小田切氏

【北海道宇宙サミット2022・全文掲載】世界各国が熱視線!? 宇宙産業の現在地と未来とは(Session1)

“2040年の世界に開かれた北海道(HOKKAIDO)”をテーマにした特別連載「HOKKAIDO 2040」の特別編として、2022年9月29日に行われた、国内最大規模の宇宙ビジネスカンファレンス「北海道宇宙サミット2022」の様子をお届けします。現地約700人、オンライン約4,000人の方が視聴したトークセッションでは、日本で宇宙に携わるフロントランナーが一堂に会し、様々な視点で議論が交わされました。

今回は、Session1「世界の宇宙ビジネスの現在地と未来」で語られた内容を全文掲載します。

登壇者

大樹町長 酒森 正人氏

経済産業省 製造産業局宇宙産業室 室長 伊奈 康二氏

国土交通省 北海道局参事官 米津 仁司氏

一般社団法人SPACETIDE 代表理事兼CEO / A.T. カーニー株式会社 ディレクター 石田 真康氏

SPACE COTAN株式会社 代表取締役社長兼CEO 小田切 義憲氏(モデレーター)

はじめに&登壇者紹介

小田切氏:みなさん、こんにちは。セッション1、いよいよ始めさせていただきます。テーマは「世界の宇宙ビジネスの現在と未来」ということで4名の方にご参加をいただいています。今日は宇宙に詳しい方もいらっしゃいますしこれから宇宙に取り組まれようという方もいらっしゃるので、簡単に今の宇宙ビジネスの現在地をまず解説します。

北海道スペースポートのミッションは射場整備、調査検討、ロケットあるいはスペースプレーン、人工衛星の企業誘致です。そして宇宙の技術を進めていくために、民間や政府あるいは大学研究機関の皆さんがここにきて宇宙産業を集積させていくということ。そして宇宙ビジネスは教育や観光ビジネスと非常に親和性が高いので、関連性をより深めていくということも私のミッションです。最終的には、北海道に宇宙版シリコンバレーを作り、これをもって北海道あるいは日本全国の宇宙ビジネスを基幹産業として発展させていくということを掲げています。

宇宙ビジネスは、ほんの数年前まで40兆円ほどの市場規模でしたが、これが約20年後には130~140兆円ぐらいまで伸びていくと言われています。これは大型ロケットで大型衛星を上げていくビジネスと並行して、小型ロケットで小型衛星あるいは超小型衛星を打ち上げるビジネスがますます盛んになり、それに伴ってリモートセンシングのデータをダウンロードしてビジネスに繋げていくところから大きく成長すると言われています。

大型の衛星を大きなロケットで上げると打ち上げ回数は当然少ないですが、小型衛星を小型ロケットで上げていく時代になりますと、ますます打ち上げの頻度、フリークエンシーが上がっていきます。従来の大型ロケットビジネスも、放送衛星や気象衛星ひまわりのようなものも当然従来通り継続はしますが、それにもまして、光学カメラを積んだ衛星あるいは合成開口レーダーを含めて小型衛星がどんどん増えてくるということで、市場はますます広がっていきます。

日本では、北海道スペースポートの他に3つの射場があります。和歌山県の串本、大分空港、宮古島の横の下地島空港という4ヶ所です。世界を見ると約70の射場が運用されています。特にアメリカでは着々と進んでおり、現在14の射場が整備され、ロケットを打ち上げる準備をしている、あるいは既に打ち上げています。私がこの仕事を始めたときにはまだ11しかありませんでしたので、1年半の間に14まで増えているということです。これは、マーケットがあることの証だと思っています。このような現在地を踏まえて、今日4人の皆様にお話を聞かせていただきます。よろしくお願いします。

皆様から自己紹介と各社のご紹介をいただくということで、まずは、SPACETIDE株式会社代表理事の石田様から、お願いします。

石田氏:皆様おはようございます。一般社団法人SPACETIDE 代表理事兼CEO・A.T. カーニー株式会社の石田と申します。SPACETIDEは、東京を拠点に活動している非営利団で、年1回アジア最大級の宇宙ビジネスカンファレンス『SPACETIDE』を開催しています。

もう一つ、A.T. カーニー株式会社という、アメリカを拠点とする経営コンサルティング会社で仕事をしていますが、去年グローバルスペースグループというグループを作りました。小田切さんから話があったように、宇宙ビジネスに対する熱狂というのがアメリカだけでも日本だけでもなく本当に世界に広がってるということを踏まえ、新しい取り組みをする政府機関、民間企業、投資家の皆さんを支援するコンサルティングのチームです。

具体的には、アメリカとヨーロッパと中東とアジアオセアニアと日本、5つの拠点を束ねて活動しておりますが、必ずしも宇宙の先進国と言われてきた日本を含めた欧米だけではなく、中東の政府やインド、オーストラリアなど本当に世界中からいろんなご相談が来ています。

今日ご登壇されている経産省の皆さんとも政府の委員会でご一緒させていただいています。宇宙というのは国がこれまで50年、60年の歴史を持ってやってきた業界です。民間の活動がどんどん盛り上がるためには国の政策も変わらなきゃいけないということで、民間の立場として日本の宇宙政策がより民間の成長に繋がるようにするため委員活動をさせていただいています。本日はよろしくお願いします。

小田切氏:石田様ありがとうございました。続きまして、経済産業省製造産業局宇宙産業室長の伊奈様からお願いいたします。

伊奈氏:はい。ご紹介いただきました伊奈と申します。私は、経済産業省の製造産業局宇宙産業室というところに2020年に着任し、今年で3年目になります。政府として宇宙産業の育成、振興していく立場です。宇宙産業は、安全保障や経済社会のインフラであり、日本において確実に保持すべき産業基盤であると考えています。これまでは文科省、JAXAなど、政府中心の宇宙開発が50年、60年進んできました。最近は日本の宇宙ベンチャーなど、商業用目的を中心とした宇宙開発が進展しており、かつ、これらが安全保障、経済、社会でどんどん使われ始めています。こういったプレイヤーの方々が、世界での競争で戦って勝っていってもらわなければ、日本の重要な産業基盤が損なわれてしまうことになります。このような観点から、政府として経済産業省だけでなく内閣府、総務省など関係省庁と連携をして日本の宇宙産業が勝てるように、いろいろな取り組みをご支援させていただいています。

世界の宇宙ビジネスのトレンドについて少しだけご説明をさせていただきます。世界の宇宙産業の市場規模はこれまで毎年拡大傾向です。これからも3倍ぐらいまで市場規模が広がるんじゃないかという推計が出ています。

中でも経産省としてかなり力を入れて取り組んでいる領域ですが、近年大量の小型衛星を一体的に運用する“小型衛星コンステレーション”を構築する企業が日本企業含めて急速に増えています。コンステレーションとは、“たくさん”“星座”“集合”というような意味です。これが安全保障や経済社会にとっての基盤となる見込みです。具体的には、例えばミサイルの防衛、災害事故状況の把握、あるいは通信環境がないところに宇宙から通信サービスを提供するような全球インターネットなど、様々なサービスが提供されつつあります。

これまでとの大きな違いは大きさと値段です。従来の衛星と小型衛星コンステレーションの比較ですが、これまでの大型衛星に比べても小さな衛星でそれなりのサービスを提供できるようになっています。これまでは1基当たり数百億円、ものによっては数千億円というものもありましたが、小型衛星は数千万円から数億円程度、そしてかなり速いスピードで開発ができます。

まさに北海道のインターステラテクノロジズさんが打ち上げようとしているのはこういった小型の衛星です。政府としても小型衛星の利用をどんどん進めていきたいところで、インターステラテクノロジズさんの小型ロケットで小型衛星がどんどん打ち上げられるようになると、政府としても非常にありがたいと捉えています。小型衛星がどんどん増えているトレンドの中で、商業用衛星が9割以上まで増えています。

少し難しい話ですが、星には軌道という考え方があって、地球の近くを飛ぶ低軌道と、かなり遠くにある静止軌道というのがあります。ひまわりのような静止軌道にある大きい衛星ではなく、かなり地球に近いところにある低軌道への打ち上げが急増することが見込まれています。実際に、たくさんの小型、超小型の商用衛星企業が世界中で出てきています。経済産業省として、小型衛星コンステレーションに関する商流全体を見た上で目詰まりがないように、ハード関係の支援、衛星の開発、衛星に載せるセンサーの開発、それから打ち上げるためのロケットの開発支援、さらには衛星から得られたデータを農業など様々なユーザーの方々に使ってもらいやすくするための環境整備、そのビジネスの補助事業など、様々な取り組みを進めています。以上です。

小田切氏:はい、伊奈様ありがとうございました。続きまして国土交通省北海道局参事官の米津様よろしくお願いします。

米津氏:はい。ただいま紹介いただきました、国土交通省北海道局で参事官をしております米津でございます。

国土交通省はどちらかというと社会資本整備を中心にした官庁です。宇宙ビジネスと社会資本整備の繋がりについて、私が行っている仕事の観点でお話します。

北海道局ですので、国土交通省の中でも北海道開発に視点を置いた仕事をしているわけです。北海道開発とは何かということですが、北海道は非常にいろんなポテンシャルを持っております。よって、それを我が国にいかに貢献するかという視点でこれまで北海道開発を続けてきています。私ども北海道局では北海道開発を進めるための政策の企画立案をし、それを遂行するに必要な予算をしっかり確保するという仕事を東京でしています。その社会資本整備を具現化する仕事を、札幌にある北海道開発局と各地方の開発建設部という組織が担っています。河川、道路、港湾、農業基盤といったようなものを中心にいろんな基盤整備をして北海道開発を進めているわけです。

実は北海道局の前身は省庁再編前に北海道開発庁という組織です。かなり昔ですが、北海道における新たな産業の目として宇宙産業に着目した時代もございましたし、後ほどお話いたしますが、北海道開発を進めるための計画の中でもやはり宇宙というキーワードはこれまでもいくつか出てきています。

宇宙と社会資本インフラとの繋がりでいくと、今特に人材が不足しているという関係もあり、ICT(情報通信技術)を使った建設工事が盛んに行われています。また、スマート農業もそうですし、身近なところだと除雪です。本来だと2名体制で除雪しますが、除雪を自動化することで1名で省力化を図ろうというような取り組みもやっております。これは全て衛星データを使っているので、インフラの分野においても宇宙からのデータ、宇宙ビジネスとの関わりというのが非常に大きいと思っています。

また後ほど北海道開発に関わる計画の話と絡めて宇宙ビジネスとの関係のお話をしようと思いますが、自己紹介がてら冒頭のお話としては以上で終わりたいと思います。

小田切氏:はい、米津様ありがとうございました。それでは、最後に大樹町長酒森様からご挨拶をお願いいたします。

酒森氏:おはようございます。昨日の見学会、そして本日の宇宙サミットへ早朝から会場いっぱいの皆様にお集まりをいただきました。私から、心からお礼を申し上げたいと思います。

大樹町で宇宙のまちづくりを取り組み始めてから37年が経過をいたしました。1984年に北海道東北開発公庫、現在の日本政策投資銀行が、北海道に大規模航空宇宙産業基地構想を発表し、3年後の1987年に北海道が新長期総合計画戦略プロジェクトに北海道航空宇宙産業基地構想を取り上げ、大樹町が候補地となったのが大きなきっかけとなりました。北海道スペースポートの強みでもありますが、東と南に海が開かれていること。そして、拡張性の高さ。今日のような圧倒的な十勝晴れ、天候の良さ。そして、帯広空港、または隣の広尾町にあります重要港湾である港も含めた周辺環境、アクセスの良さが適地だと言われるゆえんかなと思っているところです。

そんな中、インターステラテクノロジズが、大樹町で100キロの宇宙に到達するロケットの打ち上げに成功いたしました。これは日本国内では種子島と内之浦に続く3番目に宇宙に到達した射場とそういう位置が明確になった、そういう打ち上げでもあったと思っています。大樹町は今多目的航空公園を中心に空中の取り組みを進めております。今も、多くの企業の皆様に実験の場として広く活用をしていただいておりますし、JAXAも大気球実験を含めて数多くの実験を行っています。そして、海岸部にありますインターステラテクノロジズの射場からは、MOMOを打ち上げ、宇宙の入り口としての位置を築いているところでもあります。大樹町は今スペースポートの整備を進めております。9月7日にはLC1射場と滑走路の延伸を伴う第1期工事の着工式、安全祈願祭を北海道知事の鈴木直道知事や和田内閣府副大臣もお招きをし、多くの皆様とともに安全祈願をさせていただきました。国からは地方創生拠点整備交付金、3年計画で23.2億円の事業を認めていただき、その半分11.6億円を交付金として私どもに交付をいただけることとなっております。残りの11.6億円は企業の皆様からの企業版ふるさと納税を活用し、いよいよ3年後の完成を目指して事業を進めているところでもあります。

大樹町の北海道スペースポートのイメージですが、垂直打ち上げのロケットを打ち上げる、または滑走路を使って水平離発着の航空機ロケットの打ち上げ、そして関連する工場やターミナルまたは研究機関等が大樹町にとどまらず、十勝、北海道に集約していく。そして、これが大きな地域のエネルギーとなるように、これからも皆様の応援をいただきながら、候補地であります大樹町としての役割を担っていきたいというふうに思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

日本が宇宙ビジネスで成功するために何が必要か?

小田切氏:酒森町長ありがとうございました。

さてそれでは、セッション1のテーマの方に入っていきます。まず、日本がこの宇宙ビジネスで成功するためにどんなものが必要か、何が求められているかを皆様からお伺いしていきたいと思います。では石田様からよろしくお願いいたします。

石田氏:ありがとうございます。やはり宇宙はものすごい可能性がある領域だと思っていて。日本でも多くの方々が興味を持たれていると思うんですが、一方で宇宙は世界的にものすごい大競争時代に入っていると感じています。

毎年開催されている世界で一番大きい国際宇宙会議という宇宙業界のオリンピックみたいなイベントが今年はパリで開催されていて、先々週に私も行ったんですが、数年前までは大体5,000人ぐらいが集まるイベントだったものが、今年は9,000人が集まり過去最高となりました。

なぜそんなに集まる人が増えたのかというと、一つはいろんな国がブースを構えるようになったんですね。今までは欧米や日本など宇宙をずっとやってきた国が中心でしたが、サウジアラビア、UAE、トルコ、アゼルバイジャンと、本当に多くの国が宇宙活動をやる時代になっています。あともう一つが、民間企業のブースの数がものすごく増えたのがやはり大きくて。まさに先ほど町長からお話があったインターステラテクノロジズさんと同じようなスタートアップの企業です。世界中のスタートアップ企業が自分たちのビジネスを売り込むためにブースをダーッと会場に並べていました。結果として国際宇宙会議の参加者の数も急激に増えています。そういう意味で、可能性が大きいが競争もかなり激しくなってるというのが今の宇宙業界の大きな特徴かなと思います。

そういった背景の中でご質問いただいた成功するために必要なことというと、一つ明確に思うのは、もっともっと日本はこの領域に投資をしなきゃいけないということです。宇宙は過去2年間、世界がコロナ禍になった中でも投資がずっと伸び続けた業界としてすごく有名です。あらゆる業界で投資が止まりましたが、世界的に宇宙業界は民間の投資だけでもおそらく過去3年で3兆円とか4兆円ぐらいの投資がずっとされています。一方で日本ではインターステラテクノロジズさんらスタートアップに対する投資は過去5年で大体1,000億ぐらいです。これは結構大きな金額なんですが、やはり世界がガーッといってる中ではまだまだ足りない金額だと思っていて。そういった意味では政府も民間企業も含めて、やはりこの成長領域にどんどんどんどん投資をするのが大事なことかなと思います。

もう一つは、民間の可能性にもっとかけてみるということだと思います。宇宙は従来国がやってきた領域なので、伊奈さんとかも含めて国の政策委員会でいろんな政策の議論もしますし、民間企業も国のプログラムを支えるのが宇宙の事業であると捉えてやってきた方が多いです。そういう意味では事業というよりは官需を支える活動というのがこれまでの位置づけでしたが、今は本当にビジネスとして宇宙をやる時代、事業として宇宙をやる時代になってきています。民間企業がどんどんどんどん生まれてきていますが、まだ政府サイドはうまく支援したり、規制を緩和したり、あるいは活用するというのが途中なところがあって。言葉で言うのはすごく簡単なんですが、実際いろんなところで障壁がまだまだあります。

国と民を上げて投資をちゃんとし続けること、その中で民間の成長に合わせて、民間も政府も一緒に変わっていく。その両方をやることで日本の宇宙ビジネスの成功に繋がっていくんじゃないかなと思います。

小田切氏:石田さんありがとうございました。では次に伊奈様から、経産省で取り組もうとされていること、あるいは経産省としてどういった側面的な支援をしていただけるかという観点から一言お願いいたします。

伊奈氏:石田さんが仰られた通り、やはり世界で国際競争が非常に苛烈になってきています。先月私もアメリカのスモールサテライトカンファレンスという3,000人ぐらいが参加する小型衛星の国際会議に出てきましたが、本当にいろんな新しいビジネスがどんどん出てきています。他方で日本の企業が戦えないかというと、私はそうでもない、やっていくんじゃないかなという印象を持って帰ってきました。

小型衛星について言うと、2000年代末ぐらいから『ほどよしプロジェクト』という、要するに程よい信頼性で安い衛星を作ろうというプロジェクトを経産省も関わる形でやってきました。いろんな大学が関わっており、関わった人たちの中から日本の宇宙ベンチャーがどんどん出てきています。この人たちが作っている100キロぐらいの衛星は、世界的に見てもこれから数がどんどん出てくるところで、経産省としても支援を強化しています。衛星もいろんなサイズがありますが、10キロから30キロぐらいのキューブサットと呼ばれるような衛星、それから100キロぐらいのマイクロサットと呼ばれるような衛星など、これからが出てくると言われる各サイズについて様々な予算を投じて、衛星を作るだけではなく、姿勢制御、推進系、電源を含む部品などについても国内にしっかりサプライチェーンを築き上げるということを目指してこの2、3年力を入れています。

衛星を開発するだけではビジネスで世界と戦うのは難しいので、先日国会を通った経済安保推進法に基づいて小型衛星を特定重要技術という形で位置づけ、向こう数年で数百億円という規模の予算を活用して小型衛星の社会実装に向けた技術開発を進めていきます。例えば、衛星同士を光で繋いで、衛星から得られるデータをバケツリレーのように受け渡していき、地上に下ろしてくることができるようになると、リアルタイムに近く宇宙から取った地球の画像が手元で見ることができるようになります。NTTさん、スカパーJSATさんが180億円ほど出資してやってきているわけですが、政府としても数百億円という規模で投資をしていこうということを考えています。

それから、こうして得られた衛星データですが、様々な産業分野で使っていただけなければ結局衛星事業者も戦っていけません。再投資を促すためにも、生データをいろんな人たちに使ってもらおうということで、今年度から十勝地域を含む日本のいくつかの地域を実証地域と定めて、経済産業省として商用衛星事業者から生データをたくさん買ってきます。そのデータを皆さんに無料で使ってもらうことを向こう3年間やっていく予定です。今無料で使えているデータよりもかなり解像度が高く、空間分解能という言い方をしますが、非常に細かく見れる、あとは数時間に1回など小型衛星コンステレーションによって取れるデータの頻度も上がっていますので、高頻度なデータを無料で使える事業です。公募の詳しい内容は来週ぐらいに経産省のホームページのトップ画面に出せるんじゃないかということで今内部調整しています。「経済産業省 データ 無料」とかでググっていただくとすぐ出てきますので、ぜひ、この十勝地域における衛星データの利用を試してみたいという人たちがいらっしゃれば、ご活用いただけるとありがたいなと思っています。

それから他の予算事業ということで言うと、有名な中小企業庁の取り組みですが、事業再構築補助金というのがあります。これは宇宙に限りませんが、宇宙産業室としてはこれを結構使い倒していて。これまでも、例えば釧路製作所さんをはじめ、宇宙関係の方々にご利用いただいている補助金です。これから宇宙に取り組みたいと考えていらっしゃる中小企業の皆さんにはぜひ活用いただきたいと思っています。それからSBIRという研究開発関係の予算ですが、こちらも実は宇宙枠というのを交渉して獲得してきました。来年度からさらにこのSBIR全体の予算額も増やしていこうという動きもありますので、宇宙関係の研究開発やりたいよという人たちがいらっしゃれば今後注目いただければいいかなと思います。長くなりましたが、以上です。

小田切氏:ありがとうございました。経産省さんも、いろいろな補助助成を準備いただいているということが皆様にもおわかりいただけたかと思っております。続きまして国交省北海道局様からもお取り組みを伺えればと思います。米津様、お願いいたします。

米津氏:はい。まずは2つの観点でお話しします。国交省の特に北海道開発局の得意分野の話ですが、これから宇宙ビジネスが産業として発展していくためには、特にこれから人と物とが盛んに動くようになってくると思いますので、やはり基盤整備が必要だと思っています。一例でいいますと、昨日大樹町の現場をご覧なられた方は、帯広大樹の行き来の際に自動車専用道路を使われた方が多いと思いますが、あれが今帯広から大樹町のちょうど町境のとこまで延伸してきています。最終的には広尾まで繋がることになりますし、繋がった先には十勝港があります。そういった基盤を使っていろんな人と物を運ぶということですから、物流のネットワークをまずはしっかり整えるということが、我々としてできる大きな支援だと思っています。

もう一つは、冒頭にお話しました北海道開発の計画に絡む話です。北海道の人口はこれからどんどんどんどん減っていくわけです。特に今から大体30年後の2050年では、地方部で特に人口の減少が著しいと推定されています。一方で、北海道の地方部は特に食農業、観光業を担っています。1人当たりの農業産出額の高い地域、漁業生産額の高い地域の人口減少が著しいのです。まさに人口減少の著しい地域こそ北海道の価値を生み出してるわけですよね。

そういった地域を造語として「生産空間」と定義をしました。いかに生産空間を守っていくかという観点で北海道開発のための計画作りをこれまでもしてきましたし、これから作ろうとしています。今、北海道開発を総合的に進めるために北海道総合開発計画という新しい計画を作ろうとして検討を進めていて、次の計画の目標として大きく2つほど位置づけようと思ってます。一つは、要は北海道の強みの部分、食料安全保障、脱炭素化、観光立国というような、北海道がこれから力を発揮する部分というのをまず大きな目標にしようということ。そして、強靱化ですとかネットワークの整備といったような土台をしっかり作ろうという2本立ての目標を立てて計画を進めようとしております。肝心の宇宙ビジネスについては、我々としては前者の目標の中にしっかり宇宙産業の可能性を位置づけていきたいなと思っています。

大樹町も酪農を中心に生産空間を担う地域であります。生産空間を支える産業の一つとしてこの宇宙ビジネスが発展していくことを北海道総合開発計画の中でも位置づけられればと思いますし、宇宙産業そのものがこれからの北海道開発の強みの一つに十分なりうるんじゃないかなと思っています。そういった観点で、これから我々もこの宇宙ビジネスと関わりを持っていきたいなと思っているところです。以上です。

小田切氏:米津様ありがとうございました。国交省様でも計画の中に含めていくということを検討いただいてるということがわかったかと思います。では酒森町長に今後の必要なところ、課題等を含めてお話いただければと思います。お願いいたします。

酒森氏:はい。北海道スペースポートの整備計画ですが、最初の役割として今月着工しましたLC1の射場を計画通りに完成させることがまず最優先だなと思っています。先ほど説明させていただきましたが、3年間での総事業費23.2億円。その半分を企業の皆様からのふるさと納税で賄っていきたいという計画を持っています。昨年私どもは目標額を5億円として企業の皆様にふるさと納税でのご協力をお願いをして参りました。スペースコタン小田切社長を先頭に、1年間企業の皆様にご挨拶をさせていただき、目標額を上回る7億2,800万円の企業版ふるさと納税をいただき、また個人の皆様からもふるさと納税をいただいているところでありますが、今年度、来年度もさらにお願いをしていかなければならないという状況があります。

これからも多くの皆様のご支援を賜りながら、LC1射場、そして既存の1,000mの滑走路の300m延伸を進めていきたいと思っております。その後、2024年からはLC2の次の射場の整備を計画しているところです。私ども北海道スペースポートは、民間のロケットが複数のロケットを打ち上げられるみんなの射場を目指しています。今現在、もう既に、海外のロケットベンチャーからも北海道スペースポートでの打ち上げを実現すべく協議を進めているところでもあります。今後、最終的には3,000mの滑走路を整備していく計画もあります。この計画にはもちろん民間企業の皆様もご協力をいただきたいと思っておりますが、高額な事業費になるということも踏まえて、北海道、そして何よりも国の大きなお力添えをいただかないと、実現は無理だと思っておりますので、今後も国策としての取り組みをぜひお願いをしたいと思っているところです。

日本はこれから大変多くの衛星を打ち上げる必要があり、需要があります。今現在は、それを種子島で打ち上げられるロケットに相乗りをするか、それ以外は海外の射場で海外のロケットに打ち上げを委ねるしかない状況にあります。昨今の海外情勢を含めても、例えば、日本の衛星の2割がロシアのロケットから打ち上げが行われておりましたが、今現在はそれがままならない状況になっています。そういうことを考えれば、日本の衛星を日本の国内から打ち上げていく必要性があり、私ども北海道スペースポートの役割はそこにあると思っております。今後も多くの皆様とご協力をいただきながら取り組んでいく、そのことが日本の航空宇宙の大きな役割を担っていけるんではないかと、強い自負を持って取り組みを進めていきたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。

宇宙ビジネスが日本、北海道に与える影響とポテンシャルとは?

小田切氏:酒森町長、ありがとうございました。今日いろいろとお話を伺ってまいりましたが、宇宙のビジネスが、今後日本あるいは北海道を含めた地域にどういった影響を与えていくか、どういった影響を与えるポテンシャルがあるかというところを簡単に一言ずつお願いできればと思います。では石田様から順番にお願いしてもよろしいでしょうか。

石田氏:わかりました、ありがとうございます。北海道スペースポートを絶対成功させるというのは今の町長のお話であったと思いますし、北海道の皆さんも同じ思いだと思いますので、それ以外でひとつだけ言うと、先ほど人口減少というお話がありましたが、僕はチャンスだなと思っています。人口減少の問題は北海道だけではなく日本全体が抱えている問題で、共通的に起きているのが高度経済成長時代のときに張り巡らせたインフラの整備が日本全国で危なくなってきています。それだけではなく、森林管理、あるいは河川の管理、通信、いろんな意味でユニバーサルサービスを自治体や企業がやってきましたが、人口減少とともにそれが段々できなくなってきてると。僕は、これから日本は地上に投資をするんじゃなくて、空に投資をする、空のインフラに投資をする時代に変わっていかなきゃいけないんじゃないのかなと思っています。人口減少時代にも衛星データや衛星通信が使われることによって、より省人化されたインフラの整備や自動化された農業など、いろんなものが実現できるかなと思うので、北海道が空のインフラで地上の課題を解決する先進地域になっていただけると、日本全国にとって明るい未来に繋がると思います。

小田切氏:石田様ありがとうございました。続きまして、伊奈様お願いいたします。

伊奈氏:はい。私は経産省の製造産業局というところに所属していますが、他の課の人たちから「宇宙産業室はいいよな。失うものもないしとにかく前向きに戦っていけばいいんだな」と、よく言われます。その通りだなと思っていまして、宇宙産業はとにかく伸びていくということもありますし、日本の総力を発揮しないとなかなか戦えない領域だと思います。日本の宇宙ベンチャーが使っている技術は、実は自動車の技術だったり、電気電子の技術だったり、プラントエンジニアリングの技術であったり、日本が得意としてきたところをうまく組み合わせていくことがすごく必要になってきます。特に製造業全体に関係してくる話であるという意味では二次産業ですが、一方で石田さんがおっしゃったように、一次産業の方々をしっかり巻き込んで、皆さんの業務の高度化と省人化に貢献が出来なければ、その二次産業であるロケットと衛星産業も生き残れません。

加えて言うと、データの活用は、大樹町がまさにやられているように観光産業やサービス産業にも繋がっていくポテンシャルがありますので、一次産業、二次産業、三次産業と全体に関わってくる、かつ日本が総力を挙げて戦わなければいけない領域だと思います。

もう一言だけ、北海道からだとなかなか伝わらないと思いますが、霞が関の中で今宇宙は関係省庁の連携関係が非常によく、内閣府、総務省、文科省などを中心に、最近は農水省、林野庁、水産庁、海上保安庁、国交省など、かなりいろんな省庁と連携して事業を行うことが増えております。霞が関内は一体となってやっていこうという雰囲気がありますが、もう少し地域まで広げて皆さんとも一緒に、日本として一丸となって世界と戦っていけるといいかなと思っています。以上です。

小田切氏:ありがとうございました。では米津様、お願いいたします。

米津氏:はい。今の伊奈さんのお話とちょっと近いかもしれませんが、宇宙産業は決してロケットを打ち上げるということだけではなく、製造業しかり、観光業しかり、いろんな産業に繋がっていく可能性があると思っています。その先には当然雇用に繋がる話にもなりますので、まさに先ほど私がお話した生産空間をしっかり守っていくツールになる産業だと思っています。そういう意味では我々も、経産省さんみたいに直接的ということではないかもしれませんが、いろんな形で支援して宇宙ビジネスを盛り上げていきたいなというふうに思っております。はい、以上でございます。

小田切氏:ありがとうございます。では最後に酒森町長お願いいたします。

酒森氏:はい。北海道スペースポート、宇宙のまちづくりの取り組みについては、もう既に大樹町だけの取り組みではないと思っています。十勝でも収まらないんではないかとも思っており、これをオール北海道の取り組みとして拡大していく、道民の多くの皆様のご理解をいただきながら進めることこそが今求められていると思っております。北海道経済連合会と日本政策投資銀行が試算をしてくれています。北海道スペースポートが整備され、運用が開始されれば北海道における経済効果は年間267億円の経済効果がある。そして新たな雇用が2,300人うまれ、観光としても17万人の観光客を増加できるという試算がもう既になされています。これを実現すべく、多くの皆様とともに、大樹町はこれからも取り組みを進めていきたいと思っております。航空宇宙を目指す取り組み。きっとここにお越しの皆様も含めて反対される方はいらっしゃらないのではないでしょうか。当初は夢の取り組みでもありましたが、今は実現すべき、北海道にとって大きな大きなエンジンとなる取り組みであると思っておりますので、これからも皆様と共にしっかりと頑張っていきたいと思っております。よろしくお願いします。

小田切氏:酒森町長ありがとうございました。ちょっと時間が過ぎてですね、横のMCの方の視線が非常に厳しいんですけれども。せっかく今20個ぐらい皆様からご質問をいただいてますので、少しお答えをできればというふうに思っています。中でも多かったのがいわゆる省庁間の調整という点です。伊奈様、米津様からもお話ありましたけれども、実はロケットの打ち上げに当たって、約10の省庁と調整をする必要があります。それを今皆さんしっかりと調整されてやれてるというところです。その省庁調整の難しさについて質問がありました。

非常にスムースにいろいろとやっていただいてると思っています。先ほど、まさに言及されてましたけれども、もしかしたら私達よりも霞が関の皆さんの方が情報共有が早いのかなという感じもしています。私の方がキャッチアップしなきゃいけないなとたまに感じたりもしています。

ただ一方で、いわゆる許認可については日本の場合非常に厳しいものが過去からあるので、宇宙に限らずですが、かなり難しいのが現状です。今後国内のスタートアップの皆さんがもっと増えてきたり、あるいは将来海外から日本で打ち上げたいという方にとって日本の既存の法律や規制が障壁になってしまうということも考えられます。そこについてはぜひ今後も、皆様とご調整をさせていただいて。ちょうど今のセッションのメンバーはお願いする側の私達と、お願いを受けていただける霞ヶ関の方もいらっしゃいます。今日フロアには文科省の方にも来ていただいておりますし、内閣府の方にも来ていただいています。ぜひ今後とも調整をさせていただければと思っております。

では少し時間が過ぎてしまいましたけれども、こちらの方でSession1をクローズいたします。ご清聴ありがとうございました。

※本記事はカンファレンスでの発言を文字に起こしたものです。言い回し等編集の都合上変更している場合がございます。

連載「HOKKAIDO 2040」では、“2040年の世界に開かれた北海道(HOKKAIDO)”をテーマとして、大樹町を中心に盛り上がりを見せている宇宙産業関係者へインタビュー。宇宙利用によって変わる北海道の未来を広く発信します。連載記事一覧はこちらから。