曾根先生

道民が愛するワインをつくる。学問で生産者を支える北大農学部教授「曾根輝雄」

北海道大学で応用微生物を研究し、その知見を活かして道内のワインづくりを支える曾根輝雄教授。北海道におけるワインづくりの可能性についてお話を伺いました。

曾根輝雄(そね・てるお)。1969年生まれ。静岡県出身。北海道大学大学院農学研究院応用分子微生物学研究室教授。1997 年に北海道大学農学研究科博士課程を修了後、同大学院助手、准教授を経て現職に至る。現在は北海道が主催する「北海道ワインアカデミー」で講師を務めるなど、道産ワインの振興をサポートしている。

ずっとやりたかったワインの研究

曾根先生

今回の取材はオンラインで行いました

北海道 Likers 編集部:曾根先生の専攻である応用微生物学とワインづくりのつながりは、どんなところにあるのでしょう?

曾根先生:ワインは発酵食品です。発酵食品は微生物によって、食品素材が変換されています。微生物を働かせる=思い通りに微生物を応用するということで、応用微生物学につながるわけです。現在は、ワインづくりに欠かせない酵母や、ブドウの中にいる酵母以外の微生物の働きを研究しています。

北海道 Likers 編集部:昔からワイン一筋で研究されてきたのですか?

曾根先生:ワインの研究は、5 年ほど前からはじめました。ワインとの出会いは、小学校 3年生の頃。私の実家は酒屋でした。いわゆる“町の酒屋”だったので、ありきたりな商品ばかりだとスーパーなどの大型店に勝てない。何か目玉になる商品をと父親が突然店の地下にワインセラーを作ったんですよ。売る前から、売るための場所をつくってしまうという方でした(笑)

実家にある本を読んでいるうちに、ワインの面白さを感じるようになり、応用微生物の研究ができる研究室を選びました。当時の教授に「ワインの研究をやりたいです!」と言ったんですけど、結局ダメで。しばらくは植物の病原菌の研究を行っていたんです。

曾根先生

北海道ワインアカデミーなどで実験の指導も行う

私が教授になったとき、ちょうど道内のワインに関する活動が盛んになってきました。道庁主催の『北海道ワインアカデミー』で、微生物に関する講義の依頼をいただいたり、他の団体からも「ワインの研究をしませんか?」とお話をいただいたり。学外の活動で道内の生産者さんたちと知り合いになっていく中で、北海道のワインづくりの問題点も明確になり、本腰を入れてワインの研究をすることにしました。

酸味という、道産ワインの魅力

北海道 Likers 編集部:北海道のワインには、どんな特徴がありますか?

曾根先生:大きな特徴は、酸味がしっかりしていることです。酸味はワインにとって重要な要素ですが、地球温暖化の影響で世界中の有名なワイン産地も含めて、酸味の少ないブドウが多くなっています。北海道で酸味のあるブドウがつくれることは可能性のひとつです。

海外からの注目も集めています。去年なんと、フランスの最高級ワインをつくるワイナリー『モンティーユ』が函館に畑を購入し、今ブドウを育てているんです。ここから高品質なワインが生まれれば、さらに北海道への注目は高まるでしょう。

ブドウ畑

北海道のブドウ畑

それに、北海道にはいろいろな地域がありますからね。各地域で特色あるワインをつくれることも北海道のいいところだと思います。近年は 2014 年に公開された映画『ぶどうのなみだ』の影響もあり、小さなワイナリーも増えています。モデルになったのは三笠の『山﨑ワイナリー』。ピノ・ノワールという品種から初めて質の高いワインをつくることに成功しました。それはつまり日本でも本場フランスに負けないワインがつくれるということ。他分野の方も多く参入し、北海道でのワインづくりに挑戦しています。

「実学の重視」を体現する

北海道 Likers 編集部:可能性に満ちた北海道でのワインづくり。研究者である曾根先生の、原動力は何ですか?

曾根先生:原動力は 3 つあります。1 つ目は、若い頃からやりたかったワインの研究ができていること。2 つ目は、つくり手さんから受ける情熱。もっと役に立つ研究をしなくてはと思わされます。3 つ目は、北大が創立以来掲げる基本理念の“実学の重視”。ワインをつくっている人たちを学問の面から助けたい想いで日々研究しています。ワインづくりが盛んなカリフォルニアのナパバレーでは、ブドウ栽培の研究者や醸造の研究者など、アカデミックなサポートが非常に充実しているんです。北海道でも今後どんどんワイナリーが増える中で、学問的な支えは必ず必要になってくる。そこを自分が何とかするんだという想いが強いですね。

ワイン農家

ワイナリーの方々を学問的に支えていく

北海道 Likers 編集部:最後に北海道への想いを教えてください。

曾根先生:北海道民が愛せる北海道になればいいなと思います。世界のワイン産地では、その土地のワインしか飲まない人も多いんです。北海道でも「北海道のワインが最高だ!」と道民が誇れるようになったらいいですよね。その実現のために役立つ研究をしていきたいです。また、地理的表示制度(GI)に選定され、今後は『HOKKAIDO』ブランドが世界に進出していきます。ワインが起点となって、北海道の魅力を世界に伝えていくことができたらいいですね。

―――曾根先生の思う“いいワイン”は「産地やボトル、味、香りに、さまざまな想いを馳せることができるワイン」だそう。「つくり手ごとに、込められた想いや特徴があります。みんなでそのワインについて語り合ったり、一人で飲んで魅力を噛みしめたりして、楽しみたいですね」曾根先生の言葉には、生産者への尊敬と、研究者としての責任、そして何より北海道のワインが大好きな気持ちが溢れていました。