藤澤義博さん

株式会社シーラクンス代表・藤澤義博。デジタル教育で 「だれもが学び続けられる」北海道に

株式会社シーラクンスは、北海道と世界を“教育”と“テクノロジー”で繋ぐべく、デジタルスクール『D-SCHOOL 北海道(ディー・スクール)』を運営する、サツドラホールディングス株式会社のグループ会社です。今年10月にはデジタルハリウッド株式会社とともに、地域をリードする起業家やエンジニアを養成する『G’s ACADEMY UNIT_SAPPORO(ジーズアカデミーユニットサッポロ)』の運営も開始。そんな、株式会社シーラクンスの代表は、航空会社で約25年勤めたのち、起業した藤澤義博さん。社会人となってからも日本語教師の資格をはじめとする様々な資格の取得や留学、大学入学と学ぶことを辞めない藤澤さんが思う北海道の可能性とは。

藤澤義博(ふじさわ・よしひろ)。株式会社シーラクンス代表取締役社長。1969年生まれ。北海道育ち。公立はこだて未来大学大学院 システム情報科学研究科 博士(後期)課程在学中。札幌学院大学大学院 地域社会マネジメント研究科 修了(修士)。日本語教師。函館稜北高校卒業後、米国へ留学。帰国後、航空会社へ入社し、成田空港勤務を皮切りに貨物・旅行業務に従事。2008年北海道観光振興機構へ出向し、北海道の観光振興に携わる。その後、航空会社へ復帰し、北海道地区広報宣伝、販促企画やマイレージ事業などに従事。2018年10月サツドラホールディングス株式会社へ入社し、現在に至る。「アップデート、自分」をモットーに常に挑戦し、学び続けている。

航空会社勤務時代に痛感したデジタル教育の格差

北海道Likers編集部:約25年間航空会社に勤めておられましたが、退職して起業した背景にはどんなきっかけがあったのでしょうか。

取材の様子

今回の取材はオンラインで行いました。

藤澤さん:航空会社勤務時に様々な職種を経験しましたが、その中でも最後に就いたマイレージカードやクレジットカードなどを扱う仕事の中で、社会の変化を痛感したことが大きいです。仕事を通じて、私たちが普段使っているアプリやSNSなどはほとんどメイドインジャパンのものはなく、アメリカのシリコンバレーで生まれたサービスばかりだと気づきました。その差は、新しいプロダクトを”考えられる力”、いわゆる“デザイン思考”があるかないか。そこで自分も今から5年前に“デザイン思考”を学ぶべく、スタンフォード大学にある、世界トップのイノベーション・センターであるハッソ・プラットナー・デザイン研究所、通称d.schoolを訪問したことがきっかけです。

留学先のスタンフォード大学

視察研修先のスタンフォード大学

そこで感じたのは、デジタル環境と教育環境の“格差”。日本とアメリカでこんなにも差があるなら、当然地方である北海道はもっと差が広いはずだと感じました。

北海道Likers編集部:北海道のデジタル教育に注目したのはなぜでしょうか。

小学校から高校まで北海道で生活し、社会人となってから約25年の勤務のうち15年くらいは北海道で勤務していました。また、前職では、2008年に北海道観光振興機構へ出向し、3年間北海道の観光政策を担当させてもらった経験があります。もともと僕は地域政策やまちづくりの研究が専門分野だったので、仕事をしながらその分野の研究も続けていました。

北海道の可能性は、そういった仕事や研究を通してすごく感じていました。でも、なぜか北海道は人口減少はじめ、様々な課題を抱え、今では課題最先端地域とまで言われるようになっています。これまで、豊富な資源を有する北海道を活性化させようと、観光をはじめ、6次産業化など様々な視点で北海道を活性化しようと模索していく中で、たどり着いたのが“教育”だったんです。

北海道の可能性を潰さないために

北海道Likers編集部:『D-SCHOOL 北海道』はどんな想いで立ち上げたのでしょうか。

藤澤さん:2010年辺りから教育のデジタル化が国際的に進みましたが、日本は間に合わなかった。2018年に文部科学省が発表した“日本のプログラミング教育の準備状況”では、北海道がワーストワン。ここで北海道の可能性を潰したくないと思ったんです。

北海道Likers編集部:運営されているデジタルスクール『D-SCHOOL 北海道』では、子どもたちにプログラミング教育を行われています。どんなことを目指しているのでしょうか。

藤澤さん:『D-SCHOOL 北海道』では、これからのグローバル社会の中で活躍するために必要なスキルと言われている21世紀型スキルを身に着けることや、子どもたちが持つ無限の可性を引き出し伸ばすことを目的とした教育を行っています。主にICTリテラシーや創造力、デザイン思考、論理的思考力、批判的思考力、問題解決力、プレゼンテーションスキル、言語力などです。

プログラミング教育は今年度から小学校で必修化となり、来年度には中学校、再来年には高校でも必修化となるため、これからの全ての子どもたちがやらざるを得ない基礎教養となります。しかし今はまだ、先生も親もどうしたらいいのかわからないのが現状です。そういった課題を解決することも『D-SCHOOL 北海道』で補っていきたいと考えています。

北海道Likers編集部:『D-SCHOOL 北海道』に通う子どもたちにはどんな変化がありますか。

「学校ではこんなに熱心じゃないのに!」と驚く親御さんがいるくらいに、子どもたちは楽しんで学んでいます。『D-SCHOOL 北海道』では、間違ったら褒めるんです。なぜなら、プログラミングは覚える学習ではないからです。とにかく、トライ&エラーを繰り返しながらやってみるということが大切になりますので、やってみて間違いに気づくことで理想に最短で近づけるという学習のため、褒めることしかしません。

また、無学年式を導入し、子どもの発達段階に応じた成長をサポートしていくことや、子どもたちが自分に合うように自由に学べる個別最適な学習指導を取り入れています。スクールでは、定期的に自分のつくった作品をお友達や保護者の方々にプレゼンをする機会もあり、自分に自信が持てるようになったりと心の変化が感じられます。子どもたちは皆、可能性に満ち溢れていますよ。

やりたいことに挑戦するのに限界はない

北海道Likers編集部:今後はどのようなことに挑戦していきたいですか。

藤澤さん:僕の夢は、今手がけているこの仕事が早く公教育の一部となり、僕は次の挑戦を始めることです。なぜなら、本来は学校で全ての子どもたちにやってほしいことをしているからです。余裕がある人だけが塾に行き、いろいろな挑戦ができる状況では、どうしても格差を生んでしまいます。理想は義務教育課程の学校教育の中で格差を生まず、みんな同じことができることですね。

今後は、テクノロジーをキーワードに活用しながら、それぞれの発達段階に応じて学び、成長していく場づくりをしていきたいです。今、テクノロジーの進化によって、あらゆるものを取り巻く環境が複雑さを増し、将来の予測が困難な状況にあると呼ばれています。安定した未来なんてものはありません。社会は常に変化しています。いくつになっても自分がやりたいと思うことが重要で、それを実現できる環境が必要なんです。東京でできることは北海道でもできなきゃいけない。子どもに学ぶ機会があるなら、大人が学べる環境も必要です。歳をとったって人には無限の可能性がありますから、死ぬまで活躍できる選択肢があってもいいんです。学びたい、挑戦したいと思ったらうちに来てほしいですね。

北海道Likers編集部:たびたび北海道の可能性のお話がありましたが、藤澤さんにとって北海道はどんな存在ですか?

藤澤さん:僕を成長させてくれる場ですね。人も環境も含めて、いろんな気づきを与えてくれます。とても大好きです。

ちなみに僕は世界の中から見ても北海道がやっぱり一番魅力的で重要な地域だと思っています。4シーズン、春夏秋冬のバランスが一番良い地域が北海道で。だから、食べ物も美味しいし自然も豊か。人間が住み暮らすにあたって、こんなに自然と融合できる地域は他にありません。すごく恵まれている大地なんです。北海道の可能性を生かしていける社会をつくっていきたいですね。

 

―――「北海道は今まで観光や食、街づくりをやってきましたけど、最後は住み暮らす人の“学び足し”をしなくてはならない」今までの経験や知識を否定して学び直すのではなく、新しい時代に向けて、年齢にかかわらず新しいものを学んで取り入れていく“学び足し”。聞きなれない言葉でしたが、過去を受け止め、未来の可能性を広げていく想いが感じられました。藤澤さんの勢いは留まることを知りません。

【画像】Anesthesia / PIXTA(ピクスタ)