必要なのかなと。
最後に、みなさんは政府に対して文句を言うべきだと思います。霞が関で宇宙政策をずっと行っている役人がおらず、私は総務省から出向に近い形で来ています。役人は大体1~2年ローテーションで変わってしまうので、継続して宇宙政策を行う人がいないんですね。私は幸いなことに、宇宙の担当の仕事は今回3回目で、比較的多いほうだと思います。それでも、とぎれとぎれ情報がなくて、なんとか勉強しながら宇宙政策を作る手伝いをしています。宇宙政策をきちんと行うこと、すなわち、10年選手を育てながら、いい政策を作り、予算を取っていくことをやっていかないといけない。また、手が回っていないです。宇宙政策の役人の数も足りないので、「増やしていかないとダメだよね」と苦情を言っていただきたいと思います。私は、宇宙政策とロケットをやっているのですが、衛星リモートセンシング法の許認可ともう1つ別の仕事も担当しており、結構手一杯で。もう少し余裕があったら、予算を取って支援に回ることができるのだろうなと思うのですが、手が回りません。
もう1つの仕事の宣伝をさせてください。2年に1度行っている『第6回宇宙開発利用大賞』の公募を2023年10月13日から開始します。今回、かわいいポスターを作りましたので、ぜひご注目をいただきたいです。約1か月間の公募で、総理大臣賞などがあります。最近、日本のロケットが飛んでいないので、宇宙開発の実績という意味ではみなさんにチャンスがあります。普段であれば、ロケットを飛ばして宇宙で行った実績によって大賞に近づくのですが、最近はロケットが飛んでいないのです。自薦他薦問いませんので、「ぜひ我こそは」という方は応募していただければありがたいです。
青木氏:山口さん、ありがとうございました。『宇宙開発利用大賞』は本当にすごい賞で。お金は残念ながらもらえないんですけれども、素晴らしい栄誉がもらえます。受賞をきっかけにビジネスへ繋がっている方もいますよ。また、宇宙基本計画も読んでいただき、ご要望がある方はどしどしと政府のみなさんに言っていただければと思います。
日本の宇宙政策の変化
青木氏:宇宙基本計画の改訂に実際携われられた石田さんと松尾先生です。宇宙政策の委員として、議論の背景やなされた議論についてコメントをいただきたいと思います。まず、石田さんからお願いします。
石田氏:私は民間の立場ですが、宇宙政策委員会の議論は2015年から関わらせていただき、宇宙基本計画で3回目です。過去と比較すると毎回大きな変化があるのですが、今回は非常に大きい変化でした。私の観点から1番大きかった変化は、産業競争力が重要な論点として議論されたことです。
日本の宇宙政策は、ずっと安全保障・科学・民生利用という3本柱があり、従来、産業は民生利用の一部として政策が打たれてきました。世界的に見ると、安全保障を支えているのも産業だし、科学の発展を支えているのも産業、民生利用を拡大するのも産業です。産業競争力は3本柱を横断して貫くものであり、それぐらい強い日本の宇宙産業を作っていくことが日本の国家としての宇宙競争力に繋がると。このような観点から、産業競争力をいかに強めるかという議論がありました。議論の結果として、スタートアップの支援や大手企業の取り組みを加速する政策などがいま始まっていると思うので、やはり1番大きな変化点だったと感じています。
青木氏:ありがとうございます。松尾先生からもコメントをお願いします。
松尾氏:本職は、慶応義塾大学理工学部機械工学科の教授をしているのですが、現在は宇宙政策委員会の委員で、宇宙輸送小委員会の主査をしております。私自身、研究としては宇宙輸送に関わる推進系、ロケットやエンジンを専攻しております。そのなかで宇宙基本計画を読みました。読んだ方なら分かると思うのですが、「さあ読んでください」と渡されて10分ぐらいでは読めません。30分ぐらいかけないと読めないですし、頭がこんがらがるほどたくさんの内容が書かれています。
宇宙基本計画のなかで、宇宙輸送について私が非常に印象的だったのは、新しいキーワード。前回の宇宙輸送基本計画にはなかったもので、「宇宙へのアクセス」という言葉が出てきました。この言葉の背景には、ウクライナの危機があります。これまで日本の衛星会社は、実はロシアが打ち上げのサービスを行っていました。部品を供給していた会社もあります。そこからウクライナの危機が起こり、「日本は自力でロケットを上げられるのか」「民間でも上げられるのか」「世界で安定して上げられるのか」と。産業においてもパラダイムシフトのようなことが起きたのではないかと感じています。今回の宇宙基本計画では、宇宙のアクセスを自立的に行うための産業についての支援や後押しが非常に多く打ち出されていました。
もう1つ、「JAXA」という文字が非常に増えました。これは、JAXAの機能を強化し、JAXAにいろいろなことをしてもらうことで、いかに国として引っ張っていくのかという期待が表れているのではないでしょうか。昔と比べると人が減っているが、予算は増えているJAXAの現状をどうしていくのか。今後の機能が増えることから、新たな道のりがスタートするのではないかと。今後、我々は注視していかなければいけないと思っています。
文部科学省の取り組み
青木氏:では、具体的に文科省でされている取り組みを竹上さんからご説明いただきたいと思います。
竹上氏:文科省では、政策に関して内閣府と一緒に議論しながら、具体的な取り組みをJAXAと一緒にやらせていただいているところです。宇宙基本計画は前述のとおり4つの骨組みがありますが、『2.目標と将来像』の民間ロケットの支援は、前回はっきりと柱立てされていませんでした。今回は『2.目標と将来像』の柱立てがかなり大きいと思っています。
具体的な取り組みとしてまずは、基幹ロケットですね。H3ロケット、イプシロンSロケットの開発を着想とともに進めています。イプシロンのロケット6号機やH3ロケット初号機が打ち上げ失敗し、関係のみなさまに大変ご迷惑とご心配をおかけしています。イプシロンは、先日原因究明が終了し、2024年度下半期の打ち上げに向けて、いま全力で開発を進めているところです。H3ロケットも初号機の原因究明を進めていて、先月から委員会で要因や対策を直接明確にいたしました。おそらく今月、報告書取りまとめの委員会で方向性を定め、できるだけ早くリターン・トゥー・フライトに向かっていければと考えています。
民間ロケットを担う事業者への支援として、新しい取り組みの紹介です。メディアでも取り上げていただいていますが、2023年より『SBIR制度』が始まりました。大まかにいうと、スタートアップ向けの研究開発補助金です。宇宙政策の文脈とは別に、2022年はスタートアップ創出元年ということで、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が補正予算として2,000億円ありました。これまでベンチャー支援は、かなり初期段階の比較的小規模な予算しか出ていませんでした。しかし、一定の金額・規模感で支援することが必要だという政府全体の動きがあり、まさに宇宙にぴったりのスキームだと思いました。ちょうど1年前ぐらいから内閣府と相談をしながら作業をし、おかげさまで文科省の宇宙分野として556億円の補助金を確保。経産省や国交省、農水省も宇宙関係のSBIR制度事業をやっているので、予算全体の約半分が宇宙関係だと思います。非常に大きな金額を新しい事業として作ることができました。
メインテーマである宇宙輸送に関しては、350億円の5年間のプロジェクトで先日、公募の採択結果を公表しました。フェーズ1の採択企業として、『インターステラテクノロジズ』『SPACE WALKER』『将来宇宙輸送システム』『スペースワン』の4社を採択しました。まだ1年間、全体350億円のうちの一部、フェーズ1の支援企業です。今後、ステージゲートを通じて最終的には最大2社に絞ることを我々宣言をしていますので、しっかりと輸送業界の仕組みで盛り上げていきたいと思っています。
今回新しい仕掛けとして、できたものはしっかりと政府のプロジェクトでサービス調達するという、まさにスモールビジネス向けの事業として工夫をしています。既成制度も必要なものがあれば、政府側で対応していきたいと思いますので、今後の進捗を注目ください。
もう1つ、新たな宇宙輸送システムの構築として、SBIR制度に先駆けて2022年夏ごろに文科省の委員会で、革新的将来宇宙輸送システムロードマップに基づくスケジュールを出しています。今後2030年以降を目途に、基幹ロケット発展型と高頻度往還型輸送システムの2つを将来的に目指す方針を文科省として出しました。我々もブレずにやっていきます。
まずは要素技術開発や必要な研究環境の整備しないといけないため、JAXAでも2022年度から将来宇宙輸送システム研究開発プログラムというものを比較的大きな規模で始めています。前述の施策を総合的に進めることで、宇宙基本計画を実行していきたいと考えているところです。
青木氏:ありがとうございます。この手の政府の支援は北海道にとっても、日本中のほかのスタートアップの方にとっても追い風になったと思います。今、世界中でスタートアップは冬の時代と言われていまして。シリコンバレーを中心に、宇宙のみならずいろんなスタートアップが資金調達に苦労しながら、倒産する事例も出てきています。そんななか、日本は比較的政府の予算も増えつつ、資金も調達しつつ、前向きに成長しています。世界に追いついて追い越せるようなきっかけをスタートアップを中心にできる、そんなチャンスがまだまだ残っているのではないでしょうか。
テーマ2:世界と伍する宇宙大国へ。日本の勝ち筋とは?
青木氏:次のテーマは「世界と伍する宇宙大国へ 日本の勝ち筋とは?」です。最初に、世界中の方々と話をし情報発信をされている石田さんから、世界の宇宙産業の最新動向や日本の現在地を海外と比較してコメントいただきたいと思います。
石田氏:難しい問いですね。日本は世界のなかでもいい位置にいそうですが、世界トップかといわれるとそうではない。宇宙の産業競争力はさまざまな軸での測り方があると思いますが、1つ大事なのは、宇宙活動の範囲。たとえば、ロケットや衛星、月探査があるか、ロケットのなかでも無人か有人のロケットがあるかというものです。宇宙の活動範囲の観点でアメリカを1軍とするなら、多分日本は1.5軍ぐらいだと思います。アメリカと比較して日本が足りない部分の例としては、有人の輸送能力を持っていないこと。そのほかの観点もあわせると、アメリカなど本当のトップに比べるてやはり日本は少し差分があるかなと。ただ、世界中の多くの国と比較すると、やはりかなりいい位置にいると思います。
もう1つ、先ほどみなさんが話していた商業化という観点ですよね。従来、国が中心でやってきた宇宙の活動を民間がどんどん行っていく。商業化の軸で見ると、僕の感覚で日本は2軍のトップ。1軍ではない。アメリカがどちらも1軍で右上にあるというイメージが分かりやすいです。実は、商業化はいろいろな国がやっています。中国もどんどん進んでいますし、宇宙大国として有名なインドも商業化専門の政府機関ができ、ガンガン政策を進めています。アジアのなかだと、韓国やオーストラリアは、従来の宇宙開発の歴史ですと日本より歴史は少ないのですが、商業化政策の勢いは日本よりもあります。やはり、日本はJAXAを中心に50年の宇宙活動の歴史があるので、さまざまな宇宙活動のアセットや範囲を持っていますが、それらを産業競争力に繋げるスピードがまだまだ足りていないです。政府の支援や政策はガンガン打たれていると思うのですが、もっとスピードアップして5年10年続けていく。スピードがあがると商業化も1軍になっていくのではないでしょうか。
青木氏:まさにそうですよね。韓国やオーストラリア、UAE(アラブ首長国連邦)も、我々日本やアメリカの動きをあとから学んで、一気にスピードと金で勝負しようとしている。そんな彼らに追いつかれて追い越されないように、日本としてもしっかりやっていかなければと感じますね。では次に、竹上さんにも日本の勝ち筋をお伺いします。
竹上氏:これからの取り組みとして力を入れたい点は、2つですね。1つ目は、先ほど山口参事官からも話があった、輸送分野でも政府全体で宇宙技術戦略をしっかり作ること。やはり、政府全体・国全体を見て、どの技術が重要で、どの仕組みを作っていくかというのは、共有しながら進めることが大事です。内閣府の議論に我々文科省もきちんと関与していきたいと思っています。
2つ目は、JAXAの戦略的かつ弾力的な資金供給機能の強化。民間企業に対する支援は、ここ最近はJAXAもどんどん新しい取り組みをしています。この機能をさらに伸ばしていく必要があり、JAXAをある意味ファンディングエージェンシーのような機関としてもうまく活用していけないかと、政府全体で議論をしています。2023年、文科省では新規予算要求を30億円行いました。この要求は内閣府・文部科学省・経済産業省・総務省の4省連携で、総額としては100億円超の概算要求をしています。JAXAを経由してJAXAの目力を使い、民間や大学にしっかりファンディングしたく、予算要求をしているところです。今まさに政府内の交渉中、折衝中ですが、ぜひ注視ください。
また、私の個人的な見解として、2023年新しく民間ロケットの支援プログラムを始めましたが、まだ文科省としてやらなきゃいけないことがあると思っています。1つは、スタートアップ向けの補助金。今回、5年間という割と短い期間で衛星を打ち上げるロケットを作るという、ハードルの高い事業をやらせていただいています。もう少し長期的で面白い技術やアカデミアのみなさんも含めて支援できるようなスキームが作れるといいなと。
2つ目に、輸送系は衛星打ち上げロケットだけでなくて、たとえば往還型。新しい輸送もやっていきたいです。
3つ目に、共通的な研究開発という意味では、地上系。ロケット開発だと古社の支援になるのですが、地上系はたとえば再使用。学者の共通技術がありますが、まだ十分に取り組めていないので、しっかりやりたいです。
4つ目に、人材。こうした取り組みはどうしてもプロジェクトに紐付けられ、プロジェクトを支援する形が中心なのですが、人材も仕掛けとして作っていく必要があります。
この4点を、事業だけではなく、あらゆるツールの中で実現できたらいいかなと思います。
青木氏:ありがとうございます。まさに地ベタというか、スペースポートを含めたインフラの支援も必要ですし、人も重要になってきますよね。では、松尾先生にも教育者の観点からコメントをお願いします。
松尾氏:宇宙自体は、技術的な意味でいうと航空宇宙工学のような学科で学ぶことが多いかと思います。航空宇宙学科・航空学科は、夢があって、将来いろんなことができるし、光り輝いているような感覚で、何十年も前から大変人気のある学科でした。現在、日本では航空宇宙学科、航空もしくは宇宙という学科名が付いた大学はたくさんあります。そのようなマインドを持った若い人を育てることが重要です。
今それほど航空や宇宙が魅力的かというと、必ずしもそうじゃないかもしれません。新しい未来が開けているなかで、AIや人工知能などを希望する学生も大変多いです。でも、航空宇宙や宇宙工学はあくまでもアプリケーションなんですね。ですから、学科に名前がなくてもいいんです。マインドとして、宇宙に対して夢を見て、活躍したいと思うようなエンジニアを育てることが重要です。そのためには、やはり商業における成功ですね。産業化を見据えて、将来伸びゆくものを見せる。若い人はお金になるかだけではなく、自分の力を生かしたいんですよ。「おもしろそうだし、自分の将来、自分の力を生かして何かを成し遂げたい」という気持ちはあるので、 若い人を欲すると同時に伸びゆく姿を見せることが、人を引きつけることになるかと。たとえば、文系の人も宇宙は非常に魅力的なんですよね。金融であるとか、観光というキーワードかもしれませんが、何かおもしろいと思ったら人は来るんですよね。今、若い人の数は少なく取り合いになっているので、「いかに魅力的な姿を見せられるか」が本当にキーとなりうる。いい姿を見せてもらうことが重要です。
青木氏:ありがとうございます。今、日本中で宇宙業界の人材が不足しているので、宇宙業界をこれからやってみたい方はどしどし応募いただければと思います。山口さんからも追加でコメントがあればお願いいたします。
山口氏:勝ち筋という意味では、宇宙基本計画をしっかり実行することに尽きるかと思います。ただ計画を募集するのではなく、地元の経済界や国会議員の方々、自治体も含めてコミュニケーションを取りながら前に進めていくことが大事ではないでしょうか。
それから、商業化の政策が少し足りないのかなと最近気づき始めましたので、商業化に向けたコミュニケーションも必要かと思います。先日、インドの月探査機チャンドラヤーンを見て「インドのショーケースとして、海外に売るイベントでもあったのかな」と思いました。私は10年以上前、仕事の関係で南部アフリカに何十回と出張していました。総務省として、通信システムや教育コンテンツ、放送のソフトウェアなどを民間の方々と一緒に営業していたんですね。当時すでに衛星経由で、インドから南部アフリカに教育コンテンツが入っていて「もう勝ち目はないな」と思ったときもありました。日本の背中を見ながら走ってきた人たちが、すごい勢いで日本を追い越す形になりつつあるので、日本は商業化、海外展開をしっかりやる必要があるのではないでしょうか。
テーマ3:宇宙基本計画、推進へ!産官学金にどのようなことを期待するか?
青木氏:最後のテーマ「宇宙基本計画、推進へ!産官学金にどのようなことを期待するか?」について、みなさんから一言ずつコメントいただきたいと思います。石田さんからお願いいたします。
石田氏:ひと言、“スピード”かなという気がしています。政府の委員会でも、ここ2~3年「スピードが遅い」と発言が出ていて。政策の実行スピードはだいぶ速くなっているようですが、正直、民間も含めてスピードが足りていないと思っています。まさに、産学金すべてのステークホルダーの方々が全員3倍速ぐらいのイメージでないと、世界のトップに追いつかないところも。とにかく、全員でスピードアップし、遅れている人がいたら助け合う。スピードを上げることができるといいですね。
青木氏:まさに日本にとっての最重要論点です。ありがとうございます。では、竹上さんお願いいたします。
竹上氏:これからは総力戦かなと。実は昨年2022年、「北海道宇宙サミット」を一傍聴者として聞いていて、「とにかく日本はなぜか輸送系の投資が少ない。民間への投資がなぜか少ない。文科省ももっといろいろやってほしい」という話がありました。1年後の2023年、国の支援だけでなく官民連携で、スピード感を持って関与していただくことが非常に重要だと思います。たとえば、スペースポートなら国だけでなく地方自治体や地元の産業界、金融機関の人たちが、まず全員が主役の気持ちで関わる。国は国で議論しながら政策を作る。提案や積極的な協力など自主的な動きを国よりもさらにスピード感を持って進めることで、我々も改めて投資しやすくなります。
青木氏:ありがとうございます。民間側からどんどん動いていただけると、政府側も進めやすいと思います。では、松尾先生お願いいたします。
松尾氏:日本はどうしても何か開発すると、つい頑張って細かいところに入っちゃうんですね。ガラパゴス化してしまうことがあるので、「速さをもって、儲ける道筋で開発すること」が重要かと思います。新規開発よりも、改良してできあがったものをどうものにしていくか、スピード感を持って進める。「ガラパゴス化してはいけない」ということを肝に命じて頑張ってもらいたいです。
青木氏:ありがとうございます。技術者の方は顧客目線に立って、どう使ってもらうかを考えながら開発しないと、想定外のものができてしまいますので、大事なポイントですね。では、山口さんお願いいたします。
山口氏:宇宙基本計画をぜひ読んでください。みなさんの税金で作った政策文書です。数年に1度の文書ですので、読むと新たな気づきがあると思います。また、気づきだけではなくて、気づきに基づいて議論をぜひしたいです。政府や一部のコミュニティだけで議論を進めて戦略を決めるのは絶対よくないので、計画を読んでコミュニケーションをしてもらいたいですし、ご要望があればぜひガシガシと政府の方にお持ちください。そうすることで、日本の宇宙政策や宇宙産業はよくなっていきます。
それから、政府は国会議員や地元自治体の方々と一緒に政策を進めていきます。とくに予算獲得には、国会議員のご理解が非常に大事。みなさんも先生や地元自治体とコミュニケーションを取り、宇宙産業を一緒に盛り上げてもらいたいです。
青木氏:ありがとうございます。これだけ言いやすい政府の方々が陣営を取っているのは、なかなか過去にはなくて。かつては、とても距離があったんですよね。最近「民間の方々どんどん言ってください」と、結構スピーディーに政策や予算化に動いてきたのは、この数年間の宇宙予算の成長に見えていると思います。みなさん、政府のみなさんをどんどん使い倒してくださいね。
質問タイム
Q:日本の国際協力や海外展開はある?
青木氏:まず、山口さんへの質問です。中期基本計画で、国際協力や海外展開などのテーマも重要になっていると思います。たとえば、JICAのような国際協力を管轄するような部署や外務省の役割はなかなか見えなかったのですが、どう整理していくとよいでしょうか?
山口氏:これは大事な質問ですね。外務省は当然、宇宙政策に関わっています。たとえば、日米間の協定とか政策マターに外務省が入っていますが、実はJICAなど国際協力の視点では入っていないんですね。JICAを使えば無償援助やODA、借款も含めて、テコにして日本の宇宙産業が海外に出ていくことはありえる話なのですが、できていないのです。経協インフラ輸出の文脈では通信やプラントなどができているんのですが。宇宙産業が海外進出する流れを作ることも1つの課題です。
青木氏:まさに、私は宇宙の日本のインフラを海外にどう展開していくのかという委員もやっており、非常に重要なテーマです。新興国は技術を持っていない場合が多いですので、いかに日本の宇宙技術を提供して、彼らと一緒に成長していくのかも、今後重要なテーマになりそうです。
Q:小型ロケットの量産化を支援するような制度はできる?
青木氏:次に、竹上さん。「世界の民間ロケットが大型化を目指しているスタートアップが多く、小型ロケットは日本の狙い目とのこと。しかし、ロケットはそもそも量産化が難しい。大型化しないと儲からないのですが、日本では小型でも量産化できて儲かるところを支援する制度も考えてもらいたい」と要望が来ています。
竹上氏:今回SBIRをやるとき、我々は基幹ロケット政策をやっているので、棲み分けだけは意識していました。実は、公募要領には「どんなロケットでもいいですよ」と。最初は、小型だけに限定、スペックを示す、などの議論がありましたが、全部取っ払い「とにかくビジネスで勝てる提案ならなんでもいい」とスペックに対する記述は一切ありませんでした。結果的に、上がってきた・採択したものが比較的小型なロケットだったのです。まずは、小型ロケットでビジネス展開する事業者を5年以内に育て、そのあとは量産化に向けた大型化、というのは一部企業で構想されていると認識しています。そのフェーズになったとき、技術を見極めて必要なプログラムを作っていくと思います。
青木氏:研究されている方には産業化や出口も見据えながら、積極的に動いていただきたいです。ありがとうございます。
Q:ロケット打ち上げや輸送以外の分野で、日本として注力すべき分野は?
青木氏:打ち上げや輸送以外に日本として注力すべき分野について、石田さんはどう考えていますか。
石田氏:日本は技術がいくつかあります。レーダー系の衛星やハイパースペクトル関係、カーボン系、モニタリング用の衛星など。日本が持つかなり尖った技術を基点にマーケットを作るとおもしろいと思います。月関係は政府がアルテミス計画に入っていることもあり、民間の企業の動きも非常に増えているので、日本の注力分野としてトライするといいかなと。尖った技術の種は、実はいくつもあるんじゃないのでしょうか。
お知らせ
石田氏:私は、2015年からSPACETIDEという非営利団体を運営しており、宇宙業界全体を盛り上げるためのカンファレンスやスタートアップを支援しています。11月には、東京で『SPACETIDE 2023 YEAR-END』という年末のイベントをやります。稲川(貴大)さんもご登壇予定ですので、ぜひ東京にも遊びにきてください。よろしくお願いします。
青木氏:宇宙開発利用大賞も始まりますので、ぜひ応募ください。
最後に
青木氏:みんなで一丸となって意見を交わしながら、スピード感を持つ。目線としては、最初からグローバルで戦える数少ない産業が宇宙だと思っていますし、それが十分できる。国際協力もしながら、日本として勝てる分野を見つけつつ、市場の成長に日本も乗っていきましょう。引き続き、意見を交わしながら、宇宙産業の成長に向けて取り組んでいきたいです。
※本記事はカンファレンスでの発言を文字に起こしたものです。言い回し等編集の都合上変更している場合がございます。
連載「HOKKAIDO 2040」では、“2040年の世界に開かれた北海道(HOKKAIDO)”をテーマとして、大樹町を中心に盛り上がりを見せている宇宙産業関係者へインタビュー。宇宙利用によって変わる北海道の未来を広く発信します。連載記事一覧はこちらから。