山岸さん

お店ができるのは20年ぶり。過疎が進む町に大阪出身オーナーが開いたスパイスカレー店【岩見沢市・美流渡地区】

岩見沢市美流渡(みると)地区にあるカレーショップ「ばぐぅす屋」は、遠方から足を運ぶ人も多い人気店です。スパイスで作るカレーは、化学調味料をほとんど使わず、野菜と鶏ガラの旨味だけで作られています。

過疎化が進む町に約20年ぶりに飲食店を開いた山岸槙(やまぎし・こずえ)さんに話を伺いました。

子育てを機に料理に目覚める

大阪出身の山岸槙さんは、高校生のときに旅行で北海道を訪れました。陸別町で約1か月間にわたって農業体験を行い、そのときの楽しさから「いつか北海道に住めたらいいな」と考えていたそう。

高校卒業後はアパレル会社に勤めたり、バーテンとして働いたのち、バックパッカーとして数か国を訪れ、帰国から数年後に念願だった北海道への移住を果たしました。

「最初に移り住んだのは岩見沢市街地でした。独身時代は料理に関心はありませんでしたが、子どもができてからは食事を作ることが多くなり、料理の楽しさを覚え始めました」と山岸さん。

知人の誘いで市内の居酒屋で働くことになり、さらに料理に目覚めます。

「魚と無国籍料理がメインのお店で、店主が一人で切り盛りしていました。私は調理にはたずさわりませんでしたが、“こんなふうに作るんや~”って興味を持って眺めていました」

20年ぶりに美流渡地区に飲食店がオープン

「料理が好き」という気持ちが抑えられず、ついには「自分の店を持ちたい」と思うようになります。居酒屋に2年間勤務して調理師の資格を取得。スパイスにも興味を持ち、独学で組み合わせを試していました。

「これまでスープカレーを食べ歩いていたので、自分の店を出すならカレー屋だと決めていました。ただし、スープカレーだけではバリエーションが限られるので、スパイスを使ったカレーも出すつもりでした」

岩見沢近郊で物件を探していたところ、美流渡地区の元居酒屋が売り出されていたことを知ります。元オーナーから「地域のために使ってくれるなら!」と格安で譲り受け、5か月間かけて自ら改装。2018年に「ばぐぅす屋」がオープンしました。

半径100キロ以内は近所!? 山岸さんの戦略

美流渡地区は、かつて炭鉱輸送の要所でした。昭和30年台には人口がピークを迎えましたが、炭鉱が閉山すると、人影は消え、閑散とした街だけが残りました。

過疎化が著しい美流渡地区での新規開業は約20年ぶりのこと。山岸さんは、人口わずか400人の集落で飲食店を開業することに「不安を感じていなかった」といいます。

「関西出身の私にとって、北海道の“ちょっと”は“かなり遠く”。この距離感覚なら札幌圏からも近いと感じてくれると思いました」

その狙いは的中。「ばぐぅす屋」でカレーを食べることを目的にした人たちが車やバイクで訪れるようになりました。

筆者がこの日にいただいたのは、インドで定番のムングダールとチキンカレーのあいがけプレート。カレー作りはすべて独学なので、ここでしか味わえないメニューばかりです。山岸さんの家庭菜園で収穫された野菜もふんだんに使われています。

「インドやパキスタンなどのカレーや、好きなスパイスを使ってオリジナルカレーを作っています。オープン当時は地元の方々にも来店してもらいたくて、定食も提供していました。新聞にも紹介され、かつて美流渡に住んでいた方々がたくさん来てくれました」

現在のメニューはスープカレーとルーカレー、スイーツなどのサイドメニューのみ。どこにも定食は見当たりません。

「定食は仕込みが大変で、オープン3か月くらいで辞めてしまいました。今でもそれを求めて来店するお客様もいるので、そのつど平謝りしています」

「ばぐぅす」の名の通り、すてきで最高な店

美流渡地区は昔からの住民が流出する一方で、環境の良さから芸術家の移住が増えています。山岸さんもオーストラリアのアボリジニの楽器“ディジュリドゥ”を演奏したり、クラブでライブ活動を行っていたこともあります。地域に移り住んだアーティストとの交流もあり、店の前には絵本作家として名高いMAYA MAXXさんが寄贈してくれたという看板が掲げられていました。

「ばぐぅす」はインドネシア語で「最高」や「すてき」という意味。山岸さんがアジアをまわっていたときにこの言葉を知り、真っ先に店名にしたいと考えたそうです。

 

「ばぐぅす屋」は店名の通り、美味しいカレーと楽しい会話を提供してくれるお店です。包丁研ぎも行っていますので、ぜひ訪れてみてください。

<店舗情報>
■ばぐぅす屋
■住所:北海道岩見沢市栗沢町美流渡本町23-1
⇒営業時間など詳細はこちら

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