清水たつやさん

ここにしかない価値に気づくこと。釧路ローカルメディア「FIELD NOTE」編集長・清水たつや

釧路でローカルメディア『FIELD NOTE(フィールドノート)』を編集している清水たつやさん。地元・釧路で生きることを選び、持続可能な地域コミュニティづくりに邁進する清水さんに、ローカルにおける情報発信の重要性について伺いました。

清水たつや(しみず・たつや)。1982年北海道釧路市生まれ。ローカルメディア『FIELD NOTE』編集長。ローカルクラブカルチャーからインスパイアされたスタイルで、地域に根ざした活動を行う。コワーキングスペース『HATOBA』を運営。メディア運営やコミュニティ形成を行う傍ら、The Question love名義でラップ、Watermanne名義でDJとしても活動中。

地元で好きなことをして生きていく

清水たつやさん

今回の取材はオンラインで行いました

北海道Likers編集部:『FIELD NOTE』をつくられた経緯と、媒体を通して実現したいことを教えてください。

清水さん:実は、最初からメディアをつくろうと思っていたわけではないんです。釧路の高校を卒業後、地元で音楽活動をメインとした生活をはじめました。ジャンルはヒップホップです。

音楽で何かを志すと都会に行く場合が多いと思うんですけど、ヒップホップは地域性を大事にしているカルチャー。都会に出なくても釧路から都市部へアプローチできないかと地元釧路で活動していました。

だけど、地域からやり続けることや、音楽だけで街の盛り上がりをつくっていくのは難しかった。

好きなものが一緒の人たちが、一緒に何かやり始めると、強い影響力を持って広がります。でも、一緒に盛り上がるつながりを育てて維持していかないと中間層が抜け落ちてしまう。すると経済的にも続けていくことは難しくなります。ローカルクラブカルチャーでも同様のことが起こっていたと思います。

限られた方法や場所でカルチャーの大切さや街の盛り上がりを叫ぶより、メディアを通じてつながりをつくって地域を盛り上げていけないかと考え、フリーペーパーを作りました。

今も『FIELD NOTE』は釧路の個人店の紹介をメインとしていますが、それは当時から続けていることです。インターネットやSNSが普及していない時代は、自分が好きな店に行けば、誰かしら同じような趣味や考え方を持っている人たちが集まっていて、そこで合流して遊んでいた。お店がハブになっていたんです。コミュニティにおいて、お店の役割は重要だと感じています。

起業してしばらく自分ひとりでやっていましたが、なかなか経済的に発行を続けていくという難しい部分もあって、想いに共鳴してくれた地元の不動産会社のユタカコーポレーションの事業として発行を続けていくことになりました。

愛着を持てる情報を届けたい

北海道Likers編集部:時代の変化とともに、さまざまな情報発信のツールが登場しました。その中でもフリーペーパーを発行し続けている理由はありますか?

清水さん:紙媒体は、ただ単に情報を届けるということだけではなく、お店で店主と話したり、実際に手にして家まで持ち帰る行動だったり。インターネット上の情報発信とは、同じ情報でもインプットの質が変わり、受け取り方が全く違ってきます。それが地域のものであれば、地域への愛着にもつながるかもしれない。そう思って、持って帰ってもらえるような誌面づくりにはこだわっています。

北海道Likers編集部:トークイベント『人間発電所』も開催されていますよね。どのような想いや狙いで始めたのでしょうか。

清水さん:根幹には地域に対する愛着や郷土愛がありますが、『人間発電所』を始めるきっかけになったのは2018年に開催した『DAYDREAM THEATERの忍者的活動』です。音楽だけのパーティではなくても、話したり考えをシェアしたりしながら、みんなで一体感をつくって盛り上がることもできるんだと、音楽活動を始めた時の初期衝動と似たものを感じました。

音楽やお祭り、クラブや野外イベントなどの一番の魅力は、やはり一体感。それと同じように一体感を持たせて、みんなでインプットしてアウトプットしていくことが、フリーペーパーとウェブ、イベント、この3つをかけ合わせることでうまくできるのではないかと考えています。

東日本大震災のとき、テレビの報道とネット上の情報にすごく温度差があることに驚きました。資金力があったり、情報量が多かったりするところに地域が飲まれていくのかなと思うと、ローカルの情報をみんなで共有して一体感を持つことが必要だなと。イベントがハブになってコミュニティや地域の文化が持続可能なものとして続いていく仕組みをつくりたいです。

地域の個性は人がつくる

清水さん:原付で旅をしながら、東京から北海道に戻ってきたことがあるんです。そのとき、印象に残った街は、やっぱり個人店が多いところでした。文化や歴史はそこに住んでいる人がつくるもの。フランチャイズや大型ショッピングモールを否定するわけではないですが、そこのお店でしか味わえない楽しさをわかりやすく伝えていきながら、地元の人の選択肢を広げていけたらと考えています。

よく「うちの地元、何もないんだよ」とか言うんですけど。いやいや、ただ知らないだけだなっていう。個人のお店を今まで約500店舗くらい釧路の中で取材してきたからこそ、そう感じます。自分で好きなことをやるのは難しいエリアだと思っていたけど、お店の数だけ、やりたいことを実現している店主さんがいるということは、夢を叶えている人たちがそれだけいるということなので。地域の中で埋もれている魅力を掘り続けていきたいです。

北海道Likers編集部:今後、挑戦したいことはありますか?

清水さん:テレワークが浸透し、働き方や暮らし方を選べるようになりつつある今、暮らす場所として北海道のポテンシャルってすごくあると思うんです。特に東北海道はまだまだコアなファンにしか知られていない。人によって好きな土地の“周波数”があるはず。今後は地元の人だけではなく、自分に合った暮らしができる場所として釧路を選んでもらえたとき、迎え入れられる仕組みをつくっていきたいです。

 

―――優しい口調で強い思いを語る清水さんからは、ゆるぎない釧路愛と未来への可能性を感じました。ここにしかない選択肢に気づくこと。知ったうえで自ら選ぶこと。そして、その価値を共有すること。互いにシェアし認め合うつながりこそ、地域を持続可能にさせるために必要なのかもしれません。