留萌ブックセンター

開店10周年!市民の情熱が支え続ける本屋さん「留萌ブックセンター」次の10年へ

2021.08.07

あなたが住むまちには、ふら~っと立ち寄れる本屋さんがありますか? 今はインターネットで本を購入できたり、電子書籍を読めたりと、さまざまな環境の変化があり“リアル書店”の数が著しく減っている時代です。

そんな現代の時計の針を戻すこと、10年。北海道・留萌市ではある本屋さんが産声を上げました。その名も『留萌ブックセンター by三省堂書店』。今回は開店10周年を迎えた『留萌ブックセンター by三省堂書店』をめぐる物語を、開店当時留萌市在住の小学生だった筆者がお届けします。

「留萌ブックセンター」はどんな本屋さん?

『留萌ブックセンター by三省堂書店』(以下、『留萌ブックセンター』)は、イオングループ『マックスバリュ留萌店』の敷地一角にある150坪・平屋建ての本屋さん。シンプルながら遠くからもそれとわかる、赤地に白抜き文字の看板が訪れる市民をお出迎えしてくれます。

店内にはおよそ10万冊の本や雑誌、さらには文具がずらりと並び、スタッフ5人・短時間アルバイト1人という地元民6人がそれぞれの持ち場を中心に切り盛りしています。その光景はまさしく、王道の“まちの本屋さん”です。

とはいえ郊外にあるお店ですから、車で移動できない人には気軽に立ち寄れる場所ではないのも事実。それでも、中心街の『るもいプラザ』には水曜日を除いて毎日リクエストの本を配達するなど、できる工夫を最大限行っていることもこの本屋さんの特徴です。人口約2万人という規模のまちにあるからこそ、市民のためにという精神が垣間見えるのかもしれません。

しかし、『留萌ブックセンター』には“まちの本屋さん”にはあまり似つかわしくない『三省堂書店』という大手書店の名前も入っています。これは一体どういうことなのでしょうか?

市民の力が「三省堂書店」を動かした

実は、留萌市は一度“まちの本屋さん”を失う経験をしています。

2010年の年の瀬のこと。留萌市に唯一残っていた書店が突然閉店してしまったのです。この事態に落胆した市民は少なくなかったのではないでしょうか。あとになってそのことが証明されていきます。

年が明け、3か月ほどが過ぎたころ。すべての始まりは2011年の春でした。新学期に子どもたちの参考書が手に入らないことに危機感を持った主婦たちが動いたのです。この主婦たちは、のちに“三省堂書店を留萌に呼び隊”を結成。市立図書館や留萌振興局に相談を持ちかけ、『三省堂書店』の臨時販売所の設置にこぎつけました。

実は、筆者にとって2011年3月末というのは留萌市に引っ越してきたタイミングで、この臨時販売所を利用した経験があります。東日本大震災後の流通の混乱もあり、学習関連用具を購入できたことは本当にラッキーでした。現在も店長を務める今拓己さんに、学校でどんなマス目のノートを使うかを尋ねられたことが印象に残っています。

臨時販売所を舞台に必死の思いで奮闘するも、現実はそう甘くありません。臨時販売所はあくまで期間限定のため、それ以後の出店の約束は取れず。留萌市は『三省堂書店』の新規店舗出店基準を大きく下回っている規模のまちということもあり、簡単に話が進むわけではありませんでした。

それでも“呼び隊”はめげずに『三省堂書店』のメンバーズカード2,500人分の登録リストを提出するなど、猛アピールを続けていきました。2,500人という数字は当時の人口のおよそ1割。“まちの本屋さん”を失った市民の悲しみが反映された数字だったのかもしれません。

そうした取り組みの結果、見事『三省堂書店』を誘致することに成功。2011年7月24日、『留萌ブックセンター』が産声を上げたのでした。市民の声が届き、形となって実現したのです。

今店長と市民の声

『三省堂書店』の誘致が成功してから“呼び隊”は“三省堂書店を応援し隊”と名前を変え、10年が経つ今でも活動を続けています。“応援し隊”を筆頭に市民が応援し、愛情を注ぐ。一方の『留萌ブックセンター』も市民を想う。この相互協力のカタチが“まちの本屋”として輝きを放っている理由でもあります。

今回は、そんないい関係性が垣間見える『留萌ブックセンター』を守り続ける今店長にお話を伺うことができました。

ー開店から10年経った今の心境は?

今店長:開店当初“三省堂書店を留萌に呼び隊”が作ってくれた2,500人のメンバーズカード会員ですが、現在17,000人まで増えています。まだまだ勢いは衰えていません。その分責任も重くなっていますが、ただただ10年間も当店を助け続けてくれている“三省堂書店を応援し隊”に感謝しております。

おはなし会や出張販売には、多くの市民に助けられ運営しています。市民の協力がなければ続きませんので、支えていただいていることに感謝します。

ーこれから先10年、『留萌ブックセンター』はどのような道を歩んでいきたいですか?

今店長:これからの10年、『留萌ブックセンター』はもっと外に出ていくことを考えています。書店のない町村の少しでもお役に立てるなら、お力になりたい気持ちがあるからです。一度書店のないまちを味わったからこその思いです。

『留萌ブックセンター』を愛用している留萌市民の声もご紹介します。

当時留萌市に住んでいた40代男性は、「開店前は、かなり小規模で取り扱い数も少ないだろうと期待していなかったのですが、広い店舗にたくさんの種類の本があり驚きました。今では10年前と比べ利用頻度が若干増え、読書の機会は増えました。また、当時よりも文房具やCDの取り扱いが増え、足を運びやすくなったと感じています」と話しています。

また、留萌市在住で学校教員の女性は、「開店当時、私は(学校の)図書担当で“留萌ブックセンター”に本を発注することがあり、とてもていねいに対応していただいたことを覚えています。読み聞かせなどのイベントを見たこともあり、地域のためにある本屋さんという印象が強く、それは今も10年前も変わりません。

最近ではネットで本を購入することも増えましたが、品ぞろえが良く、実際にこの目で見たいときにはすぐ“留萌ブックセンター”に行きます。自分の子どもたちにとっても、好きな本を選ぶのにとても時間がかかるくらい魅力的な空間のようですよ!」とのこと。

ほかにも、読書をする時間が増えたなどと話してくれる人がいました。この10年で留萌市民にとって、なくてはならない存在になっている様子がうかがえますね!

 

――――「今店長にとって書店とは、本とはどのような存在ですか?」という質問をしてみました。すると、こんな答えが。「私にとって書店は安楽の地なのです。本棚に囲まれて、知識の宝庫から1冊を手にする幸せは何にも代えがたいものです。本は無知な私に知識を与えてくれます」。本への愛が伝わってきます。

本への愛にあふれる『留萌ブックセンター』は永久に不滅です。

【画像】留萌ブックセンター by三省堂書店、ttn3 / PIXTA(ピクスタ)