美深町観光協会事務局長・小栗卓。本格アウトドア体験から伝えたい道北の魅力
『BASIS(ベイシス)』は、2016年に始まった、道北の文化創造プロジェクト。道北の生活と流れる時間を体感できる本格的なアウトドアプロジェクトをつくり上げるのは、美深町観光協会事務局長の小栗卓さんです。「道北でしか感じることのできない本質的なアウトドアをアウトドアファンに発信したい」そんな思いから数々のイベントを実施しています。
過ぎゆく時間と共に感じられる自然の魅力と本格的なアウトドア体験から小栗さんがつくりたい道北の未来とは。
小栗卓(おぐり・すぐる)。1979年生まれ。北海道美深町出身。札幌や東京で一般企業に勤務し、その後、美深町へUターン。2010年より、美深町観光協会にジョイン、後に事務局長に就任。道北文化創造プロジェクト『BASIS』のプロジェクトリーダーを務める。
道北の代名詞をつくる
北海道Likers編集部:大学卒業後、東京で2年、札幌で6年ほど働かれて、美深町にUターンされています。きっかけを教えてください。
小栗さん:漠然といつかは戻りたいと思っていました。東京で働いているとき、美深町と聞いて分かる人がほとんどいなくて。とてもいいところだから「もっと知ってもらう方法はないのかな?」と感じていたんです。
10年ほど前に結婚を機にUターン。たまたま観光協会の仕事を紹介していただいたことがきっかけとなり、今の活動を行っています。
北海道Likers編集部:現在は、道北文化創造プロジェクト『BASIS』を主催されていますが、どういったプロジェクトなのでしょうか。
小栗さん:『BASIS』は、アウトドアをきっかけとした道北文化の創造プロジェクトです。
道北は自然がとても魅力的な場所なのに、「道北といえば」と聞かれて自然がイメージされないと感じたのがきっかけで。観光プロモーションの一環として、「道北といえばこういうイメージ」となるようなブランディングをしたいと思って立ち上げた事業です。
道北は、時間が過ぎるにつれて自然の魅力をじわじわと感じられる場所。道北の自然とこの土地に根付いた文化的なものを掛け合わせてつくったのが、文化創造プロジェクト『BASIS』です。『BASIS』では、道北の自然と文化を体感し、魅力を肌で感じられるアウトドアイベントを実施しています。
全部地元の人たちの力をあわせてつくっているので、その方たちの生活スタイルを見るだけでこの土地を感じられる部分があると思います。“道北に流れる時間”を多くの方に道北の魅力をわかってもらい、「道北といえばアウトドア」と思ってもらえるようにしていきたいですね。
日本のアラスカ・道北
北海道Likers編集部:『BASIS』の魅力はなんでしょうか。
小栗さん:道北には、高い山があるわけでも、知床のような雄大な自然があるわけでもありません。でも、“広がり”と“奥行き”があります。
普通は高い山に登るとだんだん気温が下がったり、雪が降ったりという変化がありますが、ここは時間と季節が過ぎることによって奥行きが出てくるんです。その場所だけを切り取るのではなく、時の流れの中で季節感を感じたり、生活様式を感じやすくなる、北海道の中でも特別な地域です。『BASIS』の魅力は、それを体感できること。
観光ではなく、文化的イベントとして時間を過ごしていただくためにやっているイベントなので集合時間や解散時間はありません。細かくスケジュールが決まっているわけでもなく、ただそこにある木を使ってクラフトを楽しめばOK。完成しなくても良いですし、飽きたらご飯を食べて、お酒飲んで、星空を見て……といったように過ごします。
四季折々、いろいろな自然の表情があるこの土地で、一番過酷な時期(秋から冬へ、冬から春へ変わるタイミング)にイベントを行っています。たとえば11月の上旬に焚火を囲む『終り火』というイベント。11月は1年の中で、緑でもなく、雪の白でもなく紅葉の赤でもなく、見どころのない時期といわれています。だけど、そういうときだからこそ焚き火の温度や色、人の表情がすごく見える季節なんです。
今年で6回目のイベントですが、過去5回のうち4回ぐらいはその日が初雪の日。来たときは秋の表情だったのに、朝起きてみると真冬の表情になっているという一年の中で特別な日を外から来たゲストの方と共有できるという体験が『BASIS』らしさでしょうか。
北海道Likers編集部:どんな人に参加していただきたいですか。
上級者の方も含めアウトドアに思いを持った人に来ていただきたいです。北海道はアウトドア大国ですよね。海外でいうと北米アメリカやカナダ。僕らが目指しているのは、その中でもアラスカのようなイメージなんです。「映像ではよく見るけれど、行ったことがない。だけど生涯で一回は行ってみたい」、そんな場所を目指しています。
美深町のDNA
北海道Likers編集部:今後はどんなことに挑戦したいですか。
小栗さん:アウトドアだけでなく、昔からここにあるものを現代風にアレンジしてまちづくりをしていきたいです。
昨年は、イベント開催などで『BASIS』も関わってきた、白樺の樹液を使ったクラフトビールの『美深白樺ブルワリー』という日本最北の醸造所が美深町にできました。道北には白樺の樹液を毎年採取する文化があったのがきっかけです。
美深町の人々が楽しめることを増やしていって、その普段の生活や昔からある文化を見てゲストの方が「移住したい」と思うようなまちづくりができたらいいなと思っています。実際に今、美深町にホテルをつくる計画を進行させているところです。
北海道Likers編集部:道北や美深町の本来の魅力を発信されていますが、美深町のどんなところが好きですか?
小栗さん:季節や食べ物、自然環境など好きなところはたくさんあります。どれも美深町を離れて戻ってきたから気づけた魅力ですね。
美深に生まれながらその魅力に気づいていない人がたくさんいると思うので、「戻って来たらこんなに魅力がある場所だった」という僕の経験が、戻って来るきっかけになったらいいなと思っています。
北海道Likers編集部:最後に美深町は小栗さんにとってどのような存在でしょうか。
小栗さん:「美深町を盛り上げたい!」という気持ちがあるというよりは、DNAがそうさせているんです。家族みたいな、ただそこに当たり前にあて、切っても切れない。そんな存在です。
―――「美しく深い」美深町。「ここの温度感や奥行きは、全部がその名前に表現されている」と語る小栗さん。今回のインタビューで伺った美深町の魅力は、その名前の通り、人や自然のあり方に深い美しさを感じました。
画像提供:美深町観光協会事務局