【北海道宇宙サミット2022・全文掲載】帯広から鹿児島にいる牛にエサやり!? 宇宙を活用したスマート農業とは(Session5)
“2040年の世界に開かれた北海道(HOKKAIDO)”をテーマにした特別連載「HOKKAIDO 2040」の特別編として、2022年9月29日に行われた、国内最大規模の宇宙ビジネスカンファレンス「北海道宇宙サミット2022」の様子をお届けします。現地約700人、オンライン約4,000人の方が視聴したトークセッションでは、日本で宇宙に携わるフロントランナーが一堂に会し、様々な視点で議論が交わされました。
今回は、Session5「宇宙で加速する、スマート農業とサステナブル社会」で語られた内容を全文掲載します。
登壇者
国立大学法人 鹿児島大学 教授 後藤 貴文氏
ホクレン農業協同組合連合会 代表理事会長 篠原 末治氏
INCLUSIVE株式会社 代表取締役社長 藤田 誠氏
ケイアンドカンパニー株式会社 代表取締役社長 高岡 浩三氏
インターステラテクノロジズ株式会社 代表取締役社長 稲川 貴大氏(モデレーター)
はじめに&登壇者紹介
稲川氏:最後のセッションになります。セッション5ということで、農業ですね。スマート農業とサステナブル社会がテーマです。
今回はいろんな方にご参加いただいていますので、農業×宇宙と言ったときにどういうイメージがあるかは温度感が違うかなと思います。そこを1時間でクリアにしていくのがセッションの大目的です。
私はインターステラテクノロジズ代表の稲川です。基本的にロケットや人工衛星の開発をやっている人間です。ロケットや人工衛星は、打ち上げて終わりではありません。既存の産業との掛け算をすることによって価値が出てくるのが宇宙です。特に今回は農業の部分を明らかにしたいと思っています。
それではパネリストの皆さんに自己紹介いただきたいと思います。最初に鹿児島大学の後藤先生からお願いいたします。
後藤氏:鹿児島大学の後藤でございます。私は牛の研究、特に放牧を主体とした研究をしています。九州大学で畜産を学んで准教授になり、20代から30代は阿蘇くじゅう国立公園内にある大学の牧場で牛飼いをやりながら教育研究をやっていました。
「霜降り肉、いいな」と思って牧場に行くと、自分だったらきついと感じる様々な問題を体験します。牛は草食動物なんですが、日本では主に輸入穀物を食べているんですよね。素晴らしい霜降り肉を作るんですが、糞尿もたくさんします。糞尿を堆肥にして畑にまいて餌をつくる循環が作れればいいのですが、餌が海外からきていますので堆肥だけが日本にたまる状態になっています。またみなさんがご存知のようにいろんな病気が海外から入ってくるので、今後輸入飼料に頼っていては危険だということもありますし、現在は世界情勢の変化やパンデミックで価格が高騰して大変な状況になっています。これは持続的ではありません。和牛は高いですがコストがかなり高く、儲けが少ないビジネスです。自分で牧場をやっていますので、何とかしなければいけないと思い、二十数年前から放牧に目を付けて取り組んでいます。
昨今はアニマルウェルフェアという考え方が出てきたり、ステーキなどの塊でお肉を食べる文化のひろがり、霜降りから赤身志向に移ってきています。また、SDGsやESG投資もあります。新しく畜産を始めようと思ってお金を融資、投資してもらおうと思っても、ESG投資、つまり持続的であり社会に貢献するビジネスモデルじゃないとなかなかお金を貸してもらえませんので、畜産も変わっていかないといけません。新しい若い人がやろうとするときなかなかお金が調達できない問題があります。
私がやっている研究はですがポイントが4点あります。まずは、牛を放牧で育てるとなかなか太らないためにみんなが放牧をやらないので、放牧において牛を太らせるためにはどうしたらいいかの研究。また、2040年には日本の半分の町村が消えていくと言われています。日本の耕作放棄地、限界集落といった日本の土地利用を考えたときに、換金率の高い牛肉のビジネスをやれないか。日本には島が6,900ありますが、その島にある植物を使って実行支配していかないと、食糧生産や国家安全保障の問題も出てきます。こうした国土、島を利用して放牧ができないかを考えています。次に、そういった環境で管理するためにIoTを活用していて、今私は宇宙技術を使って取り組んでいます。後ほど紹介します。それから糞尿処理の問題ですが、放牧では処理がいらずに循環していきます。さらには、マーケットが赤身になっていきます。SDGsやESGに耐えうる持続的なシステムで作った赤身肉だと言って売っていくマーケットを作らなければなりません。今はやはり霜降り肉で、これはいいんですが、別で国土を使った未来に向けてのシステムを作っていくための研究をしております。以上です。よろしくお願いします。
稲川氏:ありがとうございました。非常に面白いですよね。十勝地方は非常に多くの牛が飼われているわけですが、まさに糞尿の問題はやっぱり地元の大課題だと思っていまして、牛の糞尿からとれるメタンを使ってロケットの燃料にしようと取り組んでいます。ロケットの9割以上は推進剤といわれる部分で、推進剤をSDGsに寄与するもの、カーボンニュートラルなものにしようとしています。ロケット側でも一部取り組んでいますが、牛に特化したかたちで課題感を含めてご紹介いただきすごく勉強になりました。ありがとうございます。続きまして、ホクレンから篠原会長に来ていただきました。ご紹介よろしくお願いします。
篠原氏:はい。ただいま紹介いただきましたホクレンの篠原といいます。北海道の皆さんはホクレンと聞いたらガソリンスタンドや食料の分野などいろいろな分野でご理解いただけているかと思います。一方で全国から見るとまだまだホクレンが何をしているのか理解いただけてないと思うので、ホクレンの概要を説明させていただきます。
ホクレンは1919年に設立された全道の会員の農協さんからなる連合会で、現在105の農協さんが加入をしています。ホクレンの役割は生産者の活動支援が中心です。生産現場に不可欠な資材、エネルギーの供給、そして技術面や情報面のバックアップなど、農畜産物を安定的に生産するサポートがホクレンの役割かなと思います。もう一つの役割が、消費者への食の安定供給で、北海道から全国の消費地へ、消費者に安全で安心な北海道の農畜産物を届けています。「つくる人を幸せに、食べる人を笑顔に」が我々のコーポレートメッセージです。
北海道の概要を少し説明させていただきたいと思いますが、北海道は1869年に開拓使が置かれて以来、農業を中心として発展してきました。現在では日本の耕地面積の約4分の1を北海道が占めています。一経営体あたりの経営面積は、都府県の約14倍。広大な農地を活用して様々な品目で国内生産のシェアナンバーワンを誇っており、まさに日本の食料基地を担っていると言っても過言では無いと思っています。こうした北海道事業の発展は、開拓者精神に根差した創意工夫によるもので、今回の宇宙開発に通じるものがあると思っています。
2030年を考える中で、農業人口がどんどん減少しており高齢化も進む中で、国際的な情勢による資材等の高騰などが北海道農業に様々な課題を与えています。私達ホクレンも、中長期的なシェアを見ながら将来の目指す姿を考えているわけです。それが、持続可能な北海道農業の実現に貢献する、というものです。食料基地としてのさらなる役割の発揮、それを支える生産基盤の維持強化、農業所得の向上をはじめとして農業における環境負荷軽減、誰もが安心して暮らし続けられる地域社会の維持。どれが一つ欠けても持続可能な農業は実現できないと思っています。
持続可能な農業を実現する上で今注目されているのがスマート農業だと思います。我々も今、スマート農業に挑戦をしています。スマート農業はロボット化、AI、ICTなどの先端技術を活用した農業ですが、省力化と高品質生産を実現可能とする新しい農業の形だと思っています。近年、どんどんと普及が進んでいますが、新しい技術やサービスを次々と出していきたいと思います。
ホクレンは現場に即したスマート農業の推進と普及に一生懸命取り組んでいますので、本日は取り組み内容についてお話させていただくとともに、宇宙開発の繋がりで新しいアイデア、方向性が見つかると期待をしています。今日はどうぞよろしくお願いいたします。
稲川氏:よろしくお願いします。ホクレンの取扱高が1.5兆円と桁違いの規模で、北海道の農業の力を感じています。北海道の平均耕作地が30ヘクタールとのことですが、東京ドームが大体5ヘクタールぐらいらしいので、平均的に見ても東京ドーム6個分ぐらいが一農家さんであると。十勝に限って言うと30ヘクタールより大きく、40ヘクタールを超えるぐらいとのことで、十勝の農業は東京ドーム8個分、下手したら10個分という規模感ですね。私自身は出身が埼玉県で農業が関係ない地域からロケットをやりに北海道にやってきた身ですので、この地域はやっぱり全然違うなと感じます。農業というとどうしても保護する産業のように刷り込まれていましたが、この地域に来ると攻める農業、大規模化、スマート化は必要だと感じています。後ほど宇宙との関連についてご紹介いただければと思っています。
続きまして、INCLUSIVE株式会社の藤田社長、よろしくお願いいたします。
藤田氏:初めまして。INCLUSIVEの藤田でございます。よろしくお願いします。INCLUSIVEは2007年にできた会社で、2019年にマザーズに上場しました。証券番号7078でございます。これまでの事業の中心は出版社やテレビ局などのDXに取り組んできました。紙だったり、放送だったものをデジタル化して、データをもとにコンテンツ制作などを改善していくことで収益を上げていくことが得意な会社です。
北海道では、電通北海道さんやテレビ局さんと質の高い広告メニューを作っていたり、十勝で言えば、楽天さんとご一緒させていただいてばんえい競馬を知っていただくためのデジタルプロモーションをご一緒させていただいております。また、発信者の育成にも取り組んでいます。地方創生や関係人口を増やすことを考えたときに、デジタルに発信をしていくこと、知ってもらう場が必要ですし、発信する人が必要だと考えていてこの十勝でも取り組みをしています。また、北海道Likersというサッポロビールさんが運営していたメディアを譲り受けまして、月間で200万人以上に見られる北海道有数のデジタルメディアの運営もしております。
宇宙事業は今後注力していきたい領域でございまして、今年の4月に札幌でINCLUSIVE SPACE CONSULTINGという会社を作りました。資本提携をしているインターステラテクノロジズさん、出資している北海道スペースポートさんとの連携も踏まえ、地上のお困りごとを衛星データを活用することで解決していきたいと考えています。また直前のセッションにてNo.9の小林社長がお話されたかと思いますが、No.9さんと我々で『晴天のデルタブイ』というWEBTOON制作もしております。北海道の宇宙産業の中心はインターステラテクノロジズさん、北海道スペースさんだと思っていますが、やはり知っていただかないとなかなか関係人口が増えないと思っています。もちろんテキストでもいいですし、YouTube、動画もいいですが、小さい子どもからご老人まで楽しめる漫画というフォーマットでインターステラテクノロジズさんの挑戦を知っていただきたいと考えて制作しています。1月からリリースになります。シーズン1は30話です。チラシが入っていますので見ていただければありがたいなと思っています。また、映画化、ドラマ化も進めていきたいと思ってますし、大樹町が舞台ですので観光客が行く聖地開発もしたいと思っています。そんな情報伝達が得意な会社で、これから宇宙領域では衛星データを活用した事業展開をしていくところです。よろしくお願いします。
稲川氏:この『晴天のデルタブイ』はインターステラテクノロジズがモデルになっていて、私自身がモデルになっているキャラクターも出させてもらっています。
藤田氏:稲川さんが超イケメンキャラクターで、堀江さんが美少女キャラで出ていますね。
稲川氏:ぜひご覧ください。そしてオンラインになりますが、ケイアンドカンパニー株式会社の高岡さんに来ていただいております。高岡さんよろしくお願いします。
高岡氏:皆さんこんにちは。今日はどうしても東京から離れられなくて、リモートで参加させていただいております。高岡です。実はご縁がございまして、ホリエモンくんから頼まれてインターステラテクノロジズのマーケティングアドバイザーをやっています。どうしてインターステラテクノロジズさんがロケットを打ち上げるのか、もっと日本の中でPRしていかなければいけないのではないかと。何のために日本にとって宇宙ビジネスが必要なのか、どんな問題解決がその裏にあるのかを一緒にPRしていくお手伝いをさせていただいて、本日は参加しています。
私は大学卒業以来、ほぼ40年ぐらいネスレという世界最大の食品企業で働いてまいりました。皆さんよくご存知のキットカットですとか、ネスカフェですとかを取り扱っていて、「きっと勝つ」というキットカットの受験キャンペーンは私とチームで作り上げました。実はネスカフェもキットカットもネスレのグループの中で世界一の売上と利益を誇っていて、日本は非常に重要なマーケットでした。
実は、ネスレはサステナビリティやSDGsの概念を作るところに非常に深く関与しています。スイスで年2回行われるダボス会議について聞かれたことがあると思いますが、これもスイスのネスレとシュワブ教授が中心になって作ったことでスイスで行われています。20年ほど前に、サステナビリティについての議論の中で、ネスレがもっと企業が積極的に世界のサステナビリティに貢献しなければならないと最初に言い出しました。
食品企業であるからこそ農業とも深い関わりがあります。例えば、世界のコーヒー豆やチョコレートの原料になるカカオ豆は、ネスレ一社が最もたくさんの量を購入させていただいてるわけです。ですが、サステナブルな世界の追求のためには、ただ買って消費するだけでなく、生産者の課題解決に対して購入しているネスレが積極的に関与する必要があります。十分な取れ高を確保できるような、そして農業生産者の方が裕福になっていけるような協力を常にしなければお互いがダメになってしまいます。こうした背景から、毎年700~800億円の金額を世界のカカオ豆、コーヒー豆生産者に支援させていただいて、1平米当たりの取れ高が毎年上がるように研究開発の支援をさせていただいています。代わりにと言いますか、不測の事態があったときに優先的にネスレに販売をしていただくような契約をしていると。毎年決まって非常に多額な支援をさせていただいて、非常に戦略的にお互いウィンウィンな関係を作っているという企業です。ネスカフェ、チョコレートの売上はどちらも1兆円を超えます。世界の中で持続的に美味しい商品を適正な価格で世界中の人に届けるために、生産から企業も考えていかなければならない。これがサステナブル社会の原点だと考え、ネスレは非常に深く農業と関わってきました。
21世紀の新しい技術においては、宇宙ビジネスによって、例えばロケットで打ち上げる人工衛星が小型化され、リモートセンシングによってより高度なスマート農業が日本でも展開される可能性が非常に高いと思います。これによって効率化が進む、あるいは経験の少ない若い労働人口も可能性ある日本の農業に参入ができると考えると、非常に大きな問題解決を果たす役割がロケットや宇宙産業そのものに秘められているといえます。日本の社会の中でもっとたくさんの人々に理解していただくことで、よりたくさんの企業や投資家がこの宇宙ビジネスに目を向け、投資をして、日本の問題解決につながる日本独自の宇宙産業に発展していくと思い、一助になりたいと考えています。本日はよろしくお願いいたします。
稲川氏:ありがとうございます。我々インターステラテクノロジズのマーケティングアドバイザーとして日本を代表するマーケターの高岡さんに入っていただいています。我々は研究開発に特化した企業で見せ方があまりうまくない部分がありますので、我々の取り組みがどう世の中に還元されていくのかを、ロケットや人工衛星を活用することによるサステナブル社会の実現という文脈で見せていくところで一緒に取り組みをしています。
農業における衛星データ活用の今とこれから
稲川氏:まずは高岡さんよりサステナブルな社会についての現状を、カカオ豆の取り組みであったり、宇宙とのつながりも交えて説明いただけたかと思っております。続いて宇宙など最新技術を用いたスマート農業の現状ということで、具体的な取り組みについて各パネリストからご紹介いただければと思っております。最初、後藤先生からよろしくお願いいたします。
後藤氏:先ほど話しましたように、放牧で日本の国土を利用した牛肉生産をやっています。まず放牧は牛にとっても人にとっても非常に楽なんですが、単に放しているだけではダメです。私もいろいろやりましたが、今日はあまりお話できませんが、代謝プログラミングがミソです。胎児期とか赤ちゃんの頃に太りやすいようにしておくと、草でも3等級ぐらいのほどほどな霜降り肉ができるという実験結果を得ていて、胎児期や赤ちゃんの頃の栄養でちょっといいお肉ができる体質改善を牛たちにやるのが前提です。そのうえで、耕作放棄地であるとか、山とか限界集落などの余った土地、あるいは島の土地を使ってお肉はできないか、どう管理したらよいかという点も私の研究の大きな部分です。
昔ですと、GPSを使った牛の位置確認は(価格が)高かったんですが、今はすごくリーズナブルになってきています。ただまだまだですが、未来を見て我々は取り組みをしています。IoTから入ったと言いましたが、放牧で補助飼料をあげないといけないので、スマートフォンで牛を集めて餌をやる機械を作ってきました。今日もうちのスタッフが帯広から鹿児島の牛の餌をスマートフォンであげています。あるいは、牛に体温センサーをつけてワイヤレスで牛の体調を計ったりもできます。一方で、牛が牧草地で何を食べてどれだけ運動してるのかとかはわかりませんでした。カメラをずっと設置すればいいんですが、それも大変な労力とお金がかかります。
そこで、文科省さんからプロジェクト予算をいただき、元JAXAの慶応大学神武先生と北大の先生と3人で、電通さんやJAXAさんからの協力を得ながら数年前から始めています。何をしてるかといいますと、衛星にはGoogleマップみたいな写真を撮る方の地球観測衛星とカーナビのような位置を測る測位衛星の2つのタイプがありますが、これらを両方使おうというものです。餌を与えるにあたり、どのくらいの運動をしてきたからどれくらいの餌が必要なのかを判断しますが、その情報を地球観測衛星と測位衛星から持ってきて、放牧牛に自動給餌機で与えていこうとしています。
例えば10ヘクタールを3つに区切って、牛を入れるとどんどん牧草を食べて段々と緑が茶色になって地面が見えてきます。衛星画像からそろそろ転牧して次の放牧地に入れる時期だとわかるわけです。その情報をもとにゲートを閉めて次の放牧地に入れると。そのときにどれぐらいの餌を食べたのかを計算して、自動給餌機で足りない分だけを与えていきます。放牧で食べてくるとどんどん草が少なくなってきて、転牧するとまた草が再生してきます。再生の状況もわかるし、牛がいる草地の減り具合もわかるので、効率の良いローテーションをすることができます。これによってメタンなども土地から草から牛とある程度固定されるのでメタン排出にもいいということになります。観測衛星の画像に緑の色がありますが、実際に阿蘇に行って坪刈りをして画像の色と草の量を紐づけさせています。相関が高い層がありますので、画像の緑の色から何キロの草があるか、つまり牛はどのくらい飼えるのかがわかるようになっています。
もう一つは、首輪にセンサーをつけたカーナビの方です。牛がどれぐらいどこを歩いてきたのか。これが大変なんです。九州の阿蘇でも高齢化した方が毎日交代で50頭ぐらいの牛を確認しに何十ヘクタールの放牧地に行かなければいけません。どこに50頭いるかわからない、非常に苦しいということですが、衛星を使うとすぐにわかります。どれぐらい歩いたのか、どの辺にたむろしているのか、どの辺に良い草があるのかが推測できます。3軸加速度センサーが入っているので寝ているのか立っているのかがわかります。今は採食しているかなど行動まで把握できないかについて取り組んでいるところです。
放牧地用の自動給餌機にはタイヤがついているので放牧地に持っていくことができます。これを使って、行動のデータあるいは放牧中、牧草地のデータを合わせて個体ごとに餌を補助していきます。牛舎では割と個体ごとの管理や状況がわかるんですが、放牧だと今までわからなかったです。何をしているのか、体重がどれぐらい増えたのか減ったのかなどが宇宙のこの衛星データによってわかってくるということで、人間が労働から解放されます。糞尿もないです。普通だったら見に行くだけです。
あとは牛にとっても自由です。アニマルウェルフェアが全然問題ありません。一見原始的に見えるんですけど、宇宙技術を使うことでスマートフォン等に個体ごとの情報が集まってくるので緻密な牛肉生産ができるようになります。
鹿児島県志布志の農業生産法人さかうえさんは、里山牛という耕作放棄地を使った牛飼いを始めて、The Japan Timesのサステナブルアワードを受賞しました。ここで宇宙技術を入れられないかと一部取り組んでいます。また南阿蘇の下せき牧野も使わせていただいて、労力を宇宙技術を使って改善できないか取り組んでいます。
実際にどんなお肉ができるかですが、最初に説明した代謝プログラミングで、ちょっと小さい時に太る体質をつけさせておくと、適度な霜降り肉ができます。ですから、牛舎で集約的なことをしなくても、地方の草を活かして、放牧を活かして、宇宙技術を使えば牛肉生産ができるのではないかと思って取り組みをしています。
農家さんも牛舎で飼っていると毎日牛舎から離れられません。鹿児島大学にも農家の息子さんがいます。家族旅行は行ったことありませんとか、そういうことになってくるんですね。しかし、今日お話ししたような取り組みをすれば、ハワイに行こうがアメリカに行こうがヨーロッパに行こうが、スマートフォンで鹿児島に餌をやったりできるわけです。個体ごとのデータもわかるわけです。極端な話ですが、未来はスマートフォンだけで牛飼いができると。そうすると、若い人がやってもいいかな、田舎に住んでもいいかなと思ってくれて、牛肉が売れてちゃんとお金も入ってくる農業ができるのではないかと私は思っています。長くなりましたがこれで終わります。
稲川氏:面白いですね。私自身も、牛はなんとなく牛だなという感じだったんですが、こっちに来てから牛は経済動物だという言葉を聞いて結構びっくりしたんですね。経済動物という単語があるのかと。製造業、ものづくりではいかにコストを安くするかを考えて自動化だとか工夫だとかをするわけですけれど、牛、経済動物でここまで進んでいるのかと驚きました。ちょっと未来のこともあるとは思いますが、スマート化が意味するところがかなりクリアになって大変面白かったです。続きまして、ホクレンの篠原会長より具体例をご紹介いただければと思います。
篠原氏:はい。今後藤先生が話してくれたので、まず畜産の現場はこの十勝もまさしくテスト化が進んできています。我々は、スマート農業の効果として一つはやはり省力化、そして自動化があると思っています。
人工衛星が位置情報を割り出しながらトラクターや田植え機などの農業機械を自動でまっすぐ効率的に走らせたり、自動走行のドローンで農薬の散布を行っています。今、先生からお話があったように、牛乳の世界では搾乳ロボットも普及がどんどん進んでいます。時間になると牛が自分で搾乳ロボットの中に入って、機械が牛の乳の位置を正確に確認しながら牛乳を絞ってくれる。牛が慣れてくると自分で勝手に移動してくれるような時代になってきてるのかなと。こういう機械の普及がかなり進んできているのかなと思っています。
例えば、トラクターの自動操縦は、約10年ぐらい前の北海道ではまだ110台ぐらいしか動いていませんでしたが、今は約1万4,000台と126倍に増えています。これは北海道にあるトラクターの約10台に1台の割合で装備がつけられていることになります。特にこの十勝とオホーツクは畑作地帯でもあるので、高い割合で普及しています。人手が減っている中で広い面積を作業するには非常に効率的ですし、それを実感されている方が増えてきていると思っています。
スマート農業のもう一つの効果として、データ活用の技術による生産性の向上が期待できます。衛星やドローンで作物の生育情報を測定してデータ化して、データに基づいて栽培管理をしていく。圃場を均一に管理していくだけでなく、圃場の状態に合わせた精密な管理ができます。水田の水位や水温をセンサーで測ったり、適正な水管理などもできるようになってきていますし、後藤先生が言われていたように何十頭、何百頭の牛の活動データをセンサーで収集しながら、体調だとか発情の兆候を把握することができます。また、ハウスの温度や湿度をモニタリングして温度調整を行えるようになってきています。
データの活用で今説明したことが可能になってきていますし、自動化と組み合わせることもできます。携帯電話やカーナビのようにトラクターに受信機を取り付けることで位置を把握することができますが、これだけだと誤差が20~30センチあって、作物を踏んだりだとか、隣の畝との間隔が広すぎるとかの問題が発生します。そこで、固定した基地を立てて補正情報を用いることで、誤差を2~3センチまで小さくすることができます。こうした適正な補正情報を発信するシステムを、ホクレンがRTKシステムとして運用しています。
農協などが運営する基地局に受信した信号を補正をしながらインターネット回線を通じて生産者の携帯端末に送信し、Bluetoothでトラクターのガイダンスシステムに送信しています。この精度の高い位置情報に基づいて自動操縦でトラクターを動かすことができるわけです。なお、システムをホクレンが一元化運用すること、複数のJAの基地局を共有することで基地局のコスト低下を実現しています。ある基地局に不都合が生じた際には、暫定的に隣の基地局の補正情報を発信することで安定的な利用が可能になると思っています。平成29年から試験的に開始し、令和3年度で約全道で66JA、51基地局までカバー範囲が広がり、5,000名以上の方に利用いただいています。
使っていただいている人の声を聞くと、トラクターに座っているだけでハンドルを操作しなくても真っ直ぐに正確にできるのと、夜間でも作業ができるというお話がありました。また、精神的、肉体的な労働が全然違う、あるいは経験がなくても正確な作業ができるといった声を多くいただいています。これからさらに普及が進んでいくのかなと思っています。
衛星を活用したスマート農業のもう一つとして、リモートセンシングを利用した可変施肥でコストを下げていく取り組みを紹介させていただきたいと思います。リモートセンシングは、ものを触らずに調べる技術ですが、地上の物体が太陽光を反射するとそれぞれ波長が異なります。例えば、畑に作物が植わっていると、生育の良い葉っぱの方が不健全な葉っぱよりも赤い色の反射が少ないなどの違いがあります。衛星で観察することで、畑の中での生育状況がデータで見えてくるわけです。他にも、ドローンで畑の上を飛ばして測定する方法もあるかと思っています。こうしたデータを地図情報に落として、これから肥料を撒く機械と連動させることで、生育状況に合わせて肥料を撒く量を調整できると考えています。今、資材が高騰していますが、こうした取り組みで削減することがこれからの技術です。1枚の畑で一定の量の肥料を撒くのではなく、生育の悪いところや肥料の足りないところに効果的に撒くことができますし、逆に生育の良いところに肥料が多すぎても品質の低下に繋がると思っています。今では肥料にしても農薬にしても海外に頼っている状況ですので、少しでも自分たちの力でコスト削減を図ることが大事かと思っていますし、品質の向上にも繋がると考えています。他にも、小麦の生育状況を観測して適正な時期に収穫をするための活用もどんどん北海道の中で進んでいます。さらには、雑草を精密に検知できれば効果的なスポットの散布をすることが可能となり、有機農法に一層近づくことができます。こうした技術の実証試験を通じて、現場で使えることをサポートしながら、現場の問題解決に繋がる普及に繋げていきたいと思っています。以上です。
稲川氏:ありがとうございます。肥料の高騰ですが、削減をしなきゃいけないと国の方針として決まっていて、肥料を3割削減しないと不都合がある中で、現場の努力だけでは効かない。そのためにテクノロジーを使って広範囲なことをやろうと思うと、やはりドローンだとか宇宙を使わなければいけないんだと、かなり分かりやすく整理されたかなと思います。ありがとうございました。時間も迫っているんですが、続きましてINCLUSIVEの藤田さんから具体例をご紹介いただければと思います。
藤田氏:これからどんなことやっていくかですが、宇宙利用のポジティブサイクルづくりに取り組みたいと考えています。今後衛星の打上げが増え、データの量と質が改善されていくと思っています。その中で、衛星データを使ったSX、スペーストランスフォーメーションを実現したいと考えています。DXの宇宙版です。作業の効率化や少子高齢化対策、そして作物の品質を高めることもできると思っています。そして、効率化や自動化によって浮いた人間のリソースを活用して、農作物や地域の想いやナラティブを生活者に訴求していくことが重要だと思います。その中で、地域産業の収益化が強化され、持続可能な取り組みになっていくと考えています。
先ほども申し上げた通り、メディアコンテンツ、人に見られるコンテンツ、意図を持ったコンテンツづくりが非常に得意な会社です。くまモンの生みの親であります小山薫堂さんも我々のグループに入っていただきましたので、今後より一層地域創生を進めていくためのコンテンツをつくっていきます。コンテンツづくりにおいては、我々だけではなく地元の方、生産者さんと一緒につくることが非常に大事だと考えております。そのために、人が少なくなっていく、高齢化していく中で自動化できるものは自動化したり、衛星データを使って定量的に改善し続けることが必要であろうと思います。
今、大樹町さんとは土壌窒素量の推定に取り組んでいます。先ほど肥料削減をしなければいけないとの話が出ましたが、施肥量を調整するために土壌の窒素量は衛星データでどれぐらい把握できるのかを調べています。また、嵐が来たり台風が来たりすると倒伏被害も発生しますが、被害状況の把握ができるのか、作付けされている作物の判別ができるのかなども合わせて調査を進めています。メタンガスの排出量も、海外では油田地帯で把握されているところもありますが、果たして酪農の地域はどうなのか、衛星データが活用できると思います。また、農業領域以外にも、自然災害における被害状況の把握や、北海道全体でも大きな課題になっている林業における管理業務の改善などが、衛星データを使える領域ではないかと考えています。他にも現場にはいろんなお困りごとがあると思いますので、そのお困りごとを解決していく手段を作っていきます。
北海道は課題先進地域だと言われてますが、このソリューションが横展開できるようになると、国内はもちろん海外に輸出できるソリューションにもなると思っています。我々はインターステラテクノロジズさんとの連携も図っていますので、ZEROによって打ちあがるOurStars社の衛星利用も含めて、衛星データ活用による地上のお困りごと解決を推進していきます。以上でございます。
稲川氏:ありがとうございました。今まさにINCLUSIVE社とは資本提携して既に組んでいますが、我々はインターステラテクノロジズとしてロケットを作っていく。そしてOurStarsで人工衛星も作っていく。さらにお悩みごと解決のところでINCLUSIVE SPACE CONSULTING社と連携しながら宇宙がもっと身近に社会で使われるような世の中にしていきたいと思っています。
北海道宇宙サミットに残したいメッセージ
稲川氏:最後に皆さんから一言ずつ、北海道宇宙サミットに残したいメッセージをお願いいたします。まずは後藤先生お願いいたします。
後藤氏:今、私は放牧で衛星データを使ってやっていますが、まだまだ衛星のデータはすぐに使える訳ではないと思います。生みの苦しみだと思います。DXといいますが、DXは効率化ではなくてIoTなどの新しいツールを使ってこれまでの概念を崩して新しく作っていくことです。牛肉生産も今そういった時期に来ていると思います。宇宙技術も、衛星はこれからどんどん打ちあがってリアルタイムの画像が出てくる時期がきます。もうちょっと頑張らないと突破ができないので、銀行の方、投資家の方にはお金を出していただいて、もう一歩進めていきたいと思います。衛星ネットワークや6Gの時代になったら、農業だけでなくいろんなビジネスが変わってくると思います。日本も、かつてはトップでしたが今はイニシアチブを取れる領域が無くなってきていますから、私もここで踏ん張って日本が新しいイニシアチブを取らないといけないなと思っています。私は農業で、牛肉生産で頑張っていきますが、宇宙を盛り上げていくことが技術立国日本としては大事なことかなと思いますので頑張っていきましょう。
稲川氏:ありがとうございます。続きましてホクレンの篠原会長から最後にメッセージをお願いいたします。
篠原氏:今、鈴木知事が食と観光をテーマに挙げています。食料自給率は国でみると37、38%しかないですが、北海道は200%、十勝は1,100%近くあります。ここを強みとして活かさなければいけない。国は今、緑の食料システムを掲げていて、先ほど私が言わせていただいたようにいろんな意味でコストを下げて有機に向かわなきゃいけません。肥料3割削減を達成するために、インターステラテクノロジズの稲川社長に農業用衛星をどんどん大樹町から打ち上げていただいて、衛星を使って管理をしていく。そして、十勝の宇宙観光に結び付けていただきたいと思いますし、我々も北海道の食をしっかりと担いながら、宇宙と食と観光をミックスしてこの十勝から発信していくことが私の夢です。
稲川氏:ありがとうございます。大変心強いお言葉でした。続きまして、INCLUSIVEの藤田社長からお願いします。
藤田氏:衛星データと農業や漁業がどのように関係するのか、まだ世の中に十分理解されていないと思います。0はいつまでたっても0ですから、1の事例、2の事例を作っていきたいと考えていますので、自治体の方、農林水産関係者の方など、お困りごとを教えてください。何か新しいソリューションを作っていけると思っています。また、私は北海道での夢がありまして、北海道は優秀な学校も多いですが東京の企業の刈り取り場になってしまっていると思います。北海道で就職したい会社を先端産業の中で作って、上場し、時価総額を高めていくことができるといいなと思っています。以上でございます。
稲川氏:ありがとうございます。最後に高岡社長よりメッセージいただけますでしょうか。
高岡氏:皆さんお疲れ様でした。本当に簡単に一言で言えば、とにかく稼がなきゃいけないということです。この失われた30年の中で、本当に日本はあらゆる産業において稼げない国になってしまいました。どうしたら稼げるのか。後藤先生も仰っていたように、デジタルトランスフォーメーションは単なるデジタライゼーションと違います。効率の話ではなくて稼ぎ方を変えることです。デジタル、AI、そして人工衛星、宇宙など今までに人類が持っていなかった新しいエネルギーを使いながら、今まで解決できなかった問題を解決することがイノベーションに繋がります。これからの宇宙産業で、日本ならではの問題解決をいかに実現するかにもっともっと目を向けて、もっと稼げる国にしてもらいたいなというのが最後のメッセージです。ありがとうございました。
稲川氏:ありがとうございました。セッション5「宇宙で加速する、スマート農業とサステナブル社会」ということで、農業の最新の状況と、掛け算する宇宙の夢も含めて皆さんに知っていただけたかなと思います。今日一日、宇宙サミットとアグリサミットを開催していましたが、最後にミックスした形で知っていただけてよかったかなと思います。宇宙の活動と農業国としての北海道はどんどん盛んになっていくと思いますので、ご期待いただければと思います。ご清聴ありがとうございました。
※本記事はカンファレンスでの発言を文字に起こしたものです。言い回し等編集の都合上変更している場合がございます。
連載「HOKKAIDO 2040」では、“2040年の世界に開かれた北海道(HOKKAIDO)”をテーマとして、大樹町を中心に盛り上がりを見せている宇宙産業関係者へインタビュー。宇宙利用によって変わる北海道の未来を広く発信します。連載記事一覧はこちらから。