花輪食品

SNSで広がった「懐かしい昭和の自販機」なぜ美瑛町に?地域活性への想い

2022.03.15

昭和の時代には、道路沿いに道の駅やコンビニエンスストアがなく、ドライブや遠出の際は“ドライブイン”を利用していました。ドライブインには、飲み物以外に食品の自動販売機もありました。なかには、そばやうどん、ハンバーガーやカップ麺など温かなメニューを販売しているものも。

道の駅やコンビニエンスストアが増え、すっかり姿を消してしまった、ドライブインやホットフードの自動販売機。使われなくなった自動販売機が、今でも取り壊されることなく残っている地域もあります。

ところが近年、この懐かしい自動販売機を再生し、全国各地で設置するお店が増えてきたといいます。懐かしいレトロな自動販売機は、当時の思い出を胸に訪れる人が多く、賑わいをみせているとか。

北海道・美瑛町の食料品スーパー『花輪食品店』にも2021年12月、“そば・うどん自動販売機”がオープンしました。自動販売機はなぜ美瑛町のスーパーに? 『花輪食品店』の3代目・花輪紀宏(はなわのりひろ)さんにお話を聞きました。

自販機の導入は地域の活性化も視野に!5年前から計画

「昭和生まれの人ならきっとこの自動販売機を見たことがあるのではないでしょうか」そう語りだしたのは、美瑛町にある『花輪食品店』の三代目・花輪紀宏さん。

『花輪食品店』は美瑛町の駅前にあるスーパーで、生鮮食品やお酒、日用品、お惣菜などを販売しているお店です。花輪さんのお仕事は、配達や仕入れなど。叔父さん・叔母さんと共にお店を経営しているといいます。

なぜ、そば・うどん自動販売機の導入にいたったのでしょうか。

「もともとレトロな自動販売機には興味があり、いつか店頭に置きたいと思っていました。また、美瑛町は観光地でありながら、中心部に遅くまでオープンしている食事処がありません。さらに、美瑛町は小麦の産地でもあり、おいしい手打ちうどんがあるんです。“スキー客や観光客にいつでも温かな食べ物を提供したい”という想いと、レトロな自販機への興味から、導入を決意しました」

まずは、自動販売機を探すところからスタート。協力してくれたのは、神奈川県・相模原市の中古タイヤショップの社長である齊藤辰洋さんだったのだとか。齊藤社長が経営する『中古タイヤ市場 相模原店』は、広大な駐車場にレトロな自動販売機がずらりと並び「レトロ自販機の聖地」として注目を集めているんです。

花輪さんは齊藤社長との出会いをきっかけに、古い機械を美瑛町まで運搬し、使えるように修理。美瑛町に運搬した後も、齊藤社長は修理のため無償で来道してくださったそうです。

自動販売機の導入には、クラウドファンディングや自治体の補助金も利用しました。

「地元民や観光客、そして学生さんにいつでも温かな食事を美瑛町で楽しんでほしい」という花輪さんの強い決意と情熱が周囲の人を引き寄せ、実現へとつながったのです。

1杯350円だからこそ、おいしいものを提供!感動がなければ後に続かない

筆者も実際にいただきました。『天ぷらそば』『天ぷらうどん』どちらも350円です。天ぷらは容器の底にありますよ。

できあがりまでにかかる時間は、たったの25秒。自動販売機にはカウントダウンの時間が表示され、驚きの速さで熱々の『天ぷらうどん』が完成しました。

実際にいただいてみましたが、とても350円とは思えないおいしさです。もちもちした食感のうどん、新鮮で油の匂いがまったくしない野菜天、深く複雑な風味を感じる手作りのお出汁。量もたっぷりボリューミーです。

思わず、「350円でいいんですか?」と尋ねると「350円だからこそ、このおいしさを提供したいんです。食べ物はおいしくなくてはいけませんから」と安さへのこだわりが。「地元のおいしい食材を、おいしい状態で、しかもリーズナブルに食べていただくことがいちばん大切」と語ります。

「『350円でいいの?』と感動するおいしさがあるから多くの方に喜んでいただけていると思っています。『350円の味だったね……』とがっかりさせてしまえば、話題だからと来ていただいても一度きりのご来店で終わってしまうでしょう?」美瑛町民にも観光客の方にも、何度も足を運んでいただきたい、そんな強い想いを感じました。

「また、むかしは、小中学生がこっそり買い食いをしたものです。今の子はコンビニがありますね。ですが、『花輪商店に行けば350円でおなかいっぱい温かなうどんやそばを食べられる!みんなで行ってみよう!』といった、子どもたちの地元らしい文化も復活してくれたらなぁとも思いますね」

ご縁に感謝し、地に足をつけていきたい

美瑛町に昭和レトロなそば・うどん自販機があることは、SNSや口コミで広がり、今やテレビ局をはじめとする多くのマスコミが取材にくるほど、大きな話題となっています。そのため、週末はお店の前にお客さんの行列ができるのだとか。

「自動販売機の稼働は、実際の想像以上です。24時間営業なので、機械にトラブルがあった場合は自分の携帯電話にご連絡をいただくようお知らせをしているのですが、ありがたいことに休む時間がないほどです」

そば・うどん自販機のために建てられた小さなスペースには、来店し味わった方が想いや感想を記すノートが置いてありました。なかには「また来ます!」「やっと食べられました」「久しぶりに食べて感動しました」など、そば・うどん自販機の復活を喜ぶ声がたくさん。美瑛町や近隣の町からはもちろん、遠別町や協和町など遠方から訪れる方も少なくないとか。道外から来たお客さんのコメントもありました。

「自動販売機を譲ってくださった方、修理してくださった方、SNSでつながってくださった方、そしてお越しくださるお客様、すべてのご縁に感謝しています。これからは、もしも見つかればもう1台レトロな自販機の導入も検討しています」

 

おいしいものをリーズナブルに、昔を懐かしんで楽しい気持ちに、そして地域の活性化や子どもたちの楽しみまで、さまざまな想いを巡らせて、自動販売機を稼働している花輪さん。美瑛といえば、青い池が有名ですが、『花輪食品店』もすでに話題のスポットとなっているようです。

<店舗情報>
■店舗名:花輪食品店
■住所:上川郡美瑛町栄町1丁目6−20
■電話番号:0166-92-1842
■営業時間:そば・うどん自動販売機は24時間営業、花輪食品店は9~19時
■定休日:そば・うどん自動販売機は無休・不定休、花輪食品店は日曜
■駐車場:あり