
受け継がれた舞台で、新しい風を。阿部優哉騎手が描く、ばんえい競馬の未来
十勝地方の観光スポットとして有名な帯広市の『ばんえい競馬』。体重が1トンあまりある巨大なばん馬たちが、騎手をのせた重い鉄のソリを曳き進み、パワーと速さ、持久力を競う迫力満点なレースが間近で楽しめると人気です。
地方競馬全国協会(NAR)は、2025年11月20日(木)に令和7年度騎手免許試験新規合格者を発表し、ばんえい競馬からは3名が合格しました。ばんえい競馬の新人騎手3名同時誕生は、2年連続の快挙です。
北海道Likersでは、3か月にわたってインタビュー記事を配信し、新人騎手の皆さんの素顔に迫ります。第一弾は阿部優哉騎手です。

阿部 優哉(あべ ゆうや)2004年生、帯広市出身。高校を卒業後、ばんえい競馬の厩務員となる。2025年12月6日騎手デビュー。祖父は元ばんえい騎手であり、名伯楽の坂本東一氏、父はばんえい競馬を代表する名騎手、阿部武臣氏。歳下の弟も厩務員として活躍中。ばんえい競馬史上2組目の阿部家3代目の騎手として、未来を担う期待の新人騎手の一人である。勝負服は父と同系色であり、自身も好きな色である紫を使用。胴紫・白ひし山形、袖白・紫二本輪
生まれ育った場所がいつしか目標になった。ばんえい競馬騎手への道
ばんえい競馬との出会いをお聞かせください。
私の家は祖父の代から3世代に渡りばんえい競馬に携わっていて、物心ついたときには父(阿部武臣騎手)がすでに騎手をしていましたし、帯広競馬場の厩舎エリアに住んでいましたので、ばん馬がいる風景は生活の一部であり、とても身近な存在でした。
厩舎の手伝いをするようになったのは中学2年生の頃からです。ばん馬の世話をする中でどんどん興味がわいていき、高校卒業後、坂本東一調教師のもとで厩務員となりました。

画像:ばんえい十勝
騎手試験について、3度目の受験で見事合格されました。厩務員として多忙な日々の中で、どのように勉強されたのですか?
1日3~4時間、教科書で勉強する時間を作りました。2回受験をした経験の中で、特に重点的に勉強したほうがいいと思う点を自分で見つけ出し、準備できたのが良い結果につながったのではと思っています。また、今年は騎手試験の勉強をしているメンバーの中から選抜され、栃木県にある地方競馬教養センターで、騎手試験の勉強会に参加することができました。
騎手試験に合格した時のご自身の心境と、ご家族の反応はいかがでしたか?
喜びと同時にほっとした気持ちでした。家族からは「よかったね」と言ってもらいましたが、意外とあっさりした反応でした(笑)。どちらかというと、ほっとした感じだったのかもしれません。今回は、厩務員をしている弟も一緒に騎手試験を受けたので、また頑張ってもらいたいと思います。

12月6日(土)のデビュー戦に騎乗した時はいかがでしたか。
初騎乗の際、父から「落ち着いて乗りなさい」と声をかけてもらっていましたが、実はゲートが開いてから、どうやってゴールまでたどり着いたかを思い出せないくらい緊張しすぎてしまい、気が付いたら終わってしまっていました。今までたくさんのレースを見て来ましたが、実際にレースに騎乗してみるとうまくいかないことばかりだなと感じました。
そしてその翌日には早くも初勝利をあげられました!どんな思いでしたか?
翌日の初勝利は10戦目でしたので、レースの雰囲気にも少しずつ慣れはじめたタイミングでもあり、“馬を信じてあせらずに乗る”ことを意識し、レースに臨む事ができました。勝つことができてほっとしました。

日々の積み重ねの中で託された大きな役割
騎手になってから、どのような一日を送られていますか?
厩務員としては4頭の馬を担当し、日々の運動や世話をしています。毎日同じ馬たちと向き合って調教トレーニングをしていくと、馬たちのちょっとした雰囲気や動きから、体調面や競走馬としての状態の良しあしがわかるようになってきました。また、騎手になってからは他の厩舎の馬にも攻め馬で乗せてもらう機会が増えました。
※攻め馬(せめうま):競走馬がレースに出走する前に、最大限の能力を引き出すために行う、強めの負荷をかけた調教のこと。
所属している坂本東一きゅう舎には、現役最強馬「メムロボブサップ」がいますね。大雪で中止となってしまった12月15日の師走オープンでは、メムロボブサップの鞍上に選ばれて出走予定でしたね。
坂本調教師が、「メムロボブサップに乗っていいよ」と言ってくれたのでとても驚きました。実は、主戦騎手である父が3月に大けがをしてしまい、長期休養している間、私もメムロボブサップの運動や調教に携わることがあるんです。
※メムロボブサップ:2歳時より活躍し、古馬(4歳以上)となってからも、ばんえい競馬最高峰のレース、ばんえい記念を2度優勝で史上8頭目の通算収得賞金1億円馬となった。またばんえいグランプリ史上最多となる5年連続優勝など、数々の重賞優勝記録を持つ現役最強馬。
阿部騎手からみたメムロボブサップはどんな馬ですか?
とても賢くて、オンオフがはっきりしているなと思います。厩舎での普段の生活はいつもリラックスしていておだやかですが、いざレースに出走するとなると自分の仕事がわかるようで、闘争心にスイッチが入り、メムロボブサップ自身もレース内容を組み立ててゴールに向かって突き進んでいきます。本当にすごい馬です。

画像:ばんえい十勝
若い力でばんえい競馬の魅力を伝えていきたい
これからどんな騎手になっていきたいですか?
レース本番では、常に「自分が勝つんだ!」という気持ちで挑んでいます。座右の銘で選んだ「勇往邁進(ゆうおうまいしん)」の言葉の通り、これからたくさんの経験を積んで、目標に向かって真っすぐに進んでいきたいと思っています。また、自分たち若い世代が、これからのばんえい競馬を背負って、つなげていくという存在になりたいと考えています。

ばんえい競馬ファンに向けてメッセージをお願いします。
自分たちが今後ばんえい競馬を背負っていく存在として“熱いレース”ができるようにこれからも頑張っていきます。応援をどうぞ宜しくお願いいたします!
北海道ライカーズの読者さんに向けてメッセージをお願いします。
ばんえい競馬は「世界で唯一の競馬」であり、競走馬であるばん馬たちは、北海道遺産に選ばれています。ぜひ北海道を訪れた際は、帯広にも足を運んでいただき、ばんえい競馬を観に来てほしいです!

川原恵子
父がばんえい競馬を代表する阿部武臣騎手という、どうしても周りが注目をせずにはいられない環境の中でも、常に自然体で客観的に自分自身を見つめることができる姿が、とても印象的で頼もしく感じられました。
阿部優哉騎手の、これからの活躍を楽しみに応援しています!
取材・文/川原恵子 写真提供/ばんえい十勝
連載「ばんえい競馬ではたらく人」では、ばんえい競馬を支える仕事に就くさまざまな人の魅力に迫ります。お仕事と記事の一覧はこちらから。
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