ARAMAKI村上智彦・鹿川慎也。鮭箱の可能性を見出す「かっこいい」ものづくり
鮭箱を使い、家具や楽器、空間をつくる『ARAMAKI』は、宮大工の村上さんとギター職人の鹿川さんからなるユニット。
身近にある鮭箱という素材に価値を見出し、新たな命を吹き込んでいます。鮭箱を使ったものづくりをはじめた理由と、今後挑戦したいことを聞きました。
村上智彦(むらかみ・ともひこ)。1978年生まれ。北海道恵庭市出身。『Gen & Co.』代表。札幌市立高等専門学校インダストリアルデザイン学科建築デザインコース卒業。関西を中心に社寺建築の世界に携わり、2012年から拠点を恵庭市に移し、社寺建築の伝統的な技術と知識、デザインを軸に大工、建築家、デザイナーという立場を行き来しながら幅広く活動している。
鹿川慎也(しかがわ・しんや)。1987年生まれ。北海道恵庭市出身。『Shikagawa Musical Instruments』代表。ギターメーカーESP、Navigatorブランドの木工、塗装を担当。1,000本以上の楽器づくりに関わる。その後、母校であるESPエンタテインメント東京でギタークラフト科の講師として3年間勤務。2015年から恵庭市にて、ギターとベースを中心に楽器の製作と修理を行っている。
「かっこいい」から始まった
北海道Likers編集部:宮大工とギター職人。専門の異なるお2人が鮭箱という素材を使ったプロジェクトユニット『ARAMAKI』を一緒にはじめることになったきっかけを教えてください。
鹿川さん:僕は2015年に恵庭にUターンしてきました。そのときすでに村上さんが鮭箱でいろんな作品をつくられていたんですが、ドクターバッグをモチーフにしたバックがすごくかっこよくて。僕も何かつくりたいと思って始めたのがきっかけです。
最初はお互いが個人的に欲しいものをつくって自慢し合っていたんです。2016年に東京で展示会をやることになったことを契機にユニット名を『ARAMAKI』にすることに。なので最初から2人で「やろうぜ!」と始めたわけではないんです。
北海道Likers編集部:村上さんはいつから鮭箱でものづくりをしていたのですか?
村上さん:2012年に恵庭に戻ってきたときからですね。北海道に戻ってきて、道が広いとか、空気がキレイとか、そういうことと同じで、見慣れていたものをすごいな、かっこいいなと感じたんです。鮭箱もその中のひとつでした。
僕が勝手に1人でカバンや家具をつくって、勝手に木箱製作会社を訪ねようとしていたときに、鹿川君がウクレレをつくってきたので「一緒に行くか?」と。それから2人で釧路に行くようになりました。
自分たちがやりたいことを一生懸命やる
北海道Likers編集部:お2人で作品をつくるようになってから変わったことはありますか?
鹿川さん:村上さんは大工さんだから空間をつくることができます。イベントやライブを主催したときに空間そのものをつくり上げるのは僕1人ではできないことです。
北海道Likers編集部:展示会のほかにも『シャケサミット』など、さまざまな場づくりをされています。人と人のつながりを大切にされているとことのでしたが、場づくりを通してどのようなつながりを生み出そうとしているのでしょうか。
村上さん:自分たちがやりたいことを一生懸命にやっているだけですね。
鹿川さん:そうですね。自分たちがどうやったら一番楽しいかを考えています。だから見ていても面白いんじゃないですかね。『シャケサミット』も「ライブやりたいっす。鮭の料理を食いながら新作自慢したいっす」みたいな雑談から生まれましたから。
どちらかというと、誰かとつながりをつくりたいと狙ってやっているわけではなくて、できたつながりを大切にしていきたいと思ってやっています。
村上さん:『シャケサミット』は、報告会であり感謝祭なんです。鮭箱を使ってものづくりをする過程で出会った方を呼んで。木箱製作会社の社長が釧路から泊りがけで来てくれたり、鮭ラーメン店のマスターご夫妻にラーメンを出してもらったり。お世話になった方々と一緒に楽しんでいます。
神社、ギター…次につくりたいものは?
北海道Likers編集部:これまでたくさんの作品をつくっていらっしゃいますが、特に思い入れのある作品はありますか?
村上さん:神社と鳥居ですね。
北海道Likers編集部:鮭箱で神社と鳥居をつくったんですか!?
村上さん:1ヵ月半くらいかかりました。最後は徹夜で。まだホームページには載せていませんが、昨年末の展示会や函館の蔦屋書店でも展示しましたよ。
鹿川さん:僕は3年越しの想いでやっとつくることができた『シャケレレ®︎カスタム』ですかね。自分で考えて、自分でつくっているんですけど本当に大変でした(笑)
北海道Likers:今後つくりたいものや挑戦したいことはありますか?
鹿川さん:僕は新しい楽器をつくりたいです。去年の冬に展示をやったときに、会場の空調により楽器がことごとくダメージを受けてしまって。
展示会場や楽器屋さんで放ったらかしにされても強い、乾燥や外気に負けないことはないけど、影響を受けても楽器として成り立つような新しい構造のギターをつくりたいんです。なおかつ鮭箱の原料であるトドマツの木のいいところが出るような。頭の中ではできています。強くてかっこいいギターです。
村上さん:たくさんありますよ。生活している空間に常に鮭箱があるから、ふとした瞬間に思いついてはメモしてという感じです。
直近ではサウナですね。『シャケサウナ』。ツリーハウスのときのような感じで、廃材と鮭箱を組み合わせてつくろうと思っています。僕自身も日本とフィンランドのサウナの違いを勉強しましたし、設計はフィンランドのサウナを設計していた友人がしてくれました。年内には完成させなくてはと思っています。
―――最後に地元への想いは?と聞くと「魅力的な素材として鮭箱が目に留まって、調べていったら北海道のものだということがわかっただけで。地元のためにやっているわけではなく、ただ鮭箱がかっこいいからつくっているんです。鮭箱を通して出会った人たちの顔を思い浮かべてつくることはあるけど。ただ、そのかっこいいが北海道の鮭を広めるきっかけになれば嬉しいです」『シャケサミット』には東京から足を運ぶ方もいるそう。“かっこいいものをつくりたい”その純粋な想いこそ、人の心を動かし、惹きつけるのだと感じました。
画像提供:ARAMAKI