認定NPO法人Kacotam・髙橋勇造

認定NPO法人Kacotam・髙橋勇造。「子どもたちにとっての安全基地」学習支援から挑戦できる環境づくりへ

2022.05.31

我々が愛する北海道。魅力がたくさんある土地ではありますが、北海道における“子どもの貧困”は全国と比較して深刻であることはご存知でしょうか? 全国的に子どもの貧困対策について取り組みが進んでいますが、地域による取り組みの格差が生じている現状があります。

今回お話を伺ったのは、そんな子どもの貧困という課題の現場に向き合っている、認定NPO法人Kacotam(カコタム)理事長の高橋勇造さん。札幌を中心に貧困などの状況下にいる子どもたちの学びの機会の不平等を是正すべく学習支援を続けています。

“学びの機会の不平等”といわれてもピンとこないかもしれませんが、ひとり親世帯とふたり親世帯を比較すると、学習塾や習い事などの機会の格差や大学進学率の格差が見えてきます。さらには、北海道のひとり親世帯の子どもは全国よりもさらに学びの機会が得られにくい現状があるそう。

そんな環境によって得られる学びに差が生まれることに課題を感じたという髙橋さんに、NPO法人立ち上げの経緯や今後の展望を伺いました。

髙橋勇造(たかはし・ゆうぞう)。札幌市出身。大学時代は東京で過ごし、大学院進学のため札幌へ戻る。2011年、児童養護施設「興正学園」にて学習ボランティアを始める。翌年、任意団体「Kacotam」を設立。2014年にNPO法人格を取得。2022年に設立10周年を迎える。

きっかけは家庭教師のアルバイトだった

認定NPO法人Kacotam・髙橋勇造さん 取材時

今回の取材はオンラインで行いました

北海道LikersライターFujie:今年で設立10周年となる、認定NPO法人Kacotam(以下、カコタム)ですが、子どもへの学習支援団体を設立するに至ったきっかけは何だったのでしょうか。

髙橋さん:最初のきっかけは大学院生のときにした家庭教師のアルバイトです。そこでの子どもとのかかわりがすごく楽しくて、今思えばそれが一番はじめなんだと思います。

アルバイトをするうちに社会課題に興味を持ちはじめ、子どもの貧困や虐待といった問題に関心を持つようになりました。そうした子たちの現状を知れば知るほど、なかなか厳しい状況だというのが見えてきました。とくに学習面では機会さえ満足に得られていない。そんな状況では、その子たちは自己実現に挑戦することさえままならない。それはおかしいんじゃないかなと思ったんです。

北海道LikersライターFujie:なるほど、家庭教師のアルバイトがきっかけで問題意識を持たれたと。

髙橋さん:はい。それに加えて、自分が大学3年生のころ社会起業家というのをよく耳にするようになったんですね。そんななか、社会起業家について書かれた本『チェンジメーカー~社会起業家が世の中を変える』(渡邉奈々著)を読んだりしていて、自分も何かをしていきたいという想いが漠然と湧き上がっていたんだと思います。大学院生の時に、北海道の社会起業家を一般市民に知ってもらおうというイベントに携わり、より一層その気持ちが膨らんだこともきっかけですね。

北海道LikersライターFujie:なんとなく抱いていた想いががっちりとはまった感じですね。最初はどのような形ではじめられたのですか?

高橋さん:札幌で大学院を修了し、その後一般企業に入社するのと同時に、児童養護施設の子どもたちと学習を通して関わるボランティアをはじめました。それから1年以内には、一人で団体を立ち上げました。最初は任意団体という形で、約2年ほど続けました。

子どもの声を聞いてきた

北海道LikersライターFujie:カコタムではどういった活動をされているのでしょうか?

髙橋さん:カコタムは全ての子どもたちが学びの機会に出会って、またそこから自分のありたい姿、自己実現に向けて挑戦できる社会を目指しています。主に3つの事業を行っています。

1つ目は“学び支援”です。直接子どもと関わるメイン事業。2つ目は「学びの場をつくりたい」という他団体のサポートを行うコンサルティング事業。3つ目は、アドボカシー(※)です。講演会や学習会を通して子どもたちの現状を発信しています。

※アドボカシー・・・「擁護」「代弁」「支持」などの意味を持つ言葉。社会・政治・経済などへの課題に対し、解決のために声をあげ、解決のためにできることを訴えていくこと

さらに、メイン事業である“学び支援”は、学習に取り組める環境づくり・視野が広がる環境づくり・つながりができる環境づくりの3つに分けられています。

お仕事見学 認定NPO法人Kacotam

将来就きたい職業、興味のある職業についている社会人に話を聞きに行く『お仕事カコタム』。将来の職業について、働くことについて考えるきっかけをつくります 出典: 認定NPO法人Kacotam

“学習に取り組める環境づくり”は、主に5教科の学習を通してかかわる活動。“視野が広がる環境づくり”は、子どもたちの興味があるものに基づいていろんな学びの機会を提供する活動。最後に、“つながりができる環境づくり”は、我々メンバーやさまざまな大人、同世代の子どもたち同士がつながれる場の提供です。

北海道LikersライターFujie:いろいろと分かれているのですね。最初からこのような形だったのでしょうか?

認定NPO法人Kacotam 学ボラ

児童福祉施設に訪問して学習支援を行う『学ボラ』 出典: 認定NPO法人Kacotam

高橋さん:いえ、最初からこうなっていたわけではありません。まずは、一人親家庭や生活保護世帯の子どもたちを対象にした『スタサポ』という学習支援と、児童養護施設や母子生活支援施設といった児童福祉施設に訪問して行う『学ボラ』という学習支援の2つが主な活動でした。ただ、子どもたちとかかわっていくうちに、幅を広げたほうがいいのではと思うようになったんです。

たとえば、将来何がやりたいのかよくわからないという子には、学習支援だけではなく興味のある職業に就いてる人にお話を聞きに行けるようサポートしたほうがいい。あるいは学習支援をしていくなかで、学習を通してのかかわりじゃない方がその子の良さが発揮できるなという子がいたり、なかには家に帰りたくないという子もいたりします。

ゆるきち 認定NPO法人Kacotam

中高生の居場所『ゆるきち』 出典: 認定NPO法人Kacotam

そういった子たちには、もう少し自由度が高い場が必要だと思い、中高生のオープンスペース『ゆるきち』が生まれました。

北海道LikersライターFujie:なるほど。最初から全体像があって計画的に進めてきたわけではなく、子どもたち一人ひとりのニーズを活動に落とし込んでこられたのですね。

髙橋さん:最初は学力や社会性を身につけてもらいたいという想いがあったんですが、今はもうないですね。活動を通して自分自身が変わったことのひとつです。

学力うんぬんよりも、今は子どもたちのあるべき姿を定めないということを大切にしています。勉強の道もあれば、勉強じゃない道もある。一本道ではなくてそれぞれの道があるんです。

認定NPO法人Kacotam・髙橋勇造さん

子どもたちの「大きい折り紙で巨大折り鶴を折りたい」という願望を形にしたことも 出典: 認定NPO法人Kacotam

子どもと関わっていくと、自分の子どもにせよ周りの子どもにせよ、どうしても課題に意識が向きがちになって、事前にリスクを減らそうとか、何かあったら困るからとか、いろいろ制限をかけたくなってしまう。そうではなくて、そのチャレンジする機会をつくれば子どもは自然にチャレンジしていくと思うんですよね。そういったチャレンジを止めずに、一人ひとりが自分の道を歩んでいけるようにサポートをしていく。それが我々の使命です。

これからも北のフロンティアで環境をつくる

北海道LikersライターFujie:この10年間で社会全体、とりわけ北海道の社会の変化について何か気づいた点はありますか?

髙橋さん:そうですね、社会全体としては「子どもの貧困対策大綱」ができ、生活困窮者自立支援法という法律に基づいて学習支援が行われるようになりました。そのおかげで、いろんな地域で学習支援が行われるようになってきたのが大きな変化です。さらに、給付型の奨学金がすごく増えたことも大きいですね。大学進学の費用面でのハードルが少し下がったのは喜ばしい変化です。ようやく法律が追いついてきたという実感があります。

北海道に関しては、拠点型の『こども食堂』や学習支援、それ以外にも居場所づくりをしている団体が少しずつ増えてきたのが一番大きい変化かなと思いますね。

北海道LikersライターFujie:法律もようやくという感じなのですね。北海道でも環境が整ってきたとのことですが、これまで北海道を中心に活動してきたカコタムとしては、今後どのような展開を目指して行くのでしょうか?

認定NPO法人Kacotam 表彰式

令和3年度「未来をつくる若者・オブ・ザ・イヤー」表彰式にて 出典: 認定NPO法人Kacotam

髙橋さん:そうですね。今は道央圏に活動エリアが集中しているので、今後は北海道全域で活動していきたいです。各地域に支部をつくって、そこからメンバーが近隣の施設に訪問して学習支援をしていけるような仕組みを考えています。やっぱり北海道内でも地域の格差を感じます。まだまだ社会資源が有効活用されていない現状がありますから、教育の面からそこに挑んでいきたいですね。

また、今後10年のうちに虐待や貧困とは別の社会課題から学びの機会を得にくい子どもたちに対してアプローチしていきたいと思っています。今は拠点に来てもらう形で活動していますが、アクセス面などでアプローチできない子どもたちも当然います。こちらから自宅に訪問するなど、子どものニーズにさらに寄り添ってサポートをしていきたいです。

北海道LikersライターFujie:ありがとうございます。最後に高橋さんにとって北海道とは。

髙橋さん:(長い沈黙の後)そうですね、戻ってきたくなる場所であり、もっとこうしたらいいのになと思える場所です。

 

―――一つひとつの言葉をじっくりと選ぶ姿が印象的でした。一歩一歩着実に歩んできたその道程は、これからも末永く続いていくことでしょう。

【参考】北海道子どもの貧困対策推進計画の概要 / 北海道

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