かわいい馬の虜になって気づけば5年!奥厩務員が語る「馬の管理の奥深さ」

2023.02.27

北海道帯広市で開催されている世界唯一の競馬・ばんえい競馬。体重1トン前後のばん馬たちが、重いソリを曳く速さを競います。ばんえい競馬に関わる数ある仕事の中でも、一番近くでばん馬たちを世話し、レースで勝つための調教をしているのが厩務員です。

今回は、ばんえいダービーやイレネー記念といった重賞を4勝しているオーシャンウイナーなどを管理する中島厩舎で、厩務員として働く奥勇人さんにお話を伺いました。

奥勇人(おく・はやと)。1992年、音更町出身。中島厩舎所属。厩務員としてニシキエース、スペシャルダイヤ、ファーストレディ、ヒカルウィングの4頭を担当。

軽い気持ちで厩務員を始め、気づけば5年。担当馬の勝利が嬉しい

今回の取材はオンラインで行いました。

今回の取材はオンラインで行いました。 出典: 北海道Likers

北海道Likersライターりゅうと:ばんえい競馬の厩務員になろうと思ったきっかけを教えてください。

奥さん:最初はハローワークの求人を見て応募しました。特別馬が好きというわけではありませんでしたが、動物が好きだったので軽い気持ちで応募しました。最初は2年ほどで辞めるかもしれないと思っていましたが、だんだん馬が好きになってきて気が付いたら5年間やっていました。

北海道Likersライターりゅうと:普段はどんな仕事をしていますか。

奥さん:朝は3時半から4時に起きて馬の運動を始めます。10時ごろまでには運動を終えて11時に馬にエサをやります。その後、レース開催日*に合わせて前日の金~月曜は13時半から16時まで馬を外に出します。16時と20時にエサをやるのでそれ以外は自由時間ですね。

ニシキエースの世話をする奥さん 出典: ばんえい十勝

北海道Likersライターりゅうと:実際に仕事をしてみて面白かったこと、辛かったことはありますか。

奥さん:休みが少ないのが辛いですね。丸1日休める日は月に1度ほどです。でも、自分の担当馬が1着になったとき、その辛さを超える喜びを感じられます。

レースに勝つために、エサや体重の管理には気を付けています。仕事を始めた当初は、たくさんエサをやれば体重は増えていくだろうと思っていたのですが、そうとは限らないんです。細かくエサをやる必要のある馬や、逆に一気に食べてくれる馬など、馬ごとに違うので毎年苦労しています。担当馬が勝ったときは、それまで頑張ったこと・働いたことが還元されるような感覚です。

北海道Likersライターりゅうと:担当馬が健康でレースに勝つために工夫をされているんですね。

奥さん:そうですね。決められた時間以外にも馬を見て、エサの減り具合でエサを与えたり減らしたりしています。エサの調節は何年経っても難しいです。同じ厩舎で20年以上働いている方も苦労しているそうです。

また、馬の疝痛*(はらいた)は命に直結するので、夏の暑い日には気温や運動量をみてエサを調整しています。また、冬に多い馬蹄の裂蹄も、こまめに確認するようにしています。

*馬の腹痛を伴う病気のこと
*ばんえい競馬の開催日は基本的に毎週土、日、月曜日の3日間

中島厩舎の厩務員として目指す目標とは

飾り

中島調教師の奥様手作りの飾りを付けたニシキエース 出典: ばんえい十勝

北海道Likersライターりゅうと:所属する中島厩舎の魅力は何だと思いますか。

奥さん:馬をかわいくしようとしているところですね。中島調教師の奥様が馬のたてがみの飾りをすべて手編みで作っています。今井厩舎と同じくらい飾りにはこだわっているのではないでしょうか。また、工夫して休みを回すなど、働きやすい環境だと感じます。

レース後

レース後のニシキエースと奥さん 出典: ばんえい十勝

北海道Likersライターりゅうと:厩務員として、奥さんの今後の目標を教えてください。

奥さん:担当馬で重賞をとりたいですね。

北海道Likersライターりゅうと:やはり重賞だと気持ちは大きく変わりますか?

奥さん:そうですね。普段の運動でも、2周だったものを3周にしたり荷物を重くしたりと運動量は相当変わりますし、エサのやり方も細かく見てかなり気にします。

今の担当馬だとニシキエースがナナカマド賞に出走しています。今は成績が落ちてきてしまっているのですが、来シーズンから巻き返していきたいですね。今の担当馬の中で最も注目してほしい馬です。来シーズンからの2歳馬にも期待しています。

魅力ある厩務員の仕事。興味があれば一度来てみてほしい

レース

レース中のニシキエース 出典: ばんえい十勝

北海道Likersライターりゅうと:奥さんの考えるばんえい競馬の魅力を教えてください。

奥さん:ばん馬のかわいさと力強さですね。

厩務員として馬と接していると寝姿を目にすることも多いです。藁を使って枕のようにして寝たり、寝藁を真ん中に盛ったり横に寄せたりと、馬によって自分の好きなポジショニングがあるみたいで。とてもかわいいなと思います。そんな馬がレースで力強く頑張っているところを見てほしいです。

北海道Likersライターりゅうと:これから厩務員を目指す人に向けてメッセージがあれば教えてください。

奥さん:やはり動物と関わる仕事なので、休みが少ないなど厳しい仕事だと思われがちですが、1度働いてみると馬のかわいさといった魅力にも気づけると思います。世界でここだけ、ということもありますし一度働いてみてほしいです。一頭一頭性格が違い、毎日飽きずに新鮮な気持ちで一日の仕事ができます。

 

ーーー馬のかわいさやレースで勝つ喜びを話してくれた奥さん。優しい雰囲気でインタビューに答えてくださいましたが、馬のエサや体調管理についてはシビアに多くのことを気にかけていることが分かりました。担当馬を健康でレースに勝てる馬にしようとする想いに、厩務員という仕事の奥深さを感じました。

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