宇宙を起点に、アドベンチャー、サウナ…!? 自然豊かな大樹町で広がる未来【宇宙カンファレンス@NoMaps】

2023年9月13日(水)に札幌で、宇宙をテーマとしたトークイベント『北海道Likers presents 宇宙カンファレンス@NoMaps』が開催され、北海道を舞台として宇宙に携わるフロントランナーの方たちが、4つのトークセッションで議論を交わしました。

Session4では、「宇宙ビジネスで地域活性化を推進!」と題して、大樹町の黒川豊町長、民間ロケット開発会社・インターステラテクノロジズ株式会社ファウンダーの堀江貴文氏、サツドラホールディングス株式会社代表取締役の富山浩樹氏が登壇。ロケットの発射場である宇宙港を持つ大樹町の変遷を中心に、宇宙ビジネスの拡大が地域の活性化にどのように寄与するのかについて、熱いディスカッションが行われました!

Session4 登壇者

モデレーター:
柳澤美空氏。『北海道Likers』プロデューサー

ゲスト:
黒川豊氏。大樹町長
堀江貴文氏。インターステラテクノロジズ株式会社ファウンダー
富山浩樹氏。サツドラホールディングス株式会社代表取締役

大樹町が宇宙の町になった背景

柳澤氏:Session4では、「宇宙ビジネスで地域活性化を推進!」と題しまして、宇宙産業の地域に与える影響などを語っていきたいと思います。さっそくですが、ゲストのみなさんをご紹介いたします。大樹町の黒川豊町長、インターステラテクノロジズ株式会社ファウンダーの堀江貴文さん、サツドラホールディングス株式会社代表取締役社長の富山浩樹さんです。よろしくお願いいたします。

それではまず、大樹町の黒川町長から、今の大樹町の取り組みや、宇宙産業のビジョンをお話しいただけますと幸いです。

黒川氏:大樹町から来ました黒川と申します。春の統一地方選挙で町長に就任しまして、5月から町長をやらせていただいています。その前は役場におりまして、44年ほど大樹町役場に勤めております。

そもそも、どうして大樹町が“宇宙のまち”になったかといいますと、1985(昭和60)年ごろ、あるシンクタンクのレポートがあったんです。これから宇宙産業が伸びていき、宇宙産業基地が必要になってくると。そこで大樹町とは言っていないのですが、北海道や東北の太平洋に面した広い場所がいいのでは、という提言がありました。

なぜ太平洋かというと、ロケットは打ち上げる方向が南北あるいは東と決まっているんです。西には打たないんです。西に打つと地球の自転に逆らって飛ぶことになります。東であれば遠心力を使いながら飛ばせる。日本の太平洋側はほとんどそういう場所なのですが、なかでも広く土地が空いている場所、人のあまり住んでいない、開発されていない地域がいいということで、今から38年ほど前に大樹町が手を挙げました。

転機になったのは1995(平成7)年。当時日本は、宇宙へ行って戻ってくるスペースプレーンを研究していました。その着陸実験場を探していたので、大樹町が手を挙げて1,000mの滑走路を作り、実験を誘致しようとしました。結局、スペースプレーンの実験はオーストラリアで行われることになってしまったのですが、その後、滑走路は航空宇宙関係の実験に使ってもらえるようになりました。

大樹町で行われてきた数々の実験

黒川氏:2004(平成16)年には“成層圏プラットホーム”という実験を行いました。全長70mの無人飛行船を空中に浮かべておき、衛星と同じような役割、つまり電波の通信や監視カメラ、ネットワークなどの役割を担ってもらう。そのような無人飛行船が14個あれば日本の上空をすべて網羅できるという構想がありました。そのときには、滑走路の横に10haの平らな土地を拓き、格納庫を作りました。

現在は、JAXA宇宙科学研究所さんに大樹町を使っていただき、“大気球実験”を行っています。風に乗せて上空35kmくらいまで機材を揚げ、それを回収するという実験です。

そのなかで、堀江(貴文)さんの『なつのロケット団』(インターステラテクノロジズ株式会社の前身団体)が2mくらいのロケットを打ち上げたいということで大樹町に来られました。その後、インターステラテクノロジズ株式会社さんができて、今10年ほど経ち、ロケットも7回打ち上げ、ロケットのまちとして有名になりました。それまでは「大樹ってどこ? 帯広の南、広尾の手前」と言わなければわからないような町だったんですが、だいぶ名前が知られてきたと感じます。

宇宙開発に必要な環境

柳澤氏:堀江さんがインターステラテクノロジズ株式会社を立ち上げてから約10年ということですが、いちばん感じている町の変化や、宇宙ビジネスにおける変化をお聞かせください。

堀江氏:大樹町に来てよくわかったことがあります。大樹には湿原がありますが、湿原があると何がいいかというと、海岸沿いを国道が走っていないんです。日本地図を見るとわかりますが、ほとんど海岸線は国道が走っています。北海道も大樹町のエリア以外はほとんど国道かもしれません。

ロケットの打ち上げは国道が走っていない太平洋側の海岸線でないとできないんです。日本には、種子島の岬の先や、大隅半島といって鹿児島のめちゃくちゃ田舎のところか、青森県の下北半島など、3か所ほどしかない。それでたくさん探して、今みたいにSNSがないから、やっと大樹町が見つかったんです。2011(平成23)年、ちょうど3.11の東日本大震災の前後でお会いして、最初の打ち上げ実験は地震で中止になりました。

2005(平成17)年くらいに大樹町に防衛省の実験場ができたんです。寒冷地で戦闘機などに使うジェットエンジンが動くかどうか実験するためのテストベッドを作っていて、湿原なんだけどかなり深くまでコンクリートの基礎が埋まっていました。その実験が終わって大樹町に払い下げられていたので、我々が買ったのが始まりです。今『LC-0(Launch Complex-0)』と呼んでいますけど、ロケットを打ち上げている場所はもともと防衛省さんが作っていたんです。

ロケットの大きさに応じて、万が一大爆発したときも安全なように発射時には避難するんですけど、避難範囲が国道にかかっていると国道を止めなきゃいけない。国道を止めるのは一大事なんです。ライフラインですから。だからJAXAの「内之浦宇宙空間観測所」も「種子島宇宙センター」も国道は被っていないんです。

今、和歌山県の串本町で「スペースポート紀伊」が作られていますけど、射場は警戒範囲に国道や人家が入ってくるんじゃないかと言われています。大樹町は拡張できる土地もあるし……そこがすごいです。

もっと大樹町を活用したい

堀江氏:実は大樹町って、歴舟川っていう「日本一きれいな川」と評価されている清流があるんですよ。誰も教えてくれないですけど、めちゃくちゃきれいなんです。

前回(2021年7月3日)のロケットの打ち上げのときに、「大樹ファーム」*の跡地で『サウナランドフェス』というのをやったんですが、本当は歴舟川の横の公園でやりたかった。危ないからだめだって言われたんです。どうですか、できないですか?

ちゃんと安全を確保して、歴舟川に飛び込めるサウナフェスだったら、けっこう人が来ると思います。

黒川氏:可能性はあると思います。

富山氏:清流があるんだったら、いま北海道のいろんな所でアドベンチャーのイベントが行われているので、沢登りできる体験型というのも喜ばれそうじゃないですか。

堀江氏:歴舟川の清流を使って、日本一の清流に飛び込めるサウナフェス、企画したいですね。

あと、『アドベンチャーレース』*的なこともできるかもしれないですね。

富山氏:できそうですね。アドベンチャーってたくさんの人を呼ばなくても、食とかも全部合わせて質の良いものにすると結構単価が高くなりますもんね。

堀江氏:単価が高い割に優良なお客さんが多いですよね。夏場にサウナもアドベンチャーも全部合わせればいい。

富山氏:それ、やりましょう(笑)

堀江氏:滑走路は『アドベンチャーレース』の中に入れるといいかもしれない。

富山氏:たしかに、滑走路を走れるのは楽しそうですね。普段は入れないところに入れるのは良いですよね。

*大樹ファーム・・・サラブレッドの生産牧場
*アドベンチャーレース・・・山、川、海など、各地の自然を舞台に、多種目なアウトドア競技をこなしながら、ゴールを目指すレース。

ロケットを核に周辺産業が盛り上がる

堀江氏:サツドラさんは大樹町にもできましたよね。

富山氏:そうなんです。大樹町に作ったきっかけは、堀江さんの記事を見たからです。本当は広尾町に出そうとしていたんです。試算上、大樹町は商圏としてはちょっとだけ足りなかったんです。それを、堀江さんの記事を見て「宇宙産業はあるな」と思い、出店を決めました。そしてインターステラテクノロジズ株式会社に出資させていただきました。

堀江氏:ロケットを核にして、周辺産業がどんどん来るわけです。たとえば、ロケット燃料のリキッドバイオメタン。なぜか帯広に工場があるんですが、大樹町さんの牛糞を使ったりしています。

黒川氏:そうですね、大樹町の酪農家の農場で糞尿から出るメタンガスを帯広に運び、帯広のプラントで液化して純度を上げています。

堀江氏:牛糞から出るメタンは、温室効果がCO2の20倍以上です。SDGs的な目標からすると、北海道中にバイオメタンのプラントを200か所くらい作らないといけないと言われているくらい問題なんです。

我々のロケット『ZERO』はそれを燃料として使っているので、地産地消で、世界初のゼロエミッションロケットといえます。先日海外のカンファレンスで『ZERO』について営業してきましたが、『ゼロ戦』のゼロでもあるので認知されやすく、ロケットの名前を『ZERO』にしておいて良かったと思いました(笑)

黒川氏:大樹町にバイオガスプラントは50か所くらいあります。生まれるガスは天然ガスで、都市ガスとほぼ一緒です。試しにバイオメタンで火葬場の燃焼試験を行ったら十分できるんです。町としては、石油から切り替えていくことを考えていきたいと思っています。

堀江氏:プラントを建てるのもそうだし、宇宙産業の周辺産業がどんどん集まってくるので、ものすごくたくさん調整できる土地があるというのが田舎の良いところです。環境も良いし、きれいだし。

ただ、移動問題はありますよね。サツドラさんは、車で買いに来る人は良いとして、運転できなくなった高齢者などについてはどのように考えていますか?

富山氏:ライドシェアなどをぜひやりたいです。『Uber Eats』や『出前館』など、日用品をピックするサービスが増えていますし、ライドシェアと買い物代行みたいなものを全部組み合わせるのも良いと思っています。車を使ってもらって全部シェアリングすれば田舎の移動問題も解決されていくのではないかと。

黒川氏:市街地の循環バスがやっと始まりました。ライドシェアや郡部の人たちが町に来るための足の確保は、これからやっていかないといけません。

宇宙産業と地域の将来像

柳澤氏:最後に、宇宙をもっと身近に、さらに関心を持っていただくために、今後地域や企業として取り組んでいきたいことをお願いします。

黒川氏:将来像は、“宇宙版シリコンバレー”。宇宙を中心に地域を作りたいというのがコンセプトです。ロケットで衛星を運ぶ、その衛星を使って生活が便利になる、という宇宙産業が100兆円規模になると言われています。それに付随して企業に来ていただければ、町ができてきます。

大樹町には、近々国立公園になる予定の日高山脈など、大変自慢できる“自然”があります。しかし、まったく手つかずのところも多く、知られていないという問題もあるんです。

堀江氏:国立公園じゃなくて世界自然遺産にできないんですか? 世界自然遺産になった方が人が来ると思います。その前に、施設を作っておくんです(笑)

日高山脈全体、湿原のエリアを、ロケットの施設を先に作っておいて、世界自然遺産にしてしまいましょう。

富山氏:自然遺産のなかにロケットがあったらすごいですね。

堀江氏:すごいですよ(笑) 日本のことを考えちゃダメなんです。直接、世界です。僕はそう思っています。

富山氏:あと、祭りもやりたいですね(笑)

堀江氏:サツドラさんにもご協力いただけるということで、大樹町で来年、『サウナランドフェス』、『アドベンチャーレース』をやりましょう。そうすれば滑走路も使えるし、歴舟川の清流も楽しめるし、サウナもできる。いいじゃない(笑)

連載「HOKKAIDO 2040」では、“2040年の世界に開かれた北海道(HOKKAIDO)”をテーマとして、大樹町を中心に盛り上がりを見せている宇宙産業関係者へインタビュー。宇宙利用によって変わる北海道の未来を広く発信します。連載記事一覧はこちらから。